新「メタル・ユルラン」始動! メビウスが活躍したフランスの伝説的SFホラー漫画雑誌が2021年に復活! | VG+ (バゴプラ)

新「メタル・ユルラン」始動! メビウスが活躍したフランスの伝説的SFホラー漫画雑誌が2021年に復活!

©️Les Humanoïdes Associés

フランスの伝説的SFホラー漫画雑誌「メタル・ユルラン」の先行割引予約スタート!

 2021年6月10日、あるクラウドファンディングがスタートした。
プロジェクトページには次の見出しが踊る。 

”Métal Hurlant revient !
MÉTAL HURLANT RECRUTE SES PREMIERS ABONNÉS REFONDATEURS

「メタル・ユルラン」が帰ってきた!
「メタル・ユルラン」最初の再出資者を募集。

フランスの、もはや伝説的ともいえるSFホラー漫画雑誌「メタル・ユルラン」が2021年9月に再スタートを切るという。

このクラウドファンディングでは、9月の刊行に先んじて、創刊号や、1年または2年のサブスクリプションサービスが割引価格で提供されるほか、アーティストのポスターなどがついてくる。

ジャン・ジロー=メビウスが創設し、SFブームの一役を担った「メタル・ユルラン」

「メタル・ユルラン(Métal Hurlant)」は、1975年にフランスのユマノイド・アソシエ社によって創刊された。創設者のひとりは漫画家のジャン・ジロー=メビウス。『アンカル』(2010、小学館集英社プロダクション/2015、ユマノイド:パイインターナショナル)や『エデナの世界』(2011、TOブックス)をはじめとする作品で知られ、宮崎駿や大友克洋などのアーティストにも大きな影響を与えた、日本でもファンの多い漫画家だ。

メビウスと、『ローン・スローン』(2014、小学館集英社プロダクション)の邦訳もあるフィリップ・ドリュイエ、ベルナール・ファルカ、ジャーナリストのジャン=ピエール・ディオンヌによって創刊された「メタル・ユルラン」には、メビウスやドリュイエのほか、アレハンドロ・ホドロフスキーやエンキ・ビラルなど多くの漫画家が活躍するとともに、SF小説やSF映画、音楽やビデオゲームなどの記事が掲載された。「ヘビー・メタル(Heavy Metal)」という名でアメリカでも翻訳出版され、その人気を不動のものとした。

SF映画誌「スターログ」日本版でも取り上げられたことから、日本のSFファンでもご存じの方は多いのではないだろうか。

1970年代80年代のSFブームの一役を担ったといっても過言ではない、伝説的SF雑誌である。

しかし1987年に休刊。2002年にユマノイド・アソシエ社のアメリカ法人から再刊されるものの、それも2年ほどしか続かなかった。

その「メタル・ユルラン」が、なんと2021年9月に再スタートを切る。

若手SF作家を発掘できる新作号と、メビウスほか巨匠作品が復刊されるヴィンテージ号

新たな「メタル・ユルラン」では、3か月に1度のペースで、完全新作漫画を掲載する号と、テーマを設定して過去作を再掲載するヴィンテージ号が交互に刊行されるとのことだ。

ヴィンテージ号では、メビウスをはじめとした巨匠たちの、40年以上入手困難となっている作品も掲載されるようである。

創刊号は、完全新作漫画を中心とした号であり、225ページの短編漫画と60ページの記事・インタビューを含む288ページ。インタビュー記事としては、アメリカのSF作家ウィリアム・ギブスンや漫画家エンキ・ビラルが予定されている。

そして、参加アーティストには、以前、VG+(バゴプラ)でも記事を書いたフランスの若手人気SF作家マチュー・バブレや、日本では『かわいい闇』(2014、河出書房新社)の原作者として知られるファビアン・ヴェルマン、『メカニック・セレスト』が「ユーロマンガ」で連載中のメルワンなど日本でも紹介されているフランス人作家のほか、ブライアン・マイケル・ベンディス、マット・フラクションなど著名なアメコミ作家の名も連ねられている。

なかでも目玉なのが、いまだ日本では紹介されていないが、この新「メタル・ユルラン」で編集委員も務める若き俊才ウーゴ・ビアンベヌ(Ugo Bienvenu)である。

フランスSF漫画界の若き俊才ウーゴ・ビアンベヌ

ウーゴ・ビアンベヌは1987年生まれ。パリの美術学校エコール・エスティエンヌを卒業したあと、フランス屈指のアニメーション学校ゴブランで映像を学ぶ。

映像制作やファッション広告分野でも活躍している彼のはじめての漫画作品は2014年に刊行されたDavid Vannの小説『Sukkwan Island』のコミカライズだ。漫画デビュー作ながら、ヨーロッパ最大の漫画の祭典、アングレーム国際漫画祭2015の公式セレクションに選ばれている。

そんな彼のSF漫画家としての名前を確固たるものとしたのが、2019年に刊行された『Préférence Système(システム環境設定)』である。

『Préférence Système

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フランスの漫画批評家とジャーナリストによって選定されるACBD批評グランプリを受賞、翌2020年のアングレーム国際漫画祭でも公式セレクションにノミネートされた。

トレイラー映像も素晴らしいのでぜひこちらもご覧いただきたい。

「Préférence Système trailer

 

ビッグデータ時代に限界が到来した近未来を描く『Préférence Système

『Préférence Système』の舞台は2050年代の近未来。

人類の情報はすべてデジタルデータ化されアーカイブされているが、その保存容量に限界が来ていた。そこで「預言者」と呼ばれる組織が、そのアーカイブが人類にとって必要であるか不要であるかを判断し、削除するデータを決定していた。主人公のイヴは、削除予定のデータのなかに、スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』を見つける。彼は「預言者」の決定に違反してこっそり自宅に持ち帰ると、家庭用ロボット「ミッキー」にそのデータを保存する。

人工知能の発達によりロボットに代理母の機能を担わせることができるようになっており、ミッキーはイヴと妻の子どもを身ごもっていた。データの漏洩が発覚し組織から追われる身となったイヴは妻とミッキーとともに逃避行の旅に出る……。

現在でも処理しきれないほど溢れかえった情報過多社会。記録媒体は紙からデジタルデータへと次々に移行され、記憶や知識をデジタルメディアやインターネットに依存しがちだ。そんなことを考えたときに、『Préférence Système』で描かれる、不要と判断したデータを抹消していく「預言者」による情報管理社会はぞっとさせられる。

またロボットによる代理出産など気になるテーマが散りばめられており、ウーゴ・ビアンベヌの視点の鋭さに、フランス国内での高い評価も納得である。

ちなみにウーゴ・ビアンベヌは現在、2022年公開予定で初の長編アニメーション映画『ARCO』の制作を進めているそうだ。日本公開されるかどうかは不明だが、こちらも気になる作品である。

さまざまな楽しみ方が可能な新「メタル・ユルラン」

このように2021年9月から始動する新たな「メタル・ユルラン」は新作漫画もかなり期待できるラインナップになっている。

新作漫画号で最近のSF漫画・作家を発見するのも良し、ヴィンテージ号でSFの巨匠たちの作品に再び出会うのも良し、新旧SF漫画を眺めるのも良し……さまざまな楽しみ方が可能な新「メタル・ユルラン」。

クラウドファンディングによる先行割引予約は2021年7月22日までだ。

「メタル・ユルラン」クラウドファンディング リンク

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森﨑 雅世

大阪・谷町六丁目にある海外コミックスのブックカフェ書肆喫茶moriの店主。海外のマンガに関する情報をTwitter、Instagram、Youtube、noteなどで発信しています。
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