オバマも絶賛! 『三体』劉慈欣の登場がSFを変える。 | VG+ (バゴプラ)

オバマも絶賛! 『三体』劉慈欣の登場がSFを変える。

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中国SFと劉慈欣の登場、注目され始めた中国のSF市場

皆さんは、「中国とSF」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。近年では、上海を舞台にした映画『パシフィック・リム』(2013)が人気を博し、中国資本がその制作会社のレジェンダリー・ピクチャーを買収するなど、中国にとっては明るい話題も多い。Netflixで公開された『クローバーフィールド パラドックス』(2018)では、物語の舞台となる宇宙ステーションの共通語として、英語と共に中国語が使用されていたことも記憶に新しい。中国を、市場における主要なターゲットとして捉えた動きが活発になってきたとも言える。

アジア人初のヒューゴー賞受賞者

こうしてハリウッドに目線を合わせると、中国の消費者としての面ばかりが目立ちがちだが、中国には世界的なSF作家がいることをご存知だろうか。劉慈欣(リュウ・ジキン/リウ・ツーシン)は、2015年に小説『三体(英題:The Three-Body Problem)』で、SF界で最も名誉ある賞の一つとされるヒューゴー賞の長編小説部門を受賞した。Facebook共同創業者のマーク・ザッカーバーグや当時の米国大統領バラク・オバマが愛読していることを明かすなど、一躍スポットライトを浴びた。

My next book for A Year of Books is The Three-Body Problem by Liu Cixin.

It’s a Chinese science fiction book that has…

Mark Zuckerbergさんの投稿 2015年10月21日(水)

まるで「魔法の書!」破竹の勢いを見せる『三体』

『三体』のオリジナルは2006年に中国のSFマガジン「科幻世界(英題:Science Fiction World)」に掲載されたもの。同年に中国のSF最高賞と称される銀河賞(Galaxy Award)を受賞すると、2008年に書籍として発売されるやいなや中国国内で大ヒット。2014年には中国系アメリカ人作家のケン・リュウによる英語翻訳版が発表され、翌年、前述のヒューゴー賞長編小説部門を受賞した。

この劉慈欣の受賞までにアジア人SF作家が獲得した海外賞は、伊藤計劃が『ハーモニー』で2010年に、円城塔が『Self-Reference ENGINE』で2013年にそれぞれ受賞した、フィリップ・K・ディック賞特別賞が最高賞であった。この記録を大幅に塗り替えたことも快挙だが、『三体』が特異な点は、発表・書籍化・翻訳が行われる度に、即座に結果に結びついているところだ。読む者を虜にする“魔法の書”といったところだろうか。

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オバマ前大統領も絶賛

大統領としての任期を終え民間人に戻ったオバマ氏は、2017年12月に北京で開催された国際教育サミットで劉慈欣との面会を果たした。オバマは、この年の1月にニューヨークタイムズのインタビューで、『三体』を絶賛していた。今回、オバマはジキンの次回作について質問し、ジキンは自身の作品の映画化についてオバマへ話をしたという。前アメリカ合衆国大統領と、中国最高のSF作家がSF談義に花を咲かせたのだ。世界が少しだけ、平和になった気がしないだろうか。

中国SFと日本SFの明日、バスケのように現れた「市場」と「プレイヤー」

巨大マーケットとしての存在価値にばかりを目を向けられてきた中国。
バスケットボールに目を向けてみると、中国国内のNBAファンの人口は、米国の総人口に匹敵するとも言われている。更にNBAでヤオ・ミンをはじめとする中国人選手が活躍を見せたことは、アジア人がフィールド上でプレイヤーとして闘えるということを証明して見せた。
そしてSF小説の世界でもまた、巨大な市場だけでなく“プレイヤー”として世界中の人々を魅了する存在が中国から現れたのだ。

SFが創造する世界

熱心なSFファンとしても知られるバラク・オバマに、「とてつもない独創性、とにかく面白い」と言わしめた『三体』は、映像化の話も進められている。バスケットボール同様、SFまで米中の置いてけぼりにならないことを願うばかりだ。

一方で、2012年に『紙の動物園』で、ヒューゴー賞とネビュラ賞の短編部門を同時受賞し、「ダブルクラウン」を達成したケン・リュウは、日本の作品に強い影響を受けている。韓国系アメリカ人SF作家のピーター・トライアスも同様で、ケン・リュウと同じく日本人を主人公にした作品を出版している。
そう、日本では海外の若者に影響を与えるような、独創的なコンテンツが宝の山のように積み上げられきたのだ。これからの時代の物語は、アジア系アメリカ人の彼らが日本人を描いたように、中国を舞台にして日本型のロボットが活躍した『パシフィック・リム』のように、多様なプレイヤーが、多様なツールを、多様な舞台で描いていくようになるのではないだろうか。SFが多様性という名の絵の具で、現実とその“if”の世界の両方を、存分に彩ってくれるだろう。

Source
© 2018 The New York Times Company / © 2018 Macmillan / © 2017 PT. Niskala Media Tenggara

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