ネタバレ解説『デューン 砂の惑星 PART2』敵役フェイド=ラウサの名シーンの裏側、影響を受けた人物とは | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『デューン 砂の惑星 PART2』敵役フェイド=ラウサの名シーンの裏側、影響を受けた人物とは

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『デューン 砂の惑星 PART2』公開

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督最新作『デューン 砂の惑星 PART2』が2024年3月15日(金) より、日本の劇場で公開された。2021年に公開された『DUNE/デューン 砂の惑星』の続編で、フランク・ハーバートが1965年に発表した同名小説の後半が描かれる。

『デューン 砂の惑星 PART2』で注目されているのは若手俳優達の活躍だ。チャニ役のゼンデイヤや皇女イルーラン役のフローレンス・ピューら20代後半の俳優陣に加え、特に注目を集めたのがフェイド=ラウサ・ハルコンネンを演じたオースティン・バトラーだ。

フェイド=ラウサは『デューン 砂の惑星 PART2』のメインヴィランに設定されており、オースティン・バトラーの演技と合わせて非常に印象的な姿を見せている。オースティン・バトラーはドラマ『シャナラ・クロニクルズ』(2016-) で主人公ウィル・オムズフォードを演じた他、2022年に映画『エルヴィス』でエルヴィス・プレスリー役を演じたことでも知られる。『デューン 砂の惑星 PART2』でも注目集めたことで改めて最注目の俳優として数えられることになった。

今回は、そのオースティン・バトラーが『デューン 砂の惑星 PART2』でのフェイド=ラウサ役について語った内容を、本編のネタバレありで紹介しよう。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『デューン 砂の惑星 PART2』の内容に関するネタバレを含みます。

フェイド=ラウサの名シーンの裏側

誕生日シーンの異様な魅力

『デューン 砂の惑星 PART2』でオースティン・バトラー演じるフェイド=ラウサが初めて登場するのは、フェイド=ラウサの成人の誕生日の場面だ。それまでは遊び人だったフェイド=ラウサにウラディミール・ハルコンネン男爵はアトレイデスの兵士の生き残りと本気の勝負に挑ませ、実力を示させることで民衆の支持を得られるようお膳立てをした。

フェイド=ラウサの実力は本物で、見事にアトレイデスの兵を倒して見せる。これにより、ムアディブ/ポール率いるフレメンに苦戦していたラッバーン・ハルコンネンに代わり、フェイド=ラウサはハルコンネン家の代表としてアラキスを統治することになる。ウラディミールは直に皇帝の座を奪い、フェイド=ラウサにその座を譲ることまで示唆したのだった。

この一連のシーケンスは、ポールの英雄譚を中心に展開する『デューン 砂の惑星 PART2』の中でも異様な魅力を放っている。一連の映像が白黒の画面で進められる理由について、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は米EntertainmentWeeklyにこう語っている。

太陽光が色を消し去ってしまうような星を描くということはスクリーン上で見たことがなかったし、ハルコンネンに取り入れたヴァンパイアのような見た目にマッチすると思いました。ハルコンネンは人工的で完全にプラスチック化された環境のファシズム社会に生きる生物なんです。

つまり、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、フェイド=ラウサを通してハルコンネンが統治する異様な社会の姿を描いたということだ。この演出により、フレメンの側についたポールが打倒すべき相手として、ハルコンネンの印象はさらに鮮烈になったと言える。

灼熱の中での撮影

一方で撮影は灼熱の気温の中で行われたといい、フェイド=ラウサ役のオースティン・バトラーはこのシーンの撮影について、こう語っている。

気温は110°F(摂氏で約43.3℃)。私はスキンヘッドのキャップを被っていて、200フィート(約61メートル)の壁と砂でできたグレーの箱の防音スタジオのような環境でした。まるで電子レンジのようなね。熱射病で倒れる人もいましたよ。それが私の最初の一週間でした。

オースティン・バトラーが『デューン 砂の惑星 PART2』の撮影に入ったのはこのシーンが最初で、ここでの撮影で一週間を費やしたという。それでいてあの堂々とした演技を見せているのだから見事としか言いようがない。

決闘シーンの裏側は

そしてあのポールとフェイド=ラウサの決闘シーンである。デヴィッド・リンチ版『デューン/砂の惑星』(1984) でも描かれたシーンで、当時はフェイド=ラウサ役をロック歌手のスティングが演じ、印象的な場面に仕上げられた。

前述のEW誌では、『デューン 砂の惑星 PART2』のファイト・コーディネーターのロジャー・ユアンがオースティン・バトラーにの身体能力の高さを絶賛している。「演技の道を選ばなければスタントパーソンとして生計を立てられたはず」とまで言わせしめているのだ。

ポールとフェイド=ラウサの決闘の撮影は、『デューン 砂の惑星 PART2』の主要キャストのほとんどが見守る中で行われた。皇女イルーラン役のフローレンス・ピューは、このシーンについてこう振り返っている。

