手塚治虫の名作を浦沢直樹がリメイク
手塚治虫の代表作「鉄腕アトム」シリーズ。その中でも『青騎士』(1965-1966)と並んで高い評価を得ている作品が『地上最大のロボット』(1964-1965)だ。それを「20世紀少年」シリーズで有名な浦沢直樹がリメイクした『PLUTO』が2023年10月26日(木)16:00よりNetflixで配信開始された。
物語が本格的に動き始め、人間かロボットか正体不明の存在「プルートゥ」へと近づいていくゲジヒト。本記事ではそのような『PLUTO』エピソード2のあらすじと考察をしていく。なお、本記事には『PLUTO』エピソード2のネタバレを含むため、必ず本編視聴後に読んでいただきたい。
以下の内容は、アニメ『PLUTO』の内容に関するネタバレを含みます。
止まらない殺害と憎悪の連鎖
ふたたび起きる事件
日本でふたたび角を突き立てられた死体が発見される事件が起きる。被害者の名前は田崎純一郎。彼は国際ロボット法の発案者であり、その家はモンブランやノース2号のときと同様に竜巻が発生したかのように破壊され尽くされていた。日本の田鷲警視はモンブランとベルナルド・ランケの両方の殺害事件を追うユーロポール特別捜査官ロボットのゲジヒトへの接触を試みていた。
その頃、当のゲジヒトはアトムと接触していた。アトムを見て人間かロボットか識別装置が誤作動を起こしそうになると話すゲジヒト。アトムのことは第39次中央アジア紛争の平和維持軍としてきた際にニュースで知っていたが、アトムは慰安訪問として扱われたことが何か胸に引っかかっていた。アトムはゲジヒトからより人間らしい人工知能を持つと話すが、アトムにとってそれこそがサーカス団に売られた原因というトラウマだった。
アトムはゲジヒトにメモリーチップの交換を申し出る。最初は拒否していたゲジヒトだったが、自分より高性能の人工知能の持ち主だとアトムを認め、アトムにメモリーチップを託した。そこでアトムはゲジヒトも気づいていない記憶を目にし、隠れて涙する。そしてゲジヒトは残りの世界最高峰のロボットである3人に危険を知らせるべく、日本を発つのだった。
紫陽花と羊羹
田鷲警視たち警察官はホログラムで田崎純一郎の家を再現し、情報を掴もうとしていた。そこへゲジヒトの捜査情報をコピーしたアトムがやってくる。田鷲警視に皮肉を言われるアトムだった、アトムの能力により、犯人と田崎純一郎は縁側で羊羹とお茶を飲みながら紫陽花を眺めていたことが明らかになる。
ロボットが訪ねてきたとしては考え難い行為。だが、周囲の証言では局所的な竜巻が発生し、田崎純一郎宅のみを破壊していったとのことだ。これは人間に到底できるものではなく、ロボット、それも特殊なロボットにしかできない芸当だ。それにもかかわらず、人間のような振る舞いで田崎純一郎は犯人と接触している。そして犯人はお茶の水博士の名刺を探していたことがこぼれたインクが証明していた。
ボラー調査団
一連の事件の犯人が狙っているのは7体の世界最高峰のロボットだけではなく、ベルナルド・ランケや田崎純一郎などボラー調査団のメンバーであることを突き止めたアトム。そのボラー調査団にはお茶の水博士も参加していた。アトムはお茶の水博士にボラーとは何なのかを問う。
すべての発端はペルシア王国が大量破壊ロボットを有しているとの疑惑だった。当時のペルシア王国はダリウス14世の独裁政権下にあり、そのような国家では国民もロボットも権利は侵害され、それどころかその強大な軍事用ロボットを要にダリウス14世は中央アジア全体を統一しようとしていた。それを踏まえ、国連では大量破壊ロボット製造禁止条約が承認された。
その大量破壊ロボット製造禁止条約を推し進めたトラキア合衆国のアレクサンダー大統領のもとでボラー調査団が結成され、「ボラー」という言葉の意味もわからぬまま、調査団が派遣されたことがお茶の水博士の口から語られる。この流れは実際のイラク戦争を彷彿とさせる。
トラキア合衆国の目的は大量破壊ロボットの発見ではなかった。正確に言えば、大量破壊ロボットはついでであり、実態は天才と呼ばれた通称「ゴジ博士」という実在するかもわからない存在の捜索だった。だが、古いモスクの地下で大量のロボットの死骸を発見し、ペルシア王国は使用不能になったロボットの集積所としたが、結局戦争は始まってしまった。
大義なき戦い
第39次中央アジア紛争終戦間際、砂漠に放置されたロボットの亡骸を見つめ、モンブランは「自分は何のためにここに来たのか」と自分に問うていた。ブランドはモンブランの安否を確認し、そこにヘラクレスも現れる。世界最高峰のロボットと呼ばれるだけあってブランドは2895体、ヘラクレスは2962体、モンブランは3022体もペルシア王国のロボットを破壊している。
しかし、モンブランはそれを「いっぱい」と表現するなど、戦争による心のダメージは深刻なものだった。その頃、ダリウス14世の宮殿は陥落寸前であり、中心部にも平和維持軍が介入。その場にはまるでアイドルかのように平和の象徴として扱われるアトムがいた。
