『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』SP放送
2021年にTBS系日曜劇場の枠で放送された人気ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』が帰ってきた。『TOKYO MER』は、東京都知事の赤塚梓が都知事直轄の組織として設立した救命救急医療チームの活躍を描く作品。MERは「モバイル・エマージェンシー・ルーム」の略で、チームは事故や災害、そして事件の現場に現場でオペができる大型特殊救急車・スーパーアンビュランスと共に駆けつける。
東京都と日本国政府の駆け引きや、現場での警察やレスキュー隊との衝突と協力、そして登場人物たちの医療従事者としての生き様が『TOKYO MER』の見どころだ。爆発シーンを含む壮大なスケールもその作品の特徴で、2023年4月16日(日)放送の完全新作スペシャルドラマ『TOKYO MER〜隅田川ミッション〜』も映画規模のスケールで制作されている。
『隅田川ミッション』の舞台は、連続ドラマでTOKYO MERが正式に認可されてから半年後。4月28日(金)公開予定の映画『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』では連続ドラマから2年後が舞台になっており、ドラマと劇場版の間に入る物語になる。スペシャルドラマ『TOKYO MER〜隅田川ミッション〜』ではどんなストーリーが描かれたのか、そして映画版にどのように繋がっていくのか、今回は各シーンを解説していこう。
なお、以下の内容はドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』とスペシャルドラマ『TOKYO MER〜隅田川ミッション〜』のネタバレを含むので注意していただきたい。
以下の内容は、スペシャルドラマ『TOKYO MER〜隅田川ミッション〜』とドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『TOKYO MER〜隅田川ミッション〜』ネタバレ あらすじ&解説
連続ドラマから5ヶ月後が舞台
2021年7月から9月にかけて放送されたドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』の最終話では、TOKYO MERが正式に認可され、医師の喜多見幸太がチーフドクターに再任命された。セカンドドクターだった音羽尚はMERの統括官に就任。最後には発足式で隅田川での屋形船同士の衝突事故が起きたという一報が入り、MERが出動するところで幕を閉じた。
式典の日は本編から2ヶ月後とされており、厚労省医政局局長の久我山がタブレットで白金厚生労働大臣に見せた天沼幹事長逮捕の記事から、2021年11月1日であることが分かる。『隅田川ミッション』はそこから半年後ということだが、厳密には5ヶ月後の2022年4月頃が舞台になる。連続ドラマの最後にTOKYO MERは隅田川での事故に出動していたが、今回は新たな隅田川の事故が描かれる。
『TOKYO MER〜隅田川ミッション〜』は鈴木亮平演じる喜多見幸太が結婚を前提としたプロポーズをするシーンから始まる。その相手は、賀来賢人演じる音羽尚……ではなく、これは喜多見が仲里依紗演じる高輪千晶に復縁を求めるための練習だった。
この日は高輪千晶の誕生日ということで、喜多見の家に音羽と石田ゆり子演じる赤塚都知事が集まって夕食の準備をしている。MERの二人は非番のようだ。赤塚都知事は音羽がチームを抜けて厚労省に戻ることと、弦巻比奈をMERのセカンドドクターにすることに不安を持っていることが明かされる。そう、今回の『隅田川ミッション』は、音羽からセカンドドクターのポジションを引き継ぐ弦巻比奈の物語なのだ。
弦巻比奈の物語
一方の東京海浜病院では、高輪医師が胡桃という名前の少女の術後の経過を確認していた。胡桃は研修医の比奈と別れることを寂しがっている様子だ。弦巻比奈は子どもから愛される循環器外科医になろうとしていた。MER本部では、看護師の蔵前夏梅が喜多見から高輪の想いを確認していることが明かされ、喜多見の意外な一面が描かれている。妹の涼香の死から半年、喜多見を支えていたのは高輪だったという。
そこでTOKYO MERの出動要請が入るが、弦巻比奈が自らの判断で出動を決定。江東区の劇場での小規模医療事案だが、弦巻比奈は利き腕の右腕を負傷しながらも現場を指揮する成長した姿を見せている。喜多見と音羽もこの弦巻比奈の成長をカウントしていたからこそ、二人揃って高輪の誕生日を祝う計画を立てることができたのだろう。
