SFが果たす役割
世界がコロナ禍に陥る中、小松左京『復活の日』(1964) をはじめ、世界的な感染症の拡大を予見した作品が再評価されている。未来に備えるためのツールとしてのSFに、改めて注目が集まっているのだ。
一方、SF作家で翻訳家のケン・リュウは、2019年5月に「SFが描いたテクノロジーの進歩はなぜ現実にならないのか」というテーマでスピーチを行い、その内容は話題を呼んだ。詳細は以下の記事からご覧いただきたい。
そして、日本で2020年6月12日(金)に『第五の季節』が発売されるSFファンタジー作家のN・K・ジェミシンもまた、SFファンタジーが果たす役割について、興味深い回答を提示している。
SFファンタジーは人々の意識を変えるか?
それは、2019年9月に配信された米PBSのインタビューでのこと。読者から、以下のような質問が寄せられた。
SFとファンタジーは白人異性愛中心主義を解体するために、特に役に立つジャンルだと思いますか?
司会者は「人々の意識、信念を変えるということですね?」と付け加えた。
この質問に対し、N・K・ジェミシンは以下のように回答している。
あらゆるアートは人々の意識を変えうると思います。そしてサイエンス・フィクションとファンタジーもアートの一つです。
そう思わない人が多くいることを知っています。でも、文学ですから。他のあらゆる文学と同じです。SFファンタジーが人の考え方を変えられるかどうかは、書き手の力量と、新しい考え方を受け入れる読み手の自発性にかかっています。
いたって冷静な見方である。SFファンタジーを特別なジャンルだと過信はせず、それでも他のアートと同じように力を持っていると信じた上で、書き手の力と読み手の態度が重要な要素になることを指摘している。
確かに、小松左京の『復活の日』が再評価されている現状は、読み手の環境・態度の変化によるところが大きい。『復活の日』という作品は、ずっとそこにあったのだから。
SFは今では社会に広く浸透しているが、かつては“子ども向け”とされて、まともに取り合ってもらえない時代もあった。N・K・ジェミシンのこの冷静な回答は、改めて世界中からSFというジャンルが注目されている今だからこそ、心に留めておくべき助言だと言える。
N・K・ジェミシンの小説『第五の季節』の日本語版は、東京創元社より2020年6月12日(金)に発売される。
『第五の季節』はSF最高賞ヒューゴー賞で前人未到の三連覇を達成した三部作の第一弾。詳細は以下の記事から。
よしながふみの漫画『大奥』に影響を受けたというN・K・ジェミシンによる“SFの定義”は以下の記事から。
Source
PBS