(皇帝役の)クリストファー・ウォーケンは二人についてかなり怖がっていました。「こんな近くで戦う必要があるの?」って感じでね。私も「確かに!」って(笑)。彼とシャーロット(・ランプリング、教母役)は二人の距離がとても近いことをかなり心配してましたね。私は「まぁまぁ、彼らはプロフェッショナルだから!」って感じでしたけど(笑)。

周囲のベテラン俳優達も心配するほどの気迫に溢れていたこのシーンは、確実に『デューン 砂の惑星 PART2』のハイライトの一つとなった。米ロサンゼルス・タイムスのインタビューでは、オースティン・バトラーは15歳の時に原作小説を読んでおり、デヴィッド・リンチ版の『デューン/砂の惑星』を観た時に「こんな作品に出られるなら死んでもいい」とすら思ったと振り返っている。相当な思い入れを持って『デューン 砂の惑星 PART2』の撮影に挑んでいたのだ。

フェイド=ラウサのヴィラン像

フェイド=ラウサに影響を与えた人物

Esquireのインタビューでは、オースティン・バトラーはフェイド=ラウサの役を演じるにあたって、パーソナルトレーナーと共に筋力増強のトレーニングに取り組んでんだこと、ナイフのトレーニングも積んだことを明かしている。また、フェイド=ラウサという人物については、「自分がやるすべてのことが正しいと思っている」と、そのヴィラン像を語っている。

ステラン・スカルスガルド演じるウラディミール・ハルコンネン男爵からアラキスの統治を言い渡されるシーンで、ウラディミールから口づけをされて、フェイド=ラウサの方から口づけを返す場面がある。大胆不敵なフェイド=ラウサの性格について、オースティン・バトラーは米EWの別のインタビューでこう語っている。

彼(フェイド=ラウサ)は男爵と一緒に育ったから、さまざまな点で彼から大きな影響を受けているはずです。それで、彼の話し方について考えた時に、自分が子どもの頃から最もパワーのある人物を見てきたら、その人のことを模倣し出すんじゃないかって考えたんです。

フェイド=ラウサの喋り方のモデルはステラン・スカルスガルドが演じたウラディミール・ハルコンネンだったのだという。ウラディミールはポールにあっさり首を刺されたが、フェイド=ラウサはポールが乗り越えるべき肉体的/物理的な敵として現れ、ポール・アトレイデスの英雄伝説の一部になっていく。

『デューン 砂の惑星 PART2』の劇中では、フェイド=ラウサ自分の母を殺したという過去が語られた。決闘前にポールが従兄弟であることを知った際には、「身内殺しは初めてじゃない」と母殺しを念頭に置いた発言をしている。良くも悪くも母と共にあるポールとは対になる存在なのだ。

フェイド=ラウサの物語は終わらない?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、ポールにとっての強大な敵を際立たせるために敢えて第1作目でフェイド=ラウサを登場させなかったという。『デューン 砂の惑星 PART2』でも焦らしに焦らされ、中盤以降で登場すると、鮮烈なイメージを残して「デューン」から退場することになった。では、これでフェイド=ラウサの物語は終わりなのだろうか。

フェイド=ラウサは、誕生日の日にレア・セドゥ演じるレディ・マーゴット・フェンリングに誘惑を受け、マーゴットはフェイド=ラウサと肉体関係を持っている。この時、フェイド=ラウサはポールが前作で教母から受けたゴム・ジャッバールの試練(箱に手を入れて痛みに耐える試練)を乗り越えたことが示唆されている。つまり、フェイド=ラウサもそれなりの資質を持つ人物なのだ。

マーゴット・フェンリングは教母にフェイド=ラウサの娘を妊娠したことを報告しており、『デューン 砂の惑星 PART2』の次回作以降でフェイド=ラウサの娘が登場する可能性は高い。同時期に命が宿ったポールの妹と共に、フェイド=ラウサの娘は今後の映画「デューン」シリーズでキーキャラクターになっていくかもしれない。フェイド=ラウサから次の世代へと受け継がれていく物語に期待しよう。

映画『デューン 砂の惑星 PART2』2024年3月15日(金) より全国の劇場で公開。

『デューン 砂の惑星 PART2』公式サイト

フランク・ハーバートによる『デューン』の原作小説は酒井昭伸による新訳版が発売中。

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原作続編『デューン 砂漠の救世主』も酒井昭伸による新訳版が発売中。

ハンス・ジマーが手がけた『デューン 砂の惑星 PART2』オリジナルサウンドトラックは配信中。

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前作『DUNE/デューン 砂の惑星』は4K ULTRA HD&ブルーレイセットが発売中。

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Source
EntertainmentWeekly 1 / EntertainmentWeekly 2 / Los Angels Times / Esquire TikTok

『デューン 砂の惑星 PART2』ラストと本作をめぐる議論についてのネタバレ解説はこちらから。

ゼンデイヤ演じるチャニのラストについての考察とゼンデイヤらが語った人物像はこちらの記事で。

 

ベネ・ゲセリットを描くドラマ『デューン:シスターフッド』についての情報はこちらから。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は3作目の構想についても語っている。詳細はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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