ネタバレ解説&感想『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』ラストの意味は? おまけ映像も考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』ラストの意味は? おまけ映像も考察

©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023

【!ネタバレ注意!】『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』の感想&ラストの解説はこちらから。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』公開

藤子・F・不二雄の人気漫画「ドラえもん」シリーズの第42作目となる劇場映画作品『ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』が、2023年3月3日(金)より劇場で公開された。トマス・モアの『ユートピア』(1516)を引用したタイトルを冠した本作は、空の楽園“パラダピア”が舞台になる。

ドラえもんやのび太といったお馴染みのキャラクターと共に、 King & Princeの永瀬廉が声優を務めるソーニャや、井上麻里奈演じるマリンバといった映画オリジナルのキャラクターも登場。監督は前作に引き続き山口晋が務め、脚本を木村拓哉主演の映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』(2023)や「コンフィデンスマンJP」シリーズを手がけた古沢良太が手掛ける。

今回は、『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』のあのラストについて、その意味を解説し、感想を残しておこう。アニメシリーズ第2作2期に入ってからは17作目の劇場版作品となった本作には、どんな結末が待っていたのだろうか。なお、以下の内容は本編の結末を含むので、必ず劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』の結末に関するネタバレを含みます。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』ラスト ネタバレ解説

パラダピアの秘密

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』は、ドラえもん、のび太としずか、ジャイアン、スネ夫の5人が空に浮かぶ楽園「パラダピア」を探し出し、誰もが「パーフェクト」になると言われるその場所で暮らし始めるという物語。パラダピアには時空移動能力が備わっており、世界各地に存在していたユートピア伝説の正体は、「わるもの」から逃れるために時代と場所を転々としていたパラダピアだったことが明らかになる。

パラダピアでは規則正しく生活し、教育を受けて、誰もが“善い”人間になることができる。胸のバッジのゲージが満たされていくと「心がきれいになる」とされている。しかし、ドラえもんとのび太は賞金稼ぎのマリンバ学級委員のハンナから、そのゲージが満タンになるとパラダピアを仕切っている三賢人の言いなりになってしまうという事実を知らされる。

また、パラダピアの生活を支えるとされていた人工太陽のパラダピアンライトは、その光を浴びるほどにバッジのゲージが満たされていき洗脳されていく代物だったことも明らかになる。パラダピアにおける数学と体育を組み合わせた授業も、日常的にパラダピアンライトを浴びせるためのカリキュラムだったのだろう。ハンナはライトの効果を消すキャンディを食べることで意識を保っており、のび太はライトの影響を受けにくい特殊な体質だった。

しずか・ジャイアン・スネ夫の3人は既に洗脳状態に陥っており、それぞれの強情・乱暴・いじわるという特性が消えてしまっていた。ドラえもんとのび太はタイムパトロールに通報しようとするが、それを阻止したのはパラダピアを守るパーフェクトネコ型ロボットのソーニャだった。

ソーニャはドラえもんから「ネコ型ロボットは命令を聞くためじゃなく、人間の友達になるために作られた」という言葉を聞かされ怯むが、かつてダメロボットだった自分を拾ってくれた三賢人からの叱責の声を聞いてドラえもんを撃ってしまう。

思えばソーニャは、ドラえもんにバリアのことを伝え忘れて凍らせてしまうなど、作中では「パーフェクト」でない部分も見られた。元々ソーニャは欠陥のあるロボットであり、叱責され放棄された過去がトラウマとして残っていたようだ。

優生思想への反論

捕えられたのび太は、三つのパラダピアンライトを組み合わせた「ネオ・パラダピアンライト」によってついに服従してしまう。三賢人はネオ・パラダピアンライトで世界中の人間を操る「世界パラダピアン計画」を始動するためにドラえもん達の街へと移動すると、ドラえもんは光線によって青い虫に変えられてパラダピアから弾き出される。

ドラえもんはロボットなのでライトが効かず、ソーニャも同様にライトは効かないが、この場面ではソーニャは三賢人によって改造されたことが示唆されている。ソーニャがドラえもんを光線で撃ったことで目を覚ましたのび太は、三賢人のドラえもんに対する「ダメロボット」「価値がない」というバッシングに反論する。

