ダニエル・クロウズ『ペイシェンス』皮肉な日常系作品が得意なクロウズが描く異色の純愛サイケデリックSF! | VG+ (バゴプラ)

ダニエル・クロウズ『ペイシェンス』皮肉な日常系作品が得意なクロウズが描く異色の純愛サイケデリックSF!

© Presspop inc.

『ゴースト・ワールド』『ウィルソン』……主人公の毒舌が小気味良いダニエル・クロウズのグラフィックノベル

私は毎週水曜夜20時半からYoutubeライブ配信をしており、毎回テーマを決めて海外マンガを紹介している。先日は「恋愛漫画」を取り上げた。

【YoutubeLive】海外マンガ紹介#50「一筋縄ではいかない‼独断と偏見で選ぶ恋愛漫画10選」

恋愛漫画といっても少女マンガのような直球ラブロマンスというよりは、かなり変化球なセレクションだったのだが、その中でも個人的に大好きな作品が今回ご紹介したいダニエル・クロウズの『ペイシェンス』(2019, プレスポップ) である。

ダニエル・クロウズといえば映画にもなった『ゴースト・ワールド』(2001, プレスポップ) や『ウィルソン』(2015, プレスポップ) をご存じの方もいらっしゃるかもしれない。

『ゴースト・ワールド』

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『ウィルソン』

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『ゴースト・ワールド』は高校を卒業したばかりの女子二人の日常を描いた作品。恋愛や将来に不安を抱く思春期の不安定な感情を周囲にぶつけるかのような、二人の毒舌女子トークが軽快で心地よい。

『ウィルソン』の主人公は冴えない独身男性。周囲の人間がかまうのは飼い犬ばかりで、カフェで出会う青年にくだを巻く。現実にいたらかなりめんどくさい中年男性の、どうしようもない人生を描く。

どちらも主人公が周囲の人間や社会に対して皮肉たっぷりに毒舌をまくし立てるのが小気味よい。一方、そうやって毒づかずにはいられない、主人公たちの満たされない不安定な精神に胸がじわっと来る。

このようにダニエル・クロウズの作品といえば、斜に構えた登場人物たちの日常を切り取ったスライス・オブ・ライフという印象があったのだが、今回紹介する『ペイシェンス』は全く異なる。タイムトラベルもののSF作品なのだ。

■時空を超えたサイケデリックな純愛SFラブストーリー『ペイシェンス』

『ペイシェンス』には副題がついている。

「ダニエル・クロウズによる永遠の愛の原始的無限空間を目指す宇宙的な時を超えた死の旅」

これだけではさっぱりどんなストーリーなのかわからない。しかし読んだあとにこの副題を改めてみると、これら抽象的な、ある意味哲学的ともいえる言葉の羅列がなによりもこの作品を体現していることに思わずうなずいてしまう。

『ペイシェンス』

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物語は2012年から始まる。主人公のジャックには愛する恋人、ペイシェンスがいた。しかも彼女は妊娠している。今後のことを考えるとお金がないのが気がかりだが、ペイシェンスがいれば満ち足りた毎日。だが、その幸せな日々に突如として終止符が打たれる。ペイシェンスが殺害されたのだ。

恋人とまだ見ぬ子どもを奪われたジャック。警察はジャックが殺したんだろうと決めつける。証拠不十分で釈放されたが、犯人の手がかりはなく、警察は捜査する気がない。ジャックはひとり孤独に、犯人捜しを始める。

そして瞬く間に月日は流れ、2029年。白髪頭になったジャックはいまだに犯人の手がかりを捜して彷徨っていた。偶然タイムマシンを開発したという男の情報を得たジャックは、マシンを奪い、二人が出会う前の過去に向かう。ペイシェンスの殺害を阻止するために……。

そこでジャックは目撃する。知らなかったペイシェンスの過去。そして、ジャックとともに暮らしていたときのペイシェンスの本心が明らかになっていく。

胸を打たれるのは、ジャックの一途なまでにペイシェンスを想う気持ちだ。それはやや常軌を逸した感まである。やがてジャックはタイムトラベルの代償を支払わなければならなくなるのだが、おのれの危険をかえりみることなく、ひとえにペイシェンスが生き延びる未来を実現しようと突き進む老境にさしかかった男の姿が哀れに切ない。

加えてこの作品で目をみはるのが、レトロフューチャーな近未来描写だ。

タイムマシンが開発される2029年の街並み。青や緑の肌の娼婦たち。試験管のようなアルコールのグラス。チープ感のある携帯タイムマシンの形状。サイケデリックというしかない色彩の奔流。まるで70~80年代に未来的と考えられていたような世界観で、どこか懐かしい。

それは表紙や裏表紙を見ているだけでも感じられるだろう。

© Presspop inc.

『ペイシェンス』映画化!監督は『ザ・ディスカバリー』のチャーリー・マクダウェル

本作はアメリカのファンタグラフィック社から原書が刊行された2016年に映画化の話が出ていた。その後、いつまでたっても進展がなかったのだが、2020年10月に米Deadlineで待望の続報が舞い込んだ。

それによるとチャーリー・マクダウェルが監督を務めることが決定したらしい。

チャーリー・マクダウェル監督といえば、『時計じかけのオレンジ』(1971) の主演マルコム・マクダウェルの息子で、これまでに『ザ・ワン・アイ・ラブ』(2014)、『ザ・ディスカバリー』(2017) といった映画作品を手掛けている。

『ザ・ディスカバリー』は、死後の世界を証明した科学者を父に持つ男のラブロマンスで、2017年サンダンス映画祭で初上映されたSFインディース映画。現在、Netflixで配信中だ。

『ザ・ディスカバリー』(Netflix)

映画「ペイシェンス」の公開が果たしていつになるのかはまだ不明だが、原作コミックのサイケデリックな表現がどのように映像化されるのか、非常に楽しみである。

 

森﨑 雅世

大阪・谷町六丁目にある海外コミックスのブックカフェ書肆喫茶moriの店主。海外のマンガに関する情報をTwitter、Instagram、Youtube、noteなどで発信しています。
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