『アイアンハート』第3話はどうなった?
『アイアンハート』は『デアデビル:ボーン・アゲイン』(2025) シーズン1に続く2025年のMCUドラマ第2弾。映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2023) に登場したリリ・ウィリアムズのその後が描かれる。
今回は、第1話から第3話が同時配信された初週のエピソードから、早くも折り返しとなる第3話についてネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容はネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『アイアンハート』第3話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『アイアンハート』第3話ネタバレ解説
次のターゲット
ドラマ『アイアンハート』第3話「ヤバめのマント」は第1話、第2話に引き続きサム・ベイリーが監督を務める。脚本はフランチェスカ・ゲイレス&ジャクリーヌ・J・ゲイレスが担当。二人はドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』(2022) でも第3話「エミル・ブロンスキーの仮釈放」の脚本を手がけた。
第3話の冒頭で流れる曲はBAMBII & LADY LYKEZ「WICKED GYAL」(2023)。タイトル通り「悪いギャル」の歌だ。リリたちは降り注ぐ札束の中で踊り、もっとお金があれば何に使うかと夢を語っている。
そんな中、クラウンが金庫に忍び込んでパーカーのローブを外に持ってきてしまう。これを見つけたジョンは激怒するが、パーカーはこれを宥めている。副リーダーが怒り、リーダーが治めるという組織の形がうまくできている。そんな中でジョンに引き下がらないリリがカッコいい。
パーカーの目は既に次の仕事に向いていた。ターゲットは種に“ドーピング”を施し農業界に革命を起こしたエアルーム社とCEOのハンター・メイソンだ。だが、ケープが気になるリリはパーカーと話をすることに。
リリは自分たちは『オーシャンズ11』なのか、『ザ・ソプラノズ』なのかと問うているが、前者は計画のために集められた泥棒集団の、後者はイタリアマフィアの犯罪ファミリーの物語だ。確かにパーカーのチームはその両方の雰囲気を持っている。
パーカーは両方悪人だと言うが、リリは悪人ではなく仕方なくやっているとして、エンジニアとしての誇りを忘れていない。それでも、パーカーはやはり「偉業を達成する者は後ろ暗いことだってやる」と、ビジネスの世界の常套句をリリに突きつけるのだった。
パーカーはマントを得て変わったと話すが、大切な人を守れるなら仕組みはどうだっていいと主張する。ケープがどんな仕組みであろうと結果さえ良ければいいというパーカーの考えは、犯罪に手を染めても得た金で善いことをすればいいという理論と一致する。ちなみにここで初めて「魔法」というワードも登場。テクノロジーと魔法が『アイアンハート』のキーワードだ。
明滅するハート
お金を手に入れたリリはエグゼビアに新品のヘッドホンをプレゼントするが、エグゼビアはナタリーがつけた傷がたくさんある思い出のヘッドホンは、魂を感じ、心が揺さぶられ、曲が一層よく感じられると語る。メンタルの話でもあるが、スピリチュアルなようでもあり、リリとは違う考え方だ。
そんな中、ジョー・マクギリカディがウィリアムズ宅を訪ねてくる。前回リリに言われてMRFを触って以降、3Dプリントの角膜や筋力を上げるナノテクの筋繊維など、アイデアが止まらなくなってしまったという。ナノテクの筋繊維はヴィジョンに使えそう。
今日は帰るよう言われたジョーだが、「簡単に言いなりにならない」というリリの言いつけを守って、リリに「母親にバラすぞ」と脅しをかけて翌日改めて会うことに。お互いに脅し合う奇妙な関係だ。
部屋ではナタリーがアイアンスーツを動かしてリリに忍び寄る。ナタリーはスーツの遠隔操作もできるようなので、事実上二人組で行動できるのがリリのアイアンスーツの強みだ。ちなみにナタリーはパーカーについて「デス・スターでも作るつもりかも」と言っているが、若い人が「スター・ウォーズ」ネタを知っているのは『マンダロリアン』(2019-) をはじめとするドラマシリーズのおかげだろう。
