第3話&第4話ネタバレ解説『仮面ライダーBLACK SUN』現実と交差する虚構、明らかになるモデル あらすじ&考察 | VG+ (バゴプラ)

第3話&第4話ネタバレ解説『仮面ライダーBLACK SUN』現実と交差する虚構、明らかになるモデル あらすじ&考察

©️石森プロ・ADK EM・東映

2022年10月28日0時より、満を持して一挙配信されたAmazonプライムビデオの「仮面ライダー」シリーズ『仮面ライダーBLACK SUN』。2016年に配信が開始した『仮面ライダーアマゾンズ』に続くオリジナル作品で、ふたたび制作された18歳以上の成人向けコンテンツの「仮面ライダー」ということで注目を集めている。

バゴプラではここまで第1話と第2話のネタバレ解説をお届けしてきた。今回は更に現実の日本の社会問題へと切り込んでいった第3話と第4話のあらすじと解説をネタバレありでお届けする。

第1話&第2話のネタバレ解説もチェックしていただくとさらに楽しめる。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』第4話までの内容に関するネタバレを含みます。

在りし日の五流護六

1972年の射撃場。クレー射撃を楽しむカップルの姿があった。彼は後の総理大臣で当時の総理大臣の孫・堂波真一。現代編の彼を演じるルー大柴氏が「悪の総理大臣」「ほしいままに悪事を働く人物」と語っていたがまさしくその通りで、ハチの巣に出来る怪人が手に入りそうだと嬉々として語っている。こんな人間が総理大臣になるというのは不安でしかないが、現実の日本では有力な地位に世襲議員が座っていることは多々あり、まったく虚構ではないのが苦々しい。そんな真一をバッタ怪人へ変身した南光太郎と秋月信彦、オリバー・ジョンソンや新城ゆかりら五流護六は誘拐するのであった。

現代ではクモ怪人の襲撃や反怪人団体代表・井垣渉らのヘイトスピーチのこともあってか、和泉葵が光太郎から護身術を習っている。少しずつコツをつかみ始める彼女にクモ怪人の襲撃で怪人への恐怖が湧いたと考えたのか、光太郎は拳銃でも買った方が早いと諭す。しかし、葵は光太郎と自分が今もこうして暮らせているのだから怪人は怖くないと返すのだった。彼女はまだ怪人と人間の共存共栄の夢を捨ててはおらず、その言葉に光太郎の心が動き始める。

同じ頃、ビルゲニアとコウモリ怪人は帰国してきた葵の両親・川本莉乃と川本英夫夫妻を拷問してキングストーンのありかを聞き出そうとする。この時点で彼がバラオムに指摘された通りのタカ派であることがわかる。白石和彌監督が得意とするバイオレンス描写の拷問は視聴者側が顔をしかめてしまいそうなほど生々しい。もう、まだ何が正しいのかもわからないと言いながら、考えて行動することが大事だと語り、ぶつかり合いながらも夢を語り合った青年たちの姿はない。総括で内ゲバを繰り返した末期の日本赤軍にも見える。川本夫婦はオリバーからその存在だけを聞いたと明かすが、ビルゲニアはキングストーンの代わりに古いテープを見つけ出す。

友人のニックから50年前のゴルゴム党の前身の怪人差別と戦うための団体・五流護六の集合写真を見せられる葵。それからニックに写っている光太郎と信彦は分断の末に組織を抜けたことを知らされる。なぜ光太郎は老化したのに信彦は若いままなのか、なぜ同じ理想の下に集ったはずの仲間たちが分断したのか疑問ばかりの葵。ニックはわからないと答えるが、信彦が若いままなのはヒートヘブンが関わっているのではないのかと疑い始める。

絶滅か従属か

若き日の真一は五流護六の面々に自分はいずれ政治家になる、そうすれば平等とまではいかなくても怪人の存在ぐらい認めてやると言って嘲笑する。それに怒りを覚えた面々は真一をおちょくるが、ゆかりは「怪人と人間の命の重さは地球以上だよ。1gだって命の重さに違いはないから」と語る。これは国連で葵が言った言葉であり、これが原因で葵は命を狙われている。皮肉だがこの言葉は1977年のバングラディッシュ、日本赤軍による日航機ハイジャック事件で福田赳夫総理大臣が発した「人の命は地球より重い」を想起させる。このとき日本赤軍は獄中の9人の過激派活動家の釈放と600万ドル、当時のレートで約16億円を151人の人質と引き換えに要求した。

