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『ブラックサッド』待望の新作を出版社ダルゴーが発表!
2021年5月28日、驚きのニュースがフランスの出版社ダルゴーから発信された。
John Blacksad est de retour… le 01.10.2021 pic.twitter.com/J97aw0mfkn
— Editions Dargaud (@EditionsDargaud) May 28, 2021
”ジョン・ブラックサッドが帰ってくる……2021年10月1日”
なんと大人気バンド・デシネ『ブラックサッド』の新作が2021年10月1日に刊行されるというのだ。
副題は『Alors, tout tombe』。“そして、すべては崩壊する”というような意味だろうか。
冷戦時代のアメリカを舞台にしたハードボイルド・バンド・デシネの傑作!
『ブラックサッド』といえば、ともにスペイン出身の脚本家フアン・ディアス・カナレスとフアンホ・ガルニドの作画によるハードボイルドもののバンド・デシネ。1950年代の冷戦時代のアメリカを舞台に、私立探偵ジョン・ブラックサッドが事件の謎を解くというノアール小説の雰囲気も醸した作品で、根強い人気を誇っている。
人種差別や核兵器、ブルースなど当時の雰囲気を存分に楽しめるストーリー。人間性を浮き彫りにするかのように擬獣化された個性豊かな登場人物。人間の欲望や悲哀、悔恨が滲む、美しい水彩……と『ブラックサッド』の魅力を語りだすときりがない。
なお以前、YouTubeのライブ配信で翻訳者の大西愛子さんに『ブラックサッド』の翻訳裏話をお聞きしている。こちらもぜひご覧いただきたい。
【YoutubeLive】海外マンガ紹介#37「バンド・デシネ翻訳者の大西愛子さんとのブラックサッドスペシャルトーク」
第1巻『黒猫探偵』の刊行から約20年の人気シリーズ
『ブラックサッド』シリーズ、第1巻の『黒猫探偵』がフランスで発表されたのは2000年。およそ20年以上にわたって続くシリーズである。
この間、2003年に2巻『極北の国』、2005年に3巻『赤い魂』、2010年に4巻『地獄と沈黙』、2013年に5巻『アマリロ』と数年おきに続刊が刊行。フランスのアングレーム国際漫画祭、アメリカのアイズナー賞、ハーベイ賞と、数々の賞を受賞するとともに、全世界に多くのファンを持つ大人気バンド・デシネとなっている。
日本語版は2005年に早川書房から1巻『黒猫の男』、2巻『凍える少女』が刊行。その後、Euromangaから続刊が発売され、1、2巻が復刊(それぞれ『黒猫探偵』『極北の国』と改題)された。
ブラックサッドの制作秘話が明かされた特別編『ブラックサッド シークレットファイル』(2017、Euromanga)では、脚本家のフアン・ディアス・カナレスがすでに新作2巻分のシナリオの下書きを書き終えたことを明かしていたものの、なかなか続報が公開されてこなかった。
アドベンチャー・ゲーム化もされた『ブラックサッド』
そんななか『ブラックサッド』は、2019年に『Blacksad: Under The Skin』というタイトルでアドベンチャー・ゲーム化もされた。PC、PS4、XboxOne、Swichの各種プラットフォームでプレイすることができる。
スミルノフ警部やウィークリーといったお馴染みのキャラクターはもちろん、『黒猫探偵』に出てくるブラックサッドの旧友でボクサーのジェイク・オスティオンも登場し、ニューヨークの華やかなスポーツ興業とその裏側に潜む闇という、重厚で先の読めないストーリーになっている。
時系列的には2巻『極北の国』と3巻『赤い魂』の中間に位置しており、『黒猫探偵』に登場する元恋人で女優のナタリア・ウィルフォードの影を引きずっていたり、原作コミックそのままに探偵事務所が再現されていたりと、原作ファンにはかなり嬉しいシーンがいくつも散りばめられている。
残念ながら日本語ローカライズはされておらず、またシステム面でやや不安定な部分はあるものの、『ブラックサッド』ファンであればプレイして損はないだろう。
【ゲーム実況】『BLACKSAD under the skin』名作ハードボイルド擬獣化バンド・デシネ待望のゲーム化【PS4北米版Live】