コードではなく友人として扱ってほしいと訴えるナタリーは、自分がスーツの制御権を持っているとリリを“脅迫”。5分で2度の脅迫を受けたリリは嘆いているが、前話では1日に二度の脅迫を受けたと話していたジョーを哀れんだばかりだ。ナタリーが遊びに行く約束をしてもらって流れる曲はSaweetie「Best Friend feat. Doja Cat」(2021)。
なお、ナタリーがアイアンスーツをアップデートしている夜間、胸のチェストボードが光が明滅している。これはナタリーを3Dで映写しているパーツだが、ボードは心臓の位置にあり、心臓の鼓動のように見える。AIナタリーが存在していることが、リリがアイアン「ハート」になるための条件なのかもしれない。
ジョーの正体
リリはネックレスからAIナタリーを投影できるようにして二人で外に出かける。思い出話もできる目の前のAIナタリーは、本当にナタリーではないと言い切れるのだろうか。いずれにせよリリにとっては、昔のことが話せる話し相手ができた。それに、犯罪に対する忠告もしてくれる。
二人はゲイリーの自動車修理工場にやってくるが、リリにあの日の銃撃事件がフラッシュバックし、パニック発作の症状が出てしまう。ナタリーはリリの意識を投影しているため、リリがパニックに陥るとナタリーは止まってしまうのかもしれない。また、ナタリーとリリしか知らないことをAIナタリーが再現できるのは、リリの記憶から再生しているからだと考えられる。
家に戻ったリリは、ランページことスチュアート・クラークが遺体で発見されたことを知る。リリの加入にあたって組織をクビになったランページが死んでいたのである。一味を抜けた人間は殺されると焦るリリは、パーカーからマントを奪うことを計画する。この時、ナタリーはマントを着ていたパーカーが銃弾の軌道を変えたと証言している。
テレビではシカゴのテック企業が犯罪の標的になっていると報じられている。パーカーの身体にはマントの影響による身体の異変を隠すタトゥーが増えている。一方で、ジョンからは中途半端に復讐に仲間を巻き込むなと忠告を受けている。
テレビではあるCEOがピーター達を「コソ泥」と呼び、パーカーは今回の計画もリスクをとって決行すると言い張るのだった。パーカーの行動には過去のトラウマが関係しているようである。
今回の仕事では金属が探知されるため施設に入れないとされており、リリはバイオメッシュの皮膚の試作品を作っていたジョーを頼ることに。ジョーは体内にコンピューターチップを入れるために腕を切り開いていた。エンジンがかかったら止まれない、極端な人である。
ジョーは、バイオメッシュの皮膚を武器を隠すことに使われるのではないか警戒。と、ここでリリはジッパーに入ったジョーの父の遺骨を発見する。そこには「オバディア・S」と書かれており、ジョーの父が映画『アイアンマン』(2008) に登場したオバディア・ステインであったことが発覚する。
オバディア・ステインはスターク・インダストリーズのナンバー2だったが、会社を乗っ取るためにテン・リングスに兵器を横流しし、トニーを殺害させようとした。この作戦に失敗すると、自分用のスーツを作り、アイアンモンガーとなってトニーに挑んだ。世間的にはオバディア・ステインは飛行機で事故死したことになっていたようだが、ジョーは、実際にはトニー・スタークを殺そうとして死んだと認める。
そしてジョー・マクギリカディという名前は偽名で、ジョーの本名はエゼキエル・ステインだった。エゼキエル・ステインは原作コミックにも登場するキャラクターで、原作ではトニーに復讐しようとしたが、MCU版では父のようにならないように抵抗してきたと明かしている。
「お父さんはスーパーヴィラン」という長寿シリーズならではの展開。同時にシャン・チーと似た境遇とも言える。リリは二世のトニーと自分の違いに苦しんでいたが、一方で悪い意味での二世として苦しむ人の存在も知ることになる。
