「短編小説には対価を支払う価値がある」
米SF誌編集長が提言
SFファンタジー作品の配信・出版を行うクラークスワールド・マガジン (Clarkesworld Magazine) より、編集長ニール・クラークの呼びかけが話題になっている。クラークは、「最近考えていること」として、「短編小説には対価を支払う価値がある」と書かれた画像を自身のTwitterに投稿した。
Lately I’ve been concerned that one of the legacies of online magazines (like mine) will be the devaluation of short fiction. It may be available for free, but it doesn’t mean it isn’t without cost or value. Authors, editors, and staff of these publications deserve to be paid. pic.twitter.com/5dSTXnXztp
— clarkesworld (@clarkesworld) 2019年3月20日
この投稿の中で、クラークは、自身のメディアを含むオンラインマガジンが、「短編小説の価値を引き下げているのではないか」と指摘。続けて以下のようにコメントしている。
無料で読めてもいいでしょう。しかしそれは、コストがかかっていないとか、価値がないということではありません。著者、編集者、そして出版社のスタッフには対価が支払われるべきです。
SF賞常連のウェブジン
クラークスワールド・マガジンは、2006年から続くSFファンタジーマガジンだ。毎月、マガジンをウェブ上で公開した上で紙媒体の発売も行っている。同誌は、SF最高賞のヒューゴー賞では、半商業誌を対象としたセミプロジン部門を計3度受賞。小説部門においても常連で、過去複数回、同誌に掲載された短編小説が各SF賞にノミネートされてきた。ヒューゴー受賞者のピーター・ワッツやN・K・ジェミシンもまた、同誌で短編小説を発表している。
クラークスワールドのビジネスモデル
今回、その編集長であるニール・クラークが「短編小説はタダではない」との提起を行ったのだ。では、短編小説が無料で読めるクラークスワールド・マガジンでは、どのようにしてその“対価”を得るというのだろうか。
同誌では、後援者 (patron) を募るシステムを採用している。一本ずつの作品を”購入”するのではなく、継続的にそのメディアを“支援”する仕組みだ。月額2〜15ドルで後援者になったユーザーは、価格帯に応じた特典を受け取ることができる。最も安いプランでは、同誌への氏名の掲載および会員限定のチャットルームへの参加がその特典だ。高価格帯のプランでは、電子書籍として雑誌を購読できるEブック・サブスクリプション、紙媒体で購読できるプリント・サブスクリプションも提供。海外発送料を上乗せしたアジアを含む海外向けの購読プランも提供している。
“Netflix型”に移行すべき?
ニール・クラークの呼びかけに、ユーザーからは、“Netflix型”のサブスクリプションを提案する声もあがっている。無料での公開を終了し、完全会員制にするという提案だが、クラークはビジネス上の理由で否定的な見解を示している。作家にとっても、作品が無料公開されることで広く一般に触れてもらえる機会になることは確かだ。無料公開された短編小説の中から、これまでに多くの優れた才能が登場してきた事実は無視できない。
メディアのあり方とは
ニール・クラークは今回、「著者、編集者、そして出版社のスタッフには対価が支払われるべき」という当たり前のようでいて忘れられがちな事実を提示し、世論を喚起した。そして、基本無料でウェブ上で閲覧できるというシステムは維持しながら、そのシステムが成り立つように支援者を募る——これが、クラークスワールド・マガジンが出した一つの結論だ。
近年アメリカでは、WIREDやThe Vergeら大手ウェブメディアが、ピーター・トライアスやケン・リュウといった著名作家のSF作品を無料公開している。
クリエイターの表現の場、メディアの生存戦略、労働への正当な対価、そしてジャンルを支えるコミュニティのあり方……様々な要素が複雑に交錯するこの問題。メディアの最善のあり方とは、どのような形なのか。今回投じられた“一石”をきっかけに、考えてみる必要があるだろう。
Source
Clarkesworld Twitter