荒木飛呂彦の描く恐怖とは何か?『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ネタバレラスト考察&解説 | VG+ (バゴプラ)

荒木飛呂彦の描く恐怖とは何か?『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ネタバレラスト考察&解説

©2023 「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 ©LUCKY LABD COMMUNICANTIONS/集英社

2023年5月26日(金)全国公開

荒木飛呂彦原作の大人気漫画シリーズ『ジョジョの奇妙な冒険』(1986-)。現在、ウルトラジャンプにおいて、ハワイ・オアフ島を舞台に大富豪を目指す少年のジョディオ・ジョースターを主人公にした第9部『The JOJOLands』まで連載されている。シリーズ屈指の人気キャラクターである岸辺露伴を主人公にしたドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』(2020-)の映画化作品である『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が2023年5月26日(金)に全国公開された。

主人公である岸辺露伴と泉京花はドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』でも高い評価を得た高橋一生と飯豊まりえが演じ、渡辺一貴監督と小林靖子が監督と脚本として続投するなど、ジョジョファンからも、ドラマシリーズから入ったファンからも期待の集まる『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』

「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」の謎を追うサスペンスとなっている『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』だが、絵を巡る物語の中で原作者である荒木飛呂彦の描こうとした恐怖は何だったのか。本記事では『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で語られた物語をもとにそれを解説、考察していく。なお本記事は『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の内容に関するネタバレを含みます。

「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」

「黒」とは何か

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で木村文乃が演じる謎多き女性の奈々瀬長尾謙杜が演じる青年時代の岸辺露伴に「黒は何を映すのか」という問いを残している。そこでは鏡と黒が対比的に描かれており、光を反射することで目の前の人間の姿を映す鏡と異なり、黒は光を吸収するという正反対の性質を持っているのだ。

高橋一生が演じる現代の岸辺露伴は顔料などを集めて色彩について探求する中で、ニューギニア島のカタカケフウチョウを例に出すことで、その問いを飯豊まりえが演じる泉京花に説明している。極楽鳥の一種であるカタカケフウチョウは光を99.5%する羽毛を持つ鳥であり、確かに分かりやすい説明である。

そして岸辺露伴と泉京花は失踪した奈々瀬の残した謎である「光を吸収する黒は何を映すのか」という問いの答えを探すため、モリス・ルグランの描いた模写「ノワール(黒)」とその模写のもとになった山村仁左衛門の絵を探しにルーヴルに向かうのだった。

黒が映すもの

岸辺露伴と泉京花、そしてルーヴル美術館で二人のアテンドを務める美波演じるエマ・野口とルーヴル美術館の東洋美術専門家の安藤政信演じる辰巳隆之介と共にルーヴル美術館の捨てられた倉庫と呼ばれるZ-13倉庫に眠る山村仁左衛門の黒い絵を観に行くことになる。

そこで消防士などとも行動したものの、黒い絵を見た人間たちは各々に幻覚を見ることになる。そして、その幻覚の末に幻覚通りに死にゆくのだ。岸辺露伴は皆が幻覚を見る理由として「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」は光を反射しないため人間の姿を映さず、その過去を映すとし、過去の後悔や罪の意識、果ては血縁者の罪までが迫ってくるとした。

見てはいけないとはわかっていても絵を見てしまう岸辺露伴。聖書の時代から続く「見るなのタブー」によって見てしまった絵の正体は奈々瀬の姿であり、岸辺露伴は山村仁左衛門に襲われる。何とか自らの能力であるヘブンズ・ドアーで岸辺露伴は脱出に成功するものの、突如として現れた奈々瀬の存在が無ければ命を落とす寸前まで追いつめられる。絵は祖父が火事を起こした罪によって焼死した消防士から発せられた火によって焼け、九死に一生を得たのだった。

黒の正体

故郷に帰った岸辺露伴は奈々瀬と再会し、ヘブンズ・ドアーによってその正体を知る。奈々瀬は山村仁左衛門の妻であり、その旧姓は岸辺奈々瀬であり、岸辺露伴の血縁者だった。高橋一生演じる山村仁左衛門は潘お抱えの絵描きの一族の生まれだったが、蘭画など飽くなき芸術への探求心と好奇心が災いし、山村家を勘当されていた。

そして、最初こそ平穏に奈々瀬と暮らしていたが奈々瀬が病を患い、恥を忍んで家へと戻る。そこで父親から「自分を越える絵を描け」と言われ、山村仁左衛門はより一層画業に没頭する。そして奈々瀬が神仏に祈った際に神木の樹液が山村仁左衛門の求める黒に最も近いことを知り、山村仁左衛門はその樹液を用いた絵に飲み込まれていく。

奈々瀬が後悔するほど黒に飲み込まれていった山村仁左衛門は、家を継ぐはずだった弟からの嫉妬によって潘に密告され、神木を傷つけた罪で死罪になりそうになる。山村仁左衛門の死罪に抵抗した末、奈々瀬は打ち殺されてしまい、激高した山村仁左衛門は斧で潘の武士を殺し、樹液で全身が真っ黒になることも構わず狂乱の中で絵を描き上げて死亡した。その狂乱した山村仁左衛門が岸辺露伴を襲った山村仁左衛門であり、その狂気が奈々瀬をとらえていたのだった。

荒木飛呂彦の考える恐怖

何故岸辺露伴は襲われたのか

黒い絵を見たことで自らの過去に襲われた一行だったが、祖父の起こした火事の犠牲者や遠い血縁者の山村仁左衛門に襲われる岸辺露伴など、過去の後悔や罪以外によって襲われているもの存在している。これに対して、高橋一生演じる岸辺露伴は「血縁からは逃れられない」という考えを示しているが、これは原作者の荒木飛呂彦の考える恐怖の姿の一つだろう。

荒木飛呂彦はたびたび恐怖について語る際に、最も恐ろしいのは自分とは関係ないのに先祖の因縁で襲われることだと述べている。その代表例が『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズであり、第3部『スターダストクルセイダース』では第1部のジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーの因縁によって、空条承太郎と空条ホリィが攻撃を受ける様子を描いている。

他にも第5部『黄金の風』では父親のディアボロがあったこともない娘の存在が自分に繋がる可能性があるからと殺害を試み、それを主人公たち一行は吐き気を催す邪悪と形容している。このような展開は漫画版『岸辺露伴は動かない』などのスピンオフ作品でも描かれている。

続編はどうなる?

この恐怖像は今後のドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』でも描かれるのだろうか。最後は岸辺露伴がかつて奈々瀬に手渡した漫画の原稿を拾い上げ、普段通り漫画を描き始めるところで終わるので、岸辺露伴が今後はどのような物語を描いていくのか期待していきたい。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は2023年5月26日(金)より、全国の劇場で公開。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』公式サイト

集英社
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映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のキャスト及び登場人物紹介記事はこちらから。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』における泉京花の持つものについての記事はこちらから。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の衣装デザインに関する考察と解説記事はこちらから。

アニメ『岸辺露伴は動かない』はNetflixにて配信中

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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