映画『トムとジェリー』解説 作品のこれまでとカートゥーンの歴史を“追いかける” | VG+ (バゴプラ)

映画『トムとジェリー』解説 作品のこれまでとカートゥーンの歴史を“追いかける”

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1940年2月10日公開の短編アニメーション『上には上がある(Puss Get The Boots)』以降、83年以上甥追いかけっこを続けてきたトムとジェリー。そんな二人の物語がリメイクされたのが、ティム・ストーリー監督作品の実写映画『トムとジェリー』(2021)だ。

「トムとジェリー」シリーズと言えば、誰もが知るカートゥーン・アニメーション作品の金字塔であり、アカデミー短編アニメ賞を7回受賞した唯一のキャラクターアニメーション映画でもある。その影響は世界中に広がり、「ワンピース」シリーズもその影響を受けていると言われており、同作にはオマージュと思われるシーンが散見される。

本記事はそんな「トムとジェリー」のこれまでの道のりを追いつつ、記念すべき2月10日の「トムとジェリーの誕生日」に金曜ロードショーで放送される実写化リメイクされた『トムとジェリー』について、ネタバレなしで楽しめるようにその歴史とあらすじを解説しながら“追いかけて”いこうと思う。

二人の“追いかけっこ”のはじまり

トムこと「トーマス・ジャスパー “トム” キャット・シニア(Thomas Jasper “Tom” Cat Sr.)」、もしくは「トム・D・キャット(Tom D. Cat)」と、ジェリーこと「ジェロム・A・マウス(Jerome A. Cat)」の二人を生み出したのはワーナー・ブラザース向けにアニメーションを制作していたメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)と契約を結んでいたウィリアム・ハンナ氏とジョセフ・バーベラ氏という二人のクリエイターだった。彼らは1937年にMGMがアニメーション制作部門を立ち上げると、ウィリアム・ハンナ氏は監督として契約し、同年に脚本家だったジョセフ・バーベラ氏も同社に入社した。そして1939年にコンビを組むようになった結果、世界一有名と言っても過言ではないネコとネズミのドタバタアニメがはじまったのだ。

話が進むにつれ、実写版『トムとジェリー』にも登場するキャラクターたちも描かれはじめ、ジェリーの従弟・甥っ子、もしくは孤児として登場するおむつを履いた灰色のネズミのタフィー/ニブルス(Tuffy/Nibbles)、トムの家の番犬でトムの天敵のスパイク(Spike Bulldog)とその息子のタイク(Tyke Bulldog)野良ネコのブッチ・キャット(Butch Cat)やその悪友の野良ネコたちなど多くの人気キャラクターを輩出した。制作陣は何度か変更があったものの、ウィリアム・ハンナ氏とジョセフ・バーベラ氏という二人の天才が作った物語はより拡大していった。

このハンナとバーベラという姓を聞いて勘付いた人もいるかもしれないが、ウィリアム・ハンナ氏とジョセフ・バーベラ氏こそ、のちにハンナ・バーベラ・プロダクションを立ち上げ、「トムとジェリー」シリーズだけではなく、「原始家族フリントストーン」シリーズに「チキチキマシン猛レース」シリーズ、「スクービードゥー」シリーズを制作した二人なのである。

ほかにも日本では『宇宙忍者ゴームズ』(1967-1968)というタイトルで放映されたマーベル・コミックスのヒーロー「ファンタスティック・フォー」の初期アニメーションや、DCコミックスのヒーローたちの活躍を描いた『スーパーフレンズ』(1973-1985)を制作するなど、アメリカのカートゥーン・アニメーション史を語る上で外せない存在で、黄金時代を築いた人物たちとなっている。

そのようなアメリカ・カートゥーン・アニメーション史の偉人であるウィリアム・ハンナ氏とジョセフ・バーベラ氏が『トムとジェリー』という名作アニメーションを生み出し、トムとジェリーは追いかけっこをはじめた。ウィリアムとジョセフがつくりあげた二人のやりとりは会話がほとんどなく、笑い声や叫び、ジェスチャーを中心とするノンバーバル(非言語的)コミュニケーションで、流血など不快とされる要素も無く物語が展開するため、赤ん坊から大人まで年齢にとらわれず、言語、国籍も人種も問わずに親しまれる作品となった。そんな傑作カートゥーン・アニメーションの追いかけっこがリメイクされ、2021年に実写の世界にまで飛び出してきた。

追いかけっこは“転ぶ”かもしれなかった?

