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アメコミ実写化映画の代名詞
増加する実写化作品
これまでに数多くのアメコミ作品が実写化されてきた。近年では映像技術の進歩に伴い、50年以上も前に描かれたキャラクターが初めて実写化される例も少なくない。実写化作品はある程度のヒットが見込めるため、予算がつきやすいという大人の事情も見え隠れする。そんな中でも、歴史上もっとも頻繁に実写化作品が製作されているアメコミシリーズの一つが、「バットマン」シリーズだ。
繰り返し描かれるゴッサムシティ
アメコミ作品の実写映画化で、まず思い浮かべるのが、同シリーズだという方も多いのではないだろうか。ゴッサムシティ(「バットマン」シリーズの舞台となる街)の特徴的なキャラクターたちは、『キャットウーマン』(2004)をはじめとするスピンオフ作品や、『GOTHAM/ゴッサム』(2014-)などのドラマシリーズにおいて、繰り返し描き直されている。当然、何度も同じシリーズの作品を実写化することは、容易なことではない。今回は、果敢にもバットマンシリーズの実写化に挑戦した映画監督たちに注目してみよう。
あなたはどっち派? バートンとノーランのバットマン
ティム・バートン監督の奇妙な世界
ティム・バートン監督が手がけた『バットマン』(1989)、『バットマン リターンズ』(1992)では、その独特の世界観が反響を呼んだ。のちに『シザーハンズ』(1990)や『チャーリーとチョコレート工場』(2005)を手がけたティム・バートン監督らしい、ダークにしてファンシーなゴッサム・シティとそこに登場するキャラクターたちは、当時は賛否を呼びながらも興行的には成功を収めた。その作風も、現在ではクリストファー・ノーラン監督によるバットマン三部作、「ダークナイト」トリロジーと対比され、アメコミ作品実写化の歴史の中で語り継がれる存在となった。
クリストファー・ノーラン監督の重厚な世界
そのノーラン監督版の三部作、『バットマン ビギンズ』(2005)、『ダークナイト』(2008)、『ダークナイト ライジング』(2012)もまた、映画史に残る伝説となった。全作品が140分を超えるという重厚なストーリーと、バットマンの“正義”に疑問を投げかける作品のコンセプトは、SFやアメコミという枠を超え、世界中で高い評価を受けた。「アメコミの実写化映画は子ども向け」という風潮を完全に取り払ったのだ。その媒体(=映画)を代表する作品を作り上げるということは、「実写化」における一つのゴールだと言えるだろう。
もう一つの実写化作品
三度に渡って実写映画化されたキャラクター
そして、最後にご紹介するのは、ザック・スナイダー監督がコミックシリーズの『バットマン:ダークナイト・リターンズ』の実写化作品として製作した、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)におけるバットマン……といきたいところだが、「バットマン」シリーズの映画化において描き直されてきたのは、何もバットマンだけではない。バットマンの宿敵・ジョーカーもまた、映画作品では三度にわたって実写化されているのだ。
『スーサイド・スクワッド』が挑んだ壁とは
『ワイルド・スピード』(2001)の脚本や、『フューリー』(2014)の監督・脚本でも知られるデヴィッド・エアー監督が手がけたのは、DCコミック作品のヴィランが活躍する『スーサイド・スクワッド』(2016)。ヒーローではなく、悪役キャラクターのチームを主人公として実写化させるという困難な仕事をやってのけた。
アメコミ作品の実写化にあたって、そのキャラクターを「人間が演じる」ということは、魅力でもあり同時に制約でもある。人間には、老いや死という宿命が待っているからだ。『ダークナイト』でジョーカーを演じた後に、悲劇の死を遂げたヒース・レジャーは、その狂気を孕んだ演技によって作品の公開後に伝説となった。そうしたキャラクターたちを全く新しい役者で創造し直すという試みは、常にファンからの厳しい視線を向けられる運命にあるのだ。
ジョーカーを再創造したエアー監督のマネジメント力
『スーサイド・スクワッド』版のジョーカーを演じたジャレッド・レトは、全く新しいジョーカー像を創り出すために、エアー監督と議論を重ねた。
デヴィッド(エアー監督)が僕を信頼してくれていたことが嬉しかった。彼は僕を解放してくれたし、鼓舞してくれた。信念があって信頼してくれる監督と仕事をすることは、何ものにも代えがたいことなんだ。
By ジャレッド・レト
同作の撮影期間中には、監督と出演者がお揃いのタトゥーを入れるという「狂気」を見せており、監督としてのマネジメント力にも注目が集まった。
#skwad pic.twitter.com/HOZDytXnjp
— David Ayer (@DavidAyerMovies) 2015年8月18日
その結果エアー監督は、ティム・バートン版でもクリストファー・ノーラン版でもない、スマートな狂気を内包した新しいジョーカーを再創造してみせたのである。
映画としては厳しい評価を受けた『スーサイド・スクワッド』だったが、人気が出たエアー監督版のジョーカーとハーレイ・クインを主役に据えたスピン・オフ作品の企画が進んでいる。新たな命を吹き込まれた作品とそのキャラクターたちは、また私たちに新たな刺激と示唆を与えてくれるだろう。