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アメコミヒーロー映画時代の幕開けと集大成
21世紀のヒーロー像
困難を極めるアメコミ作品の実写映画化。VG+では、『スパイダーマン』(2002)でそれを成功させ、アメコミ実写化の新たな時代を切り開いたサム・ライミ監督の功績に迫った。同作は、21世紀のアメコミヒーロー映画の在り方を提示してみせ、その後に続いた作品はヒーローの内面を深く描いていくことが物語のテーマとなった。
超難関! スーパーヒーロー集結を描いた監督は?
そして、その結果として生まれたのが、“ユニバース”であった。個々のヒーローの内面にフォーカスした作品を作り、観る側がそれぞれのキャラクターに感情移入できる態勢を準備した後、クロスオーバーを果たす。そんな大掛かりな仕掛けによって、スーパーヒーローたちが結集するという夢のような作品を実現したのが、『アベンジャーズ』(2012)だ。個性の強いキャラクターたちを、それも実写で同一作品に共存させることは、どう考えても困難を極める。
中核となるアイアンマンが科学力を駆使して戦う一方で、SFよりもファンタジー要素の強い“雷神・ソー”も共闘させなければいけない。制作開始に当たっては、監督を辞退する者も現れた。そんな中で、監督として白羽の矢が立ったのが、『X-メン』(2000)、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)の脚本にも携わったジョス・ウェドン監督だった。
『アベンジャーズ』(2012)の「もう一つの脚本」を巡る物語
『アベンジャーズ』には「もう一つの脚本」が存在した!?
実は、元々『アベンジャーズ』の脚本を手がけていたのは、『X-MEN2』(2003)と『インクレディブル・ハルク』(2008)で原案、『X-MEN: ファイナル ディシジョン』(2006)で脚本を手がけたザック・ペン。ジョス・ウェドンの監督就任前、彼がぺンの脚本に目を通したその直後、ペンの書いた脚本は——「なかったこと」になったのだ。ミーティングでペンの脚本に目を通したジョス・ウェドンは、マーベル側にこの脚本を「なかったことにするべきだ」と告げると、すぐに5ページのオリジナル原稿を執筆。マーベルはこれを採用し、ジョス・ウェドンと監督就任契約を交わした。
原案を「なかったこと」にした結果
こうした経緯により、『アベンジャーズ』の原案にはザック・ペンとジョス・ウェドンの名前が、脚本にはジョス・ウェドンの名前のみがクレジットされている。作品としては高評価を得て、商業的にも成功した。MCU=マーベル・シネマティック・ユニバースの最初の集大成でもあり、後に続くシリーズのスタートとしても成功を収めた。ザック・ぺン版ももちろん見てみたかったが、結果を見る限り、ジョス・ウェドンとマーベルの判断は正解だったのかもしれない。
俳優の交代劇と名作を生んだ奇妙な物語
12歳で執筆開始!? ウェドン監督のマーベル愛
このエピソードの背景には、とある物語が隠されている。幼い頃からマーベルコミックの大ファンだったというウェドン監督。1976年、ある作品のエンディングが気に入らなかった当時12歳のウェドン少年は、友人と共にそのストーリーを書き直したのだという。12歳からストーリーを書いていたとあれば、『アベンジャーズ』の実写化に相応しい構想を持っていたのもうなずける。しかし奇妙な偶然は、そのウェドン少年が書き直した作品こそが、「インクレディブル・ハルク」のコミックシリーズだったということだ。
ハルク役の俳優が消えた理由
前述の通り、ザック・ペンは『インクレディブル・ハルク』で原案と脚本を手がけている。ところが、同作では主役を演じたエドワード・ノートンがペンの脚本に不満を持ち、監督と相談した結果、脚本の内容を書き換えてしまうという事件が起きている。この内容がマーベルの方向性とは異なるものであり、食い違いが生まれたことを理由に、ノートンは同作のプロモーションを拒否してしまったのだ。その結果としてエドワード・ノートンは『アベンジャーズ』に参加することはなかった。『アベンジャーズ』では、ハルク以外のキャストは変更されることはなかったが、ブルース・バナーことハルクだけはマーク・ラファロが新たに演じている。ハルクだけ全くの別人になっていることに違和感を覚えた方もいたのではないだろうか。しかしその甲斐あって(?)、『アベンジャーズ』でウェドン監督の脚本が書き換えられることはなかった。
各々の想いを乗せて
ウェドン監督とノートンの二人に脚本を書き換えられた当のザック・ペンは、この二つの事件に関して、GQ誌のインタビューで以下のように語っている。
この(『アベンジャーズ』でウェドン監督がペンの脚本を書き直した)ケースは、ハルクの時とは違うんだよ。主演の人に役割を取られたアレとはね。あれは普通じゃないよね。今回のことは、まあ、普通のことだよ。
by ザック・ペン
意外と冷静なペン。プロの脚本家として活動しているからこその余裕なのかもしれない。だが、これらのエピソードから分かるのは、製作陣の中でも各々のキャラクター観や世界観が存在しているということだ。実写化に当たっては、それらが衝突しながら制作が進められていく。ウェドン監督が12歳の頃からストーリーを書くほどのファンならば尚更のこと。上記のエピソードで、ハルクの役者が変わっていることにも説明がつく。観る側も、こうした制作の背景にもアンテナを張り、想いを巡らせることができれば、今後の実写化作品の見方が少し変わるかもしれない。
残念ながら、ジョス・ウェドン監督は現在のMCU作品に関わっておらず、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015) 公開後、降板となった。ザック・スナイダー監督が娘の自殺を理由に降板したDCの『ジャスティス・リーグ』(2017)を、ジョス・ウェドン監督が引き継いで完成させたことは記憶に新しい。ここでも“代役”を果たしたのだ。
そして、「アベンジャーズ」シリーズも、現在でも人気の作品であることには変わりない。
その最新作で、ジョス・ウェドン監督から同シリーズを引き継いだルッソ兄弟が監督を務める『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、DVD&ブルーレイが発売中。
Source
Business Insider (1) / Business Insider (2) / The Guardian