泉京花が持つものとは?『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ネタバレラスト考察&解説 | VG+ (バゴプラ)

泉京花が持つものとは?『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ネタバレラスト考察&解説

©2023 「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 ©LUCKY LABD COMMUNICANTIONS/集英社

ドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』、待望の映画化

1986年に週刊少年ジャンプで連載を開始し、ウルトラジャンプに雑誌を移して現在も第9部『JOJO Lands』が連載されている荒木飛呂彦原作の大人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部『ダイヤモンドは砕けない』で初登場した人気キャラクターであり、荒木飛呂彦自身が理想の漫画家像としている岸辺露伴のスピンオフシリーズ『岸辺露伴は動かない』の待望の映画化『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が2023年5月26日(金)に公開された。

NHKでドラマシリーズとして制作された『岸辺露伴は動かない』より、主人公の岸辺露伴を高橋一生、編集者の泉京花を飯豊まりえが続投し、渡辺一貴監督と脚本家として小林靖子も続投する『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。「仮面ライダー」シリーズなどを多く担当し、高い評価を得ている小林靖子によって書かれた脚本は漫画版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』にはないオリジナル要素が追加されている。

オリジナル要素の最たる例が岸辺露伴と共にパリのルーヴル美術館へ赴くことになった編集者の泉京花だろう。映画版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では、泉京花の存在が荒木飛呂彦の描く世界観を映像化させる際に重要な役割を担っている。

本記事では『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で語られた物語をもとにそれを解説、考察していく。なお本記事は『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の内容に関するネタバレを含みます。

過去・現在・未来

バンド・デシネ的演出

漫画版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は2009年に、フランスのルーヴル美術館と、Futuropolis社が2005年より実施してきたバンド・デシネプロジェクトの第5弾として発表された作品であり、その構成も独特なものとなっている全編カラーの123ページからなる作品だ。「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」を巡る物語の中で、カラーを活かした演出が取り入れられている。

日本の旅館を舞台にした過去編はセピア色、パリやしたルーヴル美術館を舞台にした現代編はピンク、ルーヴル美術館の地下は青など、色によって時系列や場所の変化を表現している。映画版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では現代編、過去編、ルーヴル美術館編、江戸時代編と分けられており、色調などで表現されている。

荒木飛呂彦の描く恐怖

「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」を巡る中で、黒は光を吸収する色であるということから高橋一生演じる岸辺露伴は光を反射することで人間の現在の姿を映す鏡と対比して、「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」の正体に迫っている。その正体は光をすべて吸収するため現在の人間の姿を映さず、人間の過去や罪の念を映し出すというものだった。それは血縁者の罪にまで至り、自分以外の罪すらも映し出すという禍々しいものでもある。

これは荒木飛呂彦が語る最も恐ろしいものの一つであり、荒木飛呂彦は恐怖についてかたるときに自分とは全く関係ないのに先祖の因縁などで襲われることが恐ろしいと語っている。つまり、「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」のもたらす恐怖とは、相手側には理屈にかなっているつもりでも、自分から見れば先祖という全く関係ない人物による理屈にかなっていない理由で襲われるという恐怖であった。

「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」はその絵を見た人間たちの各々の後悔や罪、先祖の罪を呼び起こして襲い掛かり、安藤政信演じる辰巳隆之介には勢い余って殺してしまった窃盗団の仲間の幻影を見せ、同行した消防士には祖父が起こした火事に巻き込まれて焼死した女性の幻影によって同じく焼死させられている。ルーヴル美術館のアテンドを担当した美波演じるエマ・野口は自分が目を離した隙に溺死した息子のピエールの幻影によって、水のない空間で溺死しかけた。

泉京花の語ったこと

漫画版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では溺死したエマ・野口だが、映画版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では岸辺露伴と飯豊まりえ演じる泉京花の手によって救出されている。ここで重要なのは、岸辺露伴は決してヒーローではないということだ。冒頭でも盗んだものを販売する故買屋を「自分は警察ではない」と言って見逃し、故買屋業よりも自身の漫画を芸術作品として敬意を払わなかったことに激昂している。

それでも岸辺露伴がエマ・野口を救ったのか。その答えは泉京花が息子のピエールに対する後悔によって咽び泣くエマ・野口に語ったことに答えがあるのではないだろうか。息子のピエールの幻影が迫ってきたことに対して、エマ・野口は「ピエールは自分を責めている」と感じていたが、泉京花は「ピエールは一瞬でも母親と一緒にいたかったのではないか」と返した。

