2021年7月に刊行予定の限定シリーズ「Skybound X」!
2021年4月13日、驚きのニュースが飛び込んできた。
『ウォーキング・デッド』の原作者ロバート・カークマンが創業したSkybound Entertainmentのリリースだ。Skyboundの10周年を記念した「Skybound X」という限定シリーズを2021年7月にImage Comicsと共同で発行し、『ウォーキング・デッド』の新エピソードに加えて、毎号新しいシリーズやキャラクターが登場するとのこと。
第1号の参加アーティストを見て、思わず驚愕の声をあげてしまった。
ティリー・ウォルデン。
ティリー・ウォルデンの作品を手掛けるイギリスの出版社Avery HillのTwitterにも同様の呟きが書きこまれている。ティリーのデビュー作『The End of Summer』(2015)を出版し、彼女の才能を見出したと言っても過言ではない出版社である。
Tillie is writing and drawing a Walking Dead comic!!! I have seen some of it and it’s incredible. pic.twitter.com/ciMtBH4wPY
— Avery Hill (@AveryHillPubl) April 13, 2021
”I have seen some of it and it’s incredible.”
というコメントが添えられている。ティリー・ウォルデンが『ウォーキング・デッド』!? Avery Hillの中の人ではないが、ほんとうに「信じられない」!
少女の繊細な心情を描きアイズナー賞を受賞したティリー・ウォルデン
ティリー・ウォルデンといえば、自伝作品『スピン』(2018、河出書房新社)が日本語訳されている。2018年アイズナー賞Best Reality-Based Workを最年少受賞した作品だ。
『スピン』
フィギュアスケートとシンクロナイズドスケートに打ち込んだ10代のころ。両親との微妙な距離感、友人たちとの関係で感じる疎外感、同性への恋心、そしてスケートでの挫折……孤独な10代の少女の心情を繊細に描いた秀作だ。
さらに2020年には『are you listening?』(2019、FirstSecond)で再度、アイズナー賞(Best Graphic Album-New)を受賞した。アラサー女性と家出少女のロードムービーで、少女の傷つきやすい心情と、それでも前に向かっていく力強さをファンタジックに描きあげている。
『are you listening?』
ティリー・ウォルデンのSFファンタジー『ON A SUNBEAM』
ティリー・ウォルデンはSF作品も手掛けている。『ON A SUNBEAM』(2018、FirstSecond/Avery Hill)は色彩の美しいスペースファンタジーもので、2019年ヒューゴー賞ベストグラフィックストーリー部門にノミネートされた。
『ON A SUNBEAM』
宇宙の辺境にある惑星に打ち捨てられた廃墟の修復を仕事とする宇宙船のクルーたち。そこに参加した主人公のミアにはある目的があった。寄宿学校で別れ別れになってしまった友人(を越えた感情を抱く少女)グレースを探していたのだ。実はグレースの一族にはある秘密があった……。
魚型をした宇宙船。女性ばかりの乗組員たちの生活。学校で人気のスポーツ”ラックス”。どれもファンタジックで独特の世界観に満ち溢れている。
『ON A SUNBEAM』はもともとウェブコミックとして発表され、2017年にはアイズナー賞候補にもなった。アメリカの名シナリオライターで、実写版ガンダムの脚本でも注目されているブライアン・K・ヴォーンはこの作品に対して以下のようなコメントを寄せている。
”Tillie Walden is the future of comics, and ON A SUNBEAM is her best work yet. It’s a ‘space’ story unlike any you’ve ever read, with a rich, lived-in universe of complex characters.”
(ティリー・ウォルデンは将来を担うマンガ家であり、『ON A SUNBEAM』は彼女の最高傑作である。これまで読んだことのない「宇宙」の物語で、複雑なキャラクターたちが織りなす豊かで生き生きとした世界が広がっている)
ちなみに今回紹介した作品以外にもYoutube動画でティリー・ウォルデンの紹介をしている。こちらもぜひご視聴いただきたい。
【YoutubeLive】海外マンガ紹介#8「ティリー・ウォルデン」
いずれにしてもティリー・ウォルデンといえば、少女の繊細な心情や女性同士の恋愛を美しくも切なく描くことでピカイチの、いま一番注目されている若手マンガ家だ。
そんな彼女と、人間の深層に鋭く切り込み、グロい表現も続出するポストアポカリプス・ゾンビものの金字塔『ウォーキング・デッド』との組み合わせは、「信じられない」としか言いようがない。
ゲーム版『ウォーキング・デッド』の人気キャラクター・クレメンタイン
いまいちど、今回公開されたティリー・ウォルデンのカバーアートを見てみよう。
彼女のInstagramにも”Still not bitten.”(まだ噛まれてない)というコメントとともに画像がアップされた。
ゾンビたちの手が迫りくる中、表情のよく見えない横顔の少女。トレードマークのキャップこそかぶっていないが、これはアメリカのゲームスタジオTelltale Gamesが制作したゲーム版『ウォーキング・デッド』のオリジナルキャラクター、クレメンタイン(クレム)ではないか。
ゲーム版『ウォーキング・デッド』(原題:The Walking Dead: A Telltale Games Series)は、最終章であるシーズン4の途中で制作会社のTelletale Gamesが廃業するというトラブルに見舞われたが、Skybound Entertaimentが後を引き継ぎ、2019年に完結に至ったゲームシリーズだ。
はじめは守られるだけの存在だった少女クレメンタインが、さまざまな人間との出会いと喪失とを繰り返し、生き延びる術を身に付けながら成長していく。仲間との助け合い、信頼と裏切り、死、新たな守るべき存在……無慈悲なまでの経験を積み重ね、苛烈な強さで武装して残酷な世界を生き抜くクレムの姿に魅了されたプレイヤーは多いはず。非常に人気の高いキャラクターであるが、これまでコミカライズはされてこなかった。
残念ながらゲーム版の日本語ローカライズは2021年4月時点でシーズン2までしかおこなわれていないが、シーズン4ではストーリーの選択によって、登場人物である一人である少女バイオレットとのラブストーリーも楽しめるようになっている。
クレメンタインとティリー・ウォルデン。
面白い相乗効果が生み出されるのではないかという予感に胸が高鳴る。2021年7月7日の発売がとても待ち遠しい。