『シャイニング』の名曲が復活——『ドクター・スリープ』で流れた音楽まとめ | VG+ (バゴプラ)

『シャイニング』の名曲が復活——『ドクター・スリープ』で流れた音楽まとめ

℗ 2019 This compilation WaterTower Music as licensee for Warner Bros. Entertainment Inc. © 2019 Motion Picture Artwork 2019 Warner Bros. Entertainment Inc.

『ドクター・スリープ』公開

スティーヴン・キング原作のホラー映画『ドクター・スリープ』(2019)。前作『シャイニング』(1980) から40年の時を経て、惨劇を生き残り大人になったダニーと、彼と同じ“シャイニング”の力を持つ少女アブラの物語が描かれる。

『ドクター・スリープ』の指揮をとったのは、マイク・フラナガン監督。スタンリー・キューブリック監督の映画版『シャイニング』を引き継ぎつつ、スティーヴン・キングによる原作小説を見事に映画化して見せた。スティーヴン・キング自身も『ドクター・スリープ』の仕上がりを称賛している。

劇中で流れた音楽に注目

『ドクター・スリープ』では、スタンリー・キューブリック版の映画『シャイニング』から様々な要素が引き継がれたが、中でも印象的だったのが音楽の使い方だ。おなじみのあのテーマソングから劇中の挿入歌まで、こだわりの選曲が光った。今回は映画『ドクター・スリープ』で使用された音楽を解説付きでご紹介しよう。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ドクター・スリープ』の内容に関するネタバレを含みます。

ローズが口ずさむ「My Wild Irish Rose」

冒頭、前作『シャイニング』のテーマ曲で『ドクター・スリープ』の物語は幕を開く。続いてローズ・ザ・ハットが少女を誘惑するシーンが映し出される。ここでローズ・ザ・ハットが口ずさんでいる歌は民謡「My Wild Irish Rose」だ。野に咲くアイルランドの薔薇の美しさについて歌われた曲である。

ローズ (Rose=薔薇) というキャラクターの名前にかかっている他、ローズを演じたレベッカ・ファーガソン自身が祖母からアイルランドの血を引いている (本人はスウェーデン人) ことにも関連している。なお、レベッカ・ファーガソンの実の母はイングランド人だが、名前はローズマリーだ。

また、「My Wild Irish Rose」はチャウンシー・オールコット (Chauncey Olcott) が1899年に作曲した楽曲で、様々なアーティストによって歌い継がれている。古い民謡を歌わせることで、ローズ・ザ・ハットというキャラクターが非常に長い寿命を生きていることが示唆されているのだ。

バーで流れた「Good Godly Woman」

大人になったダニーはアルコール依存症になり、バーで暴飲と喧嘩を繰り広げる。このシーンで流れている曲は、アラバマのロックバンド The Red Clay Straysの「Good Godly Woman」。同曲は2019年11月1日に発売されたばかりのThe Red Clay Straysのデビューシングルで、事実上タイアップ曲となっている。この曲のタイトルの意味は「良き信心深い女性」。

映画館で「アズ・タイム・ゴーズ・バイ (As Time Goes By)」

エミリー・アリン・リンド演じるスネークバイト・アンディが映画館で男と落ち合うシーンでは、映画『カサブランカ』(1942) が上映されている。戦時中に製作されたこのラブロマンス映画は、終戦後の1946年に日本でも公開されている。流れている楽曲はドーリー・ウィルソンが歌う「アズ・タイム・ゴーズ・バイ (As Time Goes By)」(1931)。この切ないラブソングは、『カサブランカ』のテーマ曲としてアメリカでは広く知られている。

曲の内容は「時が過ぎても世界は恋人たちを受け入れてくれる」というもので、「女には男が必要で、男には相方が必要」と古い感覚の歌詞が歌われている。少女を狙う男達への復讐を重ねるスネークバイト・アンディの感覚とは乖離する内容で、世界と彼女の間の距離感が感じられる演出だ。なお、『カサブランカ』は『ドクター・スリープ』と同じくワーナー・ブラザースによる配給の作品でもある。

ビーチで「It’s All Forgotten Now」

トゥルー・ノットの一員となり、浜辺で目覚めたスネークバイト・アンディ。ここで流れている曲はレイ・ノーブルの「It’s All Forgotten Now」(1934) 。「トラブルも痛みも全て忘れ去られた」「私が放った全ての言葉も、流した全ての涙も」「私たちは再び幸福になり、私たちのトラブルは記憶の彼方に消えた」と歌われており、生まれ変わったアンディの状況を表している。

『シャイニング』をご覧になった方は、この曲が『シャイニング』からの引用であることに気づくかもしれない。「It’s All Forgotten Now」は、ダニーの父ジャックがホテルのトイレで幽霊のグレーディーと話をする際に流れていた曲なのだ。

