『デューン 砂の惑星 PART2』ゼンデイヤ演じるチャニに注目
2021年に公開された映画『DUNE/デューン 砂の惑星』の続編となる『デューン 砂の惑星 PART2』が2024年3月15日(金) より、日本の劇場で公開された。1965年にフランク・ハーバートが発表した小説を映像化した本作は、原作ファンを中心に高い評価を受けている。
そんな中で、一際輝く演技を見せたのがチャニ役のゼンデイヤだ。前作の終盤から本格的にストーリーに関わり始めたチャニだが、『デューン 砂の惑星 PART2』では主人公ポール・アトレイデスに並ぶメインキャラクターとして活躍を見せた。
今回は、ゼンデイヤが演じたチャニについて、そしてあのラストについて、演じたゼンデイヤが語った内容も踏まえて考察していこう。なお、以下の内容は『デューン 砂の惑星 PART2』の結末に関する重大なネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『デューン 砂の惑星 PART2』の結末に関する重大なネタバレを含みます。
Contents
『デューン 砂の惑星 PART2』で描き直されたチャニ
「砂漠の春」にされたチャニ
映画『デューン 砂の惑星 PART2』では、チャニはフレメンの若き戦士として、新入りのポール・アトレイデスに教えを与えていく。一方で二人は互いに惹かれていき恋仲に。ポールはムアディブ・ウスールというフレメンの名を得て溶け込んでき、チャニのもう一つの名前も知ることになる。
その名前とは「シハヤ」であり、砂漠の春(Desert Spring)という意味を持っていた。チャニはこの名前が嫌いで、ポールもチャニの気持ちを尊重して「チャニ」と呼ぶことにする。しかし、ポールが預言通りに命の水を飲んで毒に侵されたところで、この二人の想いは引き裂かれる。
リサーン・アル=ガイブの救世主伝説においては、砂漠の春が救世主の復活をもたらすとされており、毒との戦いで生死を彷徨うポールを前にして、チャニはその予言通り自分の涙と命の水を混ぜてポールの口に入れる。これでチャニも預言の一部になってしまったのだ。
ポールの葛藤とチャニの役割
チャニは預言の一部になりたくなかったが、そうしなければポールが死んでしまうかもしれなかった。チャニはポールに伝説のリサーン・アル=ガイブなどではなく、ただポールでいてほしかった。しかし、ポールはチャニの死や多くの人々の苦しみをビジョンで見た結果、リサーン・アル=ガイブの伝説を受け入れるようになっていく。
これはあくまで考察だが、否応なく預言に巻き込まれていくポールにとっては、砂漠の春による“復活”が成就したことで、チャニすらも預言の一部でしかなかったという思考になり、絶望を味わったのかもしれない。
チャニはポールのことを愛していたし、戦士としても認めていたが、数少ない救世主伝説を否定するフレメンの一人だった。『デューン 砂の惑星 PART2』ではチャニを中心に置くことで、英雄伝説に対する集団催眠のような状況に対し、客観的かつ批判的な視点を取り入れることに成功している。ゆえに、チャニがラストで選んだ道は説得力があり、共感できるものになっていた。
チャニの原作改変、子どもは?
『デューン 砂の惑星 PART2』のラストでは、皇帝とハルコンネン家を打ち負かしたポールは大領家との戦争へと突き進んでいくが、チャニはそれに同調することを拒んだ。『デューン 砂の惑星 PART2』の特徴は、チャニというキャラクターのストーリーを原作から改変したことだ。原作小説ではチャニはベネ・ゲセリットの訓練も受けることになるし、ポールが皇女イルーランと政略結婚することに理解を示す。
チャニに正妻としての肩書きがないことについては、ポールの母ジェシカも同じく妾だったことから、ジェシカから「歴史が私たちを妻と呼ぶ」と言われ、正当化されてしまっている。映画版でもポールはイルーランと政略結婚することになるが、チャニはそれに対する不満を隠そうとしなかった。
『デューン 砂の惑星 PART2』では、チャニはゼンデイヤが演じてきた他のキャラクター達と同じように自分の意見を持ち、行動する主体的なキャラクターに生まれ変わっている。原作ではチャニとポールの間には子どもが生まれるのだが、共同脚本を手がけたジョン・スペイツは、米Inverseで『デューン 砂の惑星 PART2』に二人の子どもを登場させなかった理由を、原作でもすぐに死んでしまうことを踏まえてこう語っている。
(原作で)彼(ポール)はそのことに悲しみを抱いていますが、戦争を指揮している最中なので、その悲しみに浸る時間はほとんどありません。ですから、直接描かれない赤ん坊は小説に大きな変化を与えるわけではない。もし映画に登場させたら、本当に不必要な要素になっていたでしょう。
