書き手のためのNFT&メタバース入門 NFTの課題と可能性とは? マーベルと個人作家は一緒じゃない | VG+ (バゴプラ)

書き手のためのNFT&メタバース入門 NFTの課題と可能性とは? マーベルと個人作家は一緒じゃない

書き手のためのNFT&メタバース入門!

“NFT”“メタバース”がバズワードとして日常的に使われるようになった2021年。NFTへの投資熱が高まり、Facebookが社名を「メタ」に変更、作家の小野美由紀が短編小説をNFTで販売するなど、話題に事欠かない。

SFメディア バゴプラは、2021年4月に作家の宮内悠介が文庫『超動く家にて』(創元社SF文庫) の刊行に合わせて発売した告知ツイートのNFTを落札(作家の新しい在り方を模索する賛同しての入札だったため、落札にあたっては読者への還元キャンペーンを実施した)。

その後、バゴプラが運営するKaguya Planetでは、9月に宮内悠介によるブロックチェーンを題材にしたSF小説を発表。10月には宮内悠介のインタビューを公開し、その中では実際にNFTを販売した作家としてNFTが持つ可能性について語って頂いた。

同インタビューはKaguya Planetの会員になると読むことができる

一方で、それがなんだか遠い世界の話のように思える方もいるかもしれない。今回は、バゴプラを運営するVGプラス合同会社エグゼクティブ・ディレクターの齋藤隼飛と、小説の書き手でブロックチェーン&クリプト事情に詳しいハギワラシンジが、「書き手にとってNFTとメタバース」というテーマで対談。NFTが抱える課題と可能性について、初歩から分かりやすく情報をシェアする。

ハギワラシンジ プロフィール
小説の書き手。2021年、“未来の色彩”をテーマにした第二回かぐやSFコンテストでは、「あやかあざやか」で審査員三名の選外佳作リスト入りを果たす。空の鏡社の『伍糸布集』(2021) に寄稿している。ツイキャスで小説を初見実況する「ブンゲイ実況」が人気。ブロックチェーン・クリプト事情に詳しく、メタバース上での小説販売を目指している。 Twitter

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齋藤隼飛 プロフィール
SFメディア バゴプラを運営するVGプラス合同会社エグゼクティブ・ディレクター。大学時代は社会保障/ベーシックインカムを専攻。2017年まで米国で教育業に従事しながらマネジメントを学ぶ。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(2019)。仮想通貨やNFTに使われるブロックチェーン技術が持つ可能性を信じている。 Twitter

NFTって何?

齋:何から話せばいいんでしょうね。

ハ:ブロックチェーンとは、みたいなことからいきましょうか。そもそも齋藤さんがブロックチェーンや仮想通貨に関心を持つきっかけって何だったんですか?

齋:アメリカから帰ってきたのが2017年9月ごろで、ちょうどその時に仮想通貨が盛り上がってたんですね。

ハ:結構イケイケになってくる時ですね。僕が知ったのも2017年の春とかだったんですよ。ビットコインがまだ14万円とかの時です。

齋:懐かしいですね(笑)その時に、藤井太洋さんの『アンダーグラウンド・マーケット』(2015) っていう仮想通貨を扱ったSF小説を読みました。既存の経済システムから排除された移民の人たちと日本の若者たちが仮想通貨を使って地下経済圏を作るというお話で、社会におけるツールとしての仮想通貨やブロックチェーンに可能性を感じた時でした。

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ハ:僕は入りが完全に投資目的だったんですが、でも調べていく内にすごく面白いということに気が付きました。

齋:まず、仮想通貨の根幹にブロックチェーンという技術がある。今までは国や銀行が通貨の信頼性を担保していました。しかし、ブロックチェーン技術で事実上改竄ができないデータを作れるようになったことで、民間の会社や一般の人でも通貨を発行できるようになった。それが仮想通貨ということですよね。

ハ:日本が発行主体となっているのが日本円、アメリカだったらドルとか。ブロックチェーンという技術を介すると、僕らが通貨を発行できる。独自の経済圏を持てるようになるよっていう話があります。

