ミュータントたちに降りかかる絶望が描かれる『X-MEN‘97』
アニメ『X-MEN‘97』第5話「覚えておけ」からはじまったミュータントたちの絶望は凄惨なもので、第6話「生死 第2部」では様々な側面からその絶望が描かれた。第7話「光る目」では、X-MENたちミュータント社会がその絶望に対してどのように対処するのかが描かれることになる。
本記事ではアニメ『X-MEN‘97』第7話「光る目」で描かれるミュータント社会について解説と考察、感想を述べていこう。なお、本記事はアニメ『X-MEN’97』第7話「光る目」のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、アニメ『X-MEN’97』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『X-MEN‘97』にあのヒーローが登場
ガンビットのための戦い
ガンビットの死にX-MENたちは悲しみに打ちひしがれ、これまで共に戦ってきたミュータントたちも涙する。ガンビットは無限の未来を信じていたが、盗賊時代の罪の意識に傷ついてもいた。英雄としてのガンビットを称える葬儀に、恋人であるローグはいない。
ローグはただ一人、ガンビットの仇を討つべく動いていた。ハルクを収容するための米軍の極秘施設ライカーズを襲撃し、そこに捕らわれているはずのボリバル・トラスクとヘンリー・ピーター・ガイリックを探しそうとするローグ。善人はジェノーシャの悲劇ですべて死んだとローグは語り、自分自身も善人ではなくなったと言うのだった。
アニメ版『X-MEN』には、ハルクは出演していない。しかし、戦いの訓練室〈デンジャールーム〉でプロフェッサーXの義理の兄弟である怪力無双の魔人ジャガーノートを食い止める際、同じく怪力のヒーローとして、ハルクのロボットがカメオ出演している。そのため、アニメ『X-MEN‘97』の世界にはハルクが存在していると考察できる。
ジェノーシャの生存者捜索の打ち切り
その頃、サイクロップスはロバート・ケリー大統領から国連がジェノーシャの生存者捜索の支援打ち切りの報せを受けていた。残酷にも、もう生存者は確認できないという理由だった。ヴァレリー・クーパー博士も見つかっていないとサイクロップスは話し、1人でも多く生存者を見つけることが希望に繋がると続けて語った。
しかし、時はすでに遅く、トラスクによるものと思われるジェノーシャの攻撃がミュータントと人類の人種間戦争の宣戦布告になったと考えられていた。ロバート・ケリー大統領は有権者への心証を気にしており、すでにミュータントを助けることは人類への背信行為だと思われていることが考察できる。
サイクロップスは国連がミュータントだから生存者探索を打ち切ったと非難するが、ロバート・ケリー大統領は反ミュータント主義者を要職に就かせないように苦労していると語る。そしてサイクロップスに忍耐を求めるが、サイクロップスはその忍耐がジェノーシャの悲劇を招いたと返すのだった。
支援が得られない以上、X-MENたちがジェノーシャでの生存者探索を行なうしかない。仲間の死を受け止めきれていないX-MENにとって、それは苦痛以外の何物でもなかった。また、ジェノーシャの悲劇によってサイクロップスは息子の母親でもあるマデリン・プライヤーも喪っていた。そして消息不明のマグニートーの言う通り、人類への警戒を怠るべきではなかったと後悔もしていた。それでもニュース映像を見るミュータントに希望を与えるため、X-MENはジェノーシャに向った。
星条旗を背負うヒーロー、キャプテン・アメリカ
暴走を続けるローグの前に星条旗の盾が投げつけられる。その持ち主はキャプテン・アメリカだ。キャプテン・アメリカは人類が起こしたジェノーシャの悲劇を恥じ、ガイリックたちの行方を追っていたのだ。そこでキャプテン・アメリカはローグと同じ目的だと語りつつ、これ以上の暴走は犠牲者も望んでいないはずだと続ける。
