『ダークナイト』公開から10年。クリストファー・ノーラン監督がシリーズ全作の脚本を執筆できた「贅沢な時代」 | VG+ (バゴプラ)

『ダークナイト』公開から10年。クリストファー・ノーラン監督がシリーズ全作の脚本を執筆できた「贅沢な時代」

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ダークナイトから10年、伝説となったトリロジー

新たな潮流を生んだ『ダークナイト』

米時間の7月18日、アメコミヒーロー映画に新たな潮流を生んだクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(2008)公開から10年が経過した。『ダークナイト』は、ヒーロー映画だからこそ描ける重厚なテーマが存在することを証明してみせ、今では映画館で絶えずアメコミヒーロー映画が公開される時代となった。

『ダークナイト』を含むクリストファー・ノーラン監督・脚本のバットマン三部作は、「ダークナイト ・トリロジー」と呼ばれ、非常に完成度の高い三部作映画として今もなお語り継がれている。

DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)では、ベン・アフレックを起用した新たなバットマンの姿も描かれた。刑事のジム・ゴードンを主役に据えたドラマシリーズ『GOTHAM/ゴッサム』(2014-)も、シーズン5まで製作されるなど大好評。7月11日には、『ダークナイト』のメインヴィランであったジョーカーを主役に据えた単独作品が、ベン・アフレックの義弟であるホアキン・フェニックス主演で撮影されることも発表された。ダークナイト・トリロジーは映画界だけでなく、「バットマン」というコンテンツにとっても、大きな影響を与えるシリーズとなったのだ。

ダークナイト以降に登場したトリロジーに注目

大ヒット後に監督が交代した「猿の惑星」

ダークナイト・トリロジーの大きな特徴は、全ての作品で同一監督が脚本を執筆しているという点である。これが今では如何に特異であることは、ダークナイト・トリロジー以降に登場したSFトリロジーを見れば明らかだ。

まず最初に挙げられるのは、2011年公開の『猿の惑星:創世記』から始まった「猿の惑星」新シリーズだろう。「創世記」の大ヒットに続き、『猿の惑星:新世紀』(2014)、『猿の惑星:聖戦記』(2017)と、3年に一本のペースで製作が行われた。一作目の「創世記」で監督を務めたルパート・ワイアット監督は、スケジュールの問題により続編は降板、二作目以降は「クローバーフィールド」シリーズで知られるマット・リーヴス監督が指揮を執った。創世記のヒットを受けて続編製作が決定した為、ワイアット監督はスケジュールを合わせることができなかったのである。もちろん、この新三部作が名作シリーズであることに違いはないのだが、クリストファー・ノーラン監督が全作品で脚本を書き指揮を執ったダークナイト ・トリロジーのように、最後まで一人の監督によって製作が進められたものではなかったのだ。

監督人事で揉めた「スター・ウォーズ」

同様に、新たに登場した三部作で外せないのは、「スター・ウォーズ」シリーズのシークエル・トリロジー(続三部作)だろう。ウォルト・ディズニーによるルーカス・フィルム買収後、10年ぶりに制作された「スター・ウォーズ」シリーズ本編作品、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)は、歴代興行収入記録第3位を記録。続く『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)では大胆に定石を覆す物語を展開し、シリーズファンからは強いバッシングを浴びた一方で、批評家達からは高い評価を受けた。来年には「エピソード9」の公開が予定されているが、こちらも複雑になっているのは監督人事だ。

「フォースの覚醒」では『スター・トレック』のJ・J・エイブラムスが監督と共同脚本を手がけたが、「最後のジェダイ」では同監督は製作総指揮に回り、ライアン・ジョンソンが監督と脚本を担当した。「最後のジェダイ」の撮影時期は、ちょうどJ・J・エイブラムス監督が製作総指揮を務めたドラマシリーズ二作の撮影時期にも当たる。ディズニーによる買収後、外伝も含めて毎年リリースされることになった「スター・ウォーズ」シリーズを、一人で捌くには当然無理があるのだ。

そして(やはりというべきか)、事件は起きる。2017年9月、「エピソード9」の監督を務めることになっていたコリン・トレボロウ監督が、脚本の内容を巡って製作会社のルーカス・フィルムと衝突。結局、第一作で指揮を執ったJ・J・エイブラムス監督が後任に決定した。

以上は、「スター・ウォーズ」という「公共財」の域にある作品ならではの問題かもしれない。それに、「映画監督」という職業自体が、製作総指揮という仕事やテレビシリーズを手がけるようになったことにも、理由はありそうだ。だが、いずれにしても、もはや監督主導で映画を作る時代ではなくなったという事実が、一連の騒動を生み出したと言えるだろう。偉大なコンテンツであるということは、「バットマン」シリーズにも言えることなのだから。

クリストファー・ノーラン監督が振り返る「贅沢な時代」

実は5部作!?同一監督だから扱えたトリロジーを超えたテーマ

では、ダークナイト ・トリロジーの三作全てを監督し、脚本も執筆したクリストファー・ノーラン監督は、こうした現在の映画界の状況をどう見ているのだろうか。彼は、2005年に『バットマン ビギンズ』、2006年に『プレステージ』、2008年に『ダークナイト 』、2010年に『インセプション』、2012年に『ダークナイト ライジング』を発表している。全ての作品で自ら脚本を手がけているのだが、この5作には通底するあるテーマが掲げられている。そのテーマは作品を観てご確認いただきたいが、ここで重要なポイントは、当時のクリストファー・ノーラン監督が描きたかったテーマが、五つもの映画作品を使ってふんだんに扱われたということである。バットマンシリーズまでその一部になってしまうとは…まさに監督主導の時代を象徴している。

特権の時代の先に

そんな時代を生きてきたクリストファー・ノーラン監督だが、昨年の12月にロンドンで行われたBAFTAにて、当時を振り返ってこんなコメントを残している。

映画の作り手が、あんな特権と贅沢を享受することは、もうないでしょうね。どんな監督でも製作会社に対して、「次回作は作るよ、でも四年後くらいになる」と言える最後の時代だった。今では公開スケジュールが切迫しすぎている。でもね、クリエイティビティにとっては、大事なことだったんです。人として、脚本家として成長し、同じ仲間ともう一度仕事をする為の特権を持っていたんですよ。

by クリストファー・ノーラン

ダークナイト・トリロジーに「ダークナイト」の名が冠されているように、このシリーズがここまでの成功を収めることは、『バットマン ビギンズ』の時点では予想されていなかったことだ。『ダークナイト』、『ダークナイト ライジング』の製作を見据え、腰を据えて脚本の執筆と製作に臨めた環境こそが、「トリロジー」としての大成功を生んだのだ。クリストファー・ノーラン監督は、そのような環境はあの時代の「特権」だったという。マーベルやDCが競うように年間複数本のユニバース作品を発表し、毎年「スター・ウォーズ」シリーズが公開されるようになった現在、監督や脚本といった仕事、そして映画製作のあり方は、一体どこへ向かうのだろうか。

Source
Comicbook.com

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