【音楽解説】『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマ曲・主題歌・挿入歌、流れた音楽まとめ【サントラ】 | VG+ (バゴプラ)

【音楽解説】『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマ曲・主題歌・挿入歌、流れた音楽まとめ【サントラ】

© 2015 Geffen Records

初出:2020年6月8日

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で流れた音楽は?

ロバート・ゼメキス監督が指揮をとり、スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めたSF映画のクラシック『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)。第58回アカデミー賞では音響効果賞を受賞している。今回は、のちに大人気シリーズとなる「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の第1作目で流れた音楽に注目してみたい。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の劇中曲は1985年当時のクールな楽曲と、タイムスリップ先の1955年頃のクラシックな楽曲が入り混じった独特のセレクトが特徴だ。そして、何と言っても誰もが知るあのテーマ曲も外せない。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマ曲・主題歌・挿入歌・エンディング曲を全て見ていこう。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で流れた音楽まとめ

テーマソング「BACK TO THE FUTURE」

まずは作品の随所で流れる『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマソングから。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズの代名詞とも言えるテーマ曲は「BACK TO THE FUTURE」。今ではUSJのコマーシャルや「M-1グランプリ」のBGMでもおなじみの楽曲だ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の音楽を手がけたのはアラン・シルヴェストリ。実は、『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984)以降、ロバート・ゼメキス監督の作品は全てアラン・シルヴェストリが音楽を手がけている。

テーマソング「BACK TO THE FUTURE」は押しも押されもせぬ“ザ・ハリウッド”な一曲へと成長を遂げるが、アラン・シルヴェストリはその後も「プレデター」シリーズ、「アベンジャーズ」など次々とヒット作品の音楽を世に送り出している。もちろん『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)の音楽を手がけたのもアラン・シルヴェストリだ。

主題歌「パワー・オブ・ラヴ」

物語の冒頭、遅刻しそうなマーティが学校に向かっている時に流れている曲はヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「パワー・オブ・ラヴ」(1985)。ヒューイ・ルイス率いるヒューイ・ルイス&ザ・ニュースが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のために書き下ろした一曲だ。映画のヒットもあり、「パワー・オブ・ラヴ」は全米1位となる大ヒットを記録。同バンドを、延いては80年代アメリカを代表する楽曲となった。

「パワー・オブ・ラヴ」の歌詞は「金はいらない、名声もいらない、クレジットカードもいらない」「力強く、突然で、時に残酷。でも人生を救ってくれるものでもある。それが愛の力」という内容が歌われている。ヒューイ・ルイスのパワフルな歌唱も合間って非常にポジティブな楽曲に仕上がっている。

「パワー・オブ・ラヴ」のミュージックビデオにはドク役のクリストファー・ロイドがデロリアンに乗って登場。ヒューイ・ルイスが「ついにハリウッドからお呼びがかかったよ!」と聴衆に語っている。なお、ヒューイ・ルイスは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にもカメオ出演を果たしている。どのような役を演じたかは以下の記事でチェックしていただきたい。

マーティの部屋で「Time Bomb Town」

家に帰ったマーティは家族と夕食をとったあと寝落ちしてしまい、奇妙な体勢で寝ているところをドクからの電話で起こされる。このシーンで流れている曲は、UKバンド フリートウッド・マックのギタリストとしても知られるリンジー・バッキンガム「Time Bomb Town」(1985)。こちらも映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のサントラ用に提供された楽曲だ。

「奇妙な情報を得た、それ以外については考えられない」「私は孤独な変わり者」「この時限爆弾のような街で」という不思議な内容の歌詞になっている。なんとなくSFっぽさのある曲ではある……。

1955年に「Mr. Sandman」

1955年にタイムスリップしたマーティ。ヒル・バレーの街にたどり着いた時に流れている曲はザ・フォー・エイセス (The Four Aces) の「Mr. Sandman」。1954年に発表され全米ナンバーワンを獲得した楽曲だ。このように、マーティが時代を移動していることを音楽の面でも示している点が映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の特徴でもある。なお、「Mr. Sandman」は同年ザ・コーデッツが発表した同名曲がオリジナルであり、こちらも全米1位を獲得している。

