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『スター・ウォーズ:ビジョンズ』第1話に注目
2021年9月22日(水)より配信を開始したアニメ『スター・ウォーズ:ビジョンズ』は、『マンダロリアン』(2019-)、『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』(2021-) に続くDinset+オリジナルの「スター・ウォーズ」シリーズ第3弾。本作は13分の短編アニメ9作品を集めたアンソロジー形式で配信されている。
その特徴は、日本のアニメスタジオが製作を手掛けているという点だ。神風動画やTRIGGER、サイエンスSAEUにProduction I.Gなど、日本を代表するアニメスタジオが集結し、新たな「スター・ウォーズ」のサーガを生み出している。今回は、全9話同時配信だった『スター・ウォーズ:ビジョンズ』より、シーズン1の第1話と設定されている「The Duel」について、ネタバレありで解説していこう。
以下の内容は、アニメ『『スター・ウォーズ:ビジョンズ』第1話「The Duel」の内容に関するネタバレを含みます。
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』第1話あらすじ&解説
謎の惑星のローニンとドロイド
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』シーズン1第1話の「The Duel」は、神風動画の水崎淳平が監督を務めたエピソード。「決闘」という意味のタイトルが付けられた第1話ではどのような物語が描かれたのだろうか。
ドロイドのR5-D56と旅を続けるローニンを主人公にした「The Duel」はモノクロをベースにした映像で物語が展開していく。一方で、「スター・ウォーズ」シリーズ伝統の画面の切り替え方(ワイプ)は健在。日本の時代劇的な要素と「スター・ウォーズ」シリーズの要素が融合していることが序盤から示されている。
また、村の中でも“光”にあたる部分には色がつけられている。畑を耕すドロイドの姿なども手伝って、ただの時代劇ではなく、あくまでも「スター・ウォーズ」世界の一部であるということが示されている。
茶屋の老人はR5-D56の姿を見過ごしてローニンに「ひとりで旅とは」と言っているあたり、舞台が保守的な田舎町であることがうかがい知れる。地上用の乗り物が村の中を駆け抜けていき、人々に恐怖を与えている。人々が丁半賭博をしている姿も捉えられており、かなり日本に近い文化を持った惑星であることが分かる。そして乗り物から出てきたのは山賊たちで、ブラスターを乱射して村で略奪を繰り広げていた。
老人によるとこの山賊は「前の戦の杯残兵」ということだ。帝国の侵略を退け、帝国の兵が残ったのだろうか。山賊は税を徴収しようと村長を呼び出すが、名乗りをあげたのは一人の少年だった。病床に伏す父に代わって村を代表する少年は、“用心棒”たちに委ねて村を守ろうとする。
シスの元ネタとは
だが、そこに現れたのは赤いライトセーバーを操るシス。「スター・ウォーズ」の世界では青色や緑色のライトセーバーを操るのがジェダイで、赤色のライトセーバーを操るのがシスということになっている。用心棒とシスの戦いからの流れ弾でR5-D56を壊されたローニンは、ようやく重い腰を上げる。
見たこともない“傘型”のライトセーバーを扱うこのシスは、当然フォースも操る。ムスリムのブルカのような服装をしたシスは女性のようだが、これまで「スター・ウォーズ」シリーズの正史に登場した女性のシスは、アニメ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(2008-2020) に登場したダース・ザナーなどがいるが数は少ない。このシスは、8本の刀身を持つ傘型ライトセーバーで次々と敵をなぎ倒していく。
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の製作総指揮の一人、ジャスティン・リーチによると、このシスのモデルは小池一夫原作、上村一夫作画の漫画を1973年に映画化した『修羅雪姫』を彷彿とさせるキャラクターとして造形されているという。
『修羅雪姫』はクエンティン・タランティーノ監督が大きな影響を受けた作品の一つで、映画『キル・ビル』(2003) でも同作へのオマージュが捧げられている。なお、このシスの声は英語版では『キル・ビル』でオーレン・石井役を演じたルーシー・リューが担当している。
ローニンの正体
村へ降りてきたローニンは「ただの通りすがりだ」と話しながらもこのシスと対峙する。傘の骨を捨てたシスはローニンにライトセーバーを振り下ろすが、なんとこのローニンもフォースの使い手だった。かつてジェダイを殺したことがあると匂わせてローニンに襲い掛かるが、ローニンが出したのもまた赤いライトセーバーだった。
刀の柄をつけた特殊なライトセーバーを操るローニンは、相手のシスと一刀流で力勝負を見せる。丸太の上で繰り広げられる二人の戦いは、『スター・ウォーズ エピソード3/ シスの復讐』(2005) におけるアナキンとオビ=ワンの戦いを想起させる。
ローニンは幼き村長を人質にとられて一旦は刀を鞘に収めるが、狙っていたのは茶屋の老人がR5-D56の修理を終える瞬間だった。復活したR5-D56が村人たちを解放したのを合図に再びライトセーバーを取り出したローニンだったが、敵のシスに滝の下に落とされてしまう。
ローニンは滝の向こう側にあった仏間で仏像をおとりにして敵のシスを切る。仏像を切らせて敵を断つという作戦は、シスらしい戦い方である。山賊のリーダーだったシスを破ったローニンは、家を焦がしながらもR5-D56を修理してくれた茶屋の老人にシスが遺した傘型のライトセーバーを授ける。