キャプテン・アメリカは国連が秘密裏にガイリックたちを解放したことを知り、捜査を開始していた。今のところ分かっているのはOZTというものが関わっていることだけだった。そして、ローグはミュータントたちを規則で公のもと助けられないキャプテン・アメリカに失望すると、アメリカの正義の象徴である盾を山間へと投げ飛ばしてしまった。キャプテン・アメリカはそれをただ見つめるだけだ。
アニメ版『X-MEN』では、第二次世界大戦の際にキャプテン・アメリカとウルヴァリンは共闘している。ウルヴァリンとキャプテン・アメリカは共にナチスに立ち向かった経験を持つため、ローグに盾を投げ捨てられたときのキャプテン・アメリカは、アメリカを背負うヒーローとしてジェノーシャという特定の国家の事件に介入できない現状を歯がゆく感じていたため、正義の象徴である盾が捨てられるのをただ見ていることしかできかったと考察できる。
人種間戦争の緊張
失望するビースト
ジェノーシャでは、ミュータントたちの間に人種間戦争の緊張が走っていた。ジュビリーは人種間戦争の緊張をきっかけに、久しぶりに里親と電話したと話す。ロベルトは母親にミュータントであることを明かせず、スキー休暇中と偽り続けていた。
ジュビリーはジェノーシャの悲劇のようなことがある前にミュータントであることを告白すべきだとロベルトに説くが、ロベルトはミュータントであることを公言していると攻撃を受けると返す。ジェノーシャの悲劇は現実のマイノリティの社会問題を比喩していることが容易に考察できる。
世界中でミュータントの暴動が発生しており、それを知るとビーストはプロフェッサーXの見通しが甘かったと彼を批判した。かつての法の正当な裁きを信じていたビーストの姿はそこにはなく、人類に寛容を求めず、ブラザーフッド・オブ・ミュータンツのように強硬路線で行くべきだと語る過激派となったビーストの姿がそこにあった。
ローグの怒り
ガイリックの居場所を突き止めたローグは人類に失望する。ガイリックが拘束されているとされた場所はセキュリティー付きの豪邸で、ガイリックはそこで昆虫標本を眺めながらクラシックを聴いて過ごしていたのだ。
ローグはガイリックを豪邸住まいにしているのは政府中枢の反ミュータント主義者だと考察する。ローグの襲撃にも平然としているガイリックに怒ったローグは、生命エネルギーごと情報を引き出そうとした。しかし、そのあまりにも大きい人種差別的憎悪にローグは気を失う。
希望と絶望の交錯
ジーン・グレイは生存者探索の中で多くの死に触れる。そのジーン・グレイは絶望の中、テレパシーとダイヤモンド化能力を持つエマ・フロストを発見した。それがマデリン・プライヤーでないことと、一縷の希望が見つかったことで感情が混乱したと考察できるサイクロップスは涙を流す。
X-MEN専用機ブラックバードにボリバル・トラスクから通信が入る。それはミスター・シニスターと取引をしたというもので、まさかジェノーシャの悲劇が起きるなど想像もしていなかったという内容だった。それを信用できるはずもないX-MENだったが、トラスクの語るマドリプールの国連平和部隊の話をもとに、X-MENはマドリプールに向かう。
ロベルトの告白
ロベルトはジュビリーのアドバイスを受け、母親にミュータントだと告白しに帰郷した。その豪邸に驚くジュビリーだったが、それよりも単刀直入にミュータントだと告白したロベルトにさらに驚いた。それよりも驚かされたのは両親ともに息子がミュータントであることを薄々感じ取っていたことだ。
一時は受け入れてもらえたと喜んだロベルトだったが、それはすぐに絶望に突き落とされる。母親は息子がミュータントであることを世間に露呈しないようにすることを心配していたのだ。ジェノーシャの悲劇以降、ミュータントに対する目は厳しくなっていると母親は語り、息子を個人的には受け入れたかのような姿勢を取りつつも、そのアイデンティティを隠すという道を選んだ。これは現実のマイノリティにとって、よくあることだと考察できる。
OZTとは何か