カートゥーン・アニメーションと実写が融合した作品は『トムとジェリー』が初めてではない。時代をさかのぼれば、かつてカートゥーン・アニメーションは現在のVFXやCGIの代用品のように用いられ、カーク・アリン氏がスーパーマン/クラーク・ケントを演じた短編映画『スーパーマン』(1948)ではスーパーマンの飛行シーンがアニメーションを用いて表現されている。さらに有名な例を挙げるとするならば『メリー・ポピンズ』(1964)がその最たる例だろう。

また、カートゥーン・キャラクターがVFXやCGIの代用品ではなく、カートゥーン・キャラクターとして登場した作品としては、カートゥーン嫌いの探偵とカートゥーン・アニメ―ション・キャラクターであり、カートゥーン・アニメーション業界の俳優ロジャー・ラビットがコンビを組んで捜査し、ミッキーマウスとバックス・バニーの共演でも話題になった『ロジャー・ラビット』(1988)、カートゥーン・キャラクターたちがバスケの神様と呼ばれたマイケル・ジョーダンと協力する『スペース・ジャム』(1996)、クビになっていなくなったダフィー・ダックをバックス・バニーたちが追う『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』(2004)などが挙げられる。カートゥーン・キャラクターを実在の俳優のようにとらえる文化もあってか、トムとジェリーはエンドロールで演じた俳優としてHIMSELF(彼自身)と表記されている。

しかし、『トムとジェリー』はそれまでのカメオ出演などではなく、純粋なカートゥーン・アニメーション「トムとジェリー」をリメイクした実写化だったため、主演のクロエ・グレース・モレッツも不安を抱いた。その「トムとジェリーがリメイクによってCGのロボットになるのではないか?」という不安を制作陣は解決した。

ティム・ストーリー監督たち制作陣は手描きのカートゥーン・アニメーションを用いて2Dと3Dの融合を試みたことで、トムとジェリーの追いかけっこをリメイクし、セル画から飛び出させることに成功した。トムとジェリーはすべてがCGIというわけではなく、小さなドアやジェリーの乗る車といった一部の小道具は実際に作成され、撮影時には目線を合わせるためのパペットが使用されている。

この手法は「ハリー・ポッター」シリーズでも用いられ、ヒッポグリフやフェニックス、バジリスクにドラゴンなどを等身大アニマトロニクスで作り、目線を合わせるためにセストラルの等身大パペットも用いた。これは「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズなどでも使用された。

撮影手法だけではなく、脇を固めるキャストも作品に良い影響を与えている。「アントマン」シリーズでおしゃべりのルイス役を演じたマイケル・ペルーニャ、コメディ・セントラルでザ・コメディ賞Twitter部門受賞のロブ・ディレイニー「ハング・オーバー」シリーズのケン・チョン、天使と悪魔のトム役に『ゲット・アウト』(2017)のリル・レル・ハウリーなど名俳優が勢揃いだ。天使と悪魔のトム役は日本語吹替版ではお笑いコンビの霜降り明星が担当するなど、吹替版キャストでも有名コメディアンが脇を固めている。

そもそも、主演であるクロエ・グレース・モレッツ自身も「キックアス」シリーズで11歳にして紫色のかつらにコミックのヒーローのような恰好をして父親と共に悪党を残酷に銃やナイフで始末してまくるヒットガールというエキセントリックなキャラクターを演じ、一世を風靡した。その後も彼女はこのような分厚いキャスト陣の存在があったからこそ、ティム・ストーリー監督は有名なカートゥーン・アニメーション「トムとジェリー」シリーズのリメイクと実写化という大挑戦へと飛び込むことができたのだろう。

