映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』公開
2003年に放送を開始した『仮面ライダー555』の正統続編となる映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』が2024年2月2日(金) より劇場で公開された。本作はVシネマ作品を劇場で先行公開するVシネクスト作品の一つで、5月29日(水) のDVD/Blu-ray発売前に劇場にて期間限定で先行上映されている。
平成ライダーの中でも高い人気を誇る『仮面ライダー555』の20年後を描く『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』では、乾巧役の半田健人、園田真理役の芳賀優里亜、海堂直也役の唐橋充、北崎役の藤田玲、そして草加雅人役の村上幸平が再集結。ファンには涙ものの一作となっている。
今回は、映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』のラストの展開について解説&考察していこう。以下の内容は、本編の結末に関する重大なネタバレを含むので、必ず劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』ネタバレ解説
巧と真理の物語、その続き
映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』では、スマートブレイン社に延命治療を受けて生き延びていた仮面ライダーファイズこと乾巧がカムバック。福田ルミカ演じる胡桃玲菜がスマートブレインに派遣された仮面ライダーミューズとしてオルフェノク狩りに取り組む中、巧もまた仮面ライダーネクストファイズとしてミューズをサポートしていた。
『仮面ライダー555』のラストでは、夢がなかった巧が「世界中の洗濯物が真っ白になるみたいにみんなが幸せになりますように」という夢を持つに至った。だが、その後に死に直面した巧は「オルフェノクに未来はない」と言い、夢を失っていた。これは、20年ぶりの正統続編を目にするファンの「夢の続きを見れるのか」「再び夢を見ることができるのか」という心境に重なる展開だ。
巧に憧れを抱く胡桃玲菜は、真理に嫉妬し真理のオルフェノク因子を活性化させる手術を施す。これによってついに真理は20年越しにオルフェノクとなり、海堂たちが戦ってきた殺意の衝動に苦悩することになる。真理は巧を殺せず、巧もまたビルから飛び降りた真理を助けるが、二人は「オルフェノクに未来はない」という巧の先ほどの言葉の前にがんじがらめになってしまう。
『仮面ライダー555』で木場が「夢」を「呪い」と言ったこととは対照的に、大人になった二人は「夢を持てないこと」が「呪い」となって道を塞がれることになる。巧は「生きてるのか死んでるのか分からない」と、真理は「人間でいたかった」と正直な気持ちを吐露すると、二人は答えがないこと、それを問い続けることが答えであることを認める。そして、それ自体が誤魔化しだということも認め、「今に生きろ」という結論に達する。これは時を経て大人になったファンへのメッセージでもあるのだろう。
北崎の秘密
巧と真理は結ばれ、20年越しに二人の物語の続きが描かれることになった。それに黙っていなかったのが仮面ライダーミューズこと胡桃玲菜だ。玲菜は、夏目漱石による「I love you」の訳語とされている「月が綺麗ですね」という言葉で巧に愛を告白すると、二人の前に立ちはだかる。
かつてドラゴンオルフェノクとして活躍した現スマートブレイン社長の北崎も加勢し、スマートブレインvsオルフェノクの戦いが描かれる。巧と真理がオルフェノク同士として共闘する姿が印象的だ。真理はヤマネコをモデルにしたワイルドキャットオルフェノクに変身しており、ウルフオルフェノクに変身する巧とは犬と猫のようなナイスコンビを形成している。
この戦いの中で、北崎は政府が作り出したアンドロイドであったことが明らかになる。これで、『仮面ライダー555』の本編で死んだはずの北崎が何故かスマートブレイン社の新社長として登場した理由、そして北崎がドラゴンオルフェノクに変身しなかった理由が回収されることになる。
同時に政府がスマートブレインを手中に収めてオルフェノク狩りに励んでいることが明かされた。『仮面ライダー555』本編では警察がスマートブレインから莫大な資金援助を得てオルフェノク研究所を運営していたが、20年後の本作では立場が逆転したことになる。また、アンドロイド北崎の裏には黒幕が存在していることや、北崎以外にもアンドロイドとして過去のキャラクターが登場する可能性も示されている。