弦巻比奈は負傷した腕の痛みに耐えながら開腹手術に取り組むが、患者の出血が止まらず、 ケリー鉗子を落としてしまう場面も。弦巻比奈は研修医ということもあり、当初は「私には無理です」と言い続けていた。だが、喜多見医師や音羽医師からの信頼と「医師として自分にできることを全力でやる」という姿勢から影響を受け、喜多見・音羽が不在の中でも医師として事件現場での医療活動に取り組んだ経緯がある。
現場で唯一の医師であることの責任を背負い込み、今度は「できない」と言えない比奈は、患者を搬送に回さず自分でやり遂げようとする。そこにやってきたのは、やはり喜多見医師と音羽医師だった。二人が出動したことでTOKYO MERは死者ゼロで任務を終えたのだった。
今回の件について、赤塚都知事は「厚労省のじじい」が詰めてきそうと言っており、厚労大臣が白金から新たな人物に変わったことを示唆している。
新たな危機
音羽は、比奈が大動脈遮断をして搬送に回さなかったことを批判。麻酔科医の冬木や蔵前夏海を初め、MERのメンバーは比奈を庇おうとするが、喜多見チーフは今回のオペの強行は比奈の判断ミスだと言い切る。そして、音羽は「最後の助言」として、比奈が元通り循環器外科医を目指すべきだと言い切るのだった。この「最後の助言」は後に覆ることになる。
審議会ではTOKYO MERが今回の事態の責任を問われることに。負傷したままオペを強行したことで、患者も医者も命を落としていたかもしれないというのだ。弦巻比奈は初期臨床医師研修が終われば循環気外科に戻ることを確認される。比奈自身も高輪医師のもとで学びたいという気持ちは変わっていない。喜多見はセカンドドクターをその場で募集するが手はあがらず。これも後の伏線になる。
そして音羽と比奈が抜けるという展開の中で、TOKYO MERを大学病院へ移転するというまさかの提案が。今のメンバーは東京海浜病院のスタッフなので、新たな病院では、メンバーを一から集めることになる。喜多見医師はドラマの最終回で自分の無力さを思い知り、それでも仲間がいるから戦えると思い直した経緯がある。喜多見医師にとっては簡単に切り替えられスタッフではないのだ。
全国展開と青戸登場
赤塚都知事と喜多見は、「白金に勝るとも劣らない曲者」という新たな厚生労働大臣を訪問。鴻上尚史が演じる蒲田三郎厚生労働大臣が登場する。お金のことしか考えていないという蒲田大臣は、映画版では両国隆文が厚生労働大臣に就任しているため、蒲田大臣はこのSPドラマのみのゲストキャラクターということになる。
蒲田大臣は、MERの全国展開について、「厚労省が全国の政令指定都市にMERを配備する計画」と紹介している。政令指定都市は全国に20箇所あり、映画版ではその一つである神奈川県横浜市に置かれたYOKOHAMA MERが登場することになる。
蒲田大臣は、TOKYO MERの危機を救うべく「優秀な人材」を紹介したいとして。音羽と同じ医系技官の青戸達也を紹介。青戸を演じた伊藤淳史は、青戸のことを「悪いやつじゃないけど、あんまり優秀じゃない」と語っている。医者としては8年間のブランクがあるが、「人の命を救いたいと思った」という言葉を受けて喜多見はサポートドクターとして青戸を受け入れる。
喜多見医師が握手を求めると、青戸はあっさり握手を返す。ドラマシリーズでは最後まで「不必要な接触は避けましょう」と喜多見との握手を拒否してきた音羽は、非常に微妙な表情を浮かべている……。嫉妬もあるのかもしれない。
赤塚と喜多見が去った後、久我山局長は、青戸が三流大学出身で使い物にならないとし、蒲田大臣はポンコツだから送り込むと、青戸のミスを期待していることを明かす。MERの全国展開前に都知事直轄のMERを解体するつもりなのだ。
そしてここで、音羽が全国のMERを束ねる統括官に就任することが明かされる。つまり、劇場版では厚労省直轄のYOKOHAMA MERの上に立つ人物になり、都知事直轄のTOKYO MERの喜多見チーフとは場合によっては対立する立場に立つことになる。
一方で、蒲田大臣はTOKYO MERのノウハウを持った医療メーカーから取引先を変えるつもりでいた。新しい契約先は利益の10%を蒲田大臣の政治団体に献金するという裏取引がなされていたのだ。よく考えれば「全国展開」という言い方もチェーン店のような言い方である。
