新たな世界への第一歩を描く『FLY/フライ』
渡り鳥であるマガモでありながら一度も渡りをしたことのないマックとパム夫婦と、その子供たちであるダックスとグウェンの冒険を描いた『FLY/フライ』が2024年3月15日(金)に全国公開された。『FLY/フライ』ではコロナ禍で内向的になった社会全体に対して、新しく人と出会い、そして冒険に踏み出す重要性が説かれている。
そのような『FLY/フライ』でカモ一家がどのような旅路を辿ったのか解説と考察、感想を述べていこう。なお、本記事は『FLY/フライ』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
Contents
『FLY/フライ』でのニューイングランドからジャマイカへの旅
冒険のはじまり
変化を求めないマックと、人生とは自分自身の殻を破ることだと考えているパムのマガモの夫婦。そして、母親譲りで独り立ちを夢見る長男のダックスと、臆病だが好奇心旺盛な妹のグウェン。そして池から出たことのない孤独なダンおじさんの5羽はニューイングランド地方のムースヘッド池で暮らしていた。何も変わらない日々を過ごしていたムースヘッド池に渡り鳥の群れが訪れる。
パムはそれをきっかけに、ムースヘッド池の外の世界であるジャマイカへと冒険に出ることをマックに提案する。渡り鳥のキム曰く、ジャマイカは美しい山々に囲まれ、海は夜になると光り輝くという。そのような夢のような話を聞いても、変わらない日常こそ素晴らしいと思っているマックはそれを拒否する。
臆病だと責められて眠れないマックは、ダンおじさんの姿を見て変わらないで安全地帯にいるままでは孤独な一生を過ごすと気づく。そうしてマックたち5羽は冒険に出ることになった。
この渡り鳥でありながら渡りをしないマガモという設定は、地球温暖化で冬になっても渡りをしなくなったマガモが現われたというニュースと、コロナ禍で内向的になった人々の性格が反映されているとのことだ。マックは猛禽類やハンターを恐れているが、現実でも古来よりマガモはハンティングの対象にされてきた。
また、ジャマイカが楽園とされている設定は2024年5月17日(金)に公開されるジャマイカの伝説的なアーティストであるボブ・マーリーの伝記映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』などと比較すると、レゲエなどジャマイカ文化を見直す流れが来ていると考察することも出来る。
ジャマイカから来たオウム
旅の中でハンターだと恐れていたサギと出会いや、ハトの寄せ集め軍団と出会い、偏見を取り払っていくマックとパム一家。そして、ハトのリーダーのチャンプの紹介で、ジャマイカへの道筋を知るオウムのデルロイを紹介されるのだった。デルロイは血の気の多いシェフの元で籠の鳥となっていた。ジャマイカで捕らえられたというデルロイは、籠の中から自由になることを夢見ていた。
デルロイはその身体的特徴とジャマイカ原産という設定からアカコンゴウインコだと考察できる。コンゴウインコはその鮮やかな体色からペットとして人気が高いが、所定の特別な許可を得なければ捕獲は違法である。デルロイが語るシェフに捕まった経緯から考えても、シェフがデルロイを正規の方法で捕獲したとは考え難い。その点からもデルロイは違法に捕獲されたアカコンゴウインコだと考察できる。
シェフからの逃亡
ダックスはデルロイを見て、彼を自由にすべきだとマックに訴える。マックはダックスが危険な目に遭うことを恐れて自分がシェフから籠の鍵を取ると言う。そして危険なキッチンを乗り越えて鍵の一歩手前に向かうが、そこでパムも来ていたことを知る。パムとマックは協力して鍵を取ろうとするが、そこでマックはカモ肉をシェフが調理しているのを見てしまう。
それに驚いたマックは咥えていたパムの尾羽を離してしまい、それによって足を滑らせたパムは消火器を踏み、キッチンを泡だらけにしてしまった。激昂するシェフから逃げるマックとパムに最悪な状況が降りかかる。それはレストランがサルサナイトになったことだった。
ダンスをする群衆の中で、踏まれないように逃げるマックとパム。そこでマックとパムはサルサの音楽に合わせて踊るように移動し、何とかシェフの部屋に逃げ込んだ。そして、鍵で籠を開けようとするが、乗り込んできたシェフに驚いてマックは鍵を飲み込んでしまった。
柱の陰に隠れるマックとパムたちだったが、グウェンが欲しがってここまで持ってきていた風船に穴が開いてしまう。マックは急いで口で穴を塞ぐが、ヘリウムガスでパンパンに膨れ上がったマックの体は柱からはみ出してしまう。そして、マックはロケット風船のように部屋中を飛び回り、体当たりでシェフの鼻っ柱をへし折った。その勢いで鍵を吐き出し、デルロイは籠からの脱出に成功した。
アヒルの楽園