ダニーが歌う「カム・フライ・ウィズ・ミー (Come Fly With Me)」

“ドクター・スリープ”としてダニーが病院の患者を看取るシーン、最期に二人が歌い上げるのは、フランク・シナトラの「カム・フライ・ウィズ・ミー (Come Fly With Me)」(1958) だ。「一緒に飛び立とう」「ボンベイにバーがあるんだ」と歌われているこの曲が収録された同名のアルバムは、当時、全米で5週連続1位を記録した。まだ飛行機を利用しての旅行が今ほど一般的ではなかった時代に、人々に飛行機旅行の夢を与えた作品でもある。この曲は、スティーヴン・スピルバーグ監督の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)、矢口史靖監督の『ハッピーフライト』(2008) などの映画でも使用されている。

実は、「カム・フライ・ウィズ・ミー」はスティーヴン・キングによる『ドクター・スリープ』の原作小説にも登場する。小説版でも、ダニーが患者のチャーリーの手を取り、チャーリーが過ごしてきた人生を視る。小説版では具体的に彼の妻の姿や双子の息子の姿、彼が60歳の時、30歳の時、5歳の時の姿を見ている。その記憶の中でラジオから流れているのが、フランク・シナトラの「カム・フライ・ウィズ・ミー」なのだ。

フランク・シナトラは、10月に同じくワーナー・ブラザースから公開されて大ヒットを記録した映画『ジョーカー』でもフィーチャーされていたことは記憶に新しい。映画『ジョーカー』で流れた音楽の詳細は以下の記事からご覧いただける。

トゥルー・ノットのキャンプで「Home」

場面はトゥルー・ノットのキャンプに変わり、メンバーのクロウ・ダディがローズ・ザ・ハットと話す場面で、ヘンリー・ホールの「Home」(1977) が流れている。前述の「It’s All Forgotten Now」と同様、前作『シャイニング』で使用された楽曲であり、ジャックが妻と子どもを惨殺した狂人である幽霊のグレーディーと話す場面で使用されている。マイク・フラナガン監督は、『シャイニング』の幽霊を想起させる楽曲をトゥルー・ノットのシーンで使用するこだわりを見せている。

生まれ変わった『シャイニング』のテーマ

物語は進み、ダニーとアブラは『シャイニング』の舞台になったあの展望ホテルに向かう。この道のりで流れ出すのは『シャイニング』のテーマをアレンジした「The Overlook」。あのおなじみのテーマ曲を重厚なサウンドで蘇らせ、いよいよダニーが自らの過去に決着を付けるという場面に最高の演出が施されている。

この「The Overlook」を始め、『ドクター・スリープ』の音楽を手がけたザ・ニュートン・ブラザーズは、2020年公開予定の『呪怨』のハリウッドリブート作『ザ・グラッジ』でも音楽を手がける。原作の『呪怨』(1999) を手がけた清水崇監督による『ドクター・スリープ』へのコメントは、以下の記事からご覧いただける。

エンディングには「真夜中に星々と君と」

『ドクター・スリープ』のエンディングを締めくくるのは、アル・ボウリーの「真夜中に星々と君と (Midnight the Stars and You)」(1932)。アブラが老婆と対峙すべくバスルームのドアを閉じるシーンでこの曲が流れ出す。「真夜中に星々と君と」は、『シャイニング』でもエンディング曲として使用された楽曲だ。『シャイニング』のエンディングシーンでは、ホテルの記憶の一部となったダニーの父ジャックの写真が映し出される中で流れ出す。

「真夜中は甘いロマンスの時間だと、ずっと知っていたよ」「君のことを忘れない、何があっても」と歌われるこの曲は、『シャイニング』のエンディングとしてはゾッとする内容だ。狂ったジャックから生き残ったダニーへの言葉のように聞こえる。しかし、『ドクター・スリープ』のエンディングでは、ダニーからアブラへ、今後も彼女のことを見守っているというメッセージのように聞こえる。

原作者のスティーヴン・キングは、マイク・フラナガン監督が『シャイニング』と『ドクター・スリープ』の物語に「あたたかさ」を加えたことを評価している。このエンディング曲の使い方もホラーでもハッピーエンドを用意するマイク・フラナガン監督らしい締め方だと言える。

以上が、映画『ドクター・スリープ』で使用された音楽だ。スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』のエッセンスを引き継ぎつつ、原作小説で登場した曲もそのまま使用されている。楽曲面においても、キューブリックの『シャイニング』を完結させ、スティーヴン・キングの小説『ドクター・スリープ』を見事に実写化する絶妙な選曲が行われていたことが分かる。

『シャイニング』から引用された曲を確認し、『ドクター・スリープ』を再度鑑賞してみると、更にその世界観と物語を楽しむことができるだろう。

『ドクター・スリープ』のオリジナルサウンドトラックはWatertower Musicから発売中。

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