弦巻比奈は退院する胡桃から絵のプレゼントをもらい、循環機外科医に自分の道を見出し始める一方、青戸はTOKYO MERに歓迎されていた。MERのメンバーは喜多見先生に比奈先生を引き留めることを求めるが、そうはしない。喜多見には何か意図があるようだ。
青戸から舐めた口を聞かれた弦巻比奈だが、音羽に現場を知れば知るほどセカンドドクターになることが怖くなったと言い、音羽のようになれる自信がないことを明かす。これに対し音羽は「自信が持てない人間に務まるわけがない」、一瞬でも迷いが出れば患者の命を落とすと突き放すのだった。
これまでは喜多見らが声をかけて比奈に自信を持たせてきたが、常にそうしてもらえるわけではなく、現場で一瞬の判断を下すためには、自分自身に自信を持っていなければならない。喜多見も音羽も、比奈が自分の足で立つことを待っているようだ。
動く医療現場
そして、ここで『隅田川ミッション』のメインミッションに入る。隅田川の屋形船で火災があり、負傷者多数で大規模医療事案として認定される。喜多見はいつも通り的確な指示を出すが、腕を怪我している比奈には残るように告げる。一方で、青戸は初めて出場することになる。
スカイツリー下には臨時危機管理対策本部が設置される。45名が取り残され、大雨の影響で船の速度が速くなっている状況だという。今回MERが挑むのは「動く医療現場」ということになる。
船が煙を上げ、両国橋にぶつかりそうになる中、そこに救命ボートで現れたのは要潤演じる東京消防庁レスキュー隊隊長の千住幹生が率いるチームだった。千住もまた的確な指示を出し、屋形船の進行方向を変えて橋への衝突を避けることに成功する。
屋形船の内部では火災が発生していたが、出火元のエンジンルームの鍵の場所を知っている船長は意識不明。燃料タンクに引火すれば爆発するという状況でのミッションを余儀なくされる。この状況に対し、喜多見医師はリモートで船内の患者のトリアージを進める。これは喜多見チーフと千住隊長、MERとレスキュー部隊との信頼関係があってこその作戦だ。
同時に音羽医師の指示でチームは治療の準備を進めてもいる。そして、高輪先生の患者で手術をして退院したばかりの胡桃が事故に巻き込まれていたことが分かる。これをイヤホンで聞いていた比奈は、病院からワイヤー持針器を現場に持っていくことに。
胡桃は血管の裂創が広がる可能性があり、胡桃の母にも頭部外傷があるため動かせないという状況で、喜多見は船に乗り込むことに。青戸はずっと不安そうな顔を見せている一方、船に向かう喜多見は音羽に「あとは頼みます」と言うと、音羽は小さく頷き、相変わらずの信頼関係を見せている。
音羽とホアン・ラン・ミンは胸に打撲痕があり意識が混濁している患者への対応にあたり、青戸はERカーで船長のオペに挑むことに。誰がどう見ても心配だが、今回の現場は動き続けているため、チームはバラバラで活動するしかないのだ。
助けに来たのは…
船に乗り込んだ喜多見は胡桃とその母の治療に取り組む。青戸は8年ぶりのオペを前にして音羽に頼ろうとするが青戸に音羽は委ねる。音羽は「今患者さんを救えるのは青戸さんしかいません」というお決まりのフレーズを放つ一方で、蒲田大臣が青戸を執刀医にすることに反対し、赤塚知事が自分の責任であることを明言するいつものやつが展開される。知事のチームへの変わらぬ信頼が示されている。
しかし、青戸はパニックに陥り、蔵前夏海が出血源を特定するように指示を出すが、青戸は「私には無理です」とかつての比奈のような状態になってしまう。蔵前夏海が「青戸先生にしかできません」と言い聞かせる展開は、かつての音羽と比奈のやりとりを踏襲している。
危険な状況になったところで登場したのは、ワイヤー持針器を持ってきた弦巻比奈だった。比奈がオペを代わり、メンバーへの的確な指示を送って手術を進めると患者の容態は安定。テントで手術を終えた音羽が合流し、比奈はワイヤー持針器を持っていくことになる。医師が多いと心強い。医療現場における人手というのがいかに重要な問題かということが分かる。
青戸はバイクの運転は得意だからとひなを送る役目を買って出る。悪いやつではないのだ。胡桃と母の容態が悪化する中、弦巻比奈は医療資材を屋形船に投げ入れる……かと思いきや、比奈自身が橋を飛び降りて船に乗り込む。
喜多見が煙で呼吸が困難になる中で、比奈が登場。これはドラマシリーズで喜多見の危機に音羽が、音羽の危機に喜多見が助けに来た展開を踏襲している。比奈がもう一人の信頼できるMERの医者として成長する姿を見せるのが今回のSPドラマの目的のようだ。「大丈夫ですか」という問いかけに喜多見チーフが「おう」と答える点もこれまでと同じである。
