ネタバレ感想&解説『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』ラストの意味は? 音楽と宇宙に向き合った作品 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ感想&解説『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』ラストの意味は? 音楽と宇宙に向き合った作品

©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』公開

藤子・F・不二雄原作の「ドラえもん」を映画化シリーズ第43作目『ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)』が2024年3月1日(金) より全国の劇場で公開された。本作は藤子・F・不二雄生誕90周年記念作品として公開される。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』の監督を務めるのは、『映画ドラえもん のび太の宝島』(2018)、『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(2020) を手がけた今井一暁。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』(1883) をベースにした前々作、『ドラえもん のび太の恐竜』(1980) をベースにした前作と打って変わり、本作は完全新作となる。

脚本を務める内海照子は、2005年4月からスタートしたアニメ『ドラえもん』の脚本を務めており、長編アニメでの脚本は『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』が初となる。また、今回のテーマでもある音楽は、服部隆之が手がける。服部隆之が「ドラえもん」の長編映画の音楽を手がけるのは『地球交響楽』で6作目となる。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』ではどんな物語が描かれ、そこにはどんなメッセージが込められていたのだろうか。今回は『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』のラストをネタバレありで振り返りつつ、解説と感想を記していこう。以下の内容は本作の結末についての重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』の結末に関するネタバレを含みます。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』ラスト ネタバレ解説

ファーレの殿堂の秘密

ムシーカ人のミッカは、宇宙に浮かぶ“ファーレの殿堂”を復活させるため、“のほほんメガネ”ことのび太たちの力を借りることに。のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫の4人は、ドラえもんの道具の力を借りつつも、自力で楽器を練習し、音楽のエネルギーでファーレの殿堂を少しずつ復活させていった。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』では、のび太たちはドラえもんの道具で全てを解決するわけではなく、きちんと音楽と向き合う過程を描き出している。それは練習を積むということであり、音楽を楽しむということでもあった。

ファーレの殿堂を復活させていくにつれて、ムシーカ人の歴史が明らかになっていく。遥か昔にムシーカ星は“大厄災”によって滅んだこと、ファーレの殿堂はその生き残りを乗せた救命ボートであったこと、ミッカはムシーカ人最後の生き残りであること……。

ドラえもんが4万年もの間研究を続けていたロボットのマエストロヴェントーを修理すると、ヴェントーはムシーカ人の知られざる歴史を語りだす。ヴェントーというキャラの名前はもちろんドイツの作曲家ベートーベンから取られたものだろう。「マエストロ」というのはクラシック音楽における指揮者や作曲家に対する敬称である。

地球にもたらされた音楽

マエストロヴェントーによると、音楽の力で繁栄していたムシーカ星が滅びた原因は、音楽のエネルギーを独占しようとした人物による圧政が起こり、音楽が禁止されたことだったという。音楽がなくなったムシーカ星に宇宙生命体のノイズが近づき、ムシーカ星を滅ぼしてしまったのだ。生き残りのムシーカ人たちは双子の姉妹の一人を特別な力を持つ縦笛と共に地球に送り、もう一人のミッカをコールドスリープさせていた。

一行は、地球の博物館で「オモイデコロン」を使い、かつてミッカの双子の姉妹が地球人に音楽をもたらしたことを知る。このシーンは、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』の冒頭で、描かれた太古の人類のもとに隕石のようなものが落ちてくるシーンのその後を描いたものである。地球に音楽をもたらしたのはムシーカ人であり、地球は音楽の力によってノイズから守られていたということになる。

以来、地球には音楽が途絶えていなかったが、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』の冒頭でのび太が「あらかじめ日記」を使って音楽のない日を作ったことでノイズが侵入することになってしまった。のび太の日常と同時進行で描かれていた、探査機が地球外から持ち帰った物体を日本チームを中心に研究しているというストーリーがここで繋がることになる。

「地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)」

ミッカは来日していた人気歌手ミーナの元へ行き、縦笛について知らないか聞く。ミーナは名前的にもおそらくドイツ系だ。博物館にあった縦笛はドイツで見つかったとされており、ミッカの姉妹がドイツに落ちたことと繋がる。

