【第1話ネタバレレビュー】大人だって何も知らない——『ザ・ループ TALES OF THE LOOP』が思い出させてくれたこと【解説】VG+ (バゴプラ) | VG+ (バゴプラ)

【第1話ネタバレレビュー】大人だって何も知らない——『ザ・ループ TALES OF THE LOOP』が思い出させてくれたこと【解説】

©️Amazon Studios

ドラマ『ザ・ループ』が配信開始

AmazonプライムビデオのオリジナルSFドラマ『ザ・ループ TALES OF THE LOOP』が2020年4月3日(金)に配信を開始した。原作はスウェーデンのシモン・ストーレンハーグが2014年に発表したイラスト集『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』。原作の世界観を忠実に実写化したSFドラマとして注目を集めている。

ドラマ『ザ・ループ』のあらすじは以下の記事に詳しい。

2019年の『ザ・ボーイズ』に続き、Amazonプライムビデオから登場した期待の新星『ザ・ループ』。異常現象を引き起こす“ループ”と呼ばれる施設が建つ小さな田舎町が舞台で、世界観を共有しながら、異なる主人公を設定した短編作品8本で構成される。各話を異なる監督が指揮し、それぞれの現象を通して、それぞれのメッセージを伝えてくれている。

今回は、『ザ・ループ』からマーク・ロマネク監督が指揮した第1話「ループ」のレビューをネタバレありでお届けしよう。各シーンを解説しながらご紹介する。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』第1話「ループ」の内容に関するネタバレを含みます。

『ザ・ループ』第1話 ネタバレレビュー&解説

ラス・ウィラードの”挨拶”

『ザ・ループ』第1話の冒頭は、MCEP (実験物理学マーサーセンター) の創設者であるラス・ウィラードの”挨拶”から始まる。このMCEPこそが地元で“ループ”と呼ばれている施設のことで、ウィラードはループが建てられた目的を「宇宙の謎を解き明かし調査すること」と語る。

なお、この作品ではオハイオ州のマーサーという実在する地域が舞台になっていることも告げられている。この平凡な町で、「宇宙の謎」を明らかにすることができるのだろうか。

“ロレッタ”の物語

第1話で語られるのは、この街の少女・ロレッタの物語。のちに明らかになるが、この少女のロレッタは既に大人になっており、現在もこの街に住んでいる。ループの影響で、少女時代のロレッタが現代の町に現れるようになったのだ。

つまり、序盤に描写されている学校や家でのシーンはロレッタの過去の記憶ということになる。よく見ると、過去のシーンでは服装や風景の色彩を抑え目にしていることも分かる (学校の備品も古いものが使われているが、第2話でやっとこの町の学校も一般的な備品が揃っていることが明らかになる)。だが、このエピソードは第1話に設定されているため、視聴者は違和感なく「そういう町」と認識してしまう仕掛けだ。

母・アルマが口論している相手は?

家に帰った少女ロレッタは、母・アルマとある男性の口論を聞いてしまう。母は実験に夢中で、ループの心臓部である“エクリプス”の一部を持ち帰ってしまっていた。エクリプスはこの町で起こる異常現象の源であり、ループの施設自体がこのエクリプスを中心として建設されている。

なお、このシーンで登場する男性こそが、若き日のラス・ウィラード (ループの創設者であり冒頭の語り手) であり、アルマの失踪後に義父としてロレッタを育てることになる。ラス・ウィラードは「宇宙の謎」を明らかにしようと危険を冒すアルマを止めることができなかったのだ。

アルマはラスとの口論で、娘のロレッタは自分がいなくてもやっていけると口走ってしまう。幼い頃のロレッタはこの会話を聞いており、この経験がその後のストーリーに大きく影響する。

夕食のシーンでは、ロレッタはアルマに「(仕事を) 手伝いたい」と申し出るが、その理由は「一緒にいられるから」だ。「あなたには分からない」と言うアルマに、ロレッタは「分かるよ」と答え、アルマは「かもね、いつかは分かる」と結論づける。ロレッタが信じ続けたのは、この母親の言葉だった。

なお、第1話には、登場人物が歌うシーンや踊るシーンがいくつか登場するが、監督を務めたマーク・ロマネクはマイケル・ジャクソンの「スクリーム」(1995)やテイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ」(2014)のミュージックビデオを手がけてきた人物でもある。

コールとの出会い

母のアルマは、エクリプスの一部を用いた実験を危険を顧みずに自宅で強行してしまい、ロレッタの登校中に家ごと消失してしまう。ロレッタはアルマを探して森に入るが、ここで出会ったのは少年・コール。大人になったロレッタの息子だが、もちろん二人は知る由もない。

二人の対話で注目すべきポイントは、コールが廃屋で松ぼっくりを拾って「いいやつを集めてる」と告げる場面だ。母を失った少女のロレッタはこの言葉を無視し、不安げな表情を見せる。コールの方が空気を読めていないようにも見えるが、そうではない。ロレッタは大人になっても母・アルマの姿を追い、息子のコールと向き合うことができていないのだ。

コールは困っている少女のロレッタを家に連れて帰り、自分の母=大人になったロレッタに助けを求めようとする。だが、大人のロレッタはかつてのアルマと同じように義父であるラスとの議論に没頭し、コールの相手ができない。結果、大人のロレッタはループが呼び戻したかつての自分とも向き合う機会を逸してしまう。

コールは少女時代のロレッタに「うちの母さんも母親でいるのが嫌みたい」と打ち明ける。ロレッタはこの後、「自分の子どもにはこんなことしない」と誓うが、「私が一緒にいれば」「学校に行かなければ」と、母が失踪したことに対する自責の念にもかられている。

