作家陣の問題提起から教育論に
作家から返信をもらう宿題…?
『Every Heart a Doorway』(2016) でヒューゴー賞中長編小説部門を受賞した作家のショーニン・マグワイアが、“高校の宿題”をめぐってある皮肉のツイートを投稿した。
Oh, yay, it’s “teachers tell their students to email working authors and make us feel bad for refusing to do their homework for them” season. One of my favorite seasons of the year.
— Seanan McGuire (@seananmcguire) 2019年4月17日
やった、「教師が生徒たちに作家へメールを送らせて、私たち (作家) に宿題を手伝うのを断らせて嫌な気持ちにさせる」シーズンがやってきた。一年のうちで大好きなシーズンの一つ。
マグワイアが話しているのは、アメリカの高校で出される「作家にメールをして返信をもらいなさい」という類の宿題のこと。生徒たちは作家から返信を受けたことを証明すると、教師から点数をもらえる。マグワイアは「大好きなシーズン」と記しているが、もちろんこれは皮肉である。ショーナン・マグワイアはこう続ける。
I get email every year from high school students saying they’re supposed to reach out to authors and interview us, and only get credit if we do it. If it doesn’t happen, it’s a creepypasta that refuses to die.
— Seanan McGuire (@seananmcguire) 2019年4月17日
毎年、高校生たちから連絡が来て、「作家に申し出てインタビューしないといけない。でないと単位が出ない」と言われる。
多忙な中で全ての要望に対応するわけにもいかず、罪悪感を感じながらこれらの要望を断っているというのだ。
教育論に発展
そしてこのツイートは、“教育”をめぐる議論に発展する。他の作家らもこのマグワイアのツイートに共感を表明し、作家に返事を書かせることが生徒の評価につながるこの仕組みを疑問視している。「生徒たちが将来も使えるリサーチスキルを身につけさせるべき」、「図書館で (その作家について) 調べた方がいい」と、この“宿題”の有効性にも疑問の声があがっている。
1ヶ月前にも議論に
実は、この1ヶ月前、『ヘイト・ユー・ギブ あなたがくれた憎しみ』(2017) で知られる作家のアンジー・トーマスも、同じようなツイートをして話題をよんでいた。トーマスはより明確に、教師へのメッセージを発信している。
Err teachers, please don’t tell your students they’ll get extra credit if an author writes them back. I get hundreds of messages a day via multiple channels. I can’t respond to everything and miss a lot. This isn’t fair to students nor authors.
— Angie Thomas (@angiecthomas) 2019年3月21日
先生方、作家から返信を受け取ったら、という条件で生徒に単位をあげるのはやめてください。様々な手段で、毎日何百ものメッセージが送られてきます。全てに返信することはできませんし、ほとんどは見落としてしまいます。生徒にとっても、作家にとってもフェアじゃありません。
“作家からの返信”が評価の基準に
アンジー・トーマスはこう続ける。
生徒たちへの評価は、“作家からの返信”を基準にするべきではありません。それが生徒にとってなんの助けになるのでしょうか。成績が、完全に生徒のコントロールできないものになってしまいます。
今の時代のこの年頃で、見知らぬ人に連絡をとって返信を“もらわないといけない”と生徒に感じさせることは、一線を越えさせることに繋がります。
確かに、生徒たちには「返信をもらわなければいけない」というプレッシャーがかかるが、返信するかどうかは作家次第。生徒たちの努力とは別のところで評価が下されることになる。生徒はプレッシャーに駆られ、作家は罪悪感に苛まれる——冒頭のショーナン・マグワイアの問題提起と重なる。トーマスは教師に向けて、「お願いだからやめてください」と綴っている。
「聞いたことない」と反論も…
「作家に返事を書かせる宿題」に対する問題提起については、反論もあった。「教育に携わっているが、そんな宿題は聞いたことがない」というものだ。作家が特殊な例を挙げ、作家でない人々がそれに追随して架空の“教師”を批判しているのではないか、というのだ。こうした反論に対して、ある学生が一枚の画像を投稿。オンラインの課題提出画面を写し出したその画像には、宿題の内容としてはっきりと「TwitterまたはInstagramでアンジー・トーマスに連絡して、どれだけ彼女の小説を楽しんだか伝えなさい。もし彼女から返信がきて、そのスクリーンショットを撮って提出したら、10点の追加点」と記されていた。生徒側からのナイスアシストだ。
2009年にも呼びかけが…
アンジー・トーマスは著作の『ヘイト・ユー・ギヴ』が2018年に映画化されており、特に教員が“課題”として指定しやすかったのだろう。複数の作家が同様の経験を主張している他、2009年の「イングリッシュ・ジャーナル」に掲載された、教員向けにそうした宿題を出さないよう呼びかける文章が画像付きで寄せられている。
SNSの普及で、高校生でも簡単に作家にリーチできる時代……それも裏を返せば、作家もSNSで意見を表明し、発信できる時代ということだ。手紙の時代から続いていたこの“教育”が2019年に話題にのぼっている理由は、偶然ではないのだろう。作家にとっても生徒にとっても良いことがないこの風習は、作家と生徒双方の発信によって追求され、追い詰められている。教育に限らず、こうした“誰得”な仕組みは社会にまだ数多く存在している。今回のように“当事者”から問題提起が行われていけば、社会は少しずつ前進していくはずだ。
– Source –
Seanan McGire Twitter / Angie Thomas