『室井慎次 生き続ける』公開中
映画『室井慎次 生き続ける者』が2024年11月15日(金) から公開され、10月に公開された『室井慎次 敗れざる者』に続いて大ヒットを記録している。本作は「室井慎次」二部作の後編にあたり、警察を退職した後の室井慎次の物語が描かれる。
今回は、柳葉敏郎演じる室井慎次の恋と結婚観について考察してみよう。コメディシリーズとして制作された「踊る大捜査線」シリーズでは、これまでわずかに触れられていた室井慎次の恋愛要素。『室井慎次 生き続ける者』ではどのように描かれたのだろうか。なお、以下の内容は『室井慎次 生き続ける者』のネタバレを含むので、ご注意を。
以下の内容は、映画『室井慎次 生き続ける者』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『室井慎次 生き続ける者』で描かれた室井の結婚観
室井の二つの答え
2024年10月から公開されている「室井慎次」二部作では、室井慎次は警察を辞めた後に犯罪孤児の里親になっていることが明かされた。警察として犯人逮捕に取り組んできたが、その影では犯罪に巻き込まれた多くの家族が苦しんでいることを知り、子ども達の支援を始めたのだ。
そんな動機で始めた里親だったが、『室井慎次 生き続ける者』では、子どもに翻弄される日々が「楽しい」と漏らす場面も。引退後の室井は自分なりに正義を通し、警察時代にできなかったことに取り組みながら、楽しい日々を送っている。
室井慎次に用意されていたのはハッピーな晩年だが、食卓を囲むシーンでリクは室井に「何で本当の子どもがいないんだ?」と問いかける。これに対して室井は「結婚してないからだ」と答えるが、リクは更に「なんで結婚しないんだ?」と畳み掛ける。これに室井は「恋はした」とだけ答えて話は打ち切られている。
わずかなシーンだが、室井の「結婚してないからだ」「恋はした」という二つの言葉からは、過去に二つの作品で描かれた設定を思い出させてくれる。
『容疑者 室井慎次』で明かされた過去
学生時代の恋人の存在
2005年に公開された映画『容疑者 室井慎次』では室井が謀略によって逮捕され、灰島弁護士事務所によって「学生時代に室井に捨てられた恋人が自殺した」というデマが流布された。そのせいで室井は辞職するよう迫られることになってしまった。
しかし、室井の弁護士だった小原が仙台で室井の元恋人の遺族に会って、彼女の日記を入手。その情報が事実ではないことを突き止めた。ちなみに仙台に元恋人の遺族がいるのは、室井が仙台にある東北大学に通っていたからだ。
室井はそれまで流布されたデマについて決して言い訳することはなかったが、小原から証拠を突きつけられてようやく真相を話し始める。室井の恋人だった野口江里子は不治の病にかかり、室井は大学を辞めて江里子の看病をすると彼女の父に告げていた。しかし、その数日後に江里子は姿を消し、遺体となって海で発見されたのだった。
室井は自分の行動が江里子を追い込んだのだと自責の念に駆られていた。だから「彼女を殺した」と言われても反論しなかったのだ。責任感と正義感が強い室井らしい。だが遺族は、室井に彼女の日記を持っていてほしいと願っていた。
「恋はした」の後の岬
『室井慎次 生き続ける者』で「恋はした」と発言した時の室井は、野口江里子のことを思い出していたのだろう。「室井慎次」二部作では水に関連するシーンが多い。『敗れざる者』で室井とタカが亡くなったタカの母に手を合わせるシーンも水辺(母の遺体が見つかった場所)で、新城が室井に「室井モデル」について話すシーンも岬だった。
実はこの岬のシーンは、室井が「恋はした」と語ったシーンの後に挿入されている。感覚的には次の日の朝くらいな気がする。室井は昨晩の子ども達との会話で野口江里子のことを思い出して、海を見に来ていたのかもしれない。
そう考えると、普段自分が来ない場所にやって来た新城に対して室井が「よくここが分かったな」と驚いたようなリアクションを見せたことにも合点がいく。そんな室井に対して、風情もクソもなく「Nシステムで追いました。警察を舐めないでください」とマウントを取る新城の愛らしさも際立つというものだ。
『THE LAST TV』での結婚話
すみれと一致した信念
そんな過去を背負う室井慎次にも、結婚の話が出たことがある。『踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件』(2012) では、室井は警察庁長官の池神から「結婚を決めている人はいるのか」と聞かれて否定すると、湾岸署の恩田すみれのことを遠回しに勧められている。これは室井を結婚させたい池神が湾岸署の真下正義署長に良い人がいないかと聞き、真下がすみれを推薦したからだった。
『THE LAST TV』の終盤では、室井とすみれは真下から結婚を前提に付き合う気はないかと聞かれ、共に「結婚するかしないかは自分で決める」とキッパリ否定している。ドラマの『踊る大捜査線』では当初、室井慎次と恩田すみれのロマンスを描く展開も構想されていた。その名残で、ドラマには立場も扱う事件も全く違うはずの室井とすみれが二人で会話するシーンも盛り込まれている。
加えて室井は「どうなんだ? 青島は」とすみれに聞くのだが、ここで大事なのは、室井が「結婚するかしないかは自分で決める」という信念を持っていることが示された点だ。キャリア上の理由で人に勧められて結婚はしないという室井の信念が垣間見える。
その背景には野口江里子への想いがあったのかもしれないし、青島との約束に夢中になっていたことの帰結かもしれない。プライベートでの室井は、青島の影響で「全集 黒澤明」を読んだりしていたのだから。
室井が触れた恩田すみれの現在
室井が優しいのは、そうして周囲におだてられて勝手に結婚を勧められ、口喧嘩になった恩田すみれの現在についても気にかけていることだ。『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003) で撃たれたすみれは警察を退職して今も後遺症に苦しんでいるということが、『室井慎次 生き続ける者』で室井の口から明かされた。
また、室井は恩田すみれの家族も苦しんでいると話した。その家族とは今のすみれのパートナーかもしれない。かつての仲間とその家族にも想いを寄せるところに室井の魅力がある。
「結婚しない」を選んだ室井
室井はその人生で「結婚しない」という道を選んだ。「なんで結婚しないんだ?」という問いに「結婚できなかった」ではなく、「結婚してないからだ」と答えた室井の言葉の裏には、室井自身の意志がはっきりと感じられる。
食卓での会話の最後には、お酒が入った室井は最高に幸せそうな顔で「楽しい」と漏らす。プライベートでも自分の信念を貫き通した室井が、里子達に囲まれて幸せな晩年を迎えている。ファンには涙なしでは見られない光景だった。
『室井慎次 生き続ける者』で改めて触れられた室井慎次の恋と結婚。「室井慎次」二部作は、まさに室井慎次の全てが詰まった作品だった。
映画『室井慎次 生き続ける者』は全国の劇場で大ヒット公開中。
シナリオ全文と、その詳細な解説やスタッフ&キャストのインタビューで二部作の魅力を深堀りする 『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』シナリオ・ガイドブックは2024年11月29日(金) 発売で予約受付中。
『室井慎次 敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』のオリジナル・サウンドトラックは予約受付中。
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は配信中。
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