新作に先駆けて特別号外『Blacksad: What’s News』
2021年6月18日、第6巻の刊行に先立って『What’s News』(Dargaud)というタブロイド判16ページの特別版が発売された。
主要登場人物のひとりである記者のウィークリーが勤める新聞社What’s Newsの特別号という位置づけになっている。私もさっそく取り寄せて読んでみた。
一面には「LES OMBRES DE JOHN BLACKSAD(ジョン・ブラックサッドの影)」という見出しが踊り、作者二人のインタビュー記事が掲載されている。取材した記者の情報のなかには、第5巻の舞台、アメリカ南部のアマリロからニューヨークに戻ったブラックサッドは、作者二人に会いに行ったという文言も見られる。
そしてあたかも本当の新聞のように、第5巻『アマリロ』でブラックサッドが殺人事件の容疑者となってしまったグリーンバーグ事件のあらましが掲載されていて、これまでのブラックサッドの足取りをおさらいできるようになっていた。前作を読んでから時間が経っているだろう読者には嬉しい心配りだ。
続いて「犯罪」「都市計画」「健康」など、新作を読むうえでの背景情報になると想像させるような記事が並ぶ。
新作の重要人物と思われる、ウィークリーのスクープ記事
もちろんウィークリーが書いた記事も読むことができる。新作に深く関係があると思われる”ソロモン”なる人物がフューチャーされている。
ここで再度、ダルゴーが公開した新作の表紙画像を見てみよう。
John Blacksad est de retour… le 01.10.2021 pic.twitter.com/J97aw0mfkn
— Editions Dargaud (@EditionsDargaud) May 28, 2021
右下に立つブラックサッド、ウィークリーの背後には、巨大な橋と2人を見下ろす人影が見える。この人物こそウィークリーがスクープした”ソロモン”なのだろうか。記事内にはソロモンが建築した巨大な橋「ソロモン・ブリッジ」についての言及もあり、その想像を裏付ける。
そのほかの記事には、ニューヨーク市警察への取材に対してスミルノフ警部の言葉が引用されているのもファンにとっては嬉しいところだ。
またちゃっかりフアン・ディアス・カナレスが脚本を担当した作品『Gentlemind』の宣伝も入っている。
1940年代のニューヨークを舞台に、女性向け雑誌『Gentlemind』の編集長を任された貧乏な女性歌手のアメリカンドリームを描いており、英語版はアイズナー賞2021にもデジタル・コミック部門でノミネートされた作品だ。
新作の冒頭4ページも特別独占公開!
最後の記事はエンターテインメント欄で、アイリス・アレン女史が率いる劇団について語られている。
これに続く新作の冒頭4ページは、まさに記事で取り上げられたアイリス・アレン率いる劇団が上演するシェイクスピアの「テンペスト」で始まるという、なんとも凝った構成になっている。
なおこの新作の冒頭ページは『What’s News』内では新聞を再現するためにモノクロで掲載されているが、SNSやホームページでフルカラー版が順次、公開されている。
ダルゴーのお知らせページでは少しずつ情報が追加されていく模様なので、こちらも要チェックだ。
『ブラックサッド』第6巻、気になる日本語版の刊行は!?
ブラックサッド第6巻『Alors, tout tombe』は、すでにフランス語のほか、中国、ブルガリア、スペイン、イタリア、ウクライナでの出版が決定されている。
はたして日本語版はどうなるのだろうか。
これまで日本語版を出版しているEuromangaは、2010年にフランスで第4巻『地獄と沈黙』が発売されたとき、当時定期刊行されていた雑誌『ユーロマンガ』でオリジナル版とほぼ同時に日本語版の連載を開始した。
『ユーロマンガ』5号
また2021年1月から月刊で刊行されている電子版「ユーロマンガ」誌では、第1号から『ブラックサッド』の既刊を再録している。
『ユーロマンガ』1
となると新作第6巻も、電子版「ユーロマンガ」誌でほぼオリジナル版と同時連載の可能性もあり得るのだろうか。
いずれにしても続報が楽しみでならない。
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