この辺りの三賢人の主張は優生思想(優秀な遺伝子を持つ人間だけを残そうとする思想)能力主義(目に見えて有用な人材を高く評価する考え)がベースにある。それに対して、のび太はドラえもんは友達だと言い、しずか、ジャイアン、スネ夫に対しても、良いところも悪いところもあり、それを受け入れると主張する。

しずか、ジャイアン、スネ夫の3人は、「完璧じゃなくていい」ということを受け入れられることで洗脳が解かれる。批判ばかりされてきた自分の欠点について、ありのままの自分でよいという承認を得ることが必要だったのだろう。

3人の洗脳が解かれると、三賢人はその正体を現す。三賢人の正体は、人々に言うことを聞かせる装置(パラダピアンライト)を発明した科学者のレイ博士だった。時空を移動する組織の“三人委員”の正体が天才科学者という設定は、マーベルドラマ『ロキ』(2021-)の展開を想起させる。

なお、このレイ博士の声優を担当するのが、「ドラゴンボール」のフリーザや「アンパンマン」のばいきんまんで知られる中尾隆聖というサプライズには舌を巻いた。中尾隆聖は「ドラえもん」シリーズでは第2作第1期でザ・ドラえもんズのエル・マタドーラ役を演じており、2001年公開の映画『ドラミ&ドラえもんズ 宇宙ランド危機イッパツ!』以来の劇場版登場となった。

このレイ博士もまた、ソーニャと同じくトラウマを抱えた存在であり、過去にイジメられてきた経験から、その反動で世界中の人間の心を支配しようとしていた。だが、マリンバによってライトを爆破され、ソーニャにのび太らの心を操れなかったことを指摘されたレイ博士は、パラダピアを墜落させることを決める。

レイ博士は典型的なマッドサイエンティストで、のちに「可哀想な存在なのかもしれない」という同情は受けたが、『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』の中では唯一赦されなかった人物だった。レイ博士は元々科学の才能があったと自称していたが、のび太はダメな小学生だからこそ、他者の不完全さを許容できるという筋立てになっていたように思う。

ラストの伏線回収の意味

堕ちていくパラダピアで、住民達に自分の頭で考えて判断するよう告げて助け出し、のび太達も脱出に成功する。その時、のび太が目にしたのはきれいな姿のタイムツェッペリンだった。パラダピアはのび太達が元々いた日時に戻ったわけではなく、のび太達がパラダピアを見つけるための時間旅行に飛び立つ直前に移動していたのだ。

冒頭で晴れていたのに雨が降って虹が出ていたのは、沈みゆくパラダピアの“海”が外部に漏れ出したからだった。更に、パラダピアの姿を見た時にのび太の鼻にしつこく止まってきた青い虫は、先ほどの戦いで虫に変えられたドラえもんだったことが明らかになる。二つの伏線を回収し、のび太はドラえもんと再会を果たす。

「ドラえもん」の世界のタイムトラベルのルールは、未来や過去に行った時に未来や過去の自分自身もその世界に存在するというものになっている。つまり、冒頭でのび太が出会った青い虫は、少し先の未来から来たドラえもんだったのだ。ドラえもんは過去ののび太に気付いてもらおうと近づいたのだろう。のび太は未来のドラえもんと出会っていたことで、虫になったドラえもんの居場所がこの山にいることが分かったということである。

自分の心に従う

ドラえもんはマリンバの光線で元の姿に戻り、一同は墜落するパラダピアを四次元ゴミ袋に入れて四次元のゴミ捨て場へ送ることに。しかしパラダピアはゴミ袋の中で熱暴走を始めて爆発寸前に。ソーニャはドラえもんに止められながらも、「自分の心に従う」とドラえもんから教わった大事なことを守って一人空へ飛び立ち、大爆発を起こすのだった。

漫画『ONE PIECE』(1997-)のアラバスタ編を想起させる展開で、ソーニャは英雄的なラストを迎えた。ここからも、常に誰もが望む完璧な選択をできるわけではないが、自分の心に従うことが重要というメッセージを読み取ることができる。