一方で、『デューン 砂の惑星 PART2』でもチャニはポールと肉体関係を持ったシーンは描かれていた。『デューン 砂の惑星 PART2』では二人の子どもについてのストーリーラインは不要と判断されたようだが、チャニが妊娠したままポールの元を離れた可能性もある。なお、映画の終盤ではポールが母ジェシカに「チャニはいずれ理解する、その未来を見た」と語る場面もある。その預言は成就するのだろうか。
ラストの意味は? ネタバレ考察
ゼンデイヤが語ったこと
『デューン 砂の惑星 PART2』のラストは、チャニがサンドワームを呼び出しているところで終わるが、チャニはサンドワームに乗ってどこへ向かうつもりだったのだろうか。チャニはとにかく救世主伝説に染まってしまったポールとフレメンの元を離れたかったのだろう。ポールや原理主義者達が再び北部に拠点を置くとすれば、チャニは南部へ向かう可能性は高い。
チャニを演じたゼンデイヤは、結末が辛いものになった背景を、米GameRadar+でこう話している。
私は彼女が数少ない“人間的”なキャラクターの一人だと思っています。彼女はベネ・ゲセリットではないし、世界中のあらゆる資源にアクセスできるわけでもない。本当に防戦側の立場にいて、彼女にあるのは自分自身と、周囲の人々への愛と、その人々への猛烈な保護だけなんです。
究極的には、愛を見つけようとすることは、それが彼女にとってポールが象徴しているものだからこそ、興味深い内容になったのだと思います。彼が象徴する恐れや痛み、彼の姿を(チャニが)自分の中で調和させようとすることはとても難しいことです。彼女は正しいことをしたいだけだから。それが、彼女が文字通り直面している戦いに加えて、ずっと自分の中で抱えている戦いなんです。それによって、より胸が詰まるような結末になったんだと思います。
つまり、ゼンデイヤはチャニが“二つの戦い”を抱えており、『デューン 砂の惑星 PART2』のラストは、フレメンの戦いという観点では勝利だったが、チャニ自身の戦いは良い結果にならなかったということだ。自分が愛するポールと、伝説の中で生きるポールの存在を“調和”することができなかったのだ。
チャニの未来は…
さらにゼンデイヤは、最後に決裂した二人の関係について米Digital Spyでも語っている。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が前作の時点からチャニの行く末についてはビジョンを持っていただろうと推測した上で、こう話している。
二人の関係は彼女にとって大きな困惑、混乱、争いの種になってしまいます。恋愛感情から遠く離れて、愛が邪魔になってしまうような複雑な関係なんだと思うんです。この二人のキャラクターはどうやって和解するのか? どれやって乗り越えられるかは私には分かりません。二人の未来がどうなるかもね。そこがスッキリしないところです。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、『デューン 砂の惑星 PART2』を、小説版よりも「悲劇的」だとも話している。映画版ではチャニの存在がよりクローズアップされていることは明らか。ポールが見たチャニが死ぬ未来は回避することができるのかという点も気になるところだ。チャニのこれ以上の「悲劇」は避けてほしいところだが……。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、すでに第3作目の製作に意欲を見せている。『デューン 砂の惑星 PART2』では、原作の後半でほとんど主体的な活躍を見せなかった女性キャラたちを中心に据えており、第3作目でもチャニたちの活躍は期待できそう。チャニの行く末が明かされることを楽しみに待とう。
映画『デューン 砂の惑星 PART2』2024年3月15日(金) より全国の劇場で公開。
フランク・ハーバートによる『デューン』の原作小説は酒井昭伸による新訳版が発売中。
原作続編『デューン 砂漠の救世主』も酒井昭伸による新訳版が発売中。
ハンス・ジマーが手がけた『デューン 砂の惑星 PART2』オリジナルサウンドトラックは配信中。
前作『DUNE/デューン 砂の惑星』は4K ULTRA HD&ブルーレイセットが発売中。
Source
Inverse / GameRadar+ / Digital Spy
『デューン 砂の惑星 PART2』ラストと本作をめぐる議論についてのネタバレ解説はこちらから。
オースティン・バトラー演じるフェイド=ラウサについてのネタバレ解説はこちらの記事で。
ベネ・ゲセリットを描くドラマ『デューン:シスターフッド』についての情報はこちらから。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は3作目の構想についても語っている。詳細はこちらの記事で。