アメコミ実写映画化を成功させた監督たち~ サム・ライミ監督版『スパイダーマン』が残した功績~ | VG+ (バゴプラ)

アメコミ実写映画化を成功させた監督たち~ サム・ライミ監督版『スパイダーマン』が残した功績~

Photo by Gage Skidmore on Flikr

SF、そしてアメコミを実写化するということ

SFを“作り直す”難しさ

SF小説の実写化には大変な労力が要求される。文字を映像化するだけではなく、無数の読者がすでに思い描いている世界観への配慮も求められる。そうした配慮を欠くと、「思っていたのと違う」「原作のイメージが壊された」といった、原作ファンからの容赦ない批判が監督や出演者に向けられる。原作が存在する作品を“作り直す”という作業に悩みは尽きないのだ。

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特有の難しさを持つアメコミ作品の実写化

では、アメコミ作品の実写映画化についてはどうだろうか。同じSFでも、既にビジュアルが提示されており多くの場合にはアニメ化されているという点で、小説よりもアメコミの制約は多くなる。コスプレという形での“実写化”も盛んに行われており、オリジナリティの追求とファンサービスの両立は簡単なことではない。そんな中でも、実写化され映画界の歴史に名を刻んだアメコミ作品たちも存在する。今回はそんなアメコミ作品の実写化を成功させた映画監督の中でも、『スパイダーマン』(2002)を手がけたサム・ライミ監督にスポットライトを当てたい。アメコミの実写化映画が現在のように盛んではなかった時代に、サム・ライミ監督はどのように『スパイダーマン』を描き出したのだろうか。

新時代を生んだサム・ライミ監督

時代の変わり目に登場した『スパイダーマン』

皆さんは、2002年に映画『スパイダーマン』が公開された時のことをご存知だろうか。2000年に公開された『X-メン』と共に、アメコミヒーロー映画の新時代の幕開けを告げた作品だ。同作は、日本の「仮面ライダー」シリーズでいうならば、昭和ライダーと平成ライダーの狭間に生まれた「仮面ライダーBLACK」シリーズのような立ち位置にあるとも言える。既に『スーパーマン』(1978)や『バットマン』(1989)などの“お手本”はあれど、きたる時代に向けて作り変えなければならないタイミング。撮影期間中に舞台となっているニューヨークで同時多発テロが発生するなど、社会も激動の最中。時代に見合った等身大のヒーローを一から作り直す試みは、困難を乗り越えながらの作業となった。

原作の設定も改変! 時代に合わせたスパイダーマンへ

クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(2008)や、ザック・スナイダー監督の『ウォッチメン』(2009)以降、アメコミ作品の実写化映画は、よりリアリティを重視した大人向けの作品に路線を変えていった。一つの作品が映画界の“空気”を変えてしまうということは、しばし起こることだ。
サム・ライミ監督版の『スパイダーマン』では、70年代後半から90年代にかけて制作された「スーパーマン」シリーズ
や「バットマン」シリーズで見られたようなアメコミらしい大仰さと鮮やかさは残しながらも、当時最新のVFX技術によってニューヨークのビルを自在に飛び移るスパイダーマンを実写化して見せた。主人公のピーター・パーカーが放射線を帯びたクモに噛まれて能力を得るという原作コミックの設定も、遺伝子操作を施されたクモに噛まれるという設定に改変。ヴィランであるグリーン・ゴブリンの苦悩も描くなど、21世紀にふさわしいリアリティを織り交ぜた、絶妙な実写化作品を作り上げたと言える。サム・ライミ監督は、「スパイダーマン」三部作の中で、スパイダーマンがヒーローとして苦悩し葛藤する姿を描き続けた。イラク戦争が泥沼化していく中で、アメリカの国民感情はピーター・パーカーの心情とオーバーラップしていくことになる。そして、自分の正義が正しいのか、という問いはアメコミの実写化映画においては定番の題材となっていくのであった。

サム・ライミ版『スパイダーマン』が後世に与えた影響

『ホームカミング』で描かれた新しいスパイダーマン

サム・ライミ監督はそれまで、主に『死霊のはらわた』(1981)などのスプラッター映画で人気を集めていた。しかし『スパイダーマン』の大ヒットを受けて、『スパイダーマン2』(2004)と『スパイダーマン3』(2007)も手がけることになった。アメコミの実写化映画において、三作連続で同じ人物が監督を務めることはかなり珍しいことだ。2017年に公開されたジョン・ワッツ監督の『スパイダーマン: ホームカミング』(2017)では、スパイダーマン誕生のエピソードは描かれず、今までのシリーズでおなじみだった苦悩や葛藤も大幅にカット。同作ではピーター・パーカーにとって異なる父親像であるトニー・スタークとバルチャーという二人のキャラクターを、ピーターがどのように乗り越えて行くかという点がじっくり描かれた。

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もはや“常識”の域に達した『スパイダーマン』

『ホームカミング』で新しいスパイダーマン像を描くことができたのは、前述のようなスパイダーマンの誕生や苦悩のエピソードを、既にサム・ライミ監督が描き切っていたからだ。サム・ライミ監督版三部作、そしてその成功を受けて製作された「アメイジング・スパイダーマン」シリーズを通して、「スパイダーマン」というコンテンツが人々にとって“常識”の域に達していたのだ。「みなさんご存知スパイダーマン」という態度で進行する『ホームカミング』の大胆なプロットは、本来マニアックなジャンルであるアメコミの映画化作品としては考えられなかったことである。しかし、サム・ライミ監督版『スパイダーマン』が残した功績は、それほどに大きかったのだ。

そして、『ホームカミング』はその歴史を引き継ぎ、同時に乗り越えるべく制作され、スパイダーマンはいよいよアベンジャーズに加わった。2019年夏には、最新作『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』が公開される。指揮をとるのは前作に引き続きジョン・ワッツ監督だ。新しく紡がれる歴史はどのようなものになるのか、注視していきたい。

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