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北米公開から一ヶ月!
話題に事欠かない『流転の地球』
『流転の地球 (原題: 流浪地球, 英題: The Wandering Earth)』が中国で公開されてから、一ヶ月が経過。中国映画としては歴代2位の興行収入記録を達成し、Netflixが世界190ヶ国で配信を行うことも発表した。VG+では以前、『流転の地球』の北米公開 (2019年2月8日) 直後のアメリカでの評価をご紹介した。
北米での公開からも約一ヶ月が経過したが、SF大国アメリカではどのような評価が広がっているのだろうか。米国で新たに公開されたレビューをご紹介しよう。
ハリウッド・リポーター誌もレビューを掲載
世界でも有数のエンタメメディアであるThe Hollywood Reporter誌でも、3月に入りレビューが公開された。Elizabeth Kerr記者は、アメリカ人が世界を救う『インデペンデンス・デイ』(1996) を引き合いに出し、「時代は変わり、フラント・ゴゥ監督の『流転の地球』では、救世主の役割は中国に託された」と紹介。『インデペンデンス・デイ』を始めとする多くのアクション映画のような、“むき出しの自国優位思想”は『流転の地球』には見られなかったが、同時に星条旗も映画中には見られなかった、とやはり気になるのは作品の政治性のようだ。
肝心の映画の内容については、“馬鹿げた論理的・物理的飛躍”は、「オタクでない人にとっては気に障るが、SFファンにとっては一昔前のスペースオペラの感覚で見過ごしてもらえるだろう」、劇中での“ヒーロー”のある行動を理由に、「物語としては失敗している」と辛口だ。
『ブレードランナー』(1982)、『プレデター』(1987)、『サンシャイン 2057』(2007)、『2012』(2009)、『スノーピアサー』(2013)、『インターステラー』(2014)、「スター・ウォーズ」シリーズなどで見られた要素ばかりで「独創性はない」と批判。だが、それらをやり過ごせば、美しい映像と希望に満ちた博愛的なメッセージに溢れた作品だとも評価している。
「完璧からは程遠い。でも……」
Portland Mercury誌のEril Henriksen記者は、「まあまあの中国ブロックバスター映画」と手厳しいタイトルのレビューを投稿した。「『三体』を無理やり読ませない限り、どれだけリュウ・ジキンのアイデアが壮大なものかを伝えることは難しい」と、『三体』の紹介からスタート。リュウ・ジキンの作風を「美しく、奇妙で、恐ろしい」と賞賛した。
ポートランドの劇場で鑑賞したという映画『流転の地球』については、『アルマゲドン』(1998)、『2012』との類似点にうんざりした、と批判。一方で、同作は「相当に脳を働かせる雄大さと、慎ましい知性」を持ったリュウ・ジキンのスタイルを捉えてもいる、ともコメントした。映画版『流転の地球』は、「完璧からは程遠い」としながらも、「それでも、ほとんどのアメリカ産大作映画よりも知的で野心的だ」と結論を記している。
「より感動的で、より美しい」
Screen AnarchyのJ Hurtado記者は、『流転の地球』を絶賛している。中国ではこれまでに張芸謀 (チャン・イーモウ)、陳凱歌 (チェン・カイコー)、馮小剛 (フォン・シャオガン)といった映画監督によって、同国の歴史を題材とした大作映画が制作されてきたことを紹介。50年以上に渡って、素晴らしい歴史映画が作られてきた、と述べている。その上で、中国ではSF映画は「蚊帳の外」にあったという認識を示している。だが、『流転の地球』については、「過去10年で最も成功したSF映画の内の一つ」と評価。「いつまでも聴いていられる美しい音楽」のようだと讃えた。
Hurtado記者は、世界政府という共同体によって危機に臨むという物語は、“ノアの箱舟”的であり、そこから行きすぎた自国優位主義は感じ取れず、むしろ国境を越えていく可能性が感じられると評価。「生存の物語」ではなく、「挑戦の物語」であることを強調した。他の評論同様、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)、『2012』といったアメリカ映画との類似点も指摘したが、『流転の地球』は「より感動的で、より美しい」と手放しで賞賛している。
「目が眩む感覚」の理由は…?
映画批評サイトのRoger Ebert.comでは、Simon Abrams記者がレビューを投稿。リュウ・ジキンの原作小説「さまよえる地球」に、映画『アルマゲドン』、『デイ・アフター・トゥモロー』、『サンシャイン 2057』などの要素を、ダイナミックなビジュアルと感動的な表現を加えてブレンドしたと評価。これにより、西洋のSF映画とは異なる、偉大で独特な中国SF映画が完成していると賞賛した。
また、ウェタ・ワークショップをはじめとするスタジオが手がけたビジュアルエフェクトにも言及。ジェームズ・キャメロンやスティーブン・スピルバーグといった巨匠らが手がけてきたスタイリッシュな作風と評価し、ほとんどのアメリカ映画の特殊効果より優れているとしている。
Abrams記者は最後に、「観終わって一週間経つが、驚きがおさまらない」とし、「近年のコンピューターグラフィックで制作されたブロックバスター映画では感じることができなかった目が眩む感覚」は、「クリエイターたちのチャレンジ精神と細部へのこだわり」が理由だとした。
賛否渦巻く米評価
なお、The New York TimesのBen Kenigsberg記者は、ハリウッド大作と比べても遜色ない巧みな感傷的表現と賛辞を送る。中国の映画産業が、シネコンでも上映できる作品を作り出せることを証明したと終始褒め称えている。
このように、アメリカでの『流転の地球 (流浪地球, The Wandering Earth)』評は、賛否が渦巻いている。批判の根底にあるのは、 “アメリカ産SF映画”に対するプライドのようなものだろうか。これらの批評は妥当なものなのか、行き過ぎたものなのか——その判断は、日本で『流転の地球』が公開される日を待とう。
Source
The Hollywood Reporter / Portland Mercury / Roger Ebert / The New York Times