虐げられたロボットの解放という目的も虚しく、モンブラン、ブランド、ヘラクレスは同胞たるロボットを破壊し尽くしたのだった。果てしなく続く砂漠の地平線に、彼らが開放すべきだったロボットの亡骸だけが転がっていた。現実の戦争にも通じる生々しい演出だ。
ESKKKRトーナメント
時は現代に戻り、ブランドはロボット格闘技の世界へと戻っていた。ESKKKRトーナメント決勝戦も秒殺という圧倒的な差を相手に見せつけ、936戦無敗の記録を樹立させている。ユーロ連邦トルコ・イスタンブールが誇る不敗神話の持ち主がブランドである。トルコがユーロ連邦、現実でいうところのEUに属しているのが現実との大きな違いだ。
ブランドはファイトマネーで子供たちや家族と生きる道を選び、子沢山の家庭を築いていた。そうして、人間と同様に食事をし、人間同様の家庭を選んだのだ。ブランドはロボット養子縁組制度を利用して5人の子供を持つようになったが、そのきっかけが格闘ロボットをしていると妻のミネはいつも夫がバラバラで帰ってくるかもしれないという不安に駆られるためだった。ここに人間とロボットの権利の差が垣間見えてくる。
第1話のロビーのようにロボットも家庭を持つことはあるが、その遺体は容赦なくスクラップ場に送られ、埋葬はおろか弔われることもない。ロボットが本当の意味で自由な権利を有しているとは言い難い『PLUTO』の世界の現実が見える。だからこそ、ブランドの死にたくなくなったという発言やモンブランに生きたかっただろうにという発言、ゲジヒトの死なないでくれという願いが重たい。
闘神の葛藤
民衆からの闘神というあだ名とは裏腹に、自身を「相手を破壊する殺人マシーン」と評するヘラクレス。その一方で、戦争の影響もあってか対戦相手を破壊しきらず行動不能でとどめるなどの葛藤も垣間見える。ここで人間と思わしき観衆が腕をもぎ取れと言っているのが印象的だ。間違いなく人間同士の試合ならばそのようなことは言わないだろう。
ブランドとの戦いを控え、それを甘いというヘラクレスだったが、ヘラクレスにとってブランドはライバル以上に戦友としての顔が大きかった。人間がパンクラチオンスーツの像を建てないと忘れてしまうのに対し、ロボットであるヘラクレスたちは第39次中央アジア紛争のことを忘れられない。ヘラクレスはそのいたわりの感情を進化と評した。
不敗神話の終わり
今は亡きモンブランに想いを馳せるブランド。彼は家族にも秘密でパンクラチオンスーツを持ち出し、北海沿岸へと向かう。その頃、日本ではアトムがお茶の水博士からブラウ1589の人工頭脳が完璧であり、人間に最も近づいていたのではないかということを聞く。
ブランドはパンクラチオンスーツに人工知能を移すと、モンブランを葬り去った謎多き存在「プルートゥ」と決着をつけるべく竜巻へと飛び込む。そしてヘラクレスとゲジヒト、アトムに自分の戦いを見るようにと告げ、モンブランの仇を討つと語る。
3人の人工知能に回線を通じてブランドが受けた衝撃が伝わってくる。そして、ブランドが海へと沈んでいく様子が生々しく伝わる。ブランドは最期の力で敵のデータを送信しようとするが、どうしても家族の画像しか送ることができなかった。ロボットではあったが最期に見たのは走馬灯、生きたいという強い願いだった。
海はブランドのパンクラチオンスーツから漏れた重油で黒く染まり、その残骸は海底に沈んでいた。走馬灯の中で、アトムは混信したデータをキャッチしていた。それは黒い稲妻のようなものでブランドのものとは違う巨大な苦しみだった。
闘神の憎悪
イスタンブールではブランドの葬儀が行われていた。ヘラクレスは選手権の防衛期間が切れるのもかまわず、自身のファイトマネーをはたき、ブランドの遺体の回収を行っていた。しかし、ブランドの粉々になったパンクラチオンスーツは回収できても、敵の部品が一つも回収されない。
そのとき、ブランドの腕が戦闘した海域から100kmほど離れた岩礁の上で発見される。その腕は岩礁に対して、まるで角のように突き刺され、ブランドのメモリーチップが晒されていた。敵、つまり事件の犯人である「プルートゥ」は今も生きていることを示しているのだった。
原作漫画よりも映像技術を活かして、さらに生々しく戦争の悲惨さを描いている『PLUTO』。今後の展開に期待していきたい。
『PLUTO』は2023年10月26日(木)16:00よりNetflixで世界独占配信開始。
PLUTO | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
浦沢直樹の漫画『PLUTO』は全8巻がビッグコミックスから発売中。
2022年10月から電子版も配信されている。
『PLUTO』第1話のネタバレ解説&あらすじに関する記事はこちらから。
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