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影響を受けたSF作品は『大奥』!? ヒューゴー賞3連覇のN・K・ジェミシンが語るSFの定義

N・K・ジェミシンに影響を与えた作品とは?

前人未到の3連覇作家が誕生

SF最高賞の一つとして知られるヒューゴー賞。今年は黒人女性SF作家のN・K・ジェミシンが『The Stone Sky』で長編小説部門を受賞し、前人未到の三連覇を達成した。そんなジェミシンがSF作家として成功するまでのストーリーは、以前VG+で特集したが、今回は彼女が影響を受けたというある作品に注目してみよう。

日本の作品への親近感

ジェミシンが影響を受けた作品とは、意外にも日本の漫画だ。ジェミシンは、ブログやインタビューなどで、ことある毎に『大奥』(2004-)に影響を受けたことを公言している。はやかわともこ作の『ヤマトナデシコ七変化』(2000-2015)もお気に入りの作品として挙げることもあり、日本の少女漫画を好んでいることが分かる。また、ジェミシンは自身も認めるゲーマーであり、RPGゲームはアメリカの作品よりも日本の作品の方が好きなのだとか。日本のコンテンツに親近感があることは確かなようだが、その中でも彼女がよく口にする作品の名前は、『大奥』なのだ。

なぜ『大奥』なのか

日本を代表する歴史改変SF

『大奥』は、2004年に連載が始まった、よしながふみ作の少女漫画。江戸時代の日本で、若い男性のみに感染する奇病が流行し、男性人口が激減した結果、女性が社会的に地位の高いポジションに就くことが当然となった世界が舞台。女性将軍の下、男性のハーレムに作り変えられた大奥を中心に、歴史に忠実な世界観で男女逆転の”if”を描いた歴史改変SFだ。2010年と2012年に二度実写映画化され、2012年にはドラマ化されている。漫画作品としては、N・K・ジェミシンが2011年に大賞を受賞したセンス・オブ・ジェンダー賞の特別賞の他、文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞をはじめ、国内外で数多くの賞を受賞している。『大奥』は、まさに日本を代表する歴史改変SF作品なのだ。

N・K・ジェミシンが語る『大奥』

そんな『大奥』の魅力を、N・K・ジェミシンは自身のブログで以下のように綴っている。

男性が死んでしまう流行病によって性別(の社会的地位)が逆転する作品はたくさん読んできたわ。若い頃に一通りフェミSFを読んできたの。今でも読んでいるのは『大奥』ね。よしながふみが書いた、私のお気に入りの漫画よ。男性が死んでしまう病が流行った数十年後の徳川時代を舞台にしていて、女性将軍のハーレムに生きる男性に焦点を置いているの。『大奥』はジェンダー逆転モノとして、とても良いお手本になる作品よ

by N・K・ジェミシン

ジェミシンは、どんなインタビューでもオススメの作品や今読んでいる作品を聞かれると、決まって『大奥』の名前を口にする。つまり、数あるSF作品を読んできたジェミシンにとっても、『大奥』は頭一つ抜き出た作品ということである。もちろん、男女逆転モノという内容だけではなく、よしながふみによる人物描写の技術にも賛辞を送っており、トータルで高く評価していることも確かである。

SFの定義とは

『大奥』ってSFなの?

それにしても、『大奥』がSFということにしっくり来ない方もいるのではないだろうか。だが、歴史改変SFは、フィリップ・K・ディックの『高い城の男』(1962)、DCコミックスの『ウォッチメン』(1986-1987)など、世間一般にも広く親しまれているジャンルの一つだ。SFは、何も科学技術を駆使した作品だけをSFと呼ぶのではない。2016年のヒューゴー賞長編小説部門初受賞の直後にThe Atlantic誌からインタビューを受けたジェミシンは、SFの定義について、以下のように語っている。

社会科学も科学の一つよ。機械や科学に対するのと同様、人間を探求する為に、サイエンス・フィクションの“フィクション”の部分に敬意を示さないということは、筋が通らないわ。

by N・K・ジェミシン

ジェミシンは、サイエンス・フィクションがフィクションという機能を通して、自然科学だけではなく、社会科学(social science)をも扱うジャンルだと主張している。社会科学とは、人間が生きる社会を科学的に、つまり理論的に研究する学問のことだ。もし、男女の役割が逆だったらこの社会はどうなっていたか、もし、宇宙人が攻めてきたら人間社会はどう対応するのか——こうした疑問を、理論的な物語を用いた思考“実験”を通して解明していくことが、SFが果たすことのできる役割の一つなのだ

“リアル『大奥』”時代の到来

そんなN・K・ジェミシンがトップをひた走るSF界では、今年のヒューゴー賞小説部門の受賞者が全員女性作家という結果になった。これは一昨年に続き、二年連続の出来事だ。SF界にとっては、長らく白人男性優位の時代が続いていた同賞の歴史を覆した、“リアル『大奥』”時代の到来である
私たちは、こんな未来が来ることを、男女逆転モノの歴史改変SFから学び、想像することができていただろうか。『大奥』をファンタジーとしてではなく、来たる未来へ向けてのヒントとして受け止めることができていただろうか。できていなかったとしたら、私たちには、まだまだSFが足りていないのだろう。

『大奥』は、白泉社の『MELODY』で好評連載中。

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via: © 2018 N.K. Jemisin., © Laura Hanifin
– Source –
N.K. Jemisin Blog / Fantasy Book Critic / The Atlantic

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