日本語ラップとSF ラッパー達が描いた未来

日本語ラップとSF

日本語ラップはSF向き?

SFというジャンルは、映画やアニメ、小説といったメディアにとどまらない。SF作品に影響を受けて育ち、それを自身の作品として昇華しているクリエイターは、音楽業界の中にも存在している。中でも、SFが日本語ラップと抜群の相性を誇っていることをご存知だろうか。ラップという表現手段における情報量の多さ、ヒップホップというカルチャーにおける先見性がその要因だろう。
今回は、SFと結びつけて語られることが少ない日本語ラップの中から、未来を描き出した楽曲を紹介しよう。ラップという手法ならではストーリーテリングが、そこにはある。

「未来予定図」(1998) / BY PHAR THE DOPEST feat. VOICE (from RADICAL FREAKS)

今や日本語ラップ界の大物となったKREVAとCUEZEROからなるヒップホップユニットBY PHAR THE DOPESTに、RADICAL FREAKSのVOICEが参加して制作された「未来予定図」は1998年の作品。98年から100年後、2098年の「巨大な未来都市」が舞台として設定されている。科学技術の進歩により人間の労働者は役立たずの存在に、ロボットが労働力として重宝されている世界だ。

科学の進歩と反比例するように人々の心は荒んでいくのだが、唯一ヒップホップだけは老若男女の心を満たしていく——車は空を飛び、月面への家族旅行が当たり前になっても、ヒップホップという文化が足りないものを届けてくれる——という内容のリリックで、重点が置かれているのはテクノロジーよりもむしろ人間の心や文化の方だ。各バースでもフックでも、先にテクノロジーの進歩を描いてから文化と心を描くという手法で、2098年になっても社会に根付き続けるものとしてヒップホップカルチャーを讃えている。「未来予想図」ではなく、「予定図」としているところに彼らの強い意志が伺える。

「2045」(2017) / SALU

人工知能の性能が人間の知能を上回る“シンギュラリティ”が起こるとされている2045年をタイトルに冠したSF作品だ。1バース目では、LINEで不倫に興じるなど未来になっても変わらない人の心を描写する。2バース目に入ると人間と同じように感情を持つAI搭載のロボットが登場、だが人間はロボットというだけで毛嫌いし、人間とロボットの間には埋めがたい溝が生まれ始める。この対立は核戦争に発展し、トラックの展開が変わる3バース目では核戦争を生き延びた子孫が人類に起きた出来事を詩に書き残す様子が描かれている。

3バース構成をうまく活用し、短編SF小説をんだような聴後感を得られる傑作だ。実際にSiriに「死ね」といった心無い言葉を投げかけた際に返ってくる「それでも友達でいていただけないでしょうか」という声をサンプリングするというアイデアも光っている。

「禁断の惑星」(2010) / Taboo1 feat. 志人

日本語ラップクラシックの一つにも数えられる「禁断の惑星」(2010)は、人類の行く末を描いたディストピアSFだ。経済発展と競争社会の行く末に、他の惑星をも侵略した人類や、核戦争の結果放射能汚染された地球の姿が、TABOO1と志人の鋭いリリックによって描写されていく。
志人は「君の住む楽園の100年後」「太陽なんてとうの昔に死んだよ」といったパンチラインと共に、放射能廃棄物再処理工場が置かれる六ヶ所村の問題を指摘する。人々が“神話”を信じた末のディストピアを描いたこの作品がリリースされたのは、3.11の原発事故が起こる前年だ。Taboo1は、ワーキングプアなどの問題にも触れつつ、「ファンタジーかマジか分かるいつか」「羨望を味わう孤独な独裁者よりも弱者を照らす輝くスーパースター」と現在の状況を予見するかのようなリリックを並べ、志人は「今すぐに知らぬふりはよせ」とリスナーに呼びかけていた。

なお、「禁断の惑星」は、タイトル自体が1956年に制作されたSF映画の金字塔『禁断の惑星』からの引用で、リリック中でも映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964) に触れている他、PVではアニメ映画『ファンタスティック・プラネット』の映像が使用されている。SF要素たっぷりの一曲なのだ。

「Cry」(2014) / ANARCHY

日本語ラップ界を牽引するANARCHYの「Cry」(2014) は「禁断の惑星」とは一味違ったディストピアSFだ。政府や権力者が送り込んだ武装兵が街を闊歩し、空気中には放射能が舞う。警察官は銃を奪われ、街はパニックに……押井守の『人狼』のような近未来ディストピアSFの空気を漂わせている。

ANARCHYがリリックの重点に置くのは、このようなディストピアに世界が変わり果ててしまった時に思い出す、“当たり前の幸せ”だ。人気の少ないレイトショーでのデートなど、当たり前の幸せは、社会が変容し、二度とそのような暮らしが手に入らないと分かってからその大切さに気づく。リリック中では、現代を「愛を見失うくらいに無駄な情報が溢れていた時代」と回顧する。社会の変容に無関心でいることが、いかに今当たり前だと思っている暮らしを奪い去っていくかということを、ディストピアを描くことで気づかせてくれるのだ。

このように、今回挙げた一部だけでも、様々なラッパーが様々なスタイルで未来を描き出す作品を公開している。音楽もまた、SFカルチャーの一旦を担っているということをお分かりいただけただろうか。これからもSFからインスパイアされた、同時にリスナーをインスパイアしてくれる日本語ラップを追いかけてみよう。

VG+編集部

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