『アイアンハート』第4話はどうなった?
ドラマ『アイアンハート』は2025年6月24日(水) より配信を開始したMCU最新作。映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2023) に登場したリリ・ウィリアムズのその後が描かれる。初週は第1話から第3話が同時配信され、7月2日(水) には第4話から最終回第6話が一斉配信されている。
今回は、『アイアンハート』第4話について、ネタバレありで解説&考察して行こう。以下の内容はネタバレを含むため、必ずディズニープラスで本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『アイアンハート』第4話の内容に関するネタバレを含みます。
『アイアンハート』第4話ネタバレ解説
更に悪くなる状況
『アイアンハート』第4話「悪の魔術」のエピソード監督を務めたのはアンジェラ・バーンズ。これまでに多くのドラマ作品でエピソード監督を務めており、『アトランタ』(2016-2022) でもエピソード監督を務めた。『アイアンハート』では第4話から第6話の計3話を指揮している。第4話の脚本は、詩人としても知られるアミール・スレイマンが手掛けている。
前回リリ・ウィリアムズは、エアルーム社への侵入作戦で、パーカーのマントの一部を手に入れるというリリの作戦に気づいたジョンを見殺しにし、更にエゼキエルに繋がり得るバイオメッシュの皮膚を現場に残してしまった。全てが悪い方へと進んでいく中、第4話から『アイアンハート』は後半戦に入っていく。
『アイアンハート』第4話の冒頭は、パーカー・ロビンスがジョンによって犯罪生活に引き入れられた過去が描かれる。「ずっとそばにいる」と言ったジョンの死。パーカーにはジョンについて語る仲間たちの声が揺れて聞こえている。
前回エアルーム社CEOのハンターは、パーカーの仲間が警報を作動させたと言っていた。ジョンの死を招いた裏切り者がいるということは、パーカーにも分かっているのだろう。それもあってか、パーカーはジョンの好きだったところを「忠誠心」と語り、「次は完璧にやる。計画通り仕事をしろ」と指示をするのだった。
『アイアンハート』第4話のオープニング曲はAndre Truth「Crown」(2022)。「パラシュートなしで空から落ちた/ベイビー、これはゲームで私が君を撃つんだ」と歌われる箇所が切り取られている。
リリは切り取ったマントを分析し、エネルギーがどこからともなく湧き出ているということを知る。母ロニーが言った「洗濯」をリリが「選択」と聞き間違えるシーンは、英語では「come clean」というワードが使われている。「come clean」には「綺麗にする」という意味もあるが、「自白する」という意味もある。
更にマントの欠片はなぜか消えたり現れたりしている。リリはAIナタリーからワカンダのシュリに相談することを提案されるが、「種族間戦争の後、私が何をしてたと思う?」とでも言えというのかと否定的な態度をとっている。「種族間戦争」というのは『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』で描かれたワカンダと海底王国タロカンの間の戦争のことだ。
リリは、今の状況を知らせればワカンダの女王であるシュリに嫌われるのではないかと思い、相談できなくなっていた。人に相談できず自滅して、後から「相談してくれればよかったのに」となる典型的なパターンに陥ってしまっているのだ。
責任と優しいハート
エアルーム社に残されたバイオメッシュの皮膚を証拠として、関与を疑われたジョーことエゼキエルは逮捕。オバディア・ステインの息子という出自と本名も世間にバレているが、世間的にはオバディアはトニー・スタークのメンターだったということになっているので、エゼキエルがステイン家の名誉を汚したという逆転現象が起きてしまっている。考え得る最悪の状況が展開されている。
面会に出向いたリリは、エゼキエルから「何の責任も取れないガキ」「自分さえ助かれば他はお構いなし」と批判される。「責任」は『アイアンハート』のテーマの一つだ。「大いなる力には大いなる責任が伴う」とは「スパイダーマン」シリーズで有名な言葉だが、リリは責任を果たすことができるのだろうか。
ニュースを見たパーカーはリリがエゼキエルに「外注」していたことを見抜いており、相談して欲しかったとチクリ。新たな技術者メンバーを入れると話すのだった。リリは組織内での立場も危うくなっているが、まだこのどん底は更新されていく。