草加が生きていた理由
北崎の正体が政府に動かされているアンドロイドだと知った仮面ライダーミューズこと玲菜は、スマートブレインを裏切ることに。巧と真理を逃がそうとするが、アンドロイド北崎によって殺されてしまう。圧倒的な強さを見せる北崎を前にして、原作を思い出させるちょうど良すぎるタイミングで登場したのは海堂らオルフェノクだった。
草加も真理を助け出した……と思いきや、草加の正体もまたスマートブレインのアンドロイドであったことが明らかになる。どうりで優しいと思った! むしろ真理を殴って狂気の笑みを浮かべる草加の方がオリジナルっぽいが。
流星塾の子ども達はオルフェノク因子を埋め込まれているため、アンドロイド草加は旧塾生の人間がいつオルフェノクになっても対処できるようにスマートブレインから派遣されていた。『仮面ライダー555』では、草加は木場によって殺されていたが、誰もその死を確認することができていなかった。唯一草加の死を目撃した木場も死んでおり、草加は死んだと確信している人間が周囲に一人もいなかったということだ。
やっぱりこっち!
アンドロイド草加はスマートブレインの新作であるネクストデルタに変身。オルフェノクになった真理 vs 偽草加というとんでもない歴史的一戦が展開されることになる。一方の巧も仮面ライダーミューズに変身した北崎と対峙。苦戦する巧を助けたのは菊池啓太郎の甥・条太郎だった。
『仮面ライダー555』で啓太郎を演じていた溝呂木賢は2022年末をもって芸能界を引退している。映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』では、啓太郎は「世界中の洗濯物が真っ白にする」という夢を叶えるために旅に出たという設定になっており、映画公開時点で15歳の浅川大治が甥の条太郎を演じている。
その条太郎が巧に持ってきたのは、かつてのファイズギアだった。『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』のファーストルック公開時から、仮面ライダーネクストファイズの見た目には賛否があったことは確かだ。「やっぱりこっち」という巧のセリフはファン心理を代弁してくれるもので、やはりあのガラケー型ギアでの変身シーンには震える。
そこにやってきた真理が草加は偽物だと伝えると、巧が「ありがたい」と言うのも泣ける。やっぱり巧は草加とは戦いたくないのだ。『仮面ライダージオウ』(2018-2019) では草加を「仲間」だと語る巧の姿が描かれており、『パラダイス・リゲインド』では二人のコンビは復活とはならなかったものの、たっくんから草加への思いが垣間見られたことは良かった。
胸熱のラストバトル
いつもの動きを見せて戦うオリジナルの仮面ライダーファイズ。AIで相手を分析して行動を予測するのが仮面ライダーミューズの特徴だが、北崎は仮面ライダーファイズの動きが読めないことで苦戦する。ちょっとCGが進化したオートバジン(人型に変形できる仮面ライダーファイズのバイク)も助けに来てくれて胸熱展開が続く。なお、シーンでは草加&北崎という因縁コンビのタッグも完成している。
そしてISSAが歌う『仮面ライダー555』主題歌「Justiφ’s」が流れる中、巧は真理と共に偽北崎&偽草加を撃破。オルフェノクの二人がアンドロイドの仮面ライダー二人に勝利するというなんとも『仮面ライダー555』らしい幕引きだ。オルフェノク真理とオリジナルファイズ巧の決めポーズもクール。
ここで流れた「Justiφ’s」の歌詞では「Dilemma(ジレンマ)は終わらない…走り続けても」と歌われている。20年たっても何かの結論や答えが示されるわけではなく、私たちは日々走り続けるしかない。「Justiφ」=「Justify」には「正当化する」という意味があり、巧が戦闘中に放った「これが俺だ」という言葉と重なる。悩みながらも今を生きることも、取り急ぎの答えが誤魔化しであることも認め、“正当化”しながら生きていくしかないという『パラダイス・リゲインド』のテーマが表現されているようでもある。
スマートブレインのその後
