日本語ラップとSF 宇宙に行ったラッパー達 | VG+ (バゴプラ)

日本語ラップとSF 宇宙に行ったラッパー達

宇宙に行ったラッパー達

ifの音楽

SFは“if−イフ”の物語を通して、世界の様々なあり方を私たちに見せてくれる。一方で、同じく“比喩”を得意とするのがラップ文化である。日本語ラップの歴史では、これまで様々な比喩表現が用いられてきた。時にはSF映画も顔負けの表現力で宇宙に飛び出してしまうこともしばしば。今回は、そのリリックで宇宙に行ってしまったラッパー達を紹介しよう。

「宇宙に行く」(2017) / PUNPEE

「宇宙に行ったラッパー」と聞けば、真っ先に思い浮かぶのがPUNPEEの「宇宙に行く」(2017) だろう。そのタイトル通り、PUNPEEが地球を飛び出して宇宙の楽しみ方を紹介していく。「不祥事あると地球じゃ公開処刑」「今朝のニュースもスキャンダルばかり」と地球での生活にウンザリしたPUNPEEは、冥王星の商店街で手羽先を頬張り、異星人の女性陣と共にポテトチップスとNetflixを愉しむ。「エイリアン達がもし襲ってくれたら 世界は一つになるかも」と想像するシーンは、映画『インディペンデンスデイ』を題材にしたライムスター「The X-Day」(2015) にも通じる。異星人の力を借りなければ団結できない地球人の愚かさを表現したラインだ。

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「ピザプラネット」(2015) / THE OTOGIBANASHI

逆に「地球が好き」というフレーズから始まるのはTHE OTOGIBANASHI「ピザプラネット」(2015) だ。壮大な銀河系の中で異星に住んでみたいとご機嫌にラップしたかと思えば、フックでは「自分たちはピザプラネットから来たという」内容が歌われる。実は“ピザプラネット”は、「カーズ」や「トイ・ストーリー」といったピクサー映画に必ず登場する隠れ要素の一つ。同局では「タランティーノ、撮ってくれよSF」という要求も飛び出す他、「like a バズ・ライトイヤー」とSF映画ネタを散りばめた一作となっている。

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「宇宙旅行」(2014) / stillichimiya

stillichimiyaのアルバム『死んだらどうなる』(2014) 収録曲「宇宙旅行」は、今回挙げる楽曲の中では“ハードコアSF”に当たる作品かもしれない。MMMによるワンバース目では「レイヤー構造の解析」など、宇宙船で異星に降り立つ際の確認作業がSF小説ばりに事細かに描写されている。なのにフックが「みんなで気軽に宇宙旅行」なのだから無茶苦茶である (褒め言葉)。Young-Gによる2バース目は全編SEXのメタファーとなっている他、田我流による3バース目ではよりソフトな惑星探査もののストーリーに。田我流が次々と描写していく未知の惑星での冒険についての情報量は、たったの16小節とは思えない代物。あっという間に脳内で短編SF映画が完成してしまう。

なお、同曲を収録している『死んだらどうなる』というアルバム自体、stillichimiyaのメンバーである田我流が「『2001年宇宙の旅』のモノリス的なアルバム」と形容する偉大な一作だ。

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「雲の上のHeaven」(2007) / ZEEBRA

意外なところではZEEBRAも宇宙に進出している。2007年発表の『World of Music』収録曲「雲の上のHeaven」での一節だ。テーマは「まるで気分は雲の上のHeaven」ということなのだが、舞台はZEEBRAが機長を務めるプライベートジェット。冒頭ではハリウッドやボリウッド、邦画に韓流といった映画の鑑賞を勧めてくれているが、2バース目では香港、インド、中近東、南欧、西欧、ニューヨークにまで連れて行ってくれる。そして最後には「下手すればスペースシップ」並みの性能であることが明かされ、「行こうぜ銀河の果てまで」と提案されたところからは一気に宇宙SFリリックに。「火星でゲトろうプール付きの別荘」「地球が沈むの見てから let me ride」と提案すると、最後にはリスナー達を「HIPHOP Heaevn」に連れて行くことを約束してくれる。

快適なプライベートジェットが段階を経てスペースシップへと変貌を遂げ、遂に地球を捨てて宇宙へ飛び出してしまう描写力はお見事。この曲が発表された約10年後にはテレビ番組「フリースタイルダンジョン」のオーガナイザーを務め、再び日本語ラップ人気に火をつけ、「HIPHOP Heaven」へ連れていくという約束を果たしたのだから、流石である。

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以上が、日本語ラップ界の中心で活躍するラッパー達が描いた “宇宙” である。地球/現実への嫌気と、宇宙/希望を目指すことを同時に描写していく姿勢は、奪われた歴史を歴史改変SFで復活させようというマイノリティSFの文脈にも通じるものがある。ヒップホップとは、直接的な表現とメタファーを用いた表現との絶妙なバランスで成り立つ音楽だ。なぜ宇宙にいくのか、宇宙に何があるのかを聴かせてくれる/見せてくれるラッパー達の姿をみれば、私たちを宇宙に連れて行ってくれるのは小説や映画だけではないということが分かるだろう。

VG+編集部

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