藤井太洋 最新作『距離の嘘』
第35回日本SF大賞を受賞した『オービタル・クラウド』(2014)、第40回吉川英治文学新人賞を受賞した『ハロー・ワールド』(2018)などで知られる藤井太洋の最新作『距離の嘘』が2020年12月9日(水)よりKindleで配信を開始する。『距離の嘘』は、動画&書籍の配信プラットフォームU-NEXTにて、10月9日より会員限定で先行配信されていたU-NEXTオリジナル小説。先行公開から2ヶ月が経過し、遂にKindleにも登場する。
『距離の嘘』のあらすじ
『距離の嘘』の舞台は2038年。主人公の吴 隆生 (ウー・タカオ) は感染症対策のデータ分析官を務める中国系日本人だ。過去には日本の厚生労働省でも感染症のデータ分析の任に就いていた吴は、カザフスタンと中露の国境沿いに位置する難民キャンプに招待される。その難民キャンプで、かつて吴が対策に取り組んだ苛烈型麻疹 MeV-D5-7が発生したのだ。吴は、難民キャンプの疾病対策センターでディレクターを務める空川と、難民キャンプの議会で議長を務めるファヒームによってキャンプへ迎え入れられるが……。
COVID-19以外の様々な感染症が可視化され、分類され、対策されるようになったポストコロナの時代——文化も歴史も、政治状況も日本とは異なる難民キャンプで、感染症の封じ込めを目指す吴のミッションが始まる。
『距離の嘘』のみどころ
『距離の嘘』の舞台になった2038年には、COVID-19の世界感染は第7波以上に及んでいる。東京は年に4〜5回の社会距離戦略をとり、ブロックチェーンを含むテクノロジーを駆使して極力モノとの接触を避けるなど、感染症と“付き合って”生きていくリアルな未来社会の様子が提示されている。
現実社会の日本は、第3波によってみたび自粛生活に突入している。『距離の嘘』が描く18年後の社会で、感染症と不安定な政治状況に晒されながらも現実を生き抜こうとする人々の姿に想いを馳せることは、今を生きる私たちへのヒントになるだろう。
筆者の藤井太洋は、7月に出演したフジテレビ「世界SF作家会議」などで、今後、人類は様々な疫病を無視できず、小さなパンデミックが繰り返されていく時代に入っていくと話していた。
また、藤井太洋は『WIRED』vol.37所収の「滝を流れゆく」でも、ポストコロナの日本を舞台にしたSF小説を発表している。
藤井太洋『距離の嘘』は2020年12月9日(水)より、Kindleで配信開始。
U-NEXTでは、10月9日(金)より配信中。会員は読み放題で、31日間の無料体験キャンペーンも実施中。