『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』が取り戻したワンダーウーマン
2017年に公開されたDCEU映画『ジャスティス・リーグ』の“本来の姿”である『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』(2021) は、ジャスティス・リーグのメンバーひとりひとりの姿も克明に映し出した。
2017年公開の『ジャスティス・リーグ』は、ザック・スナイダー監督の娘の死を受けて、ジョス・ウェドンが製作を引き継いで完成させた作品。『アベンジャーズ』(2012) を手掛けたジョス・ウェドンは、「明るく」「短く」というワーナー・ブラザースの要望通りに、膨大な素材をコンパクトな作品にまとめ上げた。しかし、蓋を開けてみると『ジャスティス・リーグ』の興行収入は同年2017年公開の『ワンダーウーマン』を大きく下回る結果に。映画レビューサイト大手のRotten Tomatoesでは、批評家から40%/100%という厳しい評価を受けた。
そんなジョス・ウェドンの『ジャスティス・リーグ』を本来の姿に戻して見せたのが『スナイダーカット』だ。ファンによる「#ReleaseTheSnyderCut(スナイダーカットを公開せよ)」運動の後押しを受け、2021年3月にアメリカで、5月に日本で、4時間に及ぶザック・スナイダー編集版の『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』が公開された。
『スナイダーカット』では、各キャラクターに追加の見せ場が用意されていたが、特に印象深かったのはワンダーウーマンの扱いが格段に改善されていた点だ。ジョス・ウェドンによる『ジャスティス・リーグ』のワンダーウーマンは、パティ・ジェンキンス監督による単体映画「ワンダーウーマン」シリーズのそれとは異なり、バットマンのために用意されたかのようなキャラクターだった。この扱いは『アベンジャーズ』を含む初期MCUにおけるブラック・ウィドウの扱いに似ている。あくまで“白人男性ヒーローの引き立て役として用意された白人女性”の枠で利用されていたのだ。
象徴的な二つのセリフ
追加シーンは数多くあれど、印象的だったのは冒頭の銀行でテロリストを退治するシーンだろう。ジョス・ウェドン版『ジャスティス・リーグ』では、ワンダーウーマンのアクションを見せるシーンでしかなかったが、『スナイダーカット』では助けた子どもに「大丈夫? プリンセス」と話しかけるシーンが挿入されている。話しかけられた少女は「私もあなたみたいになれる? (Can I be you someday?)」とワンダーウーマンに問いかけ、ワンダーウーマンは「何にだってなれる (You can be anything you wnat to be.)」と答える。
この答えは、キャリル・ハート&アリー・パイの絵本「Girls Can Do Anything」(2018, 邦題『女の子はなんでもできる!』冨永愛 訳) を想起させる。ジョス・ウェドン版でカットされたこのシーンでは、少女をエンパワメントするワンダーウーマンの姿がはっきりと映し出されていた。『スナイダーカット』ではこのシーンを復活させ、ワンダーウーマンの主体的で人間的な側面を描き出したのだ。
また、ジャスティスリーグがステッペンウルフと初めて対峙するシーンでは、「俺の獲物だ (This one is mine.)」と発言したステッペンウルフに対して、ワンダーウーマンは「私は誰のものでもない (I belong to no one.)」と言い返す。ザック・スナイダー監督は当初からワンダーウーマンを主体的なキャラクターとして描こうとしていたことがわかる。
ジョス・ウェドンへの告発
ジョス・ウェドン版でその役割を矮小化されたのはワンダーウーマンだけではないが、『スナイダーカット』が公開された後の2021年5月、ガル・ガドットはイスラエルのN12ニュースにジョス・ウェドンから受けた扱いについて話した。『ワンダーウーマン』と『ジャスティス・リーグ』でキャラクターに矛盾が生じることを懸念していたガル・ガドットに対し、ジョス・ウェドンは追加撮影に際して、ガドットを“脅した”のだという。
インタビュアーに「彼はあなたに、ただ可愛くセリフを言っているだけでいい、と言ったのですよね」と問いかけられたガル・ガドットは、以下のように答えている。
彼は私のキャリアについて脅しをかけてきました。もし私が何かすれば私のキャリアを惨めにするというようなことを言ったのです。当時の私はやり過ごしました。
ジョス・ウェドンはサイボーグを演じた俳優のレイ・フィッシャーによって、その「虐待的」な言動を告発されており、ジョス・ウェドンの俳優を尊重しない態度が問題視されていた。ガル・ガドットの話は、レイ・フィッシャーによる告発を後押しする形になった。
今回、『スナイダーカット』の公開によって、ジョス・ウェドンの『ジャスティス・リーグ』ではワンダーウーマンの主体的な姿がバッサリとカットされていたことが明らかになった。ジョス・ウェドンは一連の告発の内容を否定しているが、そもそもジョス・ウェドンが『アベンジャーズ』でブラック・ウィドウに対してしたように、女性キャラクターであるワンダーウーマンの存在を軽く見ていた可能性もある。
スナイダーバース復活を求める声も
『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』は、ワンダーウーマンの本来の姿を取り戻して見せた。『スナイダー・カット』がリリースされなければ、この姿を見ることは叶わなかっただろう。今、ファンの間では『スナイダーカット』をDCEUの起点に戻す「#RestoretheSnyderVerse(スナイダーバースの復活を)」キャンペーンがスタートしている。一度は捨象され、葬られたキャラクターたちの姿が、DCEUの正史として取り戻されることはあるのだろうか。
ジョーカーもまた、『スナイダーカット』で本来の姿を取り戻した人物の一人。『スナイダーカット』で描かれたジョーカーの解説はこちらから。
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