『仮面ライダーBLACK SUN』第1話&第2話ネタバレ解説
Amazonプライムビデオ作品として配信が始まった『仮面ライダーBLACK SUN』は、「仮面ライダー」シリーズの普遍のテーマと白石和彌監督が得意とする陰惨かつ血生臭い描写が巧みに混じり合っている。
全10話の一挙配信で公開され、仮面ライダーを通して現実を描くと表現した本作はどのように日本を描くのだろうか。今回はドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』の第一話と第二話の各シーンを解説していく。
以下の内容はネタバレを含むため、必ずAmazonプライムビデオで本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
なお、本作は視聴対象が18歳以上の成人向けコンテンツになっている。また、露骨な残虐描写が含まれるので苦手な方は注意していただきたい。
以下の内容は、ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』第1話と第2話の内容に関するネタバレを含みます。
現実と地続きで描かれる架空の日本
冒頭から血塗れの手術で南光太郎と秋月信彦の少年たちが父親と思わしき人物から手術を受け、キングストーンを託される。この時点で子供向けではないことが示される。月日は流れ現代。国連で日本人の少女・和泉葵がこの50年間と怪人差別を無くして共存共栄すべきと訴えるが、日本では反怪人団体代表・井垣渉らが旭日旗を掲げ、怪人排斥と怪人は反日だと叫ぶ。彼らは差別発言の末に怪人人権団体と衝突するが、これは2020年7月に川崎市でヘイトスピーチに対する罰則付き条例が施行された際の事例と酷似している。そして戦うことなくそれを眺め、脚を引きずり立ち去る光太郎の姿はスーパーヒーローのいない現実と地続きであることを強烈に印象付けた。
そしてアメリカの黒人男性射殺事件を思わせる悲劇は起きる。反怪人団体からの暴言と暴力で興奮し、怪人に変身してしまう男性。その姿を井垣らは罵り、警察官は怯えて彼に発砲してしまう。日曜日の「仮面ライダー」シリーズを想像していれば怪人に銃弾など効かなさそうだが今作では違う。下級怪人の彼らは流血し逃げ惑う。警察で怪人に理解を持つ怪人犯罪課・黒川一也が双方落ち着くように叫ぶが、差別と悲劇は連鎖していく。今作品は身近な差別問題と世界的に報道されたBLMと合わせることで、現実を突きつける構成になっている。日本は単一民族国家と話す政治家など、日本人は日本に差別がないと考えてしまいやすいのをうまく否定しているのだ。
総理大臣・堂波真一は記者会見で葵を褒め称える一方で、怪人の起源が日本にあるのではないかといった本質的な問題からはのらりくらりと言葉を濁す。これも現実の日本とよく似ている。彼の後ろには三神官のダロム、ビシュム、バオラムがゴルゴム党として立っている。彼らと政府は蜜月の関係にあるようだ。この点も旧統一教会問題や安倍晋三宅火炎瓶投擲事件での暴力団との癒着報道、かつての山口組と自民党の関係性を想起させる。撮影や脚本段階では山際経済再生担当大臣辞任など想像していなかったと思うが、奇しくも架空に現実が追い付いてしまう形になった。
怪人たちの生きる世界
三神官、コウモリ怪人、古代甲冑魚怪人のビルゲニアらが地下へ降りていくと、そこには死にかけながらも体液を搾り取られ続けられる白い巨大なバッタ怪人・創世王が鎮座している。『仮面ライダーBLACK』(1987-1988)の創世王と異なり、ゴルゴムの支配者ではなく怪人の創造と維持のための存在であり、次期創世王の誕生のために50年間、秋月信彦ことSHADOW MOON(シャドームーン)は監禁され続けていたことが語られる。あくまでも誰かを倒して世界平和が訪れる世界ではなく、現実に近い群像劇であることが示される設定だ。
監禁されている信彦に対してBLACK SUN(ブラックサン)である光太郎は何をしているのかというと怪人相手に借金取りをし、日銭を稼いでは非合法なケタミンを購入して注射している。ケタミンは麻酔薬の一種であり、日本では2007年より麻薬及び向精神薬取締法の麻薬に指定されている。彼が家代わりにしている廃バスに散らばる瓶や注射器を見ると光太郎は古傷などがあるのか、依存症かもしれない。そして光太郎は誰も受けたがらない仕事として葵の拉致依頼を受ける。そこで怪人民主解放同盟の川本莉乃と川本英夫がアナーキストとして指名手配されており、その写真は葵の家に飾られた両親の写真と同じであり、この演出で今作が学生運動などもテーマにしていることがわかる。
