映画『NOPE/ノープ』続編はある?
ジョーダン・ピール監督最新作の映画『NOPE/ノープ』が2022年8月26日(金)より日本で公開された。『ノープ』は謎に包まれた設定で注目を集めると、瞬く間に口コミやSNSで人気を呼んだ。『ノープ』は既に2022年7月22日(金)に全米で公開されており、9月3日(土)現在、米国内だけで興行収入1億1,854万ドルを記録する人気作となっている。
気になるのは、『NOPE/ノープ』に続編があるのかどうかということ。これまで『ゲット・アウト』(2017) や『アス』(2019) といった名作を生み出してきたジョーダン・ピール監督だが、自作の続編が製作されたことはない。しかし、『ノープ』については注目の発言をしている。
予告から消えた“ノーバディ”
ジョーダン・ピール監督が口を開いたのは『ノープ』の日本公開前にあたる8月末。米国では8月26日に配信が始まっている。米The New York Timesのインタビューに答えたジョーダン・ピール監督は、予告編にのみ登場したある人物について言及。その人物とは、最終予告の2:19あたりに一瞬だけ映るマイケル・ブッシュ演じる人物のことだ。
この人物は人々が逃げ惑う中、画面の中央で人々とは逆方向に歩を進め、自ら謎の飛行物体に向かって行っているように見える。この人物はただのモブキャラかと思いきや、米IMDbでは「ノーバディ (Nobody)」という名前が付けられている。更に、このシーンでは本編ではカットされてしまっている。6月9日の最終予告公開から7月22日の米公開までの間に何らかの意思決定が行われたのだろうか。
この件について、ジョーダン・ピール監督はこう話している。
このキャラクターの物語についてはまだ語られていない、ということは言えます。気になる言い方だと思いますが、皆さんが注目してくれていて嬉しいです。明白に、私はこれらの事柄について何らかの形で答えを示すことになると思っています。これらの物語の全てを語り終えたわけではないんです。
ジョーダン・ピール監督は『ノープ』の中で「まだ語られていない」「全てを語ったわけではない」という言い回しで、本編で描かれた以上の物語が残されていることを示唆している。“ノーバディ”の物語は未公開映像のような形で公開されるのか、それとも続編やスピンオフという形で公開されるのかは定かではない。だが、少なくともジョーダン・ピール監督は、今後何らかの方法で語られていない物語を表に出すつもりはあるようだ。
ジョーダン・ピール監督の注目発言はそれだけではない。本編内に複数回映し出されたある場面についても興味深い発言をしている。以下の内容は『NOPE/ノープ』のネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『NOPE/ノープ』の内容に関するネタバレを含みます。
あの靴の謎
そのシーンとは、劇中劇として流されたチンパンジーが登場するコメディドラマ『ゴーディ 家に帰る』の撮影で起きたあの悲劇の場面。ジュープことリッキーは子役時代にゴーディ役のチンパンジーが暴れ出し、人を襲うという事件の現場にいた。そのシーンで何度も映し出される印象的な画は、リッキーの共演者の血のついた靴が“立っている”場面だ。
まさに『ノープ』のキャッチコピーである「最悪の奇跡 (Bad miracle)」とも言える場面。リッキーは後に、この靴を自室のコレクションに加えている。結局、靴が立っていたことについての説明はないままだったが、ジョーダン・ピール監督はThe New York Timesで「あのシーンはどういう意味ですか?」と聞かれ、こう答えている。
この質問は私が最も多く受けるもので、明確な答えを示す気にはなれない質問です。少なくとも今の時点ではね。しかし、キャラクターの視点で言えば、このシーンはキャラクターの心理が解離するスイッチが入った瞬間を描いているということは言えます。自分の中の何かが変わる瞬間を描いているんです。
ジョーダン・ピール監督の言葉を文字通りに受け取れば、リッキーの人生は、この最悪の状況で目にした奇跡によって、大きく変わることになったのだろう。番組が打ち切りになった後も、リッキーは『ゴーディ 家に帰る』の役名の“ジュピター”の愛称で呼ばれ、“ジュピター・パーク”を経営している。
見せ物にされてきたゴーディの逆襲を目の当たりにしながらも生き延びたリッキーは、むしろエンターテインメント(=見せ物)の虜になったようにも思える。また、あの靴のシーンでは、リッキーは靴を見ていたためにゴーディと目を合わせずに済んだ(グータッチの場面もテーブルクロス越しになっているため、両者は目を直視していない)と考えることもできる。