“追いかけっこ”のその先へ

ここまでカートゥーン・アニメーションとしての「トムとジェリー」シリーズと、それをリメイクした実写映画としての『トムとジェリー』について書いてきたが、その道のりは平坦なものではなかった。過去のカートゥーン・アニメーションを実写化する際には、多くの作品が共通してぶつかる問題がある。それはキャラクター像だ。カートゥーン・アニメーションのキャラクターの多くはコメディかシリアスかを問わず彼らの持つ特徴を誇張して描くことが多いため、自然と差別的な描写や差別的なキャラクターになってしまうことが多い。

それはかのディズニー作品にも存在し、『ポカホンタス』(1994)のように「作品自体が差別的なのでは」と批判されたこともある。それは「トムとジェリー」シリーズも同様で、過去にはお手伝いさん(Mammy Two Shoes)というキャラクターが全米黒人地位向上協会から「ステレオタイプな黒人描写」であるとして批判を受けて登場しなくなり、トムの飼い主を白人の夫婦に変えた歴史もある。キャストを変更することでステレオタイプの黒人訛りをアイルランド訛りにし、マスク処理で映り込む足の“色”を塗り替えたこともある。

他にも同じワーナー・ブラザース系列のカートゥーン・アニメーションで言えば、「ルーニー・テューンズ」シリーズで登場する豚のキャラクターのポーキー・ピッグなども一例だろう。ポーキー・ピッグは決め台詞が「こ、こ、こ、これでおしまい!(Th-Th-Th-That’s All Folks!)」になっているなど、吃音症を誇張したキャラクターになっている。映画『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』では「メキシコ全土で最速のネズミ」であり、当時誇張したメキシコ人のステレオタイプと非難されていたスピーディ・ゴンザレスと共にポリティカル・コレクトレスにそぐわない自身のキャラクター像について悩む場面が存在している。

しかし、そのような差別的なキャラクター像を放置するほどカートゥーン・アニメーションの世界は古臭くない。ある意味ではCG技術の先駆けとなったような先進的な一面を有しているのがカートゥーン・アニメーションという業界の特徴だ。

ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの系列会社のハンナ・バーベラ・プロダクションやカートゥーン・ネットワーク・スタジオらはキャラクター像のリメイクに務めてきた。ポーキー・ピッグが『スペース・プレイヤーズ』(2021)でラップをするのが良い例だろう。吃音とヒップホップには密接な関係があり、日本ではコメディ的な楽曲と扱われがちなスキャットマン・ジョンの「スキャットマン」は吃音の悩みをラップにして「吃音症の子供たちが逆境に負けないように」という歌詞になっており、ポーキーの吃音を笑いの種ではなく強みへとリメイクしたと考えられる。

この実写版『トムとジェリー』でも単なる誇張した追いかけっこからより先に進み、トムとジェリーが現実の問題と絡み合っている。今作の主軸となっているのはインド系の新婦と白人の新郎というセレブリティ同士の異文化間結婚だが、そこで新郎は新婦の父に認められようと無理をしてゾウやクジャクを呼ぶという頓珍漢なインド像を展開してしまい、静かな結婚式を望むことを言い出せない新婦とギクシャクした関係になってしまう。そこに長年“仲良くケンカ”してきたトムとジェリーが良い意味で起爆剤になるという展開だ。トムとジェリーが歩んできた83年以上の誇張された表現から、現実の異文化同士の結婚という異文化の混ざり合いにまで言及するという進歩をみせている。

二人の追いかけっこで笑いながら、彼らの歩みと進歩に思いを馳せ、社会問題について考えてみるのも良いかもしれない。ときには『ザ・ボーイズ』(2019-)などのようにジョークを通すことでしか真剣なことを伝えられないこともあるのだから。

映画『トムとジェリー』はブルーレイ&DVDセットが発売中。

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『トムとジェリー』俳優と声優キャストの紹介はこちらから。

 

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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