齋:今話題のNFTというのは、通貨ではなく絵や小説、3Dのフィギュアといったあらゆるデジタルデータにブロックチェーンで印をつけることで、現実に存在してる物体と同じように世界で一つだけのデジタルアイテムが作れる、それがNFTですよね。まだあんまりNFTについて人と話すことがないので、合ってるのかなという感じですが(笑)

ハ:自分では理解した気はするんですが、人に話すのは難しいですね(笑)NFTというのは「ノン・ファンジブル・トークン(Non-Fungible Token)」の頭文字をとった言葉で、「ノン・ファンジブル・トークン」というのは「非代替性トークン」という意味です。非代替ということは、代わりがきかないということですね。

齋:コピペもできなくて、世界に一つのデータということですね。

ハ:そのNFTを使うことによって何ができるか、というのは説明が難しいんです。一枚の絵のデータを見せて「これがNFTです」って言っても、「は?」って感じじゃないですか(笑)

齋:そうですね。外見上は今までもあるものですからね。

ハ:なので、まずメタバースの話をして、そこにNFTが乗っかるという仕組みが分かればいいのかなと思っています。

メタバース&NFTとゲーム

ハ:メタバースというのもNFTと密接に関わってくるわけですが、メタバースというのは仮想空間上の生活圏というイメージですね。メタバースってこういうものだよっていうの、ありますか?

齋:仮想上の生活空間ですよね。「メタバース」は元々SF用語で、今度早川書房さんが復刊されるニール・スティーヴンスンさんの『スノウ・クラッシュ』(1992) に登場する言葉です。今までもメタバース自体は存在していて、例えば「どうぶつの森」といった仮想空間上で活動するゲームですね。Facebookが社名自体を“メタ”に変えて話題になっているので注目されていますが、あれは会議や日常のコミュニケーションをメタバースの空間でやりましょうということです。

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ハ:Facebookだと、仮想空間を作ってそこにVRを組み合わせて、色んな生活ができるよってことをザッカーバーグがプレゼンしていました。

今「どうぶつの森」の名前が出ましたが、NFTはゲーム分野にも使えて、GamiFiやNFTゲームと呼ばれるNFTを使ったゲームが存在します。以前は“ブロックチェーンゲーム”と呼ばれていました。

端的に言うと、ゲームで遊びながら仮想通貨を稼ぐことができるんですよ。そう言うといやらしいんですが、実際にそうなんです(笑)“Play-to-earn”と言うのですが、NFT系のゲームで有名なのは『アクシーインフィニティ』とか、『マイクリプトヒーローズ 』とか、日本だったら『エグリプト』とか。カードゲームを想像すると分かりやすいんですが、『ウィッチャー3』のグウェントとか、ゲーム内のカードゲームを想像していただいた時に、カード一つ一つがNFTになっているということです。カード一つ一つが代替不可能なので既に価値があり、人に売ったりできます。

ゲーム内で育てたカードやキャラクターってどんどんレベルが上がって行きますが、普通のゲームだったらそれだけですよね。NFTゲームはそのキャラが非代替の存在として確立されるので、人と売買できるんです。『アクシーインフィニティ』はとても分かりやすくて、ポケモンみたいなものです。倫理的にどうなんだって気もしますが、ブリーダーとして育ててマーケット上で売ることができる。『クリプトキティーズ』っていうのが最初の方に出て、これが一匹2,000万円とかで売られることもありました。それでブロックチェーンゲームがもてはやされた時期があったんです。

つまり、ゲーム上で実際に自分の資産が持てるということです。『アクシーインフィニティ』で育てたキャラクターや『クリプトキティーズ』の猫たちは、私たちが費やした時間がそのまま資産になって残っているということです。

齋:私はアプリのゲームはあまりしないし、課金もしないんです。それは「どうせ消えちゃうから」っていう感覚があるからです。でもNFTだと残るので、気の持ちようは違います。さっき自分のTwittterで動画を投稿したんですが、これはNFTなんです。ゾンビハンター・スパイダーマンのフィギュアをNFTで購入しました。

ハ:へぇ、すご!

