SFマンガの傑作『アンカル』映画化の大ニュース!
11月2日、アレハンドロ・ホドロフスキーがSNS上である投稿をアップした。
Big news coming soon!
More infos on https://t.co/04WiZC6UaH#theincalmovie pic.twitter.com/DNqzlevAWE— Alejandro Jodorowsky (@alejodorowsky) November 1, 2021
「ビッグニュース」「アンカル・ムービー」そして、「誰がホドロフスキー&メビウスの記念碑的マンガを映画化するかは11月4日にわかる」との文字。
アレハンドロ・ホドロフスキーは『エル・トポ』(1970)や『エンドレス・ポエトリー』(2016)などのカルト映画監督であるとともに、数多くのマンガ原作を手掛けている。
メビウス作画の『アンカル』(新装版:2015、ユマノイド:パイインターナショナル)はその代表作といっていい作品である。
メビウスといえば宮崎駿や大友克洋など日本人アーティストにも多大な影響を与えたフランスのマンガ家であり、そして『アンカル』は、全世界はもちろんのこと日本国内でも大ベストセラーとなった数少ない海外マンガのひとつである。
▼『アンカル』
みすぼらしい探偵ジョン・ディフィールが謎の生命体“アンカル”を手に入れたことで、銀河系を舞台にさまざまな種族が入り乱れて繰り広げられる騒乱に巻き込まれていくさまを描いた壮大なスペース・オペラだ。
『メタバロンの一族』(2016、小学館集英社プロダクション)、『テクノプリースト』(2016、ユマノイド:パイインターナショナル)など邦訳されたものも含み数々のスピンオフが生み出され、一大ユニバース「ホド・バース(The Jodoverse)」が形成されている。
そして数多くのクリエイターと作品に多大な影響を与え、SF好きには知らぬものがいないほど、その後のSF界を変革したエポック的作品として名高い。
『アンカル』と「ホドロフスキーのDUNE」
約束の11月4日。アンカル・ムービーのメルマガを登録していた私のもとにやってきた一通のメールには、
“Discovery Here Who Will Bring Jodorowsky & Moebius’ Iconic Graphic Novel to the Big Screen”
というメッセージとともに、以下の動画へのリンクが張られていた。
動画はドキュメンタリー映画「ホドロフスキーのDUNE」(2013)の引用から始まっている。
「ホドロフスキーのDUNE」とは、ホドロフスキーが1975年にフランク・ハーバートのSF小説『デューン 砂の惑星』(新訳版:2021、早川書房)の映画化を試みるものの、夢半ばに終わってしまった顛末を関係者の声で語るドキュメンタリー映画である。
▼「ホドロフスキーのDUNE」
幻に終わったもののホドロフスキー版の「DUNE」のために、マンガ界の巨匠・メビウスをはじめ、ホドロフスキーが“魂の戦士”と呼ぶそうそうたるメンバーが結集していた。
ホドロフスキーと幻の「DUNE」についてはこちらの動画でもご紹介しているので、ぜひご覧いただきたい。
メビウスは「DUNE」の絵コンテやデザイン画を描きあげていた。
そして何を隠そう、「DUNE」のために創り出されたものの日の目を見なかった、数々のパーツをもとに生み出されたのがマンガ『アンカル』なのである。
ホドロフスキーが挫折した「DUNE」をヴィルヌーヴ監督が映画化
「ホドロフスキーのDUNE」の中には、1984年に公開されたデヴィッド・リンチ監督の「デューン/砂の惑星」を観たホドロフスキーがとても嬉しそうに酷評するシーンがある。愛嬌と人間味あふれるホドロフスキーの性格が如実に表れる、このドキュメンタリー映画を観た方なら誰しもの心に深く残った部分であろう。
▼デヴィッド・リンチ監督「デューン/砂の惑星」
そうしたなか長年映像化が難しいと言われていた『デューン』であるが、とうとう2021年にドゥニ・ヴィルヌーヴ版が公開された。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「デューン/砂の惑星」オフィシャルサイト
ホドロフスキーファンの誰もが、そして「ホドロフスキーのDUNE」を観た誰もが、ヴィルヌーヴ版を観たホドロフスキーがどのような反応を示すのだろうかと、固唾を呑んで見守っていたに違いない。
今回あえて「ホドロフスキーのDUNE」を流すということは、まるで『アンカル』の映画化のニュースそのものが、ヴィルヌーヴ版「デューン」へのある種の答えを、ホドロフスキーらしい意表を突く予想外の方向からファンたちに提示してくれたかのように感じられた。
『アンカル』映画化監督はタイカ・ワイティティ
動画は次に、現在のホドロフスキーの状況を語る。
「私以外の誰かが『アンカル』を映画化するなんて、(『アンカル』を創作した)40歳のころだったら怒り狂っていただろう」と茶目っ気たっぷりに語りながらも、自分が92歳であり大作をつくれる状態にはないということも吐露する。
とはいえ、その直後、自ら映画化しないのは「年齢のせいではない」と否定する。そういうところがいかにもホドロフスキーらしい。
そして、自分のやり方で映画を生み出し、金のためだけでなく、世界を変えることを考える、『アンカル』の映画化にふさわしい人物の名を語る。
「ワイティティのアンカルだ」と。
俳優・コメディアン、映画監督とマルチに活躍するタイカ・ワイティティ。監督・製作・脚本を手掛けた「ジョジョ・ラビット」(2019)がアカデミー賞を受賞したことは記憶に新しいだろう。
そしてワイティティ自身もホドロフスキー作品が好きで、大きな影響を受けたという。
そこで動画冒頭の「ホドロフスキーのDUNE」の引用シーンがよみがえる。
ホドロフスキーが、当時のメビウスとの会話を追想してこう語る。
幻に終わったものの、ホドロフスキーらが創り上げようとしたのは、自分たちの「デューン」だったのだと熱弁する。ハーバートの原作をベースにしてはいるものの、独自のものだと。
そしてホドロフスキーとメビウスによって生み出された『アンカル』という原作をベースに、独自の「アンカル」を創り出すことができる人物として認められたのがワイティティなのだ。
映画「アンカル」公開予定は続報を待て
米DEADLINEではさらに詳細が伝えられている。
ワイティティが脚本を、ジェマイン・クレメントとピーター・ウォーレンと共同で執筆中であること。
ワイティティをホドロフスキーに紹介したのはユマノイドのCEOファブリス・ギーガーであること。
しかし、映画「アンカル」の配給・公開に関する情報は後日発表予定とのことで、まだまだ目が離せない。
「デューン/砂の惑星」も映像化困難と呼ばれた傑作をヴィルヌーヴ監督が見事に映画化したが、根強いファンがいる『アンカル』の映像化は容易いことではないだろう。特にグラフィックアートとしてカリスマ的人気を誇るメビウスの作画をワイティティ監督がどのように実写映画化するのか、そのプレッシャーも計り知れないものだと予想する。
今後の続報が本当に楽しみである。