交渉人として送り込まれたのは後に総理の犬と呼ばれたビルゲニア、そして彼の下でゴルゴム党を築いた三神官である。そこで総理大臣に怪人の平等な権利と教育の機会を認めさせるが、政府の狙いは五流護六を政党へ変え、怪人20万票を獲得した上、将来の他国での戦争が出来る国づくりのために憲法改正と怪人という兵器を手に入れることだった。創世王を支配下に置き、革命ごっこは辞めて生き残るために傘下に入れと迫る政府。この世襲議員が脈々と貴族のように政治中枢に居座る状況や彼らが祖父の代から念願としている強引な憲法改正とそのための票集めも現実そのもので、さらには旧統一教会の一件でこの虚構を現実が追い越してしまった。

その話に激昂したのはタカ派であるビルゲニア。彼は怪人に変身して神である創世王を渡せるかと怒鳴りつける。それにも総理大臣は動じず、ダロムは政府による絶滅か、共存という名の従属かを迫られる。この共存の皮を被った支配は戦時中に朝鮮や台湾にパラオ、そして国内ではアイヌなどへと行なわれた同化政策を思い起こさせる。アイヌの人々の中には自身のアイデンティティを隠して生きざるを得ない人々や、彼らを税金泥棒と罵る人々を生むなどこれらの問題は今でもその爪痕を残している。生き残るために従属させられる怪人の姿は他人事ではない、現実だ。この現実によって五流護六に亀裂が入り始める。

明らかになる真実

現代のビルゲニアは川本夫婦が持っていたテープに収録された戦時下の映像に怪人の起源が写っていることを知る。それは堂波の祖父らしき人物と、バッタと人間で怪人を生み出す軍の研究員という政権を転覆させる事実だった。現実でも総理大臣には戦時下で要職に就いていた人間は多く、堂波の祖父のモデルは初代自民党幹事長でA級戦犯だがCIAとの取引で権力を手にした旧統一教会と蜜月の昭和の妖怪・岸信介元総理で、真一は孫の安倍晋三元総理だと考察できる。『仮面ライダーBLACK SUN』の撮影時は怪人を嬉々として撃つ真一のモデルが銃撃され、スキャンダルが露呈して政権が揺らぐとは思ってもいなかったことだろう。これも皮肉なことに現実が虚構を追い越してしまったのだ。

三神官は死にゆく創世王と体液が尽きることを恐れてクジラ怪人と接触し、彼にBLACK SUN(ブラックサン)の襲撃を命じる。三神官から「お前は金にも地位にもこだわりがないだろう」と言われているクジラ怪人だが、何か光太郎とは並々ならぬ因縁があるようだ。クジラ怪人といえば『仮面ライダーBLACK』(1987-1988)では海を守るために仮面ライダーBLACKを助けてくれた怪人で、最期はBLACKの命を救い、自らの命を散らしたが『仮面ライダーBLACK SUN』ではどうかかわってくるのだろうか。

真一がカツカレーを食べる場面で総裁という文字が強調されるのは、安倍元総理が新総裁就任時に3500円のカツカレーを食べたという報道からきているのだろう。これによって堂波一族のモデルが岸信介元総理や安倍晋三元総理なのが強調される。国会では安保法案が議論され、野党から戦争法案ではと詰め寄られるが真一は答えず、官房長官・仁村勲に回答を任せる。野党の総理への質問だという声にも平然とし、これまたのらりくらりと回答濁す与党。この議論の内容も幹事長と親しげに話す姿も見覚えがある。まるで現実の国会をそのまま流しているかのようだ。真一のこの世界のほとんどは民意なしでつくられているという言葉が私たちに深く突き刺さる。

SHADOW MOONの復活

第1話で怯えた警察官に射殺され、その事件も正当防衛と処理されてしまったハエ怪人・木下裕二。彼への発砲の責任を問うデモはBLMやジョージ・フロイド氏の事件を模しているのがわかる。『仮面ライダーBLACK SUN』は差別問題に疎い傾向がある日本の視聴者にアメリカなどで発生し、連日報道された事件と絡めることで差別が遠い国の話ではなく身近な現実だと強調した構成を取っている。ここで雀怪人・小松俊介の父親・小松茂雄は怪人ではなく人間であり、二人の子である俊介が両者の境に立っている存在だとわかる。