前話でジョーが「なぜスーツを作る?」と聞いていたのは、父も同じようにスーツを作って散ったからだったのだろう。改めて同じ質問をされたリリは、やはり前回と同じように「作れるから」と答えている。これは整備士だった継父ゲイリーの言葉である。
ゲイリーはトニー・スタークに憧れていたといい、リリは「ものを知るには分解して組み立て直すのが一番だ。本質が分かる」という言葉を受け継いだという。物であれ、人の心であれ、壊れたものを直せるから直していたというゲイリー。その背景にあるのは、「直せる者」としての責任感だったのかもしれない。
そしてリリはジョーに「あんたはあんた。一人でも十分強い」と言ってやる。リリもまた「壊れたものを直せる者」の責任を果たそうとしているようではある。そしてジョーは、迷惑をかけないことを条件にバイオメッシュの皮膚を使うことを許可。最後にリリがジョーに投げかける「ジーク (Zeke)」と呼び名は、本名の「エゼキエル (Ezekiel)」の略称で、コミックでの呼び名でもある。
エアルーム社の戦い
リリ達はエアルーム社への侵入を決行。リリはバイオメッシュの皮膚の下にパーカーのマントを切り取るためのレーザーカッターを忍ばせている。今回のリリはチームを離れるために任務の途中で離脱するつもりなのだ。
リリが水中を移動する際に「リトル・マーメイドみたい」と言われるのは、実写版『リトル・マーメイド』(2023) で黒人俳優のハリー・ベイリーが主人公アリエルを演じたことと無関係ではないだろう。人種に関係なくリトル・マーメイドになれる時代がやってきたのだ。
リリがCEOのハンターとパーカーがいる温室への侵入に成功した際にナタリーは「make like a tree and leave」とジョークを言っている。「さっさと去れ」という意味のイディオム(慣用句)だが、葉っぱの「leaf/leave」と去るという意味の「leave」をかけた言葉遊びであり、それを植物だらけの温室にいる相手に言うというジョークだ。
リリはハンターとパーカーが話をしている間にレーザーカッターでマントを切り取ろうとするが、欲をかいたばかりに異物が検知されてバイオアラート・センサーが起動。パーカーの仲間達は火災探知機を止めて温室に火をつけていたが、温室が封鎖されてむしろパーカー達が窮地に陥ってしまう。
小物扱いされたパーカーはマントの透明になる機能を使ってハンターを殺害。それだけでなく駆けつけた警備員も始末していく。パーカーが警備員を倒していくシーンで流れる曲はスクリレックス, Fred again.. & Flowdan「Rumble」(2023)。2024年のグラミー賞最優秀ダンス/エレクトロニック・レコーディング賞を受賞した楽曲だ。
残された証拠品
リリはレーザーでギリギリ切り落としていたマントの欠片を入手。リリはナタリーに仲間を助けるよう言うが、温室でジョンと出会してしまう。ジョンはナタリーが動かしていたアイアンスーツはリリが入っているものだと思っていたことと、リリがマントの欠片を持っていたことからリリの裏切りに勘づく。二人が揉み合いになっている時に、リリのレーザーカッターがバイオメッシュの皮膚ごと落下。ジークに繋がりうる証拠が現場に残されることになった。
ジョンと戦う中で酸素がなくなり窒息しかけたリリを助けに来たのは、ナタリーが動かすアイアンスーツだった。二人はジョンを残して脱出。その後リリは温室で死んだジョンを検知し、パーカーの一味は施設を離れることに。リリの裏切りを知る唯一の人物は死んだのだった。
リリがジョンを置き去りにしたこと、ジークを危険に晒していることに絶望する一方、パーカーはジョンを失ったことで上位の存在に「俺は降りる」と呼びかけていた。何者かに操られているのだろうか。パーカーはジョンとアイアンスーツの幻覚を見て、パニックに陥ったリリはナタリーの問いかけに「大丈夫じゃない」と答えて、『アイアンハート』第3話は幕を閉じる。
エンディングで流れる曲はELIZA「Putting Out Fires」(2018)。「問題は求めてない」「解決しよう」「火を消して」と、リリが直面している状況を表現するような内容になっている。
『アイアンハート』第3話ネタバレ考察&感想
リリはいつも敗北する?