齋:パッと見ただたのデジタルフィギュアでしかないんですが、実際にはNFTで通し番号が付いています。そんなにレアなものではありませんが、一応世界で18,200体だけ発行されたものなんです。

ハ:いいっすねぇ。

齋:発行数が多いので価格は上がらないと思うのですが、これなら持っててもいいし、いらなくなったら売れます。元は50ドルだったんですが、今(2021年11月1日時点)はマーケットで54ドルくらいでやり取りされています。なので、気の持ちようが全然違う。

ハ:それはありますね。ゲームとかやってて母体のゲーム会社がサービス終了したら終わりじゃないですか。費やした時間やお金や愛着も全てなくなってしまう、虚無に戻るわけですよ(笑)NFTなら、ゲームが消えたとしても別のゲームに持っていくことができたりするんです。ゲーム間を跨いでキャラを行き来させることもできる場合がある。その場合は、自分がゲームに投じた時間は無駄にならないんです。

マーベルも狙うNFT・メタバース

齋:この動画を見て分かる通り、今マーベルがNFTに参入していて、VeVeっていうサービスでNFTアイテムを販売しています。そのVeVeは近い内に「VeVeバース」というサービスを公開すると言っています。さっきの動画の部屋は私のギャラリーでしかないんですが、VeVeバースになると皆で交流できるようになって、自分のフィギュアやマーベルのコミックを見せあうことができるようになるそうです。

VeVe

ハ:ほんとに『どうぶつの森』みたいになるんですね。

齋:あと気になってるのは、今回マーベルが『エターナルズ』という映画を公開した時にARアプリを新しくリリースしたことです。『エターナルズ』のキャラクターや世界観をARで目の前に再現できるというアプリを突然出したり、最近もSkyDanceっていう『ウォーキング・デッド』のVRゲームを出している会社のグループ企業と提携を発表したりしているんですね。マーベルはコンテンツの会社なのでハードの開発はやらないと思うのですが、そういうAR・VR系の企業と提携して、尚且つ今NFTアイテムをどんどんドロップしているというのは、おそらくマーベルもメタバース的なことが広がっていくと見てるんじゃないかなと思ってます。

あと先日、マーベルの親会社のディズニー本体もVeVeとの提携を発表しました。ディズニーコンテンツがどんどんNFTで出てくることになりそうです。

ハ:それがメタバースと接続されるってことですよね?

齋:そうですね、Facebookのメタバースとは別で、VeVeが独自に作るVeVeバースというメタバース空間で使えるようになる見込みです。あと、今NFT家具っていうのが売れてて、メタバース空間ができた時にNFT家具を置いて、部屋なりオフィスなりを飾っていく。その中にマーベルのコミックがあったり、スパイダーマンのフィギュアを置いたり、そういう感じになっていくんでしょうね。

ハ:いいですね。

土地収入生むメタバースも

ハ:『サンドボックス』って知ってますか? 『サンドボックス』がNFTとメタバースを組み合わせたゲームの中でも良い感じのやつなんですよ。『マインクラフト』みたいなピクセルのゲームなんですけど。

齋:へぇ。

ハ:ソフトバンクやスクウェア・エニックスが出資している香港の会社が運営しているんです。メタバースっていうのは仮想空間ですが、『サンドボックス』も、もちろんメタバース=仮想空間があるんですね。『サンドボックス』の場合は、そこに“ランド”っていう概念があります。つまり土地の概念があって、『サンドボックス』上で土地を買えるんです。自分が所有している土地では皆で遊ぶゲームを作ったり、部屋を作ったり出来ます。自分の国(土地)で自分のゲームを作ったら、皆がゲームをするために自分の国に遊びに来てくれる。そのゲームの賞品をNFTで出して、みたいな。お金は全て$SANDという通貨でやりとりをします。それで、仮想空間上で土地収入も生まれるんですよ。住民税じゃないんですけど。