デルロイの案内でジャマイカへと飛ぶマックとパム一家。そのとき、グウェンがトイレ休憩を申し出る。鳥でありながら空中でトイレが出来ないグウェンは、茂みに隠れてトイレをしているときにアヒルの楽園の入り口を発見する。レストランの一件で調子づいていたマックはそこを探索しはじめる。アヒルの楽園ではアヒルたちがヨガをしており、グーグーというアヒルがヨガのインストラクターとして仕切っていた。
アヒルの楽園は一見すると文字通りの楽園だが、よく見るとオリーブオイルをマッサージで体に塗り、シーソーが肉の秤になっているなど、食肉加工場であることを匂わせている。最初に異変に気が付いたのはダックスだった。アヒルの楽園はあの血の気の多いシェフのレストランの材料を仕入れている農場だったのだ。
アヒルたちがトラックに乗せられそうになるのを止めようとするダックスだったがシェフに翼を踏まれ、風切り羽根を抜かれてしまう。風切り羽根は鳥が長距離を飛ぶ上で欠かすことのできない羽根だ。本来は年齢と共に徐々に生え変わるものだが、その風切り羽根を一気に抜かれてしまったダックスは飛べなくなってしまう。
アヒルたちを救うことは出来たが、危険を冒したダックスをマックは責めてしまう。親子関係に深い亀裂が生じてしまったマックとダックス。飛ぶことに慣れていないアヒルたちを連れてモーテルで休憩していたマックたちだったが、そこをシェフのヘリが襲い、ダックスとグウェンを残して全員が捕まってしまった。
冒険の中の成長
ヘリからの脱出
シェフに捕まったマックとパムは他の鳥から離され、別の籠に閉じ込められていた。パムの心は折れ、地上に残されていたグウェンも絶望していた。そのとき、パムに対してマックは冒険とポジティブな心を忘れないようにと言ったのはパムだと語り、彼女を励ました。そして脱出を試みるマックとパムはサルサナイトを思い出し、タンゴを踊るように籠の隙間から足を出して逃げようとする。
2羽が脱出しようとするのをシェフが止めに入るが、マックとパムの逃亡をきっかけにアヒルたちの反撃が始まる。ヘリの中の檻に閉じ込められていたアヒルたちは手元にあった野菜を投げつけ、シェフの一度折れた鼻っ柱に野菜が直撃し、シェフは気絶した。倒れたシェフによってヘリのハッチが開いてしまい、籠に閉じ込められたままマックとパムはヘリから落ちてしまう。
もう駄目だと諦めたマックとパムのもとに現れたのは、デルロイやアヒルの抜け落ちた羽根を風切り羽根にしたダックスとグウェンだった。ダックスによって籠が開かれ、マックとパムは脱出する。そして、ヘリの中でもアヒルたちが一致団結して檻に体当たりを続けて扉を破り、鳥たちは自由になった。
光る海
自由になったマックとパムたちだったが、肝心なところでデルロイは迷ってしまう。そのとき、海が光りはじめる。これは最初に渡り鳥のキムが語っていた光る海そのものだ。カリブ海では実際にプランクトンによって海水が光る現象が発生し、これをルミナス・ラグーンと呼ぶ。マックとパムたちは知らぬ間にジャマイカに辿り着いていたのであった。マックはダックスに対してジャマイカへの先陣を切るように言った。
マック一家は色鮮やかなデルロイの親族であるオウムたちに青々とした山々、そして透き通るような水辺で暖かな冬を過ごす。翌年の春、グウェンはワニをペットにするなど充実した日々を過ごしていた。パムはムースヘッド池に戻るべく準備をしていたが、マックは迷ったペンギンたちを故郷に帰そうと語る。そうしてマックとパム一家は南極への次の旅路につくのだった。
『FLY/フライ』のネタバレ感想
コロナ禍で内向的になった社会に対して、外に出て新たな世界へと飛び出すことを描いた『FLY/フライ』。『FLY/フライ』はAfterコロナからWithコロナになった現実でも冒険心を忘れないで、ポジティブな生き方の素晴らしさを説いた作品となっている。
他にも『FLY/フライ』ではサギのエリンとの出会いなど、偏見を捨てて新しい出会いを求めることの良さも描かれていたという感想を抱かせてくれた。そのような夢にあふれILLUMINATIONの次回作にも期待していきたい。
『FLY/フライ』は2024年3月15日(金)より全国公開。
同じくILLUMINATIONによる作品の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』続編に関する記事はこちらから。
【ネタバレ注意!】『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』で流れた音楽の解説はこちらから。
【ネタバレ注意!】『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ラストとポストクレジットシーンの解説はこちらの記事で。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』で描かれる各キャラクターのヒーロー像についての考察&解説記事はこちらから。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』キャストと吹替声優、そしてキャラクター紹介の記事はこちらから。