『アイアンハート』初週の3話は、徐々に状況が悪化し、第3話ラストで窮地を迎えるという展開が待っていた。リリはマントの欠片を手に入れる代償としてジョンを見殺しにし、ジークに繋がる証拠を現場に落としてしまい、パーカーは「いとこ」と表現していたジョンを失った。
ジークの立場からすれば、スーパーヴィランの父を持ち目立たぬように生きてきたのに、ブラックマーケットで手に入れたバイオメッシュの皮膚を犯罪者に提供したとして世間の注目を浴びる危機が迫っている。サイロには兵器もある。
残り3話も翌週に同時配信なのはありがたいが、気になるのは2024年12月に配信されたアニメ『ホワット・イフ…?』シーズン3第5話「もしも…“出現”が地球を壊したら?」で、ウォッチャーが「リリ・ウィリアムズはいつも敗北する」と発言していることだ。この前提がある視聴者からすると、今回もリリは敗れ去ろうとしているように見えるのだ。
また、ウォッチャーは「リリは常に問題は技術で突破できると思っている」とも語っていた。リリはテクノロジーだけで問題を切り抜けようとしているが、窮地を抜け出すヒントは、リリが避けていたスピリチュアルな要素か、心や魂といったソウルな部分に秘められているのかもしれない。
同時に、『アイアンハート』のメインテーマになると見られていた「テクノロジーと魔法」については、ギリギリ交差するまでには至らなかった。現実ではテック系右派が台頭して久しいが、希望のある未来にも、無機質で功利主義的な未来にも振れうるテック勢力の台頭にどの程度踏み込むのかと言う点も注目ポイントだ。
ジークはどうなる?
『アイアンハート』第3話のハイライトは、やはりジョーの正体がエゼキエル・ステインだったということだ。実はエゼキエル・ステインは映画『アベンジャーズ』(2012) の初期構想に入っていたが実現せず、13年後の『アイアンハート』でMCUに参戦することになった。
原作コミックではエゼキエル・ステインはアイアンマンとは違いバイオテクノロジーなどを駆使して、スーツ(アイアン)と人間(マン)の境界線を曖昧にしたサイボーグのような存在になる。この設定は『アイアンハート』にも生かされており、ジークは生体工学への関心を見せ、体内にチップを埋め込もうとしていた。
残りの3話でリリがパーカー/フッドと戦うのならば、改造を施したジークがリリの味方として戦う展開もあり得るかもしれない。機械工学と生体工学、そして魔法の三つの要素が有機的に絡んでいく展開に期待したい。
余談だが、リリは趣味や年齢的にピーター・パーカーと出会えていれば良い感じのバディを組んでやっていけたような気がした。ピーターは全人類から忘れ去られてしまったが、ピーターがもしもMITに合格してリリと出会えていたら……と、“ウォッチャー”的な視点で思ってしまう。
いずれにせよ、リリの物語はカマラやケイト達とも繋がっていくだろう。今回のストーリーで犯罪歴が残らないかが心配だが、政府公認のアベンジャーズに入ればバッキーのように恩赦もあるかもしれない。一方で、若いキャラクターが自分がやったことの責任をどう負うのかという点も注目すべきポイントになる。
あっという間に次回は最終週。『アイアンハート』は7月2日(水) に第4話・第5話・第6話が同時配信される。その翌週は7月11日(金) に『スーパーマン』が公開されるDCに話題を譲り、さらにその2週間後に映画『ファンタスティック・フォー/ファースト・ステップ』が公開される。アニメ『アイズ・オブ・ワカンダ(原題)』は8月6日配信予定。今年も夏がやってきた感じがする。暑さに気を付けつつ、見守っていこう。
ドラマ『アイアンハート』はディズニープラスで独占配信中。
コミック『インビンシブル・アイアンマン:アイアンハート』は吉川悠の翻訳で発売中。
本記事の筆者が翻訳を担当した、500点以上のイラストと解説と共にMCUの歴史を辿る『マーベル・スタジオ:ジ・アート・オブ・ライアン・メイナーディング』は好評発売中。
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