そこに井垣渉が率いる反怪人団体が現れ、両者は激しく衝突。その中で井垣を押し倒してしまった茂雄は双方の暴動化を防ぐためとはいえ逮捕されてしまう。怪人に理解を示し、小松夫妻とも交流のある怪人犯罪課・黒川一也は必死に両者をなだめるがなしのつぶて。茂雄や一也、葵といった怪人と共存を望み、理解しようとする人間たちの立場が危うくなっていることが示された場面だった。これは他人事とは言えず、SNSなどでは差別問題やマイノリティに関する問題でこういった場面をよく見かける。ある意味でこれは現実なのだと突きつけられた。

暴動寸前の両者をモーゼが海を割るようにバイクのロードセクターに乗った信彦が現れる。そして彼は車の上に飛び乗ると自身が怪人であることを明かし、ゆかりの言葉である「怪人はもっと怒っていい」を引用して変身する。『仮面ライダーBLACK SUN』の信彦は白いジャケットや白い指ぬきグローブを着用しており、その姿は『仮面ライダーBLACK RX』(1988-1989)での南光太郎の姿を想起させ、そのヒロイックさを強調する。今回製作陣がSHADOW MOON(シャドームーン)を仮面ライダーだと表記したのはこれが一因だろう。そして信彦がバッタ怪人へと変身し、過激さを含んだ主張は木下裕二射殺事件で爆発寸前だった怪人の間に瞬く間に広がっていく。

五流護六と人間、二つの分断

廃バスにいた光太郎はクジラ怪人から襲撃を受ける。だが、腕を千切り噛みつくといった血みどろのクモ怪人やアネモネ怪人との戦いと異なり、今回は互いに主張をぶつけて泥臭く殴り合うものだった。クジラ怪人は信彦も光太郎もなぜ創世王を消そうとするのかと問い、光太郎は怪人で幸せかと問い返す。マイノリティとして生きたいクジラ怪人と苦しい思いをするのならば今のアイデンティティなど捨ててしまいたいと思う光太郎の殴り合いは青春の延長戦にも、マイノリティ故の葛藤にも見える。葵の登場で拳を止め、燃え尽きて喧嘩別れの形で幕引きとなった二人。光太郎は俊介を救ったヒートヘブンは人間であり、怪人と人間はわかりえないことを告げる。

50年前、人間に従属する道を選んだ三神官と袂を分かつ決断をしたビルゲニアを中心とした光太郎、信彦、ゆかり、オリバーは弱った創世王を運び出す作戦を行なう。そこでゆかりからビルゲニアに創世王を守る剣が託される。これは『仮面ライダーBLACK』のサタンサーベルにあたり、同剣は秘密結社ゴルゴムの聖剣でキングストーンと同じ創世王の証だが、今作ではそれ以上に怪人たちの指導者の象徴の意味合いが感じられ、イスラームのシーア派初代イマームにして預言者ムハンマドの父方の従弟のアリー・イブン・アビー・ターリブが使い、彼の象徴であった剣・ズルフィカールに近いものとして描かれている。そのためかサタンという表現が使われていない。

創世王護送計画の最中、ビルゲニアらは山中の旧日本軍施設に創世王を隠すことにする。ゆかりは軍事拠点と創世王の隠し場所を分けることで、交渉の切り札にすることを提案し、皆それに同意するが、もう一つの切り札として真一を連れて行ったことを三神官は危惧してコウモリ怪人から話を聞き出そうとする。現代でもクジラ怪人がキングストーンを持ち帰られなかったことで暴行され、彼を許すように懇願したコウモリ怪人もゴルゴム党員の誇りはないのかと暴行される。それはどこか連合赤軍などの暴力的な総括を思わせるものだった。

挫折と暴力、そして薬物

葵は麻酔薬ケタミンを常用する光太郎を見て、引きずる脚はヒートヘブンを食べても治らないのか尋ねる。怪人民主解放同盟の両親を持つ葵の中ではシンパシーを感じる光太郎に生きていてほしい気持ちと人肉由来の薬物への葛藤が見られる。しかし、光太郎にはヒートヘブンを口にしないという決意があった。食べたことがあるのかと尋ねられると口籠もる幸太郎。更に人間の仲間が出来たから食べなくなったのか問われる。この人間を食べるかどうかの二択は『仮面ライダーアマゾンズ』(2016-2017)でも描かれ、ある意味では大人向け仮面ライダーをつくるにあたり製作陣の中での一つの問題となっているようだ。