現実においても2008年にドイツ南部の遺跡で骨でできたフルートが見つかっている。4万年前の笛とされており、これが人類最古の楽器とされている。ゆえに『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』でも4万年前にムシーカ人が地球に音楽をもたらしたという設定にしたのだろう。

ムシーカ人の子孫であるミーナは、祖母から縦笛を受け継いでおり、ミッカはこれを借りてファーレの殿堂を完全に目覚めさせることに成功する。ここで、ファーレの殿堂は音の響かない宇宙にも音を響かせることができる楽器だったことが明らかになっている。

ドラえもんたちは音楽を奏でてファーレの殿堂に侵入していたノイズを退治することに成功。ここで演奏した曲はチャペックが作曲したという設定になっている「地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)」であり、本作のタイトルにもなっている曲だ。

ラストは何が起きた?

それでも、一行は宇宙から迫り来るより強大なノイズの前に太刀打ちできなくなってしまう。のび太たちは光を浴びれば環境に適応できるひみつ道具「テキオー灯」の力で宇宙に放り出されても生き続けることができている。しかし、宇宙では真空であるため音を出すことができない。ノイズを倒すには音楽を浴びせるしかないが音が出せないという絶体絶命の状況に陥ったのだ。

だがここで、終業式のために一旦地球に帰った際にのび太が「あらかじめ日記」に書いた文章が効果を発揮する。のび太は自分の日記だと思い、「みんなでおふろにはいってたのしかった。」と書いたのだが、「あらかじめ日記」はあらかじめ書いていたことが現実になる。

「あらかじめ日記」が発動すると、その効果で偶然が重なり「時空間チェンジャー」のスイッチがオンに。「時空間チェンジャー」は24時間以内にいた場所を現出させることができるドラえもんのひみつ道具だ。終業式後に地球からファーレの殿堂に戻ってきた際に、のび太とドラえもんはこの道具を使ってお風呂場に忘れたリコーダーを取りに行っていた。

その設定が残っていたのだろう。「時空間チェンジャー」は地球とその周辺の宇宙を範疇として、お風呂場の環境を現出させた。これにより地球を中心とした宇宙にお風呂場のように音楽が響くようになり、ジャイアン、スネ夫、ミッカ、のび太らの演奏が地球にも響き渡ることに。そして、地球の人類が発する音がオーケストラのような音楽になり、本物の「地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)」が完成する。

「夢をかなえてドラえもん」が

このシーンでは、音楽は私たちの生活の中に存在しているということ、音楽を通して地球が一つになれるということ、そして、あれだけ音楽を嫌っていたのび太が自由に楽しく演奏することで巨大なパワーが生まれることが表現されている。のび太の最後のソロはあれだけ馬鹿にされていた「ノ」の音で、演奏を「合わせろ」という同調圧力から解放されたことでパワフルなライブ演奏を披露している。

なお、この歌の中でミッカは2007年からテレビアニメ『ドラえもん』の主題歌だった「夢をかなえてドラえもん」のフレーズを口ずさんでいる。ファンには嬉しいサービスだ。

ファーレの殿堂と地球をノイズから守ることに成功したドラえもんたち。あの演奏はムシーカ星から逃げた別の船にも届き、ミッカはムシーカ人の生き残りと合流することになる。4万年も生き延びていたとは。最後にミッカは、のび太の呼び方を「のほほんメガネ」から「のび太お兄ちゃん」に変えてお礼を言っている。

このシーンでミッカの部屋が映るが、そこには『ブレーメンの音楽隊』など地球の絵本が散らばっている。この後、のび太はミッカからヴィルトゥオーゾの伝説が描かれた絵本をもらったことが明らかになる。のび太らは自分たちのおもちゃもミッカの元に残しており、お互いに大事なものを交換していることが分かる。

最後に、のび太が学校でリコーダーを吹くシーンが描かれるが、のび太は相変わらず音を外して「ノ」の音を出している。ノイズを倒すときには見事な演奏を見せたのび太だが、完璧に演奏できることだけが音楽ではないし、上手くなることがゴールでもない。そんなメッセージが読みとれるラストだ。

エンディングとポストクレジットシーンは?

