ネタバレ解説!『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』タイトルの「デーモン」の意味は? 前章ラストまでの感想 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説!『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』タイトルの「デーモン」の意味は? 前章ラストまでの感想

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『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』公開

2024年3月22日(金)、アニメ映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』、通称「デデデデ」が全国公開された。『ソラニン』などの代表作を持つ浅野いにお原作SF漫画のアニメ映画化で、原作はビッグコミックスピリッツ誌にて2014~2022年まで連載された。

ストーリーの舞台は、「侵略者」の乗る「母艦」が空に浮かぶ日本。主役の女子高生、小山門出役にYOASOBIの幾田りら、同じく中川凰蘭(おんたん)役に歌手でタレントのあのを起用したことでも話題となった本作。早速、ネタバレありで解説および感想を書いていきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、アニメ映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』の内容に関するネタバレを含みます。

〈非日常〉の中の〈日常〉を描く「デデデデ」

「3.11」のメタファー

原作「デデデデ」の連載開始は2014年で、いつ動き出すとも知れない「母艦」が空に浮かぶ異常事態の中を人々が暮らしているという設定は、「3.11」の原発事故のメタファーだ。作中には放射線を思わせる「A線」という単語も登場する。当時、こうした設定には筆者を含め特に東京に暮らす読者にとっては一概にそれをフィクションと切り捨てられないリアリティがあった。

しかし、それから十年後に映像化された本作『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』には、当然のことながら2011年の原発事故当時や、それから数年後の「デデデデ」連載開始当時にもまだ漂っていたような切迫感は感じられなかった

原作にもあったデモや、「A線」の健康被害から身を守ろうとマスクやサングラスで防護する門出の母親などの描写は見られたものの、原発事故やそれを取り巻く社会状況を改めて主題化しようとする意図は、作劇からは個人的にはあまり感じ取れない印象を受けた。

それが記憶の風化ということだろうが、それでも2024年の今敢えて原発事故という社会環境の大きな変化をフィクションに取り入れた作品である「デデデデ」を映画化した意味はあるのだろう。「処理水」放出問題など、普段意識することはなくなっても原発事故は今も続いているとも言える。この機会に改めて考えてみたい。

「非日常」の中で日常を生きる少女たち

「円盤」の浮かぶ非日常の中、それでも門出は先生に恋をしたり、進路に悩んだりしながら日常を生きる。中盤までエキセントリックなおんたんに振り回される門出が描かれるが、小学生時代の回想シーンによってむしろ子供の頃はおんたんの方が内向的で、門出の方がはっきりとした自我を持つキャラクターだったと明かされたのは意外だった。今のおんたんは、門出に近付こうとして彼女なりに努力をした結果なのかも知れない。

共に声優初挑戦である幾田りら、あのだが、それぞれ高校生時代と小学生時代が見事に演じ分けられていた。歌手と声優とでは違うとはいえ、やはり「声を出す」という職能には共通する部分もあり、二人の実力が遺憾なく発揮された格好だ。

原作「デデデデ」第1話は門出とおんたんの日常シーンから幕開けたが、映画「デデデデ」では冒頭に円盤出現のシーンが挿入された。これによって時系列が分かり易くもなり、かつ冒頭から派手な映像を見せられることで「SF映画」としてのカタルシスも存分に味わえた。余談だが、中盤で墜落した円盤の残骸を米軍が回収するシーンでは、初代『ゴジラ』(1954)に登場した「オキシジェンデストロイヤー」まんまの見た目の小物も登場した。

門出の所業に対する感想

命の描き方

特別な力を持たない普通の女子高生である門出とおんたんを主人公にした手前、彼女たちがどのように「世界の終わり」的な危機的状況に立ち向かっていくのか、あるいは立ち向かわないのかという部分も見どころだ。

飽くまでも主人公の女子高生たちの日常生活が物語の中心とはいえ、宇宙船が空に浮かんでいる状況で何も起こらないという訳にはいかない。中盤、門出とおんたんの仲良しグループの一人、栗原キホが自衛隊が撃墜した中型船の墜落の巻き添えとなって死亡してしまう。

朝のテレビニュースでその事実を知り悲しみに暮れる門出、亜衣、凛の三人だが、一人遅れて登校してきたおんたんはその事実を知らないかのようにいつも通りハイテンションに振る舞う。そんなおんたんに痺れを切らした門出がキホが亡くなった事実を告げようとすると、おんたんは振り向かぬまま「知ってるよ!」と叫ぶ

同じく浅野いにおの代表作である『ソラニン』でも、メインキャラクターの一人の死の描き方が印象的だった。その死は直接描写されることはなく、取り巻く人々の「その人が死んだ後の日常」が淡々と描かれることで、読者はその死に確かな手触りを感じられぬまましばらく展開が続く。そして、ここぞというところで友人たちによって改めてその死が取り沙汰され、登場人物が号泣することで読者の涙腺も決壊するという仕掛けだ。