神官たちは創世王の衰弱に焦るが、信彦は怪人も寿命通りに死すべきだと説く。これは『仮面ライダー555』(2003-2004)の怪人・オルフェノクたちの一部が抱く思想に近い。オルフェノクは死から復活した人間が変身する怪人で、急激な進化により短命とされる。彼らは延命方法を模索するが主人公たちを含む一部の派閥は、それも運命と受け容れるべきと考えている。昭和の「仮面ライダー」シリーズだけではなく、平成の「仮面ライダー」シリーズも思わせる演出だ。
怪人たちは総理大臣と対等ではなく、彼らに利用されていることが演出され、総理大臣の犬とまで評されたビルゲニアの命令でクモ怪人が葵襲撃に向かう。その頃、葵は学校で国連でのスピーチを褒められるが学校前に井垣ら反怪人団体が現れて、怪人との共存は反日教育だと叫ぶ。これは朝鮮学校前でのヘイトスピーチなど、現実でも起きている問題だ。それに加えてバスの中で降りるように差別発言を受ける葵の友人の雀怪人・小松俊介などアメリカ公民権運動時のローザ・パークスなどを思わせる差別や抵抗が描かれ、なおかつ怪人たちは一種の怪人街とも言うべき場所に追いやられていることを思うと、それが生々しく感じられる。
バッタ怪人としての戦い
そして帰宅中にクモ怪人が葵と俊介を襲撃。葵を追っていた光太郎はそれに乗じて葵を襲おうとするが、彼女が持つ石を見て手が止まる。クモの足を広げて体を浮かべて攻撃してくるクモ怪人に対して光太郎は突如反撃を決意。ここで彼は変身するのだが、その姿はBLACK SUNではなくバッタ怪人の姿だ。これは『仮面ライダーBLACK』の第一話でも見られた演出だが、今作では漫画版のような多脚を活かした戦闘を繰り広げる。以前もAmazonオリジナル作品の『仮面ライダーアマゾンズ』(2016-2017)でグロテスクな戦闘を描いていたが、今作でもそれが活かされており、リアリティのあるものとなっている。
BLACK SUNの変身はSHADOW MOONだけではなく、三神官など上級怪人たちにも本能的にその活性化を感じさせる。特に信彦は光太郎と同じくバッタ怪人へ変身し、看守を殺害、そして監禁中に食べさせられていた謎のゲル・ヒートヘブンを持って脱走するのであった。傷だらけ血塗れになって勝利し、気絶した葵を抱えて廃バスへと帰っていく光太郎。そこには信彦が待ち構えており、ヒートヘブンを食べれば若さを保てると言って共に創世王を殺そうと持ちかけるが、世捨て人と化していた光太郎はそれを拒絶するのであった。長い抑圧の日々によってすべてを諦めてしまった彼の姿は、ある意味で差別に屈してしまった人々の姿を見ることが出来る。
1972年と2022年
怪人と人間の抗争は熾烈を極め、互いに凄惨な殺し合いが続く。このあたりは白石和彌監督が得意とする描写だ。現代では非暴力で差別を無くそうとしているのに対して1972年の五流護六は差別を止めるには暴力革命しかないとまで追い詰められている。そのメンバーのオリバー・ジョンソンに誘われて集会に参加した若き日の光太郎と信彦はそこで若き日の三神官やビルゲニアら、そして彼らの運命をわける新城ゆかりと出会う。ここの集会の描写は正しく学生運動を想起させ、ビルゲニアが皆に怒っているのかと問う場面は『ブラック・クラウンズマン』(2018)でスパイク・リー監督が描いたマイノリティの怒りと自分の立場に悩む描写を思い起こさせる。
現代の廃バスではケタミンの空き瓶と注射器が転がる中で葵は光太郎を介抱し、朝食まで用意する。怪人民主解放同盟の指名手配犯を両親に持つからなのか、光太郎に理解しようとする葵。彼女はヒートヘブンに興味を示すが、それに応えることなく光太郎は石について聞こうとして葵は飛び出してしまう。そこで映される光太郎の生活環境のひどさは彼がこの50年間をどう過ごしたのかをうまく描写している。その一方で三神官は野心家のアネモネ怪人を葵へと送り込む。アネモネ怪人を演じる筧美和子氏は最近の白石和彌監督作品の常連だ。
信彦は古びた倉庫で埃をかぶったカバーを外し、バイクのロードセクターを見つけ出し、古びたチラシをみて50年前を思い出す。ここは当時の五流護六の拠点の一つであり、そこで信彦はゆかりから多大な影響を受けていた。彼女は「君たちはもっと怒りなよ。その権利があるんだよ」と語る。これは公民権運動のジョン・ルイスの「Get in good trouble, necessary trouble(良いトラブル、必要なトラブルを起こそう)」や近年の東京医科大女性差別問題での「#女性差別に怒っていい」を思わせる。
