新世代の紹介者たち
BookToker (ブックトッカー) という言葉をご存知だろうか。動画配信プラットフォームのTikTok (ティックトック) で配信を行うユーザーの内、本を紹介するインフルエンサーがBookTokerと呼ばれている。YouTubeにおいても、本の紹介をする配信者は“BookTuber”と呼ばれ、出版業界にとってはありがたい存在だ。
長尺の動画を配信できるYouTubeに対し、基本15秒 (最大60秒) というTikTokの配信スタイルを活用して本を紹介していくのがBookTokerたちだ。BookTokerの多くはTikTokの利用者と同じティーネイジャーであり、若者から若者へと本を紹介するカルチャーがTikTokの中で形成されているのだ。
BookTokerの登場の背景には、新型コロナウイルス感染症拡大による長い自粛生活がある。自宅に引きこもりつつも各々の楽しみを見つけるライフスタイルは、ハッシュタグ #QuarantineLife を通してSNS上の多くの人々によって共有された。
その流れから、 Quarantine (隔離) をもじった Quaranteen (隔離ティーン) という言葉が、コロナ禍を生きる十代の総称として使われ始めている。学校に行けず、友人とオフラインで会うことも少ない青春を生きる十代の若者の間で、よりどころの一つとなっているのが、本の情報を教えてくれるBookTokerたちなのだ。
人気を集めるBookTokerたち
米Syfy Wireは「知っておくべき6人のBookToker」と題した記事を公開。約5万人のフォロワーを持つ Kelly (@kellyygillann) は、「感情を乱されたいならこの本を」「雨の日に読む本」「この映画が好きならこの本を」「今すぐ映画化されるべき本」など、テーマごとに本を紹介。たとえ十数秒から30秒程度の動画であっても、内容を理解していなければ出来ない紹介の仕方をしている。
7月に投稿を始めた Lavender_reads (@Lavender_reads) は、あっという間にフォロワー6,000人を獲得。BookTokerの中でも特に書き手の多様性を重視しており、「おすすめの有色人種の作家の本」などを紹介している。ケン・リュウの「蒲公英王朝記」シリーズや、N・K・ジェミシンの《破壊された地球》三部作なども紹介されている。
また、本の読み方やノートの付け方なども紹介しており、Lavender_readsが本当の本好きであることが分かる。
本がビッシリ並んだ棚の前で動画を撮影する Camille Yvonne (@the.ones.about.books) は、曲に合わせて口を動かすリップシンクを得意とするBookTokerだ。フォロワー数は6万人以上。「本の表紙になっている黒人女性のポーズ」など、センス溢れる動画を投稿している。
BookTokerへの信頼
BookTokerたちは、例え本の内容と関係のない動画であっても、本棚の前で撮影したり、小道具として本を使うことで、自身がBookTokerであることを示し続けている。若い世代にとっては、外に出る機会が減ったことで読書はより身近なものになりつつある。それでも、自分に近い感覚で読むべき本を紹介してくれる存在は貴重だ。BookTokerたちはそうしたティーンの需要に応えていると言える。
その中でSF・ファンタジー作品が多く見られるのは、他の業界よりも進んでいる英語圏のSF・ファンタジー界における書き手と物語の多様性の賜物だろう。2000年から2010年代に生まれたジェネレーションZと呼ばれる世代の若者にとっては、ジェンダーや人種における多様性は物心ついた時から自明の存在である。近い価値観を持つ同世代のインフルエンサーには、そうした価値観から外れない本を紹介してくれるという信頼もあるだろう。Quaranteenである彼女ら/彼らは、自分たちなりのコミュニケーションで、本が持つ力をシェアしている。
そして、ティーンの頃から“紹介者”として本を読み続けるBookTokerたちは、10年後どのような姿になっているのだろうか。次代を担うBookTokerたちの活躍に期待しよう。