齋:入場料みたいなね。

ハ:夢もあるんですけど、ちょっと嫌なポイントでもあります(笑)現実の世界と一緒で持てるものがますます富むじゃん、みたいなのはあるんですけど。それもロールとして楽しめれば良いのかなと思ってますけどね。

齋:FF14で麻雀ができるのは知ってますが、NFTゲームでは実際に通貨のやり取りが行われるということですね。

ハ:でもスクウェア・エニックスもNFT事業に乗り出してるんですよ。『ミリオンアーサー』っていうゲームがあるんですけど、『資産性ミリオンアーサー』っていうNFTコンテンツを出しました。

齋:(リリースを見て)へぇ、LINEブロックチェーンとやってるんですか。

ハ:LINEは日本のメガベンチャーの中では一番頑張ってますね。

文芸とNFT

齋:小説の書き手としては、NFTをテーマで書く人はまだ少ないから、狙い目なんじゃないですか?

ハ:どういうのがいいのかな、と思うんですよね。仮想通貨でも最初の方の段階である“送金と自分達の経済圏を作る”ってところをメインにした話は結構出てますよね。そこから発展して、NFTとかメタバースの小説はまだそんなにない。やるとしたらここからなのかな、という気はします。

齋:難しいのは、今その小説を読むのはNFTやメタバースに関心がある人っていうところ。

ハ:そうなりますね(笑)

齋:「分からない」っていう人に読んでもらおうとするとまた違った書き方になりますよね?

ハ:そうですね。どっちかに寄せるしかないのかな。でもメタバース上で小説を書くのが一番良いと思ってるんですよ。

齋:なるほど、分かりやすい。

ハ:メタバースにいる人たちなんだからメタバースのことは知っているし。メタバース上でNFT化された小説なり文芸作品を売るってことですね。

齋:一方で、仮想通貨もそうだったように、NFTには欠点と懸念もあります。マーベルやディズニーが参戦することは必ずしも良いことではないんです。既に人気があるIP(知的財産)、例えばバットマンやスパイダーマン、ハロー・キティなどの権利を持っている会社は最初から強い。しかも、現実の物体のフィギュアと違って、無限にNFTアイテムを発行できるわけです。工場のラインを押さえてとか、発送してとかという過程がいらないので、NFTのフィギュアは大量に発行できちゃうんですね。

つまり、消費者からすると現実空間以上にお金がかかりそうな臭いがするのがメタバースなんです。家具を買ったりね。大手IPのNFTアイテムがどんどん投下され、皆そこにお金を費やしていくというのは、おそらく自然な流れになっていくと思います。

一方で、かぐプラで配信した宮内悠介さんのインタビューでは、作家さんが小説をNFTとして発行するという話をされています。これは全く違うベクトルの話ですよね。大手の会社が大量生産できるNFTと、個人の作家さんが一生懸命書いたものをNFTとして出すっていうのは、全然違う。前者については、結構メディアでも話されているし、世界的にお金儲けをしようとしている企業が群がっているところです。後者は個人の作家さんにとって、すごい可能性があります。ハギシンさんがメタバースで自分の小説をNFTとして売るっていうのは、作家さんの新しい生き方、活動の仕方だと思います。

ハ:その巨大な資本がNFTに参入することも含めて、NFTにはすっごい色んな問題があって、ここまで話したことって上澄の綺麗な部分の話だったんですよね(笑)

NFTと作家に関連した話で言うと、書き手が本を売ろうと思ったら、出版社やAmazonを介して本を出しますよね。でもクリプト界隈のクリエイターたちの間では、作家は第三者に依存し過ぎない流通を模索すべきだ、という議論が行われているんですよNFTはそういう販路になり得るわけです。作家はそういうのを持ってて良いと思います。

