『ゴジラvsコング』公開
2021年7月2日、コロナ禍における公開延期を経て『ゴジラvsコング』が遂に公開された。ゴジラとコングという怪獣キャラクターの代表格同士の”ガチバトル”が楽しめる本作。
登場怪獣についてはこちらの記事で紹介しているので、本稿では筆者が気になったポイントについて解説していきたい。以下、ネタバレありでお送りするので未見の読者は速やかに劇場へと足を運ばれたし。
以下の内容は、映画『ゴジラvsコング』の内容に関するネタバレを含みます。
『ゴジラvsコング』ネタバレ解説
今回は特にゴジラとコングが活躍を見せた髑髏島、船上、地下空洞、香港の要チェックポイントを見ていく。
髑髏島のコング
髑髏島で孤児の少女ジアとともに暮らすコング。
おもむろに木を引き抜き枝や根を取って整形し槍投げのように空へと放つと、木は矢のように“空”の一点に突き刺さる。
そう、そこは髑髏島ではなく髑髏島を模してコングを収容しておくために造られた人工のドームだったのだ。
何の意味もなくコングが木を引き抜くとは思えず、果たして抜いた木をどうするつもりなのかと観ていたら空に突き刺さり、仮初の世界が破られるという演出は面白かった。
この「怪獣を人間から隔離して管理するためのスペース」という発想は昭和ゴジラシリーズの”怪獣ランド”、ドームの形は『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)でギャオスの捕獲作戦に用いられた福岡ドームを想起させる。
船上の戦い
「地球空洞説」を唱えるネイサンらによって船で南極へと連れ出されたコングは、船旅の途中ゴジラの急襲を受ける。
洋上の決戦ではゴジラに軍配が上がるが、ネイサンは咄嗟の機転で船の全動力を停止させることで「死んだフリ」をし、それ以上のゴジラの追撃を免れる。
その後、ヘリで南極まで空輸されるコング。
最初は船で運ばれ、後にヘリで輸送されるというのはまさに『キングコング対ゴジラ』(1962)のオマージュだろう。『キングコング対ゴジラ』の際に気に掛かった、「そもそもあの巨体をどうやって船に積んだのか?」という疑問は『ゴジラvsコング』(2021)においても相変らず払拭されることはなかったが、そこは物語のご都合主義と割り切って楽しもう。
ともあれ二頭の大怪獣が、いくら巨大であるとは言え戦艦の上に立って殴り合うという今まで見たことのないシーンが見られたのは嬉しい。この時点で既にコングはゴジラの熱線の威力を察知するという知性を発揮し、海中から放たれる熱線を予期して自ら海へと身を投じて逃れていた。
地下空洞説
ネイサンが唱えた地球内部の「地下空洞」というのはSFにとってはむしろ伝統的な発想であり、古くはSFという概念が明確に確立する以前の『ニコラス・クリミウスの地下世界の旅』(1741) にも地球内部の空洞世界が描かれている。
しかし20世紀に入り近代科学が進歩していくにつれ、現実の地球内部は空洞ではないことが明るみになることによって下火になっていった。
その「地下空洞」という、サイエンスというよりは最早純粋にフィクションと呼べるような発想をこの2021年に最新のCGを用いて映像化したその胆力に敬意を表したい。
勿論CGに頼るばかりでなく、パンフレットによればオーストラリアの森やハワイの火山などの実景もふんだんに撮影したようである。
とは言えそもそものゴジラからして、「深海で生き残っていた恐竜」が核実験によって目覚めたという無理筋な設定を通しているのだから、ゴジラやコングが居る地球ならば内部が空洞になっていてもおかしくないかも知れない。
香港の街並み
意外にも香港の街並みはCGのみではなくセットを組まれて撮影されたようである。
パンフレットによれば、洋上決戦が「ゴジラの縄張り」だったために、今度は林立するビル群を”森”に見立てて「コングの縄張り」を用意することで両者にとってフェアな戦いを実現しようとしたとのことだ。
ゴジラと言えば熱線でビルを破壊するイメージなので、都会はゴジラの縄張りかと思いきや今回はコングの縄張りだったようだ。実際、『ゴジラvsコング』劇中においてもその意図通りにコングは香港の摩天楼のビル群をまるでジャングルの木々のように縦横無尽に跳び回りゴジラの熱線を避けては神出鬼没な反撃を繰り返した。まさにコンクリート・ジャングルという訳だ。海中に引き摺り込まれた際にはゴジラに対して手も足も出なかったが、戦斧によって熱線を防ぎつつゴジラに一撃を見舞うなど、雪辱は十分に果たしたと言えるのではないだろうか。
しかし、折角精巧に造られた香港の街並みが、専ら破壊されるだけの役回りだったのは惜しい。例えば、押井守監督『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)の舞台は当時の香港をモデルとしていたが、幕間に描かれる街並みや流れる音楽によって引き立てられた抒情が作品世界への没入を誘った。それは激しいアクションや哲学的な台詞といった”急”に対する”緩”として機能し、そこにもたしかにドラマとは無縁の日常世界が存在することを証し、そしてそのことによって逆にドラマの真正性が保たれていた。
『ゴジラvsコング』においても、何故舞台が香港でなければいけなかったのかということについて、物語的というよりは映像的な説得力がもう少し欲しかったというのが正直なところだ。ビルが林立する摩天楼であれば最早世界中どこにでもある。怪獣が見下ろす香港の街並みだけではなく、壊されつつある香港、その街並みを逃げ惑う人々の視点から見上げるゴジラやコング、メカゴジラの描写が見られれば、『ゴジラvsコング』という作品が観客に訴え掛ける力はもう一段上のものとなったのではないだろうか。
『ゴジラvsコング』は2021年7月2日(金)より全国でロードショー。
『ゴジラvsコング』の勝敗についてはこちらの記事で論じている。
『ゴジラvsコング』における「重さ/軽さ」についてフォーカスした記事はこちらから。
『ゴジラvsコング』で流れた楽曲についての解説はこちらの記事で。
無料公開されている『ゴジラvsコング』のサントラはこちらから。