“サンドマン”とは、ヨーロッパに伝わる伝承の一種で、魔法の砂で人々を眠りに誘う妖精のこと。楽曲「Mr. Sandman」では「ミスター・サンドマン、私に良い夢を見せてください」「私には大切な人がいないから、せめて夢を見させてください」という歌詞が歌われている。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも描かれている通り、1955年頃は家庭向けテレビや新型の自動車などが続々と登場し、アメリカが戦後の繁栄を謳歌していた時期でもある。一方で、公民権運動が拡大するきっかけとなったバスボイコット運動が始まったのも1955年。トヨタのような外資も入っておらず、黒人の地位も法的に保障されていない。好景気だが1985年ほどの慌ただしさと陽気さはなく、楽曲からもその雰囲気が伝わってくる。

Lou’s Dinerで「デイビー・クロケットの歌」

飲食店の“Lou’s Diner”に入ったマーティンは電話を借りる。このシーンでジュークボックスから流れている曲はフェス・パーカー「デイビー・クロケットの歌 (Ballad of Davy Crockett)」(1984)。この曲は1955年に公開されたディズニー映画『デイビー・クロケット 鹿皮服の男』のテーマ曲だ。

デイビー・クロケットとはテキサス独立戦争で戦い、アラモの戦いで戦死したアメリカの英雄のこと。その武勇伝は幾度も映画化され、「デイビー・クロケットの歌」も1955年以降、多くのシンガーによって歌い継がれている。歌詞の内容は「テネシーの山の頂上で生まれ」「3歳で熊を倒した」「たった一人で戦争を戦い抜いた」など、デイビー・クロケットの伝説が歌われている。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、レコードショップが「入荷しました!」という看板を立てて「デイビー・クロケットの歌」を宣伝している。後に歌い継がれる曲も、この頃はまだ新曲ということだ。

再びLou’s Dinerで「The Wallflower」

 

マーティの父ジョージは、ロレインをダンスパーティ (魅惑の深海パーティ) に誘うためにLou’s Dinerに入る。この時に流れているのはエタ・ジェイムス「The Wallflower」(1955)。徹底して当時のヒットソングを起用している。「The Wallflower」はR&Bチャートで大ヒットを記録し、2008年にはグラミー殿堂賞を受賞している。

歌詞の内容は「ヘンリー、私と踊って」「ロマンチックにいきたいなら、ダンスを学んで」というもの。当初タイトルとして設定されていた「Dance With Me Henry」は“性的すぎる”という理由で「The Wallflower=フロアで踊らない人」というタイトルに変更された。

魅惑の深海パーティで「Night Train」

ついに始まった“魅惑の深海パーティ”。バンドが演奏している曲は「Night Train」(1952)だ。元はジミー・フォレストが発表した楽曲で、数多くのアーティストによってカバーされており、1963年にはジェームズ・ブラウンがカバーしている。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではインストで演奏されているが、原曲の歌詞の内容は、「ナイト・トレイン=夜行列車」が停車する町の名前を並べていくというもの。公民権運動も拡大していない時期に、黒人差別の激しい南部から首都のワシントンD.C.、大都会ニューヨークへと飛び出していくという夢が、直接的な言葉を使わずに歌われている。

マーティが演奏する「アース・エンジェル」

いよいよジョージとロレインがダンスパーティで一緒に踊る。二人がキスできるようにマーティはバンドに加わり、ザ・ペンギンズ「アース・エンジェル」(1954)を演奏する。全米チャートで最高8位、R&Bチャートで3週連続1位を記録したヒットソング。

歌詞の内容は「地上の天使、私のものになってくれる? 愛しのダーリン、ずっと愛してる」というストレートなラブソングだ。ザ・ペンギンズのファーストシングルでもあり、アメリカポップミュージック史上初めて独立系レーベルからビルボード全米ポップチャートのトップ10入りを果たした曲としても知られる。

