SFアニメを原作にした日本語ラップ
ラッパーたちがアニメをラップに
VG+ではこれまで、日本語ラップという手法を用いて描かれたSF作品をご紹介してきた。ラッパーたちは言葉たくみに“未来”や“宇宙”を描き出し、各々のスタイルで重要なメッセージを発信し続けてきた。“日本語ラップSF”には、独自のストーリーを築き上げる楽曲もあれば、過去の映画作品や小説作品からインスパイアされた楽曲も存在する。そんな中でも今回は、日本最大のカルチャーの一つでもある“SFアニメ”を原作とした日本語ラップの楽曲をご紹介しよう。日本語で作られたアニメをインプットし、日本語のラップでアウトプットする——その過程を経た作品には、特筆すべきオリジナリティが存在しているはずだ。
「ライムボカン」(2007) / 随喜と真田2.0 feat. ICE BAHN
随喜と真田2.0 feat. ICE BAHNの「ライムボカン」はタツノコプロのSFギャグアニメ「タイムボカン」シリーズを題材とした一曲。HOOKは「どこから来たのか おつかれさんね」「どこまで行くのか おつかれさんね」と、『タイムボカン』(1975-1976) の主題歌の歌詞をまんま使い。冒頭の玉露のヴァースも「お仕置きだべ 年寄りじゃねぇが5時おきだぜ」と、いきなり名台詞を用いた6文字全踏みで始まる。その後も「説明しよう」「ポチッとな」など、『ヤッターマン』(1977-1979) を含む「タイムボカン」シリーズでお馴染みのフレーズを次々投入している。
アニメ『タイムボカン』では、その名の通りタイムマシーンで時空を移動したドタバタ劇が繰り広げられる。「ライムボカン」では、それを“ライム”に置き換えることで、韻巧者である5人が同作のドタバタでコミカルな世界観を再現している。
また、同じサンプリングネタを使用した「ダイナモンド」は、ICE BAHNのアルバム『OVER VIEW』(2008) に収録されている。このタイトルも『タイムボカン』に登場する宝石“ダイナモンド”を元ネタにしている。
「彼が去れば」(2004) / Kダブシャイン
「彼が去れば」は、映画『デビルマン』のサントラに収録された一曲。後にKダブシャイン自身のミニアルバム『自己表現』(2006) にも収録された。「彼が去れば」というタイトルは、アニメ『デビルマン』のテーマ曲における有名なライン「あれは誰だ」を全踏みしたものだ。この曲では、混沌へと陥る世界の様子とデビルマンの心情がかわるがわる描写されていく。「人間の中に潜む悪魔」という同作のテーマと、「人間たちを守る価値」について思い悩むデビルマンの姿を描き出している。
原作漫画の『デビルマン』では、そのストーリーは青春ヒーローものから始まるが、徐々に大きな物語へと移行していき、最後にはSF大作として完結を迎える。「彼が去れば」の個人と世界を同時に描き出す構成は、「デビルマン」という作品に対する深い理解の表れなのだ。また、世界の様子を伝える“ストリートのレポーター”としての態度は、Netflixオリジナルアニメとして制作された『DEVILMAN crybaby』(2018) に引き継がれた。この作品ではKEN THE 390、般若といったラッパーが参加し、毎回フリースタイルサイファーを繰り広げている。刻一刻と変化する世界の様子をラップで描き出し、ナレーション代わりの役割を果たしている。
「空を取り戻した日」(1997) / shakkazombie
アニメが原作というわけではないが、shakkazombieの「空を取り戻した日」は、『カウボーイビバップ』(1998)テレビ東京版版最終話「Session XX よせあつめのブルース」で使用された一曲だ。
現在知られている『カウボーイビバップ』は全26話の構成だが、テレビ東京で放映された当時は半分の全13話で放送され、後にWOWOWで全26話の完全版が放送された。ストーリーが大幅にカットされた背景には、当時のコンプライアンスによる表現規制の問題が複雑に関係している。
最終話「Session XX よせあつめのブルース」の内容は、コラージュのように切りはりされたアニメーションに、キャラクターたちがあらゆるジャンルの偉人の言葉を引用し、シニカルなセリフを織り交ぜながら24のパートに分けて淡々と語るというものだ。
「Part 24 イッツ・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」のタイトルが表れると、「空を取り戻した日」の哀愁漂うピアノのイントロが流れ、「THIS IS NOT THE END.」(これで終わりではない)「YOU WILL SEE THE REAL “COWBOY BEBOP” SOMEDAY!」(いつか、本当の『カウボーイビバップ』を見る日が来るだろう)というメッセージが表示される。楽曲は「空を奪われ明日が割れ 心蝕む闇が生まれ」と嘆き憂う言葉から始まり、「無限に拡がる青い世界へ逃亡 今本当の空へ飛ぼう」と希望の言葉で最後を締めくくる。歌詞は、まるで渡辺信一郎監督が最終話に込めた思いを代弁しているようだ。
なお原曲では、曲の冒頭と同じ嘆き憂う歌詞で終わる。このTV版の編曲は、嘆きで終わらせない渡辺信一郎監督の強い意志の表れなのかもしれない。渡辺信一郎 監督の表現力と、shakkazombieのMCであるOSUMIのリリカルな歌詞が見事にマッチした伝説の回となった。
「空を取り戻した日」はshakkazombieのアルバム『HERO THE S.Z.』(1997)に収録されている。
いかがだっただろうか。日本語ラップの作品には、アニメ作品に関連した楽曲が少なくない。今回はその中でもSF作品と関連した楽曲を取り上げた。ジャパニメーションと日本語ラップという独自の文化が合流し、更に深みを増していく。ラップの中のアニメ、アニメの中のラップを探し出してみるのもまた一興だ。