『Carbone & Silicium (カーボン&シリコン)』マチュー・バブレが描く、世界を巡るアンドロイドの近未来SF! | VG+ (バゴプラ)

『Carbone & Silicium (カーボン&シリコン)』マチュー・バブレが描く、世界を巡るアンドロイドの近未来SF!

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フランスで高い評価を受けるSFマンガ家マチュー・バブレの最新作『Carbone & Silicium (カーボン&シリコン)』

前回の記事で、現在フランスで高い評価を受けているSFマンガ家マチュー・バブレ (Mathieu Bable) のデビュー作『La Belle Mort (美しい死)』(2011, Ankama) を紹介した。

この記事内で、マチュー・バブレの最新作Carbone & Silicium (カーボン&シリコン)』(2020, Ankam) を取り寄せ中とお伝えした。フランスのACBD批評グランプリ2021で最終候補にノミネートされ、Prix BD Fnac France Inter 2021で最優秀賞を獲得した超話題作だ。

『Carbone & Silicium (カーボン&シリコン)』

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この作品が手元に届き、さっそく読んだ。

前評判にふさわしい非常に優れた作品で、読了後はしばし放心状態に陥った。

今回は『カーボン&シリコン』の魅力を存分にご紹介したい。

2体のアンドロイド、カーボンとシリコンの250年にわたる壮大な物語

ときは2045年、アメリカ・シリコンバレー。
トゥモロー財団に所属する科学者、ノリコ・イトウは人工知能を搭載したアンドロイドの研究をしていた。
少子高齢化が進んだ近未来、世界各地でアンドロイド開発の競争が激化しており、ノリコに与えられた研究期間は15年。
ノリコはプロトタイプとして2体のアンドロイドを生み出す。

女性型のカーボン。
男性型のシリコン。

人間が持ちうるすべての知識を詰め込んだデータベースに瞬時にアクセスすることができる2体は、やがて外の世界に興味を持つ。

データではなく、実際に見てみたい。

人間への服従のためにアンドロイドには「寿命」が設定されていた。
カーボンとシリコンは研究所から逃亡する。

「寿命」を過ぎた2体は追われる身となりながらも世界を巡る。
250年にもわたる壮大な物語だ。

美しいフルカラーで描き出される近未来の世界と別々の道を歩むアンドロイド

各章の冒頭には、2体が生み出されてからの年と地名が記載される。

94年、香港。
154年、ウユニ湖。
183年、中甸。
247年、箱根。

といった具合に、さまざまな時代と都市、そして世界を転々とするカーボンとシリコンの2体が描かれる。

研究所からの逃亡時にノリコに助けられたカーボンは、コミュニティの中で生きることを選ぶ。
はじめは人間たちの、そして物語が進むにつれてアンドロイドたちのコミュニティの一員として、自分の生きる意味を探していく。
やがて時代はうつろい、人間社会におけるアンドロイドの位置づけも変わっていく。
戦争、宗教、貧困、病や死、環境破壊……。
人と人との、人とアンドロイドとの、そしてアンドロイド同士の、他者との関係性の中で生まれる衝突を目の当たりにしていく。

シリコンはたった独りで世界各地を探険する。

インドの荘厳なタージマハルの遺跡。
オーストラリアの広大な大地に昇る太陽。
地面が鏡のように空の色を映し出すボリビアのウユニ湖。
理想郷の代名詞とも言われるシャングリラの名を持つ中甸の何も無い山岳地帯。
海面上昇の影響により海に沈んだ箱根から遠望する富士山。

そこに時折、カーボンが合流する。

別々の道を歩む2体はときに交差し、考えの違いから衝突しながらも、求めあい、ときに寄り添う。

フルカラーで描かれる世界は、絶望的なまでに醜く、放心してしまうほどの虚無に満ち、そして息を吞むほどに美しい。

加えてアンドロイドたちがネットワーク上でつながる電脳空間として描かれる超巨大な構造体の表現は、圧巻の一言に尽きる。

マチュー・バブレが描く手塚治虫原作『メトロポリス』の後日譚『呪われしもの』

残念ながら『カーボン&シリコン』は2021年2月時点でフランス語版しか出版されていないが、日本語で読めるマチュー・バブレ作品は2作品ある。

ひとつはバンド・デシネ月刊誌「ユーロマンガ」(2021-,Euromanga) で連載中の『シャングリ=ラ』
遠い未来、宇宙ステーションの徹底した管理社会で暮らす人間たちの物語だ。

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Teaser Shangri-La

もうひとつは手塚治虫生誕90周年を記念したマンガ書籍『テヅコミVOL.7』(2019, マイクロマガジン社) に掲載されている「呪われしもの」という作品だ。

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「呪われしもの」は手塚治虫の初期SF三部作として知られる『メトロポリス』をトリビュートしたものである。

超人的なパワーを秘めたミッチイという名の人造人間をめぐる、人間たちの飽くなき欲望が描かれている。ミッチイはのちに『鉄腕アトム』のアトムや『リボンの騎士』のサファイアの原型となったキャラクターでもある。

「呪われしもの」はその後日譚だが、原作を好きな方はもちろん、知らない方にも十分に楽しめる作品となっている。

作品の後ろに併録されているマチュー・バブレのインタビューには、手塚治虫作品から“人道的”なものの見方に特に影響を受けたと述べられている。
先に紹介した『カーボン&シリコン』は、まさにその言葉を裏付けるような作品になっていた。

またマチュー・バブレが手塚治虫の「メトロポリス」を初めて知ったのは、りんたろう監督、大友克洋脚本のアニメ版『メトロポリス』(2001) で、とても感動したということも語られている。
この『呪われしもの』もアニメ版の影響を色濃く受けていることがうかがえる。

『メトロポリス』

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巨大都市メトロポリスの建物を恐ろしいまでに細かく描きこんだ背景は、このアニメを見た人間の心に深く刻まれるほどの衝撃を与えるが、マチュー・バブレ作品で描かれる緻密で精細なまでに描きこまれた建物群はこのアニメを彷彿とさせる。

アニメ版『メトロポリス』に度肝を抜かれた方にも、ぜひマチュー・バブレ作品を読んでもらいたい。

森﨑 雅世

大阪・谷町六丁目にある海外コミックスのブックカフェ書肆喫茶moriの店主。海外のマンガに関する情報をTwitter、Instagram、Youtube、noteなどで発信しています。
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