レイ博士はタイムパトロールに逮捕され、パラダピアの人々は元の世界に戻された。さらにドラえもんはソーニャのメインメモリを見つけ、ソーニャも復活できることに。エンドロール中にはドラえもんと同じ“裸”になり、本来の姿を取り戻したソーニャの姿が見られる。パラダピアを脱出する時には四次元ポケットとタケコプターを身につけており、ソーニャもまた「パーフェクト」から解放され、本来のネコ型ロボットの姿に戻っていく過程が描かれている。

ユートピア=理想郷を求めていたのび太が、「もともと世界は素晴らしい」と思い至るという着地点で、『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』は幕を閉じる。エンディングで流れる曲はNiziU「Paradise」。Stray Kidsのバンチャン、チャンビン、ハンの3人が作曲およびプロデュースを手掛けている。「そのままで大好きさ」「一人一人のパラダイス」と、本作のテーマとつながる内容が歌われている。

ポストクレジットシーン考察

そして、「ドラえもん」第2作第2期の映画ではお馴染みのおまけ映像は、『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』でも用意されていた。『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』(2022) では、空とプロペラ飛行機が登場し、次作が空を舞台にした作品になることが示唆された。そして公開された『のび太と空の理想郷』はまさに空が舞台になった作品だった。

『空の理想郷』のポストクレジットシーンでは、ドラえもんがおもちゃのようなオーケストラを指揮する姿が映し出される。「2024年春公決定」が「2024年春公決定」に切り替わり、音楽、それもオーケストラやコンサートがテーマになることが示唆されて、おまけ映像は終了する。

どうやら2024年の「ドラえもん」映画はリメイク作品ではないようだ。音楽テーマのアニメ映画といえば、興行収入197億円のメガヒットを記録した『ONE PIECE FILM RED』(2022) が思い出される。同じく大ヒットを記録している新海誠監督の『すずめの戸締り』(2022) も積極的に楽曲を取り入れたアニメ作品だが、「ドラえもん」もその路線を目指すのだろうか? 続報に期待しよう。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』感想

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』のテーマは、完璧じゃなくていい、ありのままでいい、ということだったが、そのテーマの証明として“マインドコントロール”という題材が用いられた。より“善い”生き方をさせようと他者を支配するという話は現実でも起きているものであり、空恐ろしくもある。

一方で、他者が誰かに操られているという発想は、ともすれば陰謀論に陥ってしまう。そこで社会への不信感を強調するのではなく、あくまで個の関係の中で「ありのままのあなたが好き」という形で着地させたのだろう。

けれど、そこから「もともと世界は素晴らしい」という結論に着地するには無理があったように思う。友人を受け入れることと世界を諦めることはイコールではなく、社会はもっと良くできる。のび太の最後の結論が自分をいじめる世界への諦めのようにも感じられたのは少し残念だった。

また、パラダピアの人々の人種的多様性は「ドラえもん」シリーズにおいては新鮮だったが、これも「作られた社会」という結論になってしまった。それでも、ありのままの個々を受け入れることで世界はもっと良くなるはずであり、本作を観た子ども達が、他者のありのままを受け入れる“努力をすること”について学ぶことを願いたい。

終盤で光った点は、優生思想や能力主義への批判だ。「頭が悪い」「使えない」といった強い言葉が飛び交いがちな現代社会だが、もともと能力が高いレイ博士を敵役に置き、それ以外のメインキャラクターには欠陥のあるキャラクターが据えられていた。出来杉ものび太にユートピアの夢を抱かせて早々に退場したのが印象的だった。

最も「パーフェクト」から程遠かったのはレイ博士だと考えることもできる。能力は高いかもしれないが、かなり過激で偏った思想の人物であり、レイ博士の「ありのまま」を受け入れるのは流石に難しかった。反省の弁を述べる機会も与えられなかったレイ博士だが、普通に未成年者誘拐犯なので妥当な扱いだろう。

毎回、様々な示唆を与えてくれる「映画ドラえもん」シリーズ。皆さんはどんな感想を持たれただろうか。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』は2023年3月3日(金)より劇場で公開中。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』公式サイト

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』はオリジナルサウンドトラックが配信中。

コミック版と福島直浩による低学年から読める小説版も発売中。共にKindleでも配信している。

 

作中で出来杉くんが紹介していたトマス・モア『ユートピア』は中公文庫から発売中。

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