不遇のイギリス時代を乗り越えた、クリストファー・ノーラン監督の脚本力 | VG+ (バゴプラ)

不遇のイギリス時代を乗り越えた、クリストファー・ノーラン監督の脚本力

via: BBC Newsnight on YouTube

世界を魅了した脚本力

『ダークナイト』から10年!

名作映画『ダークナイト』(2008)の公開から10年が経過した。『ダークナイト』は、人気アメコミシリーズの「バットマン」を原作としたSF映画だ。「ダークナイト・トリロジー」と呼ばれる新バットマン三部作の第二作目に当たる。人の心に内在する「正義と狂気」を問う重厚なテーマを描き切ったことで、SFやアメコミという枠組みを越えて、名作と呼ばれる作品となった。

自ら脚本を手がけた作品に注目

『ダークナイト』の指揮をとったのはご存知の通り、クリストファー・ノーラン監督。近年では製作総指揮という立場で作品に携わることも多くなり、すっかり大物監督の一人に数えられるようになった。クリストファー・ノーラン監督のファンならば、彼の書く脚本に魅了されたという人も多いのではないだろうか。この記事では、クリストファー・ノーランという人物を、彼が脚本を手がけた作品を通して見ていく。

不遇のイギリス時代

撮影・編集にまで携わった唯一の作品

これまでに、クリストファー・ノーラン監督がクレジットされている長編映画作品は14タイトルある。その内、彼が手がけた脚本は9タイトルだ。近年に製作された、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)や『ジャスティス・リーグ』(2017)では製作総指揮という立場に落ち着いているが、デビュー作の『フォロウィング』(1998)の製作時には、脚本と監督の他に、製作・撮影・編集も担っていたようだ。クリストファー・ノーラン監督はイギリス出身でありながら、指揮をとった“イギリス映画”は、この『フォロウィング』だけである(『ダンケルク』(2017)などの合作映画は除く)。
実はクリストファー・ノーラン監督が、デビュー作以降“イギリス映画”を撮っていない背景には、ある深いワケが存在する。

ノーラン監督が「イギリス映画」を撮らない理由

全編白黒で撮影された『フォロウィング』は、製作費6,000ドル(約66万円)という超低予算で制作が行われた。製作費はクリストファー・ノーラン監督と、その友人たちで工面したという。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで英文学の学士号を取得したノーラン青年は、映像関係の仕事に就きながら、短編の映像作品を制作し、映画監督としてのデビューを目指す日々を過ごしていた。そんな彼を待っていたのは、映画会社からの「不採用通知の束」だったという。2005年に行われたガーディアン誌のインタビューで、彼はこう語っている。

正直に言うと、イギリスはとても閉鎖的な場所だよ。ハリウッドには、素晴らしい心の広さがある。新しい人々に対する猛烈な欲求と言ってもいいね。イングランドでは、新しいものに対する不信感が強いんだ。文化を守るためには良いことかもしれないけれど、映画業界に挑戦しようっていう人間にとっては、辛いことだよ。

by クリストファー・ノーラン

「皮肉なことに」と本人が語るように、『プレステージ』(2006)や『ダークナイト』がイギリスとの共作映画として撮影されたことで、彼はイギリスへのカムバックを果たすことになった。だが、既に米国籍を取得した彼が、純粋な“イギリス映画”を撮影する日は来ないだろう。『フォロウィング』に出演していたジェレミー・セオボルド、ルーシー・ラッセルらを、後に『バットマン ビギンズ』(2005)などの大作に出演させるほど、彼は義理堅い人間なのだ。

名作の陰に、ある人物の存在

もう一人の天才脚本家

映画会社や業界から支援を受けることができなかったクリストファー・ノーラン監督だが、それでもデビューを可能にしたのは彼が持つ脚本力の賜物だろう。助けが得られないのならば、自分で書き、自分で撮影すればいいのである。しかしながら、彼の脚本や作品を語るにあたって、見逃してはいけない人物が一人いる。それは、彼の実弟であり、優れた脚本家でもあるジョナサン・ノーランである。

400万ドルのオファーを勝ち取ったノーラン兄弟

『フォロウィング』は出演者やスタッフが時間を作ることができる休みの日に撮影を進められた。そんな地道な努力の結果、同作はニューヨークタイムス誌などで高く評価されることになる。この映画によって名を上げたことが、クリストファー・ノーラン監督のアメリカデビュー作『メメント』(2000)の契約に繋がったことは確かだ。そして、弟のジョナサンの存在もまた、この契約を生んだ要因の一つだった。
それは、クリストファー・ノーラン監督がアメリカを訪れていた時のこと。ジョナサンが書いた『メメント』の原案に、クリストファーが加筆を行い、一本のシナリオを作り上げたのだ。このアイデアに目をつけたのは、ニューマーケット・フィルムズのアーロン・ライダー[*1]だ。『メメント』の映画化には400万ドル(約4億4,000万円)と十分な予算が用意され、製作が行われた。『メメント』は、興行的にも成功を収め、ノーラン兄弟は揃ってアカデミー賞脚本賞にノミネートされたのであった。

[*1]アーロン・ライダーは、『メメント』の製作総指揮として注目を集め、製作として携わった『メッセージ』(2016)はアカデミー賞作品賞へのノミネートを果たしている。

不遇のイギリス時代を乗り越えたクリストファー・ノーラン監督と、弟のジョナサンは、破竹の勢いでハリウッドを席巻していくことになる。イギリス映画界としては、惜しい人物を見逃したものである。

Source
The Guardian

VG+編集部

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