Amazonプライムビデオで、フィリップ・K・ディック作品の映像化が続く理由 | VG+ (バゴプラ)

Amazonプライムビデオで、フィリップ・K・ディック作品の映像化が続く理由

via: 『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』© 1996-2019, Amazon.com, Inc. or its affiliates

Amazonプライムビデオとフィリップ・K・ディック

Amazonが手がけるフィリップ・K・ディック作品

Amazonが提供するAmazonプライムビデオでは、様々なSF作品が公開されてきた。2015年から配信を開始したドラマ『高い城の男』は、Amazonプライムオリジナルの看板作品として人気を博している。『高い城の男』は、SF小説家フィリップ・K・ディック (1928-1982) の言わずと知れた代表作を実写ドラマ化した作品だ。フィリップ・K・ディックの短編小説を原案にしたSFドラマアンソロジー『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』(2017-) は、英Channel 4が制作した番組だが、英国外ではAmazonが独占配信を行なっている。同作は、Netflixに対抗するいわばAmazon版『ブラック・ミラー』として、今後シリーズ化される可能性もあるだろう。

『高い城の男』は終了するも……

人気シリーズだった『高い城の男』は遂にシーズン4を迎え、これが最後のシーズンになることも明らかになっている。シーズン3では原作とは大きく異なる独自の展開を見せていたが、シリーズは長期化させず、高い人気を保ったまま物語の幕を閉じることになる。

一方で、1月末には、フィリップ・K・ディック作品の管理と実写化作品の制作を行うエレクトリック・シェパード・プロダクションズ (Electric Shepherd Productions) が、Amazonと新たな優先交渉権契約を結んだことが発表されている。今後もフィリップ・K・ディック作品の実写化は、Amazonプライムビデオが優先的に担っていくことになりそうだ。

Amazonとディック作品を繋ぐ人物

『高い城の男』製作総指揮を務めた人物は……

なぜAmazonプライム・ビデオは、次々とフィリップ・K・ディックの実写化作品を手中に収めることできるのだろうか。実は、Amazonが新たな契約を結んだエレクトリック・シェパード・プロダクションズは、『高い城の男』、『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』の制作も手がけている。そして、同社の共同設立者であり、CEOを務めているのは、イサ・ディック・ハケット。何を隠そう、彼女はフィリップ・K・ディックの二人目の娘であり、『高い城の男』、『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』の両作で製作総指揮を務めているのだ。

スタジオトップによるセクハラを告発

イサ・ディック・ハケットとAmazonプライムビデオのオリジナル作品製作を手がけるAmazonスタジオの関係は、順風満帆だったわけではない。2017年、イサ・ディック・ハケットは、当時Amazonスタジオのトップであったロイ・プライスからセクハラを受けたことを公表した。その直前には、女優のローズ・マッゴーワンが映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインから性的暴行を受けたことをスタジオに相談したが、プライスにもみ消されたとの告発もなされていた。

Amazonがとった対応は…?

迅速な対応、数日後には……

イサ・ディック・ハケットの告発から数時間後、Amazonはロイ・プライスの停職を発表。数日後にはプライスの辞任が発表された。Amazon内部からセクハラが起きたことは事実だが、Amazonが、トップであろうと性暴力は許さないという態度を示したことも事実だ。セクハラ加害者を去らせる、という判断をAmazonが下せなければ、フィリップ・K・ディックの作品がAmazonプライムビデオの作品として制作され続けることもなかっただろう。

ディック作品製作の裏に見える信頼関係

プライスの辞職後、Amazonスタジオのトップには女性 (元NBCエンターテイメント社長のジェニファー・ソルク) が就任している。この一件以降も『高い城の男』の製作が継続されたこと、同作の最終シーズン公開を前にしてエレクトリック・シェパード・プロダクションズとAmazonが新たな契約を締結したことから、イサ・ディック・ハケットとAmazonの信頼関係は継続しているということがうかがい知れる。この一件への対処を誤らなかったことが、Amazonスタジオがフィリップ・K・ディック作品を手がけ続けることができる理由だとも言える。
発表から数十年経ったフィリップ・K・ディックの作品が次々と実写化される——これに対するマーケット上の理屈はいくらでも並べられるだろう。だが、どんなに偉大な作者による偉大な作品も、その製品化や実写化を担うのは、現代に生きる生身の人間だ。イサ・ディック・ハケットの勇気ある告発に対するAmazonの迅速な対応は、今後、映像制作の世界に限らず、一つのモデルケースとなっていくだろう。

VG+編集部

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