信彦がゆかりとの思い出を回想していた頃、呼応するように光太郎もバイクのバトルホッパーの埃をかぶったカバーを外した。葵も育ての親の和泉美咲から昨晩のことを問い詰められた上、中国から実の両親である川本夫婦が帰ってくることを知り、心が揺れ動く。このように中国に逃亡しているといった設定はおそらく日本赤軍などを意識したものだろう。1972年は『仮面ライダー』(1971‐1973)の放送時期だけではなく、学生運動が過熱した時代でもあるのだ。白石和彌監督の得意とするジャンルが混ざり合い、さらに現代の人種差別問題までが描かれていく。
葵は喫茶店で友人のニックからかつて人間と怪人の間で大規模な衝突・五流護六闘争というものが起き、多くの被害者が出たことを知る。その店に葵の心配していた俊介が入って来るが、彼は怪人という理由で追い出されてしまう。バスでの一件といい、差別意識が根強く残り、それに対して葵が写真を撮られたら撮り返すといった方法で対処しているなど差別の描写やそこで葵が見せる怒りは生々しい。信彦はコウモリ怪人から怪人情勢が乱れを知る。コウモリ怪人の蝙蝠のような立ち振る舞いを信彦は笑うが、彼を演じる音尾琢真氏は白石和彌監督作品常連で、なおかつ手には同監督作品おなじみの鮫エキスが握られているなどファンサービスが入っている。
仮面ライダーというバッタ怪人
俊介は葵にクモ怪人の襲撃によって怪人を嫌悪するようになったのではと心配していたが、葵は人間も怪人も関係なく善悪があると返す。これは今作品の重要なテーマかもしれない。怪人は悪人で、仮面ライダーは正義ではなく、両方とも同じ怪人で善悪は後からついてくるのだ。そして俊介は光太郎を上級怪人よりも上だと感じ、葵は彼が泣いていたように見えたと話す。これは初代の『仮面ライダー』(1971-1973)から平成第一作の『仮面ライダークウガ』(2000-2001)にいたるまで「仮面ライダー」シリーズ共通のテーマと呼べるもので、『仮面ライダー』ではマスク、『仮面ライダークウガ』では最終決戦で笑って殴る怪人・グロンギと泣いて殴るクウガという対比で表現されている。
葵が帰宅するとアネモネ怪人が既に美咲を殺害し、その危険性を本能的に感じた俊介も頭蓋骨を踏みつぶして殺害し、葵をつけていた光太郎の変身を花の結界で封じる。今作では毎話で血生臭い演出やR-18指定のグロテスクな戦いが演出される。葵を人質に取られて動けない光太郎相手に有利に立ち回るが、乱入してきた信彦を見て逃亡。さらにここでヒートヘブンがあれば怪人は頭蓋骨が砕かれて目が飛び出ても生き続けられることがわかり、怪人にとってこれがなくてはならないものだとわかる。そして路地裏まで追った信彦はSHADOW MOONに変身して葵などお構いなしにアネモネ怪人を真っ二つにかみちぎって殺害する。
美咲の死体を前に泣き崩れる葵を見つめる光太郎に「こんな悲しみと怒りと連鎖が延々と続いている。俺たちには創世王を殺す任務がある。ゆかりの言葉を思い出せ」と言い放って立ち去ってしまった。一方、娘に会いに来た川本夫婦はコウモリ怪人らに捕らえられ、居場所のなくなってしまった葵を連れて光太郎はバトルホッパーで夜の街を疾走するのであった。ここで二人の間に存在するゆかりの言葉と彼らが怪人に対して持つどこか自罰的な感情が描かれる。
当初、井垣らが怪人は500万年前に生まれたと名乗っているが嘘だという『仮面ライダーBLACK』と同じ設定を思わせる言葉を発するが、ここで怪人の起源が描かれる。地下に閉じ込められた人々は総理大臣によって捕らえられた生産性のないとされた生活保護者、独居老人、LGBTQといった人々。彼らは怪人に改造されて海外へと売り飛ばされるか、それともミンチにされて創世王のエキスと混ぜ合わされてヒートヘブンとなり怪人相手に売り飛ばされるかしかない。これはここ最近のLGBTQの人々には生産性が無いと言った政治家たちや、生活保護費の削減などの近年社会問題をかなり極端な形だが表現していると思われる。
そして1972年、ゴルゴム党の原型となった護流五無の旗揚げにあたり、光太郎に信彦、ダロム、ビシュム、バラオム、ビルゲニアといった今の怪人界の中心人物たちが集う。そこには人間でありながら彼らの意志に賛同するゆかりとオリバーも同席していた。そしてゆかりは現総理の孫を誘拐する計画を立て、それに信彦が一番に賛同するのであった。この作品は仮面ライダーと呼ばれるBLACK SUNやSHADOW MOONが正義と呼べるのかどうかを問う描写が多く、それが日本の人種差別問題を描くための重要なポイントになっている。
ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』はAmazonプライムビデオで独占配信中。
『仮面ライダーBLACK SUN』第3話&第4話のネタバレ解説はこちらから。