巧と真理は戦いに勝利したが、今回はアンドロイドを倒したにすぎない。進藤あまね演じる新スマートレディが初めて実体で登場すると、スマートブレインの新社長に草加が就任したことが明かされる。額にはスマートブレインのロゴが光っており、やはりアンドロイドの草加であることが示唆されている。スマートブレインのトップを倒すだけでは、政府によって新たなアンドロイドを据えられるだけなのだ。
アンドロイドのモデルに北崎や草加を選んでいる理由は、オリジナルが仮面ライダーのベルトに適応可能な人物かどうかが重視されているからと予想できる。巧と真理の次なる敵が偽草加になることが示されると共に、スマートブレイン社には他にもアンドロイドのストックが眠っていることが明かされる。
今後の作品では、旧作で既に死んでいるキャラクターがアンドロイドとして登場する可能性もある。また、死の間際に延命された巧のように、死んだかに思われていたキャラクターが延命措置を受けていたという展開もあり得るだろう。
なお、最後の戦いの中で、今回登場した三つの新ベルトのうち、ミューズとネクストデルタのベルトはアンドロイドの二人と共に破壊されたと考えられる。だが、ネクストファイズのベルトは巧がオリジナルのベルトに切り替えるまでは巧の側にあったため、巧たちが持ち帰っていると考察できる。
ハッピーエンド?
『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』のラストは様々な展開の可能性が考察できるものだったが、それだけでなくハッピーエンドも待っていた。生き延びた巧、真理、海堂、ケイ、条太郎は、巧が失踪する日の夕飯で食べるはずだったお好み焼きを食べている。この中でオルフェノクになっていないのは条太郎だけだ。
猫舌の巧と真理がいちゃつく一方、巧は自分の手を見つめる。また巧の手が灰化している……と思いきや、巧は「生命線が伸びてる」とボケをかます。海堂も「俺は深爪だ」と続き、コミカルなエンディングを迎えることになった。
原作の『仮面ライダー555』のエンディングは、余命が短い巧がついに夢を得たあと、深く目を閉じて終わった。巧は眠ったのではなく死んだという解釈も成り立つ終わり方であり、『パラダイス・リゲインド』とは対照的な静かなラストだった。
だが、“何も解決していない”というのは両方のラストに通じるポイントだ。『仮面ライダー555』の方でもオルフェノクが短命であるという問題は解決できておらず、『パラダイス・リゲインド』でもスマートブレインは存続している。状況は似ているが雰囲気が真逆なのは、巧と真理が大人になったからだろうか。
オルフェノクが勝利した世界を舞台にパラレルワールドの物語が描かれた『劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』(2003) は、「パラダイス・ロスト=失われた楽園」というタイトルがつけられた。本作『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』は逆に「パラダイス・リゲインド (regained)=取り戻された楽園」というタイトルになっている。これは、乾巧が一度得た「楽園=仲間との人生」を「取り戻した」という意味だろう。タイトルから既にハッピーエンドが示唆されていたというわけである。
映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』では、わずか60分の間で各キャラクターの20年間が垣間見えるような演出が様々なところに盛り込まれていた。続編も示唆する展開も盛り込まれており、ファンにとっては申し分のない一作だった。『パラダイス・リゲインド』は各キャラの幸せが守られつつも、物語がまだまだ続いていくことに期待するワガママなファン心理に応えてくれた。草加もカムバックする続編に期待したい。
Vシネクスト『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』は2024年2月2日(金)より新宿バルト9ほかにて期間限定上映中。
『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』公式サイト
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『仮面ライダー555』Blu-rayボックスセットは発売中。
『小説 仮面ライダーファイズ』は講談社キャラクター文庫より発売中。
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