エンディングで流れる曲は、Vaundy「タイムパラドックス」。作詞作曲をシンガーソングライターのVaundyが自ら手がけており、「僕たちの魔法は一人では使えない」「拭えない痛みが襲いかかったときは魔法を唱えてみて」という内容が歌われている。ちなみにVaundyは路上ライブをしているバンドのボーカル役で『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』に声優としても出演している。

エンドロールの背景では、歌手のミーナがミッカからの手紙と共に笛を返してもらった姿が描かれている。ミッカは「返す」と言っていた約束を守ったのだ。

そして、映画「ドラえもん」ではお馴染みのポストクレジットシーン。今回も2025年の映画公開決定が告知されると共に、「絵」「ヨーロッパ風の建物」「魔法使い風のローブを着たドラえもん」という要素が示されている。2024年の「音楽」に続いて、2025年は「絵」をテーマにするのだろうか。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』ネタバレ感想

音楽の楽しさを学ぶ

今回の『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』は、とても教育的な内容になっていたように思う。なんでもドラえもんの道具の力で解決しないというのは、いつものコンセプトの一つではある。その上で、のび太たちも楽器の演奏がすぐに上達するわけではなく、2時間かけてきっかけを掴み、音楽について学びながら徐々に上手くなっていく展開が印象的だった。

映画『ONE PIECE FILM RED』(2022) も音楽アニメ映画として特大級のヒットを記録したが、Adoが唄うウタの天才的な歌の上手さに牽引される部分が大きかった。『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』では、子どもたちがズルをせずに少しずつ演奏を身につけていく。楽な道はないけれど、その過程を仲間と一緒に楽しめばいいと教えてくれる内容だ。

のび太は序盤にリコーダーの音を周りのみんなと合わせられないことで非難され、音楽が嫌いになっていた。音楽には、人と同じ音を合わせることだけでなく、それぞれの個性を奏でながら自由にセッションをする楽しさがある。のび太は劇中でその楽しさを知り、自分でリコーダーを練習するようになっていく。特に日本では、「体育」や「音楽」の授業で嫌な思い出が残る人もいる。けれど、本来は楽しむことが大事なのだと、童心に帰らせてくれるメッセージの描き方だった。

2024年の『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』は、「理想」と「マインドコントロール」を扱い、「ありのままでいい」というメッセージを打ち出した。だが、ヴィランであるレイ博士にはそのメッセージは適応されなかった。今回の『地球交響楽』では、地球外生命体という自然現象/災害的な敵を置いた点でも、矛盾のないスッキリした作りにいなっていたように思う。

理論立てられた「ドラえもん」

面白かったのは、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』では、「宇宙では音は鳴らない」という現実をしっかり踏まえた展開が作られたことだ。SFファンの間では、ジョージ・ルーカス監督が「スター・ウォーズ」作品で宇宙空間でも音が鳴っている理由を「私の宇宙では音が出る」というエピソードが有名だ。『地球交響楽』はその態度を取らず、科学に基づいた制約を受け入れて展開を作っていた。

ひみつ道具の「時空間チェンジャー」も、時間と空間の両方を調整するというかなりSF要素の強い道具だ。宇宙に出る前に「テキオー灯」を使っているなど、伏線も含めて、非常に理論立てて物語が作られていたように思う。この辺りは脚本を担当した内海照子氏の丁寧さが光ったのだろう。音楽というアートの題材を扱いつつ、歴史の連なりや地球外生命体の襲来、宇宙での戦いなど、サイエンス・フィクション作品としても真摯な描き方がなされていたことにも拍手をおくりたい。

大人が観ると、2時間をかけてステップを順番にこなしていくのび太たちの旅に飽きが来る場面もあった。だが、子ども達が本作を通じて、そのステップを音楽とドラえもんと共に学べるのだとしたら言うことはあるまい。危うさもあった前年とは打って変わり、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』は良い意味で非常に教育的な作品、子どもに観せても安心な作品になっていると言える。

皆さんはどんな感想を持たれただろうか。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)』は、2024年3月1日(金) より、全国の劇場で公開。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』公式サイト

内海照子がノベライズを手がけた『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』小説版は発売中。

サウンドトラックも発売中。

主題歌「タイムパラドックス」のCDも初回生産限定盤が発売中。

本作の登場キャラとモデルになった音楽家たち、そして声優陣の紹介はこちらの記事で。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』のネタバレ感想&解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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