ゴルゴム党に復讐を誓い、怪人の自由のための若い戦士の育成に励む信彦。その中には俊介の姿もあった。彼は真の敵はゴルゴム党だと言い、真一が所属する民の党の怪人ビジネスをバックアップしているという現実を語る。そして50年前の五流護六について話し始めた。あの頃の五流護六を取り戻すためには若い戦士の力が必要だと語り、廃屋で訓練を進める。これは過去の問題を知らずに若者が特定組織に入信や入団してしまう現実を描いている様にも思える。また『仮面ライダーBLACK SUN』の根底にはマイノリティを一括りにせずに、それぞれの主張のぶつかり合いを描くという製作陣が語った通りの「怪人たちの群像劇」があることを象徴しているような場面だった。

信彦が若い怪人たちに進める訓練はどれもどこか古臭いが、それはかつて光太郎と励んでいた訓練であり、彼らに若き日の自分たちを重ねていることが見て取れる。組手に励んでいた50年前、血気盛んな信彦や光太郎にビルゲニアはほとんど互角だと評し、訓練後にヒートヘブンを必ず食べるように勧める。不安げな表情やビルゲニアの「はじめてか?」という問いは麻薬を勧められているようにも見える。食べた瞬間に鼓動が早くなるのは白石和彌監督が得意とする薬物乱用の演出そのもので恐ろしい。そして時は流れ、今度は信彦が若者たちにヒートヘブンを食べさせる側に回っている。食べた後に痙攣し、恍惚とした表情を浮かべる姿は完全に薬物だ。

1972年、ビルゲニア主導のもと真の五流護六を取り戻そうとする中、愛を深める信彦とゆかり。それを見て光太郎はゆかりから手を引くことを決意する。この物語には、怪人たちの青春と挫折が描かれていることが良く見て取れる。かつては徹底抗戦の姿勢を取っていたが今や総理の犬と言われるまでに変わり果て、聖剣は持ち続け、一礼こそするものの創世王が死んでも良いとまで思い始めているビルゲニア。ヒートヘブンを食べずに歳を取る道を選び、怪人存続のためにすべてを投げ打つ覚悟のダロム。そして彼らの下でその非情な手段を前に葛藤の末、葵の父親の川本英夫の怪人化に手を貸したノミ怪人。現実に打ち砕かれた者たちの姿には胸を締め付けられる。

守る決意と戦う決意

井垣ら反怪人団体は怪人街へと入り込み、ヘイトスピーチを繰り返す。彼ら曰く、現在の怪人は政府の公的支援と生活保護を受けているとのことだ。これらの批判は日本でも生活保護者や在日外国人に向けられているものであり、井垣らのように国へ帰れと叫ぶ者たちも現実にいるのが悲しい。更に怪人たちを兵器にする点はベトナム戦争などアメリカで根強い問題になっている黒人差別にもつながっており、アメリカでも黒人を税金で養うのかと差別し、彼らを戦争の最前線に送った歴史がある。俊介は井垣に糞尿をかけて街で少し英雄視されるが、その性格は信彦の影響か少しずつ好戦的になっている。

父親と再会した葵に違和感を覚えて後を追う光太郎。葵がキングストーンを持つと知り彼女を探す信彦。変わってしまったゴルゴム党からの脱会と思い出を話すクジラ怪人。だがクジラ怪人は怪人化した英夫から葵を守ろうと再び暴力に手を染める。葵を追う中で衝突する光太郎と信彦。各々が決意を固めて怪人に変身する。愛する人の喪失を巡り戦う二人のバッタ怪人。葵を守るためにその父親を殺すクジラ怪人。怪人との共存を信じながら裏切られる葵。皆が挫折し暴力に屈する中、葵に一緒にいる間は守ると語る光太郎はまさしく仮面ライダーであり、死体が泡となって消える演出は『仮面ライダー』(1971-1973)のオマージュで、物語自体が“仮面ライダー”へと変身し始める。

創世王が弱りゆくことに焦るバラオムとビシュム。真一から怪人は三代続くビジネスだと言われ、怪人の価値は見世物しかないとまで罵られて問い詰められるダロム。怪人がかつて暮らしていた村の存在をニックから聞き、そこに母親がいるのではと考えて探しに行こうとする葵。彼女を見つめ、気づかれずに追う俊介。そしてバラオムとビシュムのもとに現れる謎の若者。登場人物の背景が明るみになり、物語が一気に“仮面ライダー”へと動き出す。

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第5話&第6話のネタバレ解説はこちらから。

第1話&第2話のネタバレ解説はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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