リリは周囲に危険が及ぶのを恐れ、母ロニーとナタリーの弟エグゼビアに護身用のハイテク時計を与える。一方で具体的なことを周囲に伝えることはできない。リリはエグゼビアに自分が良い人かどうか聞くが、「賢い」「努力家」「守ってくれる」「複雑」とさまざまな言葉で説明される。「良いか悪いか」という二元論で言い切れるものではなく、様々な顔を持つ複雑さが人間らしさの証である。
エゼキエルは「スポックみたい」と、「スタートレック」シリーズのキャラクターの名を挙げると、リリは「ウフーラでしょ」と、ケニア生まれの黒人女性であるウフーラの名前を挙げている。ウフーラは元々ニシェル・ニコルズが演じ、のちに「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのガモーラ役で知られるゾーイ・サルダナが演じた。
二人が別れ際にやるハンドサインは「スター・トレック」シリーズのもので、「長寿と繁栄を」という意味だ。第2話では「スター・ウォーズ」の用語を使ったエグゼビアにリリが「スター・トレック」ファンだと思ったとがっかりする場面があった。エグゼビアはそれを踏まえてリリに寄せた「スター・トレック」ネタで固めてくれているのだ。優しい。
エグゼビアは、リリが鎧(armor)の下に、優しい心(soft heart)を持っているとも発言。アイアンハートという名前に徐々に近づいている。
ゼルマと別のディンメンション
不眠で警戒するリリだったが、母ロニーが観ていたドラマ『X-ファイル』(1993-2018) の銃声で“エアバッグ”が起動。直前に「スカリー!」という声が聞こえているが、これは『X-ファイル』の登場人物の名前である。
極限状態にあるリリはロニーが得意とするスピリチュアルの分野を頼ることに。翌日ロニーがリリを連れて行ったのは第1話で出てきた友人の店「スタントンズ」。『アガサ・オール・アロング』(2024) のジェニファー・ケールのスキンケアショップを想起させる雰囲気だ。
ここで登場したのはスタントンさんの娘のゼルマ・スタントンだ。ゼルマは移動の呪文で一同をネバリッシュという場所へ飛ばす。「平行 (parallel) ——」と言いかけているので、次元を移動したのだろう。
ゼルマ・スタントンは原作コミックにも登場するキャラクターで、コミックではドクター・ストレンジの助手を務め、「ストレンジ・アカデミー」シリーズではストレンジの魔術学校で教員として活動していた。魔法使いが街中にいるというコンセプトはやはり『アガサ・オール・アロング』に通じる。
マントを分析したスタントン母娘は、マントが「別の次元」から来たものだと予測する。この「次元」という言葉は英語では「ディメンション (Dimension)」となっている。例えば『ミズ・マーベル』でクランデスティンはヌール・ディメンションから来たと言い、「ドクター・ストレンジ」ではミラー・ディメンション、ダーク・ディメンション、アストラル・ディメンションが登場している。アントマンが迷い込む量子世界もマイクロ・ディメンションと呼ばれる。
つまり、別の次元(ディメンション)というのは、ユニバース(宇宙)は同じだが、異なる空間に存在するものと仮定できる。『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021) に登場したター・ローの村とダーク・ゲートも同じ概念の場所だろう。
リリはすぐに「仕組み」を知りたがる。メカニックの発想であり、結果が良ければ仕組みは問題じゃないと言っていたパーカーと対をなす感覚だ。この場面ではカマー・タージとドクター・ストレンジの名前も登場。ゼルマがカマー・タージを「難関校」と言い、ストレンジの名前を出すのは、「ストレンジ・アカデミー」の原作設定を踏まえた演出だ。
母マデラインはゼルマを育てるためにカマー・タージをやめたそうで、おかげでゼルマは古書やTikTokで魔法を学んだという。カマー・タージにいたかったと言うゼルマに、マデラインは「子どもが行く場所じゃない」と言い返す。確かに『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022) での惨劇を見れば、その意見には頷ける。
ゼルマがシカゴで身につけた紅茶占いの結果を見るなり、マデラインは全員を元の世界に戻し、マントが「最も暗黒な次元」からやって来たもので、人に取り憑くのではなく人を操るものだと説明する。テクノロジーは使う人次第だが、悪い魔法は存在するとして、二人を追い払うようにして店から出すのだった。
失い続けるリリ