二人はアルマを訪ねてループの施設に出向くが、もうアルマはそこでは働いていないと告げられる。警備員から二人が訪ねてきたことを知らされた大人のロレッタは、少女のロレッタを捜しに町に出かける。

“もう一人の自分”との対話

大人のロレッタはバーでかつての自分と遭遇したことで、少女のロレッタはコールの家で自分のテストの解答用紙を見つけたことで、「彼女は私」と、お互いの存在について知る。廃屋で再会した二人は、母・アルマの失踪とその後のロレッタの人生について対話する。そこで、大人のロレッタは、少女のロレッタにこう告げるのだ。

あなたは何年もかけて、何が起こったのか科学的に考える。でも理由はわからない。人生には説明できないこともある。

ロレッタは、他の誰でもない自分自身にそう告げている。「今は孤独だけど、それもいつかは変わる」「家族との新しい人生があなたを待ってる」という言葉も、母を失いながらも、自分自身の家族を手に入れたロレッタ自身に返ってくる言葉だ。

大人のロレッタは、「アルマは母親でいたくなかったのよ」と、辛い現実を打ち明けることでその事実を受け入れる。一方で、少女のロレッタから「コールが同じことを言っていた」と告げられ、大人のロレッタ自身もアルマと同じ道を歩んでいたことに気づかされる。

「あなたのためにここにいる」

大人のロレッタは、少女のロレッタをループの施設に連れて行く。少女のロレッタはエクリプスの一部をその母体に返し、元の世界に帰っていく。

義父であるラス・ウィラードに声をかけられた大人のロレッタは、ラス・ウィラードとの議論は避け、家に帰って息子のコールと向き合う。息子と向き合うことは、かつて同じ状況にあった自分と向き合うことでもあり、母親を失うという自らの経験を繰り返させないことでもあった。「あなたは何も間違ったことをしていない」と息子に告げることは、母の失踪について自責の念にかられてきた自分への赦しの言葉でもある。ロレッタはコールに、自分の母はいなくなったが、「私はいつでもあなたのためにここにいる」と約束し、美しい音楽と共に物語は幕を閉じる。

「ループ」の意味は?

少女のロレッタは、いわば過去からタイムスリップしてきた存在だ。大人のロレッタは、少女時代の自分が出現していると知った時に「現実だった。夢かと思ってた」と語っており、この奇妙な経験の記憶が残っている。大人になったロレッタが最後のシーンでコールに「これはいいやつ?」と聞きながら松ぼっくりを渡すのは、中盤の廃屋のシーンでコールに「いいやつを集めてる」と言われた子どもの頃の記憶が残っていたからだ。

大人のロレッタは、自分の世界に帰る少女のロレッタに「あなたはこれが現実か夢か分からなくなる」「何年も経ったある日、母親を捜す少女に出会って、忘れかけていた言葉を掛ける」とも語りかけている。曖昧な記憶の中で「家族との新しい人生があなたを待ってる。約束する」という“未来の自分”からの言葉を、“過去の自分”と再会することで思い出すのだ。

これが、ドラマ『ザ・ループ』の第1話に「ループ」というタイトルが付いている所以だ。

分かっていることは、「分からない」ということ

原作者のシモン・ストーレンハーグは、ドラマ『ザ・ループ』のメイキング映像で、『ザ・ループ』における仕事は、「子どもになるということ」と語っており、「そして成長していく中で、大人たちは何が起きているのか見当もついていないということを知る」と述べている。

子ども達からすれば、大人は難しいことを解明しようとしている頭の良い人たちに見えるだろう。大人の世界はよく分からない。でも、大人だって子ども時代の延長線上に生きていて、本当は何も知らない——「ループ」はそんな忘れがちな事実を思い出させてくれる物語だ。

だが、大人にも一つだけ、子どもよりも分かることがある。

大人になったロレッタは、「あなたは何年もかけて、何が起こったのか科学的に考える。でも理由はわからない。人生には説明できないこともある」という一つの真理に到達する。「分からない」ということが分かるようになったのだ。母親探しに夢中で、コールを無視した頃のロレッタとは違う。

ロレッタは、“自分”との対話を通して、分からないことは分からないこととして受け入れ、新しい人生を生き、目の前の大切な人と向き合えるようになった。母親の失踪について説明することはできないが、かつての自分と同じ孤独を感じている我が子と向き合うこと、「あなたのためにここにいる」と約束することはできる。例えロレッタを失ったとしても、コールの記憶にはその言葉が残っていくはずだ。

「宇宙の謎を解き明かし調査すること」という大層な目的で建設されたループ。理解不能な事象が次々と起こる田舎町で、このように、人々は観測可能な小さな物語と向き合っていく。シモン・ストーレンハーグの作品の特徴は「SFが入り混じった現実的な風景」だが、この作品の登場人物たちは、案外、“何も分からない”現実の私たちに似ているのかもしれない。

ドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』はAmazonプライムビデオで独占配信中。

シモン・ストーレンハーグによる原作のイラスト集 (訳 山形浩生) は、グラフィック社より発売中。

グラフィック社
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ドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』のあらすじとメイキングは以下の記事から。

ショーランナーで脚本を担当したナサニエル・ハルパーンが語った原作者シモン・ストーレンハーグとの共同作業については、以下の記事から。

『ザ・ループ』シーズン2の製作については以下の記事に詳しい。

齋藤 隼飛

1991年生まれ。
社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。
編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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