そして、自分も5歳の頃に喪った旅行好きの父親に会いたくてパリにまで同行し、パリで記念撮影した場所は父親が記念撮影していたところであった。ラストシーンで木村文乃演じる奈々瀬と再会した岸辺露伴が語った「あの夏も僕にとっては必要な過去の一つだ」という台詞に通じるものがあり、泉京花は映画版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のオリジナル要素として、過去は後悔や罪の念だけではなく、それも含めて現在の自分をつくる要素の一つだということを表現したキャラクターとなっている。

人間賛歌・黄金の精神

人間賛歌

泉京花が語ったことと、そして岸辺露伴がなしたことは『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの根幹をなす人間賛歌と黄金の精神の二つに共通しているものであると考えられる。人間賛歌とは第1部『ファントム・ブラッド』でウィル・A・ツェペリが語った言葉である。

ウィル・A・ツェペリは勇気とは恐怖を知り、恐怖を克服し、支配することだと定義しており、それこそが人間の素晴らしさだとしている。これこそが人間賛歌であり、恐怖から目の前の敵に飛び掛かったりするのではなく、自分は何に恐怖しているのかを理解しながら、その恐怖に正面から向き合えることに人間の素晴らしさが詰まっているとしている。

つまり、過去の後悔や罪の念に囚われず、それを克服して、未来へと前進することに人間の素晴らしさがあるということだ。先祖の罪である「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」を描いた山村仁左衛門に襲われた高橋一生演じる岸辺露伴や、自分の後悔であるピエールの喪失によって溺死しかけた美波演じるエマ・野口と異なり、飯豊まりえ演じる泉京花は絵を見ておきながら影響を受けずにいる。

それは泉京花のみが父親の喪失という過去の後悔や恐怖を克服し、立ち向かっていた人物であるからだと考えられる。そして、愛する父親の喪失という最大の恐怖さえも「あの夏も僕にとっては必要な過去の一つだ」という岸辺露伴の台詞のように現在の自分をつくるものとして支配していたことがあげられる。

黄金の精神

そして、泉京花が「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」の影響を受けなかったことの一因に、第4部『ダイヤモンドは砕けない』でジョセフ・ジョースターが語ったジョースター家や正義の系譜を継ぐ者たちが持つ黄金の精神が無意識に泉京花や岸辺露伴にも宿っていたと思われる。

黄金の精神とは人間賛歌に近いもので、恐怖を知り、克服するだけではなく、自分の運命を受け入れる潔さやその困難に立ち向かう精神力、悪質なものや無責任な言動に立ち向かう誇り高い意志による正義の輝きを表現する言葉である。前述した通り、岸辺露伴は決してヒーローではないが、「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」の焼却やそこに囚われた高橋一生演じる山村仁左衛門や木村文乃演じる奈々瀬を解放することに繋がったことから岸辺露伴にも少なからず黄金の精神があったと考えられる。

この黄金の精神はヘブンズ・ドアーのような特殊能力や超人たちにのみにあるものではなく、単語が初めて登場した第4部『ダイヤモンドは砕けない』では幼少期の主人公の東方仗助が高熱を出した際に、降り積もった雪のせいで車が立ち往生していると不良の魂とも言える学ランを犠牲にしてまで助けてくれたリーゼントの少年が代表例だ。

また、殺人鬼である吉良吉影に襲われた際に自らを犠牲にして幼い岸辺露伴を逃がした岸本美鈴などもそれにあたり、市井の人々にも宿る精神である。泉京花とエマ・野口の会話にはその黄金の精神が感じられ、ジョセフ・ジョースターが語ったように教えずとも自然と染み渡っていくものであることを感じさせてくれた。

今後のドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』の中で再び人間賛歌や黄金の精神が語られることはあるのだろうか。また、吉良吉影や第5部で登場したディアボロのような吐き気を催す邪悪や、黄金の精神の対局にあると言える目的のためなら殺人も自己犠牲も厭わない漆黒の意志も存在するため、それが語られるのかにも期待が高まる。今後の『岸辺露伴は動かない』にも注目していきたい。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は2023年5月26日(金)より、全国の劇場で公開。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』公式サイト

集英社
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映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のキャスト及び登場人物紹介記事はこちらから。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で描かれた荒木飛呂彦の描く恐怖に関する考察と解説記事はこちらから。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の衣装デザインに関する考察と解説記事はこちらから。

アニメ『岸辺露伴は動かない』はNetflixにて配信中

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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