想像以上に大変なことになっていた状況に母ロニーはやっぱり「助けを求めてよ」と、全て自分でなんとかしようとするリリに伝える。ここでロニーが指摘するように、リリの同僚の一人は殺され、もう一人は逮捕されている。ニュースになっているエゼキエルは前回リリの家を訪ねてきてロニーと会っていた。
だがこの時点でリリはネックレスにタッチしてスーツを呼んでおり、もうスーツで飛び去ることを前提としていたのだろう、「意見を押し付けるから相談できない」「すぐパパの話を出す」と猛烈に言い返す。自分を守るようにスーツに引きこもり、飛び去ったリリ。これで母との関係にも亀裂が入ってしまた。どんどん追い込まれていく……というか悪い方に突っ走ってしまっている……。
エゼキエルの房にはフッド/パーカーが登場。マントの機能はただのステルスではなく、壁もすり抜けられるようだ。マントの欠片はパーカーが本体を使うたびに消えたり出たりしていたのだろう。パーカーはエゼキエルのリクルートに来ていた。仲間に入れる「新しい技術者」というのはエゼキエルのことだったらしい。
エゼキエルのサイロのラボに行ったリリは、魔法のマントを破壊するための実験を繰り返す。ラボの鍵はマットの下に。アメリカで最もポピュラーな合鍵の隠し場所だ(玄関前のマットには伝言のメモやチラシを挟んだりもする)。
実験に没頭するリリの姿はトニー・スタークの姿を想起させもするが、背後に流れているエリカ・バドゥ「The Healer」(2008) がリリのオリジナリティを象徴している。ヒップホップは政府や宗教よりも巨大だと歌う歌詞が、マントの持つパワーと重なるような演出になっている。
リリは、マントの破壊は「できない」という結論に至り、スーツの中でパニック発作を起こしてしまう。このパニック障がいとどう付き合っていくのかという点は、リリの重要な要素の一つとなりそうだ。
AIナタリーはアイアンスーツで弟のエグゼビアをリリの元へ連れてくる。ここでリリはようやく「疲れた」と弱音を吐き、AIナタリーはついにエグゼビアとの面会を果たすが、エグゼビアは拒否反応を見せる。リリはすっかりAIナタリーを擁護する立場になっているが、エグゼビアはAIナタリーを消すよう迫り、それを拒否しないリリの姿を見てナタリーは飛び去ってしまった。
エグゼビアからは時計を突き返され、ついにエグゼビアとAIナタリー、そしてアイアンスーツを失ったリリ。想定していた最悪を次々と塗り替えてくる展開でなかなか辛い……。
ラストの意味は?
パーカーチームの助けを得て房から出たエゼキエルもといジークは、髪を剃って坊主にすると機器と脳波を繋げるというコードをスラッグに渡して“改造”を受ける。原作のジーク・ステインがバイオテクノロジーを駆使してサイボーグのようになることを踏襲した展開だ。
『アイアンハート』第4話のラストでは、フッド/パーカーは、リリがジョンを殺したと言い、仲間に「リリを殺せ」と指示を出す。ジョンの死の原因がリリであることを見抜いていたようだ。エンディングで流れる曲はパーカー役のアンソニー・ラモスが歌う「Villano」(2023)。スペイン語で「ヴィラン」を意味するタイトルの通り、「そのままにしておこう、私はヴィランだから」「嫌われても気にしない」と歌われている。
『アイアンハート』第4話ネタバレ考察&感想
リリのピンチ
第4話になっても状況は悪化する一方。カーマ・タージとの関連があるゼルマの登場でマントが別のディメンションと関わりがあることは分かったが、第4話時点では明るいニュースはない。リリは母ロニー・ナタリー・エグゼビアとの関係に亀裂が入り、パーカーのチームから命を狙われることになった。
第4話では母ロニーがリリに「パニックになってスーツの中で寝てる」と指摘する場面もあった。これもまた『アイアンマン3』(2013) でスーツ依存症になったトニー・スタークを想起させる。トニーはより大きな世界を背負っていたが、自らの責任や罪の意識、母やエグゼビアを守りたいという思いから生まれる重圧は、リリにとっては非常に大きいものだ。人が抱える痛みはそれぞれで、相対化できるものではないのである。
そして、良い仲間になりそうだったエゼキエルはいよいよパーカーの配下に。パーカーはスチュアートを切り捨ててリリを入れ、今度はリリを切り捨てるにあたってエゼキエルをリクルートしている。少なくとも、切る前に代わりを見つけるという第1話で登場した原理は守られている。
第4話でついに明確にリリの敵=ヴィランとしての姿を見せたパーカー。残り2話で物語はどう展開していくのか、同時配信の第5話と第6話を続けて観ていこう。
ドラマ『アイアンハート』はディズニープラスで独占配信中。
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