つまり、「本当はその死を知っている人々」の「まるでその死を知らないかのような」振る舞いが描かれることで、その死が確定した際に「その死を知っていてなおそのように気丈に振る舞っていた」のだということが読者に明かされるという構造だ。これにより、読者には遡及的に感情が込み上げてきて強い感動がもたらされるのだろうという感想を抱いた。

タイトルの「デーモン」の意味

だが、それだけ丁寧に主要人物の死を取り扱う一方で、名もなきキャラクターたちの死の描かれ方には格差を感じた。小学生時代の門出は、捕獲した「侵略者」から貸し出された道具を使ってダークヒーローのように孤独な「世直し」に励む。その時に、最初に起こした脱線事故で殺してしまった人々や汚職政治家たちなどだ。

門出は小学生時代、名前の漢字を逆さに読んで「デーモン」と呼ばれ、いじめられていた。一応の敵は「侵略者」として設定されていて、特に悪魔を意味する「デーモン」というキャラクターの登場しない「デデデデ」においてタイトルに置かれた「デーモン」とは間接的に門出のことを指すのだろう。

門出の「世直し」はしかし、いじめられたことに対する直接的な復讐ということでもないらしかった。捕獲した「侵略者」の道具を使って言葉を交わした結果、彼らが人類にある種の「裁定」を下す存在であると知る。門出は、彼らに人類を「生かしていてもいい」と思わせる為に人助けをしようとする。

しかし、その為に「侵略者」に貸し出された道具の破壊力は凄まじく、門出はその力を上手くコントロールできず次第に力に溺れていく。結果、罪のない人々を大量に殺してしまう。理想の実現の為には手段を選ばぬダークヒーローといった趣だ。この時の門出は、確かに「デーモン」の名に相応しかっただろう。

だが、門出のこの所業が明かされるのは本人の口からではない。「侵略者」の力で過去の記憶を呼び戻されたおんたんの回想シーンとして描かれる。その中で門出は自らの罪を悔い、飛び降り自殺を試みるものの一命を取り留める。とはいえ、果たしてそれで「禊」は済んだのだろうか?

ラストの感想と後章に向けて

門出は確かに故意ではないとはいえ人を殺してしまったことを悔いはしたものの、それだけと言えばそれだけだ。成人であれば逮捕、起訴を経て社会的に裁かれる行いだが、むしろ小学生時代の過去が明かされるまでは「普通の女子高生」としての暮らしが描写される。

何もフィクションで人を殺すなと言っている訳ではない。だが、暴力の描写にはやはりそれに伴う「責任」が描かれて初めてそれをフィクションとして楽しめるのではないだろうか。例えば殺し屋モノでは、殺し屋は常に逮捕されるリスク、あるいは逆に自らが殺されるリスクを課されている。そこでは暴力は一方的なものではなく双方向的なものだ。画面において暴力がフェアに行使されればこそ、我々は安心してそれを楽しめるのだ。

だが、門出の暴力は終始一方的なものだった。圧倒的な武力を用いて、門出は常に一方的に「世直し」をする。その結果について門出は責任を負わないし、元より負える筈もない。これが「女子高生殺し屋モノ」であれば、それもここまで気にならなかった。暴力も「殺し屋モノ」というお約束の中で消化できただろう。

しかし、非日常的な舞台とはいえ、その中で飽くまでも「日常を暮らす普通の女子高生」として描かれていた門出が小学生時代にダークヒーローめいたことをしていたというのはいささか唐突に思える。少なくとも人を殺した自覚があるのであれば、あそこまで屈託のない「普通の女子高生」として暮らしているというのは無理があるのではないかとの感想を抱く。

ラストでは亡くなったキホの元カレである小比類巻が自警団のようなものを組織している不穏な描写も見られたし、門出やおんたんも高校を卒業した。果たして、今後門出の罪が明確に裁かれることがあるのか。そして、小学生時代の回想シーンで捕獲された「侵略者」はその後どうなったのか。

軍需企業や政府の陰謀も匂わされ、前章では表立って描かれなかった政治劇的な要素も今後描かれていくのかも知れない。5月公開予定の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』では、物語にどのような結末が与えられるのだろうか。今から楽しみに待ちたい。

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』は2024年3月22日(金)より全国公開中。

『デッドデッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』公式サイト

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腐ってもみかん

普段は自転車で料理を運んで生計を立てる文字通りの自転車操業生活。けれど真の顔は……という冒頭から始まる変身ヒーローになりたい。文学賞獲ったらなれるかな? ラップしたり小説書いたりしてます。文章書くのは得意じゃないけどそれしかできません。明日はどっちだ!
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