動物と目を合わせないことで相手を刺激せず、生き延びるというのは長年馬と共に暮らしてきたOJの知恵だが、リッキーは偶然にもこれを実行できてしまった。その後、リッキーは馬のラッキーを使ってGジャンを誘きだそうとする。リッキーが偶然にもゴーディ事件を生き延びたこと自体が、“最悪の奇跡”だったのかもしれない。
なお、この靴についての質問は、ノーバディについての質問の前に行われている。つまり、ジョーダン・ピール監督の「これらの物語の全てを語り終えたわけではないんです」という言葉は、この靴の一件にもかかっていると考えられる。
『NOPE/ノープ』続編考察
信仰する人々
ジョーダン・ピール監督は、この“ノーバディ”と“靴のシーン”について匂わせ発言をしつつ、明確に答えを出すことはしなかった。このことから、この二つのシーンが『ノープ』の続編に繋がる可能性も考えられる。結局謎の存在のまま打倒されてしまったGジャンだが、ノーバディとゴーディが、その正体に迫るヒントであると考えることもできるだろう。
まず、予告編のノーバディは堂々とGジャンへ向かって行っていることから、Gジャンのことを知っており、神々しい存在のように捉えているのかもしれない。また、GジャンはOJの前に初めて現れた時にはコインやカギを上空から落としており、他の場所で活動していたことを匂わせている。仮にGジャンを信仰するような人々がいるとすれば、それを倒したエムは恨まれることになるかもしれない。
『ゴーディ 家に帰る』OPに注目
また、ジョーダン・ピール監督が多くを語りたがなかった『ゴーディ 家に帰る』の撮影現場で起きた惨劇についても考察したい。提案したいのは、“靴が立つ”という奇跡があの場面で起きたことは偶然ではなかったという説だ。
『ノープ』の劇中劇である『ゴーディ 家に帰る』は、ジョーダン・ピール監督が自らのTwitterでそのオープニング映像を公開している。この映像を観れば、一家の母は宇宙飛行士だということが分かる。ちなみに父は宇宙関係の研究者だということが劇中のセリフから分かっている。
— Jordan Peele (@JordanPeele) July 24, 2022
それにこのオープニング映像自体が、打ち上げられる宇宙ロケットの映像から始まり、最初のタイトルロゴが現れるシーンは打ち上げ前のスペースシャトルが映されている。そして、ラストはゴーディとジュピターが星を見るシーンで終わる。つまり、二人は“宇宙”を見ているのだ。
カメラが星空にパンされたところで、画面には「ゴーディ 家に帰る」のロゴが映し出される。これは、ゴーディの故郷が宇宙にあると捉えることもできるが、これ以上は陰謀論チックになっていくのでこのくらいにしておこう。いずれにせよ、“靴が立つ”という奇跡はただの偶然ではなく、宇宙に関連の強い作品の撮影現場で起きた超常現象だったと考えることもできるのだ。
チンパンジーと宇宙
また、チンパンジーと宇宙というのは、それなりに歴史がある組み合わせだ。1961年にはオスのチンパンジーのハムが人類に先駆けてアメリカから宇宙に送られた。息子にジュピター(木星)という名をつける宇宙一家の家庭を舞台にした『ゴーディ 家に帰る』では、ゴーディ役のチンパンジーも宇宙事業関連の役目を終えて舞台に立っていたのかもしれない。
なお、ハムは宇宙飛行を成功させた後、1983年にノースカロライナ動物園で死去している。一方、ハムのバックアップ要員として訓練されていた唯一のメスのチンパンジーであるミニーは、NASAの繁殖プロジェクトの結果、9頭の子どもを残して1998年に死んでいる。1998年は『ノープ』の劇中でゴーディが暴走し殺された年である。
このストーリーが結びつき、『ノープ』の続編ではGジャンを含む地球外生命体についてより深掘りする内容になることも期待できる。少なくとも、Gジャンの正体を地球外生命体に設定し、劇中劇である『ゴーディ 家に帰る』を宇宙に関連する作品にしたことには、何らかの意図があると考えてもよいだろう。
このように、『NOPE/ノープ』の魅力はとどまることなく考察意欲を刺激される点だ。そもそも続編があるのかどうかは不確定だが、興行を後押しするためにも、何度も見に行って考察してみよう。
映画『NOPE/ノープ』は2022年8月26日(金)より公開中。
ジュープことリッキー・パークを演じたスティーヴン・ユァンがアジア系として“見られる”ことについて話した内容はこちらの記事で。