「伝説のジェダイに違いない」と言う幼き村長に対し、赤いライトセーバーを見せてそれを否定したローニン。敵のシスが持っていたライトセーバーを破壊して中から赤いカイバークリスタルを取り出す。ローニンの懐にはいくつもの赤いカイバークリスタルが取り付けられていた。ローニンはその内の一つを「魔除けになる」と村長に渡すと、R5-D56と共にまた旅に出るのだった。
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』第1話「The Duel」解説&考察
おさえておくべきシスの特徴
「スター・ウォーズ」シリーズにおける“ジェダイ”の語源が“時代劇”だということは広く知られている事実だ。だが今回描かれたのはシス同士の時代劇である。山賊のリーダーはクレジットでも「Bandit Leader(山賊のリーダー)」となっているだけで正式な名前はないようだ。
だが、「スター・ウォーズ」正史にも登場しない辺境の星で、二人のシスが出会うというのは非常に珍しい状況だ。なぜなら、ジェダイと違ってシスには「2人の掟」と呼ばれ掟があるからだ。「2人の掟」とは、シス卿はマスターとその弟子の二人しか存在してはならないという掟だ。つまり一子相伝。やたら滅多にシスが生まれないことがシスの特徴なのだ。
もちろん、ダース・モールのようにシスの力を持ったままシスの弟子から外れるということもあり得るので、“シスの力を持った人物”が二人しか存在しないということではない。ジェダイのパダワンのように多人数を育てたりはしないため、数が少ないということである。
ローニンの過去についての公式見解
では、Bandit Leaderやローニンは“元シス”だったのだろうか。Bandit Leaderについては、その振る舞いや言動から見ても元シスと考えてよいだろう。だが、言葉数が少なかったローニンの方は判断が分かれるところではある。
まず、ドロイドのR5-D56を連れている時点で「スター・ウォーズ」のセオリー的にはローニンは善人であることがほとんど確定している。製作総指揮のジョシュ・リメスは米スター・ウォーズ公式サイトで、ローニンというキャラクターについてこう説明している。
ローニンは放浪者であり、アンチヒーローであり、三船敏郎や『用心棒』のような黒澤映画に大きな影響を受けた神秘的な戦士です。彼は、古い黒澤映画や漫画、西部劇、そしてストームトルーパーの残党やエイリアンのボディーガード部隊が存在する封建的な「スター・ウォーズ」世界など、あらゆる領域に存在しています。そして、彼の相棒は麦わら帽子をかぶった殺人ドロイドなんです。このキャラクターのすべてが、『スター・ウォーズ:リビジョンズ』と、我々が探求したかった類の物語にぴったりだと思います。
プロデューサーのカナコ・シライシは、ローニンというキャラクターについて、こう付け加える。
彼が誰なのか、どこから来たのかは、誰も知りません。彼は自分のことを語りません。本当の姿を知っているのは彼のドロイドだけで、ドロイドもまた喋ることはありません。視聴者側には、この短編作品の他の登場人物と同様に、主人公についても限られた情報しか与えられていないのです。
そして、米スター・ウォーズ公式サイトでは、「The Duel」の解説ページで以下のように書かれている。
ローニンの過去がどうであれ、彼にはハッキリと名誉の掟と優しき心があります。(「The Duel」は)非常に素晴らしいストーリーテリングであり、ローニンは「スター・ウォーズ」の“追いかけるべきヒーロー”として登場を果たしました。
キーになるのは冒頭の「ローニンの過去がどうであれ」という部分だ。「スター・ウォーズ」公式は、『スター・ウォーズ:ビジョンズ』配信開始前の広報ではローニンを「謎めいた元シス」としていたが、配信後の記事ではローニンの過去をぼかしている。ローニンが過去に本当にシスだったかどうかは別のストーリーを差し込む余地を作っていると考えてよいだろう。
ルーカス・フィルムがディズニー傘下になった後、ライトセーバーの色に関する設定には変更が加えられた。元はシスのライトセーバーには人工のクリスタルが使われるため、人工的に作られたクリスタルは赤色に変色するという設定だった。しかし、新たな設定では、クリスタルはフォースに呼応して色がつくが、ライトセーバーをジェダイから奪って手に入れるシスにはクリスタルが呼応せず、血を流して赤く染まってしまうという設定になったのだ。
いずれにせよライトセーバーを使えるのはシスかジェダイのようなフォースの力が宿っている者だけ。ローニンには戦士としての何らかの過去があったはずだ。一度シスに落ちたローニンはアナキン・スカイウォーカーのように復活を遂げたのだろうか(だとすれば凄いことだが)。赤く染まったカイバークリスタルを集めて回るローニンの目的とは贖罪か、それとも正義なのか。
答えは小説版に
実は『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の中でも「The Duel」だけは英語の小説版が発売されることが決定している。こちらではローニンの過去も含めて長編の物語が描かれるようだ。
製作総指揮のジョシュ・リメスは、「ヴィジョンズの小説『Ronin』では、主人公のさらなる冒険が描かれていますが、この物語は、正義感が強く、善悪の判断ができる人物の物語です」と語っている。また、アニメ版のローニンは「自分自身の過去の重みを背負って自分探しの旅をしている」というヒントも述べている。
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』で誕生した新ヒーローの歴史が日本語版でも語られることに期待しよう。
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』は2021年9月22日(水)よりDisney+で配信開始。
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