マーティが歌う「ジョニー・B. グッド」

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』における名シーンの一つ、ダンスパーティでギターを持ったマーティが歌うのは「ジョニー・B. グッド」(1958)。元は“ロックンロールの生みの親”とも言われるチャック・ベリーによる名曲だ。

曲の内容はニューオーリンズ出身のジョニー・B. グッド少年について歌われたもの。丸太小屋に住み、教育を受けていないがが、卓越したギターの腕前を持つジョニー。道ゆく人や母親はジョニーのギター演奏を褒め称える。片田舎でギターを弾く少年の背中を押すように、サビでは「Go ジョニー、Go ジョニー・B. グッド」と繰り返す。

マーティは1955年に存在しないこの曲を先取りして演奏している。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、マーティに演奏の機会を与えるマーヴィン・ベリーというキャラクターがチャック・ベリーのいとこという設定に。マーティの演奏を聴いたマーヴィンはチャック・ベリーに電話をかけてこの曲を聴かせる。

つまり、チャック・ベリーはマーティの演奏から着想を得て名曲「ジョニー・B. グッド」を生み出したということになる。だが、マーティはチャック・ベリーの「ジョニー・B. グッド」を聴いてこの曲を覚えた為、明らかにタイムパラドックスが発生している……というジョークが展開されているのだ。

なお、ユニバーサル・ピクチャーズの公式YouTubeでは、マーティが「アース・エンジェル」と「ジョニー・B. グッド」を演奏するシーンを公開している。

また、マーティを演じたマイケル・J・フォックスはパーキンソン病の闘病生活を経て、2016年7月にコールドプレイのライブに登場。「ジョニー・B. グッド」を演奏し、衰えないギターの腕前を披露した。

ラジオから「Heaven is One Step Away」

任務を果たし、1985年に戻ったマーティン。ホームレス状態にあるレッドのラジオから流れているのは、エリック・クラプトン「Heaven is One Step Away」(1985)。この曲は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のサントラとして提供された楽曲だ。

「天国まであと一歩」という意味のタイトルが付けられたこの曲では「夜中ずっと探したけれど私もあなたも見つけられなかった」「奴らは知ってる、天国まであと一歩だってことを」と繰り返し歌われている。それにしても米英ロック界の大物たちが集まった豪華なサントラである。

目覚ましから流れる「バック・イン・タイム」

1985年の自宅に戻ったマーティ。目覚まし時計から流れてくる曲は、主題歌も提供したヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「Back in Time」(1985)。こちらも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のために用意された楽曲で、エンディング曲としても採用されている。

歌詞の内容は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の内容をそのまま反映させたもので、「ドクター教えてよ、今度はどこにいくの」「50年代か、1999年か。いつの時代だってやりたいことはギターを弾いて、歌うことなんだ」「でも時間通り戻ってこれるって約束してよね」「雷は一度しか落ちないって覚えておいてね」などと歌われている。

この「バック・イン・タイム」というタイトルは、ドキュメンタリー映画のタイトルにも採用されている。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズにおける未来のタイムスリップ先として設定された2015年が現実世界で到来した際に、ロバート・ゼメキス監督やマイケル・J・フォックスらのインタビューを交えて製作された『バック・イン・タイム』(2015)がその作品だ。

映画『バック・イン・タイム』では、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズが社会に与えた影響や、実際にシリーズ内で描かれた未来のアイデアがどこまで実現したかについて迫っている。

映画『バック・イン・タイム』はAmazonプライムビデオで観ることができる。

以上が、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマ曲、主題歌、そして劇中で流れた音楽の詳細だ。1955年に流行していた曲と、映画のために作られ1985年に発表された曲とが入り混じり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という作品を作り上げていたのだ。

アメリカの人々は一定、ヒット曲と共に時代背景を捉えて映画を鑑賞しており、音楽を理解することはその映画を理解するためには欠かせない作業だ。何度も見てきたクラシック作品でも、音楽の意味を理解すれば、少し見方が変わるかもしれない。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』オリジナルサウンドトラックは、ユニバーサル インターナショナルから発売中。

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続編『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で流れた音楽の詳細は以下の記事から。

 

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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