『2分の1の魔法』レビューに批判
ディズニー/ピクサー最新作『2分の1の魔法』が2020年8月21日(金)に日本で公開。『2分の1の魔法』は、かつては魔法があふれていたがテクノロジーの進歩とともにその力が弱まってしまった世界が舞台。幼い頃に父を失ったエルフの兄弟が、父親を蘇らせるために冒険の旅に出る。
Experience the film that is “a sheer joy to watch.” #PixarOnward comes to theaters March 6. pic.twitter.com/3Evu9Ks3Fm
— Disney and Pixar’s Onward (@pixaronward) February 22, 2020
『2分の1の魔法』は、アメリカでは一足早く3月6日に公開され、イギリスではプレミアも開催された。
Tom Holland, Director Dan Scanlon, and Producer Kori Rae went on a glorious quest at today’s #PixarOnward UK Premiere ✨ Check out photos from the event and see the film in theaters March 6. pic.twitter.com/aHdgWFNZkr
— Disney and Pixar’s Onward (@pixaronward) February 23, 2020
各メディアでは、評論家や記者によるレビューも公開され始めている。そんな中、イギリスの大手新聞であるガーディアン紙による『2分の1の魔法』のレビューに強い批判が集まっている。
ガーディアン紙「男の子向け『アナ雪』」
ガーディアン紙が『2分の1の魔法』のレビューを投稿したのは英時間の2月21日(金)。スティーブ・ローズ記者のレビュー記事につけられたタイトルは「『2分の1の魔法』レビュー——ここ数年でピクサー最高の映画は男の子向けの『アナと雪の女王』」というものだった。
ピクサー作品ではないが、同じくディズニーから公開されている『アナ雪』を引き合いに出したレビューだ。『2分の1の魔法』のストーリーについて、「男性間の関係性、兄弟愛や親子愛を描いています」「女の子や女性のための要素はほとんどないと言えるでしょう」「この種の関係性を描いたものは女性主導のおとぎ話ではしばしば見られましたが、男性キャラクターにとっては比較的、未開拓の領域です」等と綴られている。
「疲れた」の声
『2分の1の魔法』を「男の子向けの『アナ雪』」と称したこのレビューには、強い批判が集まった。Twitter上では、「男の子向けの『アナ雪』って既にありますよ。『アナ雪』っていうんですけど」との投稿が複数見られ、「ガーディアン紙は『アナ雪』を女の子向け、『2分の1の魔法』を男の子向けと結論づけてるんですか。もう疲れましたよ」との声も。
『アナ雪』の客層を“女の子”に限定すること、同時に『2分の1の魔法』の客層を“男の子”に限定するような言説に対して、『アナ雪』を好きな男性、“男の子向け”とされるものを観て育ってきた女性、どちらにも属さない/どちらにも属するセクシャルマイノリティ、息子がいる母親、娘がいる父親など、様々な属性の人々から批判が集まった。
英Indy100の編集者であるルイス・ステープルズは、以下のように投稿している。
as a boy who grew up liking a lot of things that were “for girls” I still find this headline very alienating and exhausting in 2020 https://t.co/c6zBYgnFjk
— Louis Staples (@LouisStaples) February 23, 2020
“女の子向け”とされるものを好んで育ってきた男の子としては、2020年にまだこのような (記事の) タイトルが見られるということに、孤立し、疲弊しています。
ライターのシャーロット・クライマーはガーディアン紙のツイートを引用した上で、こう綴っている。
I want to live in a world where children aren’t told that everything that gives them joy, from movies to toys to clothes, have to directly correspond with some arbitrary rubric based on their assigned sex at birth.
Let kids be kids, and stop telling them what they like. https://t.co/yAil3WnKGS
— Charlotte Clymer 🏳️🌈 (@cmclymer) February 23, 2020
映画からおもちゃ、服に至るまで、子どもが喜ぶあらゆるものについて、生まれた時の性別に基づいた独断的な説明書に従うよう子ども達が指導されない、そんな世界に生きたい。
子どもをありのままでいさせてあげて。彼女ら/彼らにどうあるべきかを教えるのはやめましょう。
問われるメディアのリテラシー
これらの批判を受けて、ガーディアン紙は記事のタイトルを変更。「男の子向けの (for boys)」という表現を「男の子版の (with boys)」に改めた。記事を執筆したスティーブ・ローズ記者はTwitterに謝罪文を投稿。「もっと慎重に言葉を選ぶべきでした」と陳謝した。
Apologies for “Frozen for boys”. I should have chosen my words more carefully, and would not have made that the headline. I was just trying to make the point that Frozen is v much a movie about sisterly relationships, and Onward is same for brothers. https://t.co/j9iyozs0aP
— Steve Rose (@steverose7) February 22, 2020
なお、『2分の1の魔法』で声優を務めている俳優のクリス・プラットは、インタビューの中で「性別に関わらず皆が言っていることでもありますが、中でも多くの男性がこの映画を観て泣いたと言っていました」としながらも、「『アナと雪の女王』を楽しむのが女の子である必要はないのと同じように、『2分の1の魔法』を楽しむのが男の子である必要はありません」と説明している。
男の子がどうあるべきか、女の子がどうあるべきかをメディアの立場から示唆し、そもそもそれ以外の人々の存在を無視するような語り口は、多くの人に苦痛を与えた。また、客層を特定のカテゴリに押し込めてしまうことは、『2分の1の魔法』という作品にとっても迷惑な話である。
『2分の1の魔法』の日本語版主題歌よろしく、メディアもまた、「積み上げたものをぶっ壊して」いかなければならない。
映画『2分の1の魔法』をめぐっては、ディズニー/ピクサーの作品としては初めて作中ではっきりと描写される形でセクシャルマイノリティのキャラクターが登場したことが話題となっていた。こちらの件の詳細については、以下の記事に詳しい。
映画『2分の1の魔法』は2020年8月21日(金)に日本全国で公開。