齋:ルネサンス期のパトロンみたいな感じでもあります。まだデビューしていない人がNFT小説を限定一個で販売して、ファンの一人が「その人の作品が好きだし、絶対この人売れるから」と思って、そのNFTを10万円くらい出して買うとします。その収入の分、書き手の人は執筆に集中できる。その書き手が何らかの賞を取るなりしてデビューして、芥川賞なりノーベル文学賞なりを獲った時に、最初にファンが10万円で購入した世界に一個しかないNFT小説は、めちゃくちゃ価値が上がってると思うんですね。絵画みたいにずっと持ってても良いんですが、投資家ならそれを売って、最初に投資した以上の額が回収できます。投資家としても嬉しいですし、作家としても可能性を見出してもらって支援してもらえるので、Win-Winですよね。

今その役割を担っているのは出版社で、新人賞を受賞するという段階まで行ってから、最初の印税を渡して、作家として育てていくという形になっています。でもNFTをうまく使えば、一個人でも作家を支援できる。お金を見返りなく投げ銭的にあげるということではなく、投資の一環としてクリエイターを支援できる可能性があるということですね。

出版社が作家を支えるという仕組みも大切です。一方で、デビュー前の書き手を、個人が「この人が成功したら自分にも利益が生まれる」という形で支援できるようになる可能性がNFTにはあるということです。

ハ:NFTマーケットに出品すればいいので、そこに出版社は介さないわけですよね。

齋:しかもその投資をした人は、リターンが生まれうるからその書き手さんをめっちゃ応援しますよ。めっちゃリツイートして拡散するんじゃないかな(笑)

NFTのロイヤリティを巡る課題

ハ:ちょっと良い話ばかり続きますが、NFTっていうのはロイヤリティを決めることができるんです。アートの追求権っていうのがあって、転売された時に生まれる利益を原作者は追求する権利があるんですね。もうヨーロッパくらいでしかやってないんで廃れてしまっています。著作が古本で売られても原作者に利益は入らないですよね。

でもNFTでは、二次流通で生まれた売買益の一部が作家に入るんです。それがNFTと作品の関係がもてはやされている理由の一つですね。

齋:宮内悠介さんのインタビューの中でも触れられていましたね。

ハ:インタビューを読んだ注釈としては、NFTでロイヤリティが発生するのは、特定のプラットフォーム上に限定した話なんですよ。現状では。最大手のNFTマーケットにOpenSeaというのがありますが、そのマーケットの中で流通したNFT作品については、売買が発生するとロイヤリティが発生します。

齋:つまり、OpenSeaで出品されたものがOpenSea内で売買される限りにおいては、原作者にロイヤリティが入ると。

ハ:そうです。ただ、NFT作品というのは、OpenSeaで売買する必要はないんですよ。他でも売れちゃう。他で売っちゃうと追うことができず、ロイヤリティが発生しないんです。

齋:OpenSea内で売買をするインセンティブがないとダメってことですよね。

ハ:現実的には厳しいですね。NFT界隈にも転売屋がいるので。OpenSeaでロイヤリティが取られるくらいなら別のところに売るよって人がね。

齋:つまり、著作権者にわたるロイヤリティの負担は売買する人にかかるってことですか。

ハ:そういうことになります。

齋:それは厳しいですねぇ。

ハ:厳しいですよね。なので、それも話し合われてはいるんです。NFTのやり取りに使われるイーサリアムという仮想通貨の規格を変えて、たとえNFTのマーケットが変わってもロイヤリティを追求できるのようにしようという動きがあります。そうならないとイーサリアムは生き残れないでしょうしね。

齋:なるほど!

ハ:ですから、現状ではまだNFTのロイヤリティの仕組みは完成していないんです。雛形はあるので夢は見れますけど。頑張ってほしいですよね。

齋:中古品としてマーケットで売買される際のロイヤリティの仕組みはまだまだ課題があるということですね。さっきの話で言うところのパトロンがクリエイターの支援のためにNFTを購入する形だと大丈夫ですよね?