最も高度なオペ
比奈と喜多見は屋形船の中で開胸を行、直接止血と心臓マッサージを行う。患者の容態は改善するが、胡桃は緊急オペが必要だった。一方で、屋形船の爆発が迫る中、駒場危機管理対策室室長はERカーと海の森水上競技場で合流するよう指示。『隅田川ミッション』は東京消防庁と海上保安庁が協力しており、同庁の消防艇や巡視艇が加わった船団が登場する。まさに映画並みのスケールだ。
一方で青戸はERカーの消毒作業を買って出る。「これくらいしかできないので」「汚れる仕事は全てやります」という青戸の姿は、医師として自分にできることを全力でやるという喜多見と音羽の方針と重なる。能力に関係なく、人の命を最優先した行動をとるという姿勢が大切なのだ。
お台場の海上付近を一時封鎖すると、海上保安庁の巡視艇やまぶきとERカーが到着。炎が燃料に引火した屋形船は大爆発を起こすが、患者たちはすでに救命ボートで脱出したあとだった。千住が倒れる中、MERは胡桃のオペに挑む。喜多見が「これまでで最も高度なオペ」と話すこの現場でも、青戸は「前室で待機」という良い自己判断を下している。
繊細な癒着剥離が必要な小児心臓の再手術というオペだが、音羽は補助に回り、怪我をしているが比奈は「やれます」と自信を持って答える。喜多見が求めていたのは、喜多見や音羽がいても、比奈が自分ができると自信を持って言えることだったのかもしれない。
冒頭の劇場の事故では、比奈は自分しかいないという状況で「自分がやらなければ」という意識で挑んでいたが、今度は自分の意思で、皆の助けを借りながらオペを進めていく。弦巻比奈のアイデアを取り入れて縫合止血に成功。「死者はゼロ」で隅田川ミッションは幕を閉じる。
みんなの力で命を救う
赤塚都知事は蒲田大臣に「都知事直轄のTOKYO MERをよろしくお願いします」と頭を下げているが、まさに“本家”としての誇りが滲み出している。青戸は飲み物を買ってくると、命を救うために全力を尽くしているメンバーを称えるが、比奈は音羽を引き合いに出して謙遜を見せる。
弦巻比奈は研修医ということもあるが、周囲から高く評価されても自己を過小評価するインポスター症候群の気があるように思われる。インポスター症候群になる人には、特に実力が認められにく有色人種や女性、それも専門職の人に多いとされている。
そんな中、喜多見は一人で全てを背負う必要はないと助言する。今回のミッションは全メンバーで成し遂げたことを改めて指摘するのだが、これは妹の死を受けて抜け殻になっていた喜多見が高輪から最終話で言われたことを踏襲している。
しかし、今回の喜多見はメンバーに加えてレスキューや海保、警察や都庁の人々のことも挙げ、医者の力だけじゃなく、みんなの力で命を救ってきたと話す。「MERっていうのはそういうチーム」と。『TOKYO MER』はコロナ禍で医療従事者へのリスペクトを込めて作られた作品だったが、今回は周囲が医療チームを支えることの重要性にも触れられている。
青戸の決意
比奈はメンバーが去っていく後ろ姿を見て決意を固めた様子。胡桃は比奈をヒーローだと思っている。青戸は蒲田大臣の政治資金規正法違反をリークしてを更迭に追い込んでいた。記事の日付は2022年4月4日になっており、野党が要求して蒲田が更迭されたことが記されている。また、現首相の名前が「和田文夫」であることも分かる。
青戸は音羽に「この組織を全国に広げてくれ」と告げ、自身は地元に戻って研修医からやり直す、やっぱり医者でありたいと思ったと話す。「次に現場で会うときは頼れるドクターになってる」と今後の登場を示唆して退場するのだった。音羽の顔には少し笑顔が浮かんでいる。
青戸は官僚としてのキャリアを諦めて、大臣を更迭に追い込むリークを流したのだ。青戸は「地元に戻る」としか言っていないが、それが政令都市の一つだとすれば、今後このTOKYO MERでのわずかな経験を買われて全国版のMERに加わる日が来るかもしれない。
比奈の就任、音羽との別れ
審議会で次のセカンドドクターについて聞かれた喜多見医師は、再び「どなたか」と聞くが、そこで手を挙げたのは弦巻比奈だった。比奈は、音羽医師のようになることはできないが、MERには頼れるスタッフが集まっている、いつかきっと音羽を越えるドクターになると宣言。
会場からは「女性だし危険ですよ」という女性蔑視発言が飛び出す(普通は会議でこんな発言をすれば処分を受ける)が、冬木医師は「性別やキャリアは関係ない」とリスペクトを表明。蔵前夏梅もこれを後押しすると、高輪医師も弦巻奈緒がそう判断したのなら応援すると言い、比奈のセカンドドクター就任が決定するのだった。