ガイリックの膨大な人種憎悪を吸収した結果、意識を失ったローグはメキシコの死者の日の会場で目を覚ます。彼女を起こしたのは義理のきょうだいにあたるナイトクローラーだった。ナイトクローラーはガンビットとマグニートーにとってローグの存在は生きる意味だったと語り、それによってローグは怒りではなく、悲しみとして2人の死を受け入れたのだった。そして、そのような仲間の傍にはX-MENたちも駆けつけていた。
その頃、ローグに生命エネルギーを吸収されたことで意識不明になっていたガイリックも目を覚ました。ガイリックは訪れてきた謎の男に、今回のジェノーシャの悲劇は成功例だったと語るも、謎の男は失敗しかけていると返し、ガイリックの息の根を止めるのだった。
トラスクに言っていたマドリプールにある国連平和部隊のもとを訪れるX-MENたちだったが、すでに催眠ガスで隊員たちは気絶していた。モーフがトラスクの残した「ダイエットは売り切れない」という言葉通り、自販機でダイエットドリンクを買うと、その裏に隠されていたエレベーターが顔を出す。
オッペンハイマーの言葉を引用するトラスクは、OZTとはセンチネルの生産を復活させた存在だと語る。その技術は遥か未来のものであり、それだとすれば未来のサイクロップスとマデリン・プライヤーの息子であるケーブルが警告しに来たことも説明がつく。身投げしようとするトラスクを止めるローグだったが、彼から話が聞き出せないと知ると、そのまま手を放してビルから落とすのだった。
プライム・センチネルとその黒幕
しかし、トラスクはプライム・センチネルとして復活を果たす。そしてミュータント殲滅のために、自分自身の中のプライム・センチネルを起動させる。倒壊するビルから人々を救うサイクロップスとジーン・グレイだったが、トラスクの攻撃は止まらない。トラスクはクイックシルバーに変身して高速攻撃を放つモーフを殴り飛ばし、ウルヴァリンとビーストを吹き飛ばす。
ミュータントを無力化させることに執着するトラスクにX-MENは全滅させられかけ、サイクロップスは命を奪われそうになるが、そこに電磁クラスター手榴弾が投げ込まれる。サイクロップスを救ったのはケーブルだった。ケーブルはサイクロップスに息子であることを明かすが、それだけではなく、ミスター・シニスターをも操る黒幕の存在をも明かすのだった。
謎の男はシーアー帝国にいるプロフェッサーXの存在を知っているだけではなく、マグニートーを生きたまま監禁していた。その男の正体はセバスチャン・ギルベルティ、またの名をバスチオン。アメリカ政府中枢にまで食い込み、対ミュータント攻撃部隊オペレーション:ゼロ・トレランス(OZT)を結成させ、マスターモールドと融合を果たした男だ。
第7話の感想と第8話で描かれるOZTの真の目的
アニメ『X-MEN‘97』第7話「光る目」では、ジェノーシャの悲劇の後、表面化したミュータントと人類の間の溝が明らかになった。これはトランプ政権時のアメリカを想起させるもので、2017年のアメリカは人種差別が顕在化した年でもあった。これまで沈黙を強いられてきたマイノリティであるミュータントたちの怒りは最悪の形で爆発した。
正義のヒーローであったX-MENの信念はへし折れ、怒りがその心を支配している。ビーストの変化は著しい。X-MENたちにとって多くの同胞を失った怒りはそれほどまでに大きいと考察できる。第8話では、すべての黒幕であるバスティオンとOZTの目的が明らかになると考察できる。
OZTとは何か。何故バスティオンは未来の技術を持っているのか。ケーブルの暮らす未来で何があったのか。謎が深まるばかりだったアニメ『X-MEN‘97』第7話「光る目」だったが、第8話ではその謎が明らかになるのか期待していきたい。
アニメ『X-MEN‘97』第7話「光る目」は2024年4月24日(水)よりDisney+より配信開始。
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