ハ:それは大丈夫です。支援するファンも作家も嬉しいというのは崩れないと思います。ロイヤリティに課題ありって感じですね。

齋:すごい大事な話ですね。

NFTと所有権

ハ:今、Gaudiyっていう会社とGANMA!っていうマンガアプリが提携して、電子書籍のNFTの流通システムを作っているんですよ。これにはすごく期待しています。公式サイトを見ると「ユーザーは事業者の都合に左右されずに、書籍を所有・閲覧することができ、紙の本と同様に書籍を売買できます」と説明されています。更に「電子書籍が二次流通市場で売買された場合でも権利所有者に適切な収益が還元される仕組みも実現可能です」ともあります。さっきのロイヤリティの話でいうと、Gaudiyの中だけで回して行こうという話なのかなと思います。OpenSeaは世界に開かれているので、世界市場という意味では巨大ですがロイヤリティが追求できないという欠点があったりするわけです。規格を閉じちゃえばロイヤリティの追求も可能ってことなんだと思います。

齋:なるほど。

ハ:ただ、このプロジェクトの説明の中に「書籍自体の所有権をユーザーが保有できる自律分散型の流通システムを構築・提供します」とあるんですね。この「所有権」というのがクセものなんです。NFTに所有権って発生しないんですよ。

齋:え!? そうなんですか?

ハ:これがNFTの幻想を作っている原因の一つでもあるんです。NFTって所有権はないんですよ。

齋:法的に、ってことですか。

ハ:法的に、ってことです。ビットコインも、昔マウントゴックスっていう取引所が色々あって、皆が預けてた仮想通貨が取り出せなくなっちゃったんですね。裁判になったんですが、判決で「無理です」ってなっちゃいました。明らかにマウントゴックス社が悪かったんですけどね。なぜかというと、ビットコインには所有権がないからなんです。

齋:デジタルなものの所有権が法律で認められてないということですか。

ハ:そうです。所有権というのは、民法で「法令の制限内においてその所有物を自由に使用・収益・処分できる」権利とされているんですけど、この対象が有体物と決められているんですよ。

齋:物体ですね。

ハ:ビットコインは無体物なので所有権は認められなかったんです。利用者はマウントゴックス社が持ってたビットコインの引き渡しを求めたんですが、請求は棄却されてしまいました。

齋:ということはこのGaudiyのプロジェクトも、日本の法律が変わらない限りは本当の意味でユーザーが所有権を持っているということにはならないってことですか?

ハ:というか、世界的にそうなんです。NFTは所有権を売買しているわけではないんです。

齋:ほえー。

ハ:じゃあ何を売買しているのか(笑)幻想ですよね。でもGaudiyのこれは、「所有権」っていう言葉を変えて、普通に「NFTを売買する」っていう言い方にすればいいだけです。

齋:現実においても所有権って裁判所とか法律でしか示されないじゃないですか。メタバースが広がって仮想空間で本を持ったり家具を持ったりして生活することが進んでいくと、一気に無形物の所有権を認める法律の整備が進む可能性もあるんでしょうか。

ハ:どうなんでしょうねぇ。

齋:でも「無形物の所有権」ってなんでしょうね(笑)

ハ:意味が分からないですよね(笑)もう一つ、所有権の要件があって、それは「排他的支配性が認められるかどうか」です。「俺のものだ!」みたいなのが明らかに認められないと所有権が認められないってことですね。ビットコインは排他的支配性も認められていないので、所有権は認められていないんです。つまり、NFTもマウントゴックスみたいになった時に、「NFT返してくれ」って言っても返してくれない、補償が成り立たないということになる可能性もあります。NFTの罠というか、怖いところはそこにあります。

NFTリテラシーが必要

ハ:他にも問題点はあるんですが、とりあえずNFTマーケットで自分が何をやり取りしているのかっていうのは確認した方がいいです。利用規約に書いてあったり、親切なところだと売買する時に表示されたりします。SBIがNFTマーケットを運営しているんですが、SBIでは取引が生じる時に何を売買するのかという説明が表示されますね。

齋:だいぶ丁寧ですね。

ハ:そこはちゃんと確認した方がいいですね。ANIFTYっていう二次絵を売買する国産のマーケットだと、利用規約第16条の「知的財産権」という項に書いてあるんですよ。

6. NFTアートの購入者(ユーザー)は、作品を表すトークンを保有するだけであり、作品自体や作品の著作権を取得するものではないものとします。

7. ユーザーは、購入したNFTアートを、限定された目的に限り(取得事実の公表、作品論評、NFTアート転売など)、オンライン上で展示する権利のみを取得するものとします。

はっきりと書いていますね。オンラインで展示する権利のみを売買するということです。所有権や著作権を取得するものではないと。所有権を買ったから商用的に利用してもいいよねって勘違いしちゃうと、NFTマーケットは助けてくれませんし、法整備もされていないので気を付ける必要があります。

齋:新しいものって法律がないですもんね。

ハ:事例がないですからね、当たり前なんですよね。NFTアートが盛り上がってますが、まずリテラシーが必要だと思います。作家も関わるなら、NFTリテラシーが必要です。

NFTとの付き合い方

ハ:あとは環境問題ですね。まずビットコインが送金するのに電力を使うんです。そういう設計になっていて、それが環境によくないよねっていう話があります。NFTはイーサリアムを使うんですが、今のところは送金に電気を使っちゃう設計なんですね。皆が使えば使うほど電力を必要として、それは環境に問題があるよねっていう話です。

齋:電力問題は仮想通貨の時もすごく言われましたね。私はその時は、紙のお金を刷ったり車で運んだりすることで生まれる環境負荷の問題には触れず、仮想通貨の方だけ問題視されるのが疑問でした。でもNFTの話となると、現実と仮想空間でダブルで生活圏を持つことになるので、仮想通貨の電力問題とはちょっと色が違う感じもしますね。大きくは娯楽だし。

ハ:それはありますね。ビットコインを送金する時に使われているのはPoW(プルーフ・オブ・ワーク)という仕組みで、これは電力がかかるけれど、セキュリティレベルが高い。OpenSeaなどのNFTのやり取りに使われているのはイーサリアムですが、これもPoWなんです。でもイーサリアムはPoWに環境負荷の問題があることが分かってるんで、もっとエコなものに変えようとしています。これをPoS(プルーフ・オブ・ステーク)というものに変えると電力が5分の1ほどになる、という反論はされています。エコにNFTを進めることもできるよ、っていうのがNFT推進派の人たちの意見です。

齋:そういう風に一つ一つの問題に対して批判もあり、反論もありという状況なんですね。

ハ:まだまだ議論がなされるべき領域です。アーティストとして関わるにしてもね。でもちょっと使ってみたいなって気持ちもあると思うので、「楽しそうだ。わーい」って言って行くのは全然ありです。メタバース上で自分の小説が売れたら楽しいですよ。

齋:とりあえず「使ってみよう」でいいんですかね。

ハ:その好奇心は全然抑えなくていいと思います。気を付けつつ。

ハギワラシンジ プロフィール
小説の書き手。2021年、“未来の色彩”をテーマにした第二回かぐやSFコンテストでは、「あやかあざやか」で審査員三名の選外佳作リスト入りを果たす。空の鏡社の『伍糸布集』(2021) に寄稿している。ツイキャスで小説を初見実況する「ブンゲイ実況」が人気。ブロックチェーン・クリプト事情に詳しく、メタバース上での小説販売を目指している。 Twitter

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齋藤隼飛 プロフィール
SFメディア バゴプラを運営するVGプラス合同会社エグゼクティブ・ディレクター。大学時代は社会保障/ベーシックインカムを専攻。2017年まで米国で教育業に従事しながらマネジメントを学ぶ。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(2019)。仮想通貨やNFTに使われるブロックチェーン技術が持つ可能性を信じている。 Twitter


 

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宮内悠介が小説と暗号通貨、NFTについて語ったインタビューはKaguya Planetで先行公開中。

 

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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