来る人もいれば去る人もいる。音羽はロッカーの名札だったガムテープを取る。ドラマシリーズの最終話以来、二度目の離脱だ。『隅田川ミッション』のハイライトの一つ、音羽と喜多見の別れのシーンだ。喜多見医師は比奈先生のセカンドドクター就任を報告すると、音羽に助けられた過去に感謝を述べ、「最高の仲間だった」と告げる。
音羽はいつものツンデレで、危険を顧みないやり方を認めたわけではなく、自分は安全を重視したMERを広げていくと話す。喜多見は最後に握手を求めるが、「ライバルになるかもしれませんよ」と告げ、やはり握手はせず。
握手をしないのは医師としての音羽のポリシーだが、今回は「不必要な接触は避けましょう」ではなく、ライバルになることを予告して握手を拒否したように見える。これも映画版へと続いていく演出なのだろう。
それでも、音羽は振り返ると「セカンドドクターは比奈先生が適任だと思います」と本当の「最後の助言」を残して去る。前半での「比奈は循環器外科医を目指すべき」という「最後の助言」はここで覆るのだった。
YOKOHAM MER誕生
ところ変わって1年半後の横浜。音羽が歩み寄ったのはERカー。だが、その車体には「TOKYO MER」ではなく、「YOKOHAM MER」の文字が並んでいた。「ERカーの究極系」というこの車体は、現場で医師として活動した音羽の視点で導入した新たな装備を備え、カテーテル治療もできるようになっているという。
そして、久我山局長は横浜のチーフドクターが海外から到着したことを明かす。それは劇場版に登場する杏演じる鴨居友のことだが、久我山は鴨居が音羽の昔の恋人であることに言及する。音羽はそれを否定せず、「鴨居チーフは優秀なドクターです」とだけ告げて『隅田川ミッション』は幕を閉じる。
映画版にどう繋がる?
YOKOHAMA MERは、新たな厚生労働大臣である両国隆文が集めたエリート集団。TOKYO MERが病院の寄せ集めであるのとは対照的だ。映画版ではジェシー(SixTONES)演じる潮見知広が新たにTOKYO MERに研修医として加わる予定となっており、セカンドドクターとなった比奈と後輩の潮見知広とのやり取りにも注目だ。
やはり気になるのは音羽について。予告編でもスーツ姿の音羽が登場しているが、音羽が理想に掲げる安全を優先したMERはどうなるのか、横浜のチーフである鴨居は喜多見チーフと現場でうまくやることはできるのか、心配は尽きない。
また、喜多見が高輪千晶と再婚したことも示唆されており、横浜ランドマークタワーでの火災事件では妊娠9ヶ月の高輪がビル内に取り残され、喜多見が冷静さを失う場面も見られる。再婚の記念写真には音羽の姿もあり、あくまで客観的な立場にいられる鴨居と、私情が絡む喜多見&音羽の判断に注目したい。
最後に、『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』に期待したいのは、YOKOHAMA MERにとどまらない今後のシーズン2やスピンオフへの展開だ。今回蒲田大臣から全国の政令指定都市にMERを置く計画が明かされた。YOKOHAMA MERがうまくいけばその他の地域にMERが置かれる展開も予想できる。
一方で、全国の政令指定都市に置かれるのは厚労省直轄のMERになるため、他の地域に軸を移したスピンオフでは、国と自治体の折衝という『TOKYO MER』の魅力は削がれてしまうかもしれない。やはりここは『TOKYO MER』シーズン2に期待したいところだが、果たして……。
連続ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』はBlu-rayが発売中。
スペシャルドラマ『TOKYO MER~隅田川ミッション~』もBlu-rayの予約を受付中。
百瀬しのぶによる映画のノベライズ版『劇場版 TOKYO MER 走る緊急救命室』は宝島社文庫から発売中。
映画『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』は2023年4月28日(金)より、全国の劇場で公開。
【ネタバレ注意!】『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』の解説・感想・考察はこちらの記事で。
『日